Here,There & Everywhere [冬の神話]
 -Lonely 4.5-


by yu-jin




(1)

 瞬間、背筋が震えた。
 その気配は突然背後に訪れた。
 ジョーは咄嗟に読んでいた雑誌から顔を上げ、反射的に後を振りかえる。
 視界には薄汚れた壁が映るだけで、当然何も存在していない。
 一瞬の安堵と同時に、それでもなお去らない気配に、ぞわりとした冷気を感じる。
 視界を戻すと、年代物のソファの上でクッションに顔を埋めて眠り込んでいるケンがいる。
 殺気とは違う。
 ケンが目を覚まさないことが何よりもその証拠だ。
 いや。待て。
 ジョーはもう一度ケンの様子を伺う。
 眠っている振りをしているわけではないらしいケンのその様子に、ジョーは違和感を覚えた。
 殺気ではないにしても、この強い気配にケンが目を覚まさないというのはおかしい。
 何かがおかしい。
 異常なほどの静寂。
 繁華街から外れたところに建つこの家は元々静かではあるものの、ジョーの耳にはケンの規則正しい寝息以外何の音も入ってこない。
 奇怪しい。
 ジョーの背筋に一滴の汗が滑り落ちて行く。
 圧倒されそうなほどの強い気配が漂う空間を、ジョーはその実体を求めて視線を走らせた。
 さして広いわけではないこの家の中のどこにもその存在を見つけ出すことができない。
 だが、何かがいる。
 ソファから立ち上がりかけたジョーは、その途端、凶暴な力で自分の両腕が押さえ込まれるのを感じた。
 腕を押さえつける「手」と判る感触がある。
 膝の上に何かが乗っている。
 だが、何も見えない。
 両手も両足もびくりとも動かすことができない。
 『なっ。何なんだ!』
 叫ぼうとした咽は舌が貼り付いてしまったかのように、声さえ出ない。
 その強烈な圧迫感はかつて感じたこともない恐怖にさえ思える。
 全身に粟が立つ。
 背筋に、額に、冷汗が伝う。
 『いったい何が起きているんだ』
 何も遮るもののない視界に映るぐっすりと眠り込んでいるケンの姿が、目に入った汗に歪む。
 『なにっ!?』
 ジョーはそのまま意識を失った。

 「いつまで寝てるんだ。ジョー」
 足を軽く蹴られて目覚めたジョーの目の前に、たっぷりと睡眠を取ったらしくすっきりとしたケンの顔があった。
 「ん?。ああ?。もう少し寝かせろよ」
 ジョーは自分の腕で目を覆い、態勢を代えようと身動ぎ、身体に当たる硬い感触に目を覚ました。
 「あぁん?。何だって俺はこんなところで寝てるんだ?」
 さして座り心地のいいわけでもない一人がけのソファは、とても安息な眠りを提供してくれるものとは思えない。実際、どんな姿勢で眠ってしまったのか、肩だの背中だの首だのと、身体のあちこちが突っ張っていた。
 「そんなこと知るか。俺が起きた時は、そこでぐっすりと眠ってたぜ。寝るなら寝ててもいいが、俺は出掛けるぜ。博士に呼ばれてるんだ」
 「んんっ」
 左右に首を振り、強張った首をほぐしながら、立ち上がろうとしたジョーは、驚くほど間近にあるケンの顔に驚いた。
 「な、何だ?」
 そう言葉にした時、ジョーはドクンと音を立てる自分の心臓を自覚した。
 「それはこっちのセリフだ。おまえ、何泣いてるんだ?」
 「あ?」
 頬に手を当てる。その指先に滴が触れる。
 「なっ、何だァ??」
 そう叫んだ瞬間、夕べのあの訳の判らない状態を思い出した。
 そうだ。
 夕べ。
 俺は…。
 「おまえが涙なんてどうしたんだ?。女に振られる夢でもみたのか?」
 からかうような口調で言いながら、ジョーに背を向けたケンの後ろ姿に、
 抱き締めたい。
 唐突にそう思った。
 思った自分にジョーは声を上げそうなほどに驚いていた。
 思わず後退ったジョーは、さっきまで眠り込んでいたソファに足を取られ、そのまままた座り込んでしまう。
 その気配に気付いたのか、振り返ったケンは呆れたようにジョーを見た。
 「何やってんだ?おまえ。どっか具合でも悪いのか?」
 切ないような焦燥感に、ジョーは胸の痛みを感じる。
 いったい自分が何にそんな感情を覚えているのかさえ、ジョー自身にも判らない。だが、ケンが自分に近付くに従い、その思いが強くなっていく。
 「おい。おかしいぜ。おまえ」
 そう言いながらケンはさすがに心配になったのか、ジョーの額に手を当てた。
 「熱はないみたいだな」
 目の前に立つケンの身体が眩しい。
 そう思った時には、ジョーは震える手でケンの身体を引き寄せていた。
 「お、おい。何するんだっ」
 腰を抱かれて、態勢をくずしたケンがジョーの胸に倒れこんでくる。
 ジョーはそのケンの身体を両手で抱き締めていた。
 「おい。離せっ。何ふざけてるんだっ」
 表現できない熱い思いが胸の奥底から沸き上がってくる。
 「…ケン」
 そう呟くと締めつけられるような胸の痛みを覚える。
 「離せって言ってるだろっ」
 肩を押さえつけられて、ジョーはハッとして手を離した。
 「何ふざけてるんだおまえは」
 語気を荒くしたケンの声に、ジョーはたった今自分がしたことにようやく気がつく。
 「…悪い」
 『俺は今何をしたんだ?』
 自分で自分が判らなかった。訳も判らず突き動かされるようにケンを抱き締めていた。
 「おいジョー」
 「悪い。帰る」
 ジョーはフラリと立ち上がると、よろけるような足どりで外に出る。
 「おい。ジョー!」
 家の中からケンが追ってくる。
 ジョーはケンの姿を振り切るように車を発進させた。

 『いったいどうしたっていうんだ』
 ジョーは自分のトレーラーハウスへ車を走らせながら自問する。
 わけが判らない。
 気が付いた時にはケンを抱き締めていた。
 ケンの体温を両腕に感じた時の自分の感情を、ジョーは今でも信じられずにいる。
 歓喜。
 全身が震えた。
 目頭が熱くなった。
 心の底から嬉しかった。
 その感情をジョーは認めることができない。そもそも何が悲しくてケンを抱き締めて喜びなぞを感じなければならないのか、そう思うと、怖気が走るような気分になる。だが、その感情とは裏腹に、自分の奥底で、ほんわりと暖かい感情が灯る気分も同時に感じている。その事実を認められない。
 「何だっていうんだ。いったい!」
 信号待ちで止まった車内で、ジョーは声に出して叫んでいた。
 悪いジョークだ。
 帰って寝るに限る。
 ジョーはもう何度もそう自分に言い聞かせていた。
 ともかく早く帰って寝たい。
 ジョーはわけの判らぬ自分の感情に、強い疲労感を覚えながら、帰路を急いだ。


(2)

 ケンが別荘の博士の部屋へと出向くと、部屋の中央に置かれた大テーブルを覗き込む背中が二つあった。
 一つは見慣れた博士の姿だと判ったものの、その隣にいる男の見当が付かない。
 「博士」
 熱心に何かを覗き込んでいるその二人に、ケンは遠慮がちに声をかける。
 「ああ。来たかね」
 ケンの呼びかけに博士と共に振り返ったその男に、ケンは見覚えがなかった。
 その少し小柄なやせ型の体型からは彼の立場を想像できない。ダークスーツの三つ揃いにグレーのシャツといういでたちはもとより、人相も学者タイプとは言えない。
 ケンが相手を観察するのと同時に、相手も値踏みするような無遠慮な視線をケンに向ける。
 「ナンブ。こいつが?」
 声を聞いた瞬間、記憶は相手を特定するには至らないまでも、えも言えぬ苛立ちに襲われる。
 「ああ。ワシオの息子だ。ケン。こちらはウッディ室長だ」
 博士に名前を告げられた瞬間、頭の中に声が響き渡る。
 『馬鹿野郎ぉぉ』
 去年の暮れ、それも年末大晦日に一日中聞き続けたあの声だ。
 結局あの時ケンはその声の主には会わず仕舞いだった。
 「よぉ。あん時ゃ世話になったな」
 「…初めまして」
 差し出された手を握り返しながら、ケンは一瞬何と挨拶しようかと逡巡した。
 「会うのは初めてだったな。おまえの助手とは楽しい時間を過ごさせてもらったけどな」
 ”楽しい時間”は果たして厭味なのか素直な感想なのか判断しかねたケンは、ウッディのその発言を無視した。
 「博士。それで今日は?」
 視線を僅かに動かしてケンはウッディと向かい合ったまま呼び出された理由を尋ねる。
 イヤな予感などという生易しいものではない。ウッディが”たまたま偶然”ここにいましたなどということは到底あるとは思えない。
 「うむ。それなのだが」
 「ナンブの暗殺計画が進行してるって情報が入ってな。それで近々のスケジュールの確認と護衛の算段だ」
 「暗殺計画?」
 思った通りキナ臭い話にケンの表情が俄に険しくなる。
 「それは確かな情報なんですか?」
 「ああ。この一週間内に実行に移される可能性が高い」
 「相手は?」
 「それが判らない」
 「判らない?。どういうことですか?」
 計画している組織なり個人なりの特定あるいは絞り込みもなく、いきなり「可能性が高い」では、情報そのものの信憑性が疑われる。いや、あるいは、また「予告」されたということか?。
 「外部からのタレコミ情報だ。ま、実際今朝、本部ビルの入り口でナンブが襲われた」
 ギョッとした表情でケンは博士を振りかえる。
 「私は大丈夫だ」
 博士は落ち着いた表情でケンに頷き返す。
 「チンピラがナイフ一本で車から降りたナンブを襲ってきた。すぐにセキュリティに取り押さえられたがね」
 それを「暗殺計画」などと呼ぶのだろうかという疑問が一瞬ケンの頭を過る。
 「たまたまナイフだったからいいようなものの、狙撃されたのなら咄嗟のことで回避できなかった可能性もあるにはあるが」
 いくら何でも博士のセキュリティがそこまで間抜けとも思えない。
 それはウッディも同じ見解のようだった。
 「それ自体はいくら何でもナンブを暗殺しようなどというレベルではないんだが、どうやらこの計画には裏があるらしい」
 「裏?」
 「ああ。ナンブの首に賞金が掛かってる。金に困って一攫千金を狙うやつらが、ナンブを狙ってるってことらしいんだが、その元締めが判らない」
 ”ゲームやってるんじゃないんだ”
 ケンの率直な感想だ。
 第一それじゃ、「可能性が高い」どころかすでに実行されているということだ。
 「元締めがいった何を企んでいるのか、それもさっぱりだ」
 「ゲームの裏で本当に博士の暗殺を計画しているやつがいるということですか?」
 「その可能性が高い」
 「それだけでは、本当の計画が博士の暗殺だとも限らないのでは?」
 「確かにそうなんだが、今のところナンブの暗殺以外、ナンブの首に賞金をかける目的も出てきてないからな」
 奴らの考えそうなことではない。
 それだけは明確に判るような気がした。こんなやり方は姑息な癖にプライドの高いあのマスクの男はやらない。
 「それで」
 ケンは改めて博士とウッディとの顔を見比べた。
 「俺に何をしろと。博士」
 「うむ」
 あえて博士に尋ねたにも関わらず、博士はウッディへ視線を向ける。
 「俺の助手をしろ」
 「はあ?」
 「使える手足が足りねぇんだ。今後一週間のナンブの予定から暗殺可能な時間と場所を割り出せ」
 「ミスター」
 「何だ?」
 「仮にも情報部調査室室長のあなたが何で俺なんかを使うんですか?」
 その質問は一年前のあの時にも思ったことだ。いくらケンの父親に関係がありそうだったとはいえ、会ったこともない人間を全情報解析の司令塔として起用するなど、組織を預かる人間のすることとは思えない。
 「おまえがワシオの息子だからだ。それ以外にどんな理由が必要なんだ?」
 「説明になっていません。ミスター」
 「そうか?。俺には充分だと思うがね」
 「まさか…」
 ケンは一瞬背中に氷を突っ込まれたような悪寒を感じた。
 そのタレコミの主が親父の隠し子とか言うんじゃないだろうな。
 「おまえが今何を思ったのか想像はつくけどな」
 咄嗟に思っていることが顔に出たらしいと気付いても後の祭りだ。ウッディの唇の端がニヤリと歪む。
 「ま、その内録音から解析結果が出るだろ」
 「録音?。タレコミは電話だったということですか?」
 「そうだ。今どき電話でタレコミってのもどうかと思うがね。いずれにしても…」
 ウッディはもうドアに向かって歩き始めている。
 「できるだけ早く割り出してくれ。それからナンブ。警備が面倒だから用が無い時は海底の基地でもどこにでも閉じこもっててくれ。もっとも職員がおまえを狙わないという保証もないがね。ワシオ、無線の手配はしてある。ナンブに部屋借りてインカム付けて作業しろよ」
 ケンが承諾を答えていないことなど、彼にとってはまったく気にもならないのか、一方的に指示を飛ばしながら、コートを羽織る。
 「ああ。それと。ナンブ。俺と同じ名前の奴の方の手配も頼んだぞ」
 言葉と共にドアが閉まる。
 取り残された博士とケンは、お互いソッと吐息をついていた。
 ”俺と同じ名前の奴の方”とは”助手”から出世したものだと思ったものの、どうやら彼はジョーまで借り出そうとしているらしい。
 「いいんですか?。博士」
 「仕方あるまい。彼は言い出したら引かないからな。ここを好きに使いたまえ。私は今日は研究室にいる」
 「博士。勝手に出歩かないで下さいよ」
 「判っている」
 博士は諦めにも似た声で答えると、部屋を出ていった。


(3)

 「よぉ。久し振りだな」
 指定の場所に現れたジョーを、ウッディはデスクの端に腰を乗せた格好で出迎えた。
 「何だって俺まで駆り出されなきゃいけねぇんだ」
 「何だおまえ。えらく疲れた顔してるじゃねぇか」
 「当たり前だろ。叩き起こされたんだぞ。だいたい何で俺なんだ?!」
 ジョーはイライラとケンと同じセリフを口にする。気分よく眠っていた所を博士に叩き起こされ、奴らかと思えばこの男の手伝いを命じられたとあっては、不機嫌にもなる。
 「聞いてねぇか?。手足が足りねぇんだ」
 そういいながら、デスクの上のクリアファイルを取ると、”こっちへ来い”と手招きしながら、窓際の広いテーブルへと向かった。
 「俺に何しろってぇんだ?」
 口調は違うがケンとまったく同じことを言っているジョーに、ウッディはそれと気付かれないように苦笑する。
 「これ読んでくれ」
 乱暴な座り方で椅子に腰を下ろしたジョーの前に持っていたクリアファイルを差し出した。
 「あん?」
 気乗りしなそうな表情のままそれを手にしたジョーは、投げ出した足を組み、背もたれに全身を預けるような格好で、書類に目を通す。ウッディはそれを黙って見ていた。
 「…どういう…ことだ」
 斜め読みと判る視線の動きが、書類の最後に辿り着いた時、ジョーは真顔で顔を上げた。
 「書いてある通りだ。おまえ。どう思う」
 「どうって…」
 ジョーの視線が再び書類の先頭に戻る。何度読み返してみても、そこに記載されていることは変わらない。
 「同姓同名じゃねぇのか?」
 ウッディがジョーに渡した書類は、タレコミ電話の音声解析結果だった。
 ボイスチャージャーを使用していた音声をクリンナップし、そこから抽出した声紋に一致する人物が、国際科学技術庁、関連各部署が所持するデータから割り出されていた。
 『ケンタロウ・ワシオ』
 「いや。対象データの中に同姓同名はいない。データは奴の声だと言ってる」
 ウッディの答えにジョーは背筋がゾワリと震えた。
 「生きてるってぇのか?」
 ジョーはテーブルに手をついて思わず身を乗り出していた。
 「その可能性をナンブに聞きに行った」
 「で?」
 喉がゴクリと鳴った気がした。
 「ゼロではないが、まず有り得ないという答えだ。むしろ、ワシオの声紋データを取り込んで、音声発生システムが対応したと考える方が妥当だとな」
 「だろうな」
 ジョーはウッディのその回答に肩の力が抜ける。
 脅かしやがって。という言葉はとりあえず飲み込み、そっと息をつく自分に、息を詰めていたのだと気付いた。
 まったく、手品は種があってこそ手品だ。
 「だと話は早いんだが」
 「んだよ。歯切れが悪いな。あんたらしくねぇぜ」
 「この電話は俺の携帯に直接入ってきた。この声の相手をしたのは俺だ。システムが対応したんだったら、少なくとも相手がキーボードを操作する間が会話の中に出来る。けどな。間は無かった」
 「ちょっと待てよ。キー打つのが早いって奴はいくらでもいるだろ」
 「いくら早くても数秒の間はある。それが無かった。喋っている音声をワシオの声紋に変更するってぇシステムの可能性もあるにはあるんだが。なあ、おい。ワシオは本当に生きている可能性はないのか?」
 「いや。まあ、確かに生死は確認されちゃいねぇが」
 ジョーはあのケンの父親が空に散った瞬間を思い出す。直前に脱出できれば、あるいは生きている可能性がないわけではないが。
 「可能性で言うなら博士の言う通りゼロじゃないだろうがな。ただ、生きてるんなら、会いに来るんじゃねぇのか?。ケンに」
 「生きてないとしたら、これはどういうことだと思う?」
 ウッディはジョーがテーブルの上に置いたクリアファイルを指差す。
 「おいおい。幽霊が電話して来たとでも言うのかよ。おっさん」
 ジョーは自分でそう言ってしまってからゾクリと震えた。
 「いずれにしてもおまえを呼んだのは、こいつの調査だ。ナンブがワシオには言うなと言うんでね、ヤツが引き出せるデータの中にはこの情報は入ってない。音声解析の結果は該当者無しにしてある」
 「ちょっと待て。調査って何をどう調べるんだ」
 「少しは頭使え馬鹿野郎。生きているにしても死んでいるにしてもタレコミ電話があいつの声紋だったってことは間違いない。それに、俺は俺の携帯に直接掛かって来たっていっただろ。俺の携帯番号を知ってる人間が関与しているってことだ。だから部外者のお前を呼んだんだ。そこから調べろ」
 「あのなぁ」
 「さっさと始めろ。これがリストだ馬鹿野郎」
 相変わらずの馬鹿野郎節にジョーは肩を竦める。
 「へいへい」
 何故だか判らないが、ウッディの『馬鹿野郎』という言葉が、『頼む』に聞こえてくるから不思議だ。
 ジョーは睡眠を妨害された不快感を忘れてリストを受け取っていた。


(4)

 『それで、そっちはどうなんだ?』
 「どうもこうもあるか。ったぁく、あのクソ親父!」
 ジョーはインカムに向かって怒鳴りながら乱暴にキーを操作する。
 「だいたい俺はデスクワークには向いてねぇんだ。くそっ」
 ずらりと並んだリストの上から、この一カ月の着発信履歴、メール内容をセンターに照会する作業は、気が遠くなるほどの単純作業だった。
 リストを渡され、部屋を出て行こうとしたジョーは「おい。どこ行くんだ?」とウッディに呼び止められ、「まさかとは思うが、一人ずつ事情聴取して回ろうなんぞ考えてないだろうな」と厭味を言われた。
 「んな大昔の刑事ドラマじゃあるまいし。各キャリアのセンターからデータ引き出せ。俺のブースの端末使っていいぞ」
 からかいを含んだその物言いを聞いてからかれこれ3時間が過ぎている。
 「だいたい職務上使用してるってぇ携帯番号を何で飲み屋のねぇちゃんにまで教えるんだよ。ったく!」
 ジョーの止まらないぼやきに、インカム越しにケンの溜息とも取れる息が漏れた。
 「で、そっちは?」
 『この一週間の博士の外出を必要最低限までキャンセルしてもらったんだが、どうしても外せないものだけでも15件だそうだ。どれも危険といえば危険だな』
 ケンの声に疲労を感じる。
 外出を控えさせたいケンと、頓着しない博士とが噛み合わない攻防を続けた結果なのだろうと、ジョーはその声から推察した。
 「前の時は海底牧場の赤潮の調査だったよな」
 あの時も、どう考えても”狙われている”と判っていてまで行かなければならない調査とは思えなかった。
 『今度は海底地殻変動調査の視察だそうだ』
 「視察ねぇ」
 気乗りのしないケンの声に引きずられるように、答えるジョーの声も気乗りのしないものになる。
 『相手が特定できていないから、何が安全なのか判断できないんだ。早くゲームの元締めを洗い出してくれ』
 「何だそのゲームの元締めって」
 『聞いてなのか?。博士の首に賞金がかかってるんだ。5億。その気のないヤツまで目が眩む金額だろうな』
 「…5、億…」
 ジョーの喉がゴクリとなる。確かにその賞金は魅力的だ。まったくその気がなくてもグッと来る。これがその気のあるヤツだったら飛び付くだろう。
 『その手のザコが賞金を手に出来る確率はせいぜい1%、まあ、あっても10%だ。だがなジョー。それが100、1000と集まったとしたらどうだ?』
 「どうだって、何だそりゃ?」
 『数字の上だけなら、それぞれが例え1/10の確率でも100人刺客がいれば、その中の誰かが博士を仕留められるってことだ』
 「おいおい。そんなに計算通りに行くかよ」
 『行ってもらっちゃ困る』
 「そりゃそうだ。にしたって、100人もの人間が博士を狙うって、有り得ねぇだろ」
 『それがそうでもない。現にその情報が公開されてからのこの半日で、博士のセキュリティに取り押さえられたのは5人だ』
 「5人って、おまえ」
 『さっきもここの出入りの業者がいきなり居住区に乱入して取り押さえられた』
 ジョーは思わず天井を仰ぎ見る。
 「いきなり乱入ねぇ。そんなんでうまく行くと思うのかね」
 『年末で物入りなんだろ。さっき取り押さえられた奴も奥さんに内緒にしてた借金の返済に切羽詰まってたんだそうだ』
 「世も末だな」
 『そうか?』
 「そうか、ってなぁ。仮にも国際科学技術庁の南部博士だぞ」
 『仮じゃない』
 「いちいちうるせぇ。その博士を殺ろうって奴の動機が女房に言えない借金返済のためだなんて、それに同調できるおまえも身につまされてるってとこか?」
 ケンが”切羽詰まる”ほど気にするとは到底思えないが、時節柄返済を迫られていることだけは確かだ。
 『俺が?。何でだ?』
 どうやら、思った通り”切羽詰まり”はしていないようだ。
 「んなことより、何だってそんな人間までゲームに参加するんだ?。だいたい賞金なんて言ったって、どうやってその金受け取るんだよ」
 『名乗り出れば受け取れる』
 「あ?」
 『今朝ネットの中で大々的に公表された今回のこのゲームの表向きの元締めは、N石油だ』
 「何だって石油会社が博士の首に賞金かけるんだ?」
 『夕べN石油の所持する海底油田が火の海になりかけた』
 「脅迫か?」
 『ああ。表の元締めをやらなければ一石油会社の利害だけの問題ではすまない被害になる』
 「ちょっと待てよ。油田一個火の海にできるってぇなら、賞金なんかかけなくたっててめぇで仕留められるだろ」
 『賞金はカムフラージュだろ。何かをやるための陽動だろ』
 「そんだけネタバレしてたら、陽動になんかならねぇだろが」
 そもそも電話の主は何をたれ込んだというんだという素朴な疑問がようやくジョーの頭に浮かぶ。
 「そういや、内容は聞いてなかったな」
 『何のだ?』
 「タレコミ電話のだよ。その程度のカラクリならわざわざタレ込んでもらわなくとも判るだろ」
 『火の海になりかけた。と言っただろ。タレコミ電話がなければ、火の海だった。もっともその電話を真に受けたミスターの手柄って話もあるけどな』
 「勘のいいオヤジだぜ」
 『野生動物は勘がよくなきゃ生きていけないからな』
 『誰が野生動物だ。このやろうぉ!!』
 いきなり耳元でボリューム無視の例の罵声ががなりたてる。耳をつんざくような大声に、ジョーの身体は瞬間椅子から飛び上がった。
 『さっきからごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ。緊急チャンネル使って、んなくだらねぇこと喋ってるんじゃねぇぞこの野郎。だいたいなぁ、筒抜けなんだよ馬鹿野郎!』
 『判ってますよ』
 ケンは澄ました声で答える。
 やっぱりわざとか。
 そもそも今の会話の呼びかけはケンからだった。チャンネルを切り替えずに話しかけて来た時に、ヘンだとは思ったものの、聞かれて困ることもなかろうと放っておいた。
 『判ってるだとぉ?。俺に何を聞かせたかったんだ?。あん?』
 『愚痴です』
 『ハッ。勝手に言ってろ馬鹿野郎。ただし緊急チャンネルは使うな。うるさくてかなわん』
 確かに緊急チャンネルの内容はスピーカーから流れている。ブースにいるジョーまでは聞こえてこないが、ウッディのいるフロアには響き渡っていたはずだ。
 『プライベートチャンネルに切り替えますよ』
 『ごたく並べてる暇にさっさと仕事しろ!!』
 『やってます』
 冷やかに答えるケンの言葉を聞きながら、ジョーはケンの目的を探る。
 確かに大した会話はしていない。だが、ケンが言うように本当に”愚痴”が目的で聞かせていたのか判断できない。
 たまに本気で厭味なことやるからなぁ。
 『おい。ジョー』
 いきなりブレスレットが呼びかけてくる。
 『俺達が移ったチャンネルを追ってくる奴を調べろ。手がかりにはなるだろ』
 なるほどね。
 一石二鳥ってことか。


(5)

 ”あなたも夢の億万長者!。『南部博士暗殺計画』 国際科学技術庁 南部博士を仕留めてビックチャンスをモノにしよう!”
 冗談のようなキャッチコピーが画面に踊っている。
 ご丁寧なことにそこには
 ”「参加された方の秘密は厳守します。なお参加資格は個人のみとさせていただきます。組織、グループによるご参加は固くお断り致します」南部博士暗殺プロジェクト準備委員会”
 と、その連絡先まで明記されている。
 ”期限は12月25日 午前0時。クリスマスにお届けする夢の5億”
 ふざけるにもほどがありそうなコピーは、無理矢理元締めにさせられたN石油のヤケクソのようにも見えた。
 記載された連絡先に電話をすると『南部博士暗殺プロジェクト準備委員会でございます』と澱みない答えが返ってくる。この電話受付嬢は何を思ってその職務を勤めているのか、幾分の疑問を感じるものの、その明るい声に後ろ暗い気分が払拭されることだけは間違いない。
 まるで宝くじでも買うような手軽さで、博士の暗殺計画が進んでいる。
 いったいこれは何の冗談だ。
 ここまで大がかりなことをやってみせる相手の想像がつかない。
 キーワードは2つ。
 油田の爆破。
 博士の暗殺。
 この二つの接点に意味があるのか、それ以前にそもそも接点があるのかさえも闇の中だ。
 ケンは異様なほどに華やかなその告知画面を見ながら考え込んでいた。
 接点がある場合と、まったく関連がない場合を想定しながら、それぞれシュミレーションさせてみるものの、いずれにしても情報が少なすぎる。
 本当の元締めが個人なのか組織なのかさえも掴めないまま、この2日間大した進展もない。
 『ケン。そっちはどうかね』
 インカム越しではない内線スピーカーから博士の声が流れる。
 「さっぱりですね。情報が少な過ぎます」
 『そうか。こっちは面白いものが出てきたよ。私の部屋に来たまえ』
 「判りました」
 海底油田爆破のために仕込まれたトラップを調査していた博士は、よほど熱中していたのか、『絶対に外せない』と主張していた予定をキャンセルしてこの2日間研究室に閉じこもっている。この別荘に閉じこもってくれる分には願ったりかなったりなのだが、あれほど『外せない』と主張したのはいったい何だったのかと、ケンには腑に落ちない。
 入り組んだ廊下を抜け研究室へ着くと、博士は機嫌よくケンを出迎えた。
 「一見普通に見える爆薬だったのだが、分子構造が異なる特殊構造の火薬が含まれていたよ」
 いつものことながら、博士の話は突然始まる。特に何かを発見した時は普段以上に話の飛躍が激しい。
 「それが手がかりになりそうですか?」
 「うむ。この特殊構造の火薬は、当然のことながら強力な爆発力を持っているのだが、この爆破によってガンマ線レーザーを発生させることができるのだ。もともとは、フルオレセインを他の紫外線レーザーで励起した後にアメリシウム241のアルファ線を高圧電源によって加速して色素分子に衝突させることによって、このガンマ線レーザーを発生させる仕組みを応用しているのだが、それを海水に照射することによって海水を構成する原子核を励起して陽子をはじき出すことで、海水を原油に変える人工核変換をさせることが可能になるのだ」
 さっぱり判らない。
 ジンペイではないが「ふ〜ん。すごいんだね」で済ませてしまいたい。
 「理論的には可能なのだが、ここで問題となるのは、正確に核変換を起こさせるための、照射対象の海水量と発生するガンマ線レーザーの照射量との比率だ。国際科学技術庁でもこの比率の研究を進めてきた。成功すれば海水をそれに変換できるわけだから、エネルギー対策としては申し分がない」
 ようするに何なんだ。
 ケンはそう言ってしまいたい衝動を堪え、博士の講釈を要約する。
 「それでは博士。その仕掛けられていた爆薬の中には国際科学技術庁で開発中の物質が混入していたということですか?」
 「そうだ。だが、正しくは開発中だったと言うべきだな。この特殊構造の火薬の研究を進めていたパーラメント博士が、特定企業との癒着の問題で国際科学技術庁を追われて以来、完全に研究はストップしている」
 裏の元締めが国際科学技術庁に怨みを持つパーラメント博士、N石油がかつて癒着が発覚した企業、あるいはそのライバル会社、そして、その事実を暴いたのが博士だとすれば、すべての辻褄が合う。
 「残念だがケン。パーラメント博士は既に亡くなっている。それに今回検出したその特殊構造の火薬は、パーラメント博士が研究していた物よりも、数倍正確に核変換を発生させられる構造になっていた」
 「ようするにパーラメント博士の遺志を継いだ者がいるということではないのですか?」
 ようやく見えてきたと思った真相を否定され、ケンは苛立ちを隠せない。
 「遺志を継ぐような立場の者はパーラメント博士にはいない。第一、パーラメント博士との癒着が問題となった企業はS重工で、N石油との関係はまったくない。唯一今回のこの騒動と関係があるとすれば、確かにケン、君が指摘した通り、その癒着を暴いたのが私と、君の父親だ」
 「オヤジが?」
 「そうだ。S重工と奴らとの繋がりを調査している過程で癒着のカラクリを知ったようだ」
 『励起』しようが『照射』しようが何でも構わないが、そんなことよりもこっちの方がよほど手がかりだ。
 「博士。パーラメント博士の研究を引き継いで、なおかつその研究を完成に近づけることができる人間はいないんですか」
 「能力に限って言えばいないわけではない。ただし、彼らがパーラメント博士の研究を引き継ぐかどうかは別の問題だ」
 「とりあえず事情は判りました。後はこちらで調査します。資料を転送してください。それから博士は引き続きその特殊火薬の完成度の調査をお願いします。もしその火薬がウッディ室長に阻止されずに爆発していた場合の被害状況も」
 「ふむ。判った」
 博士にすれば自分の首に掛かった賞金以上に興味深い内容だったらしく、自分のこの発見の講釈を打ち切って飛び出して行くケンを、幾分寂しげな表情を浮かべて見送った。


(6)

 『ジョー。俺だ』
 「あんだ?」
 『チャンネルTSCG_0012に合わせろ。それからミスターも呼んでくれ』
 ブレスレットに入ったケンの声に、ジョーはふんぞりかえっていた椅子から飛び起き、勢い込んで聞き返す。
 「何か判ったのか?」
 ケンが指定して来たチャンネルはシークレット回線だ。その上、ウッディにまで参加を求めているのだから、そう聞きたくなる。それほど今まで進展がない。
 『まだ全てじゃない。そっちの意見を聞きたい』
 「判った」
 どこもここも行き詰まっている。この2日間の唯一の進展と言えば、ケンが仕掛けた罠に引っかかった奴が3人いるということだけだ。その3人もいったいどこへ繋がっているのか追いきれていない。密告者へ繋がっているのか、裏の元締めへ繋がっているのか、あるいはただの興味本位か。
 「おい。おっさん。ちょっと来てくれ」
 ジョーはウッディのいる対策本部に繋がるスピーカーのスイッチを押して怒鳴る。
 この瞬間だけは、どうにも気分がいい。
 あの強引で、遠慮というものをまるで知らないクソオヤジを内線一本で呼びつけられることだけが、この状況で唯一楽しめることだ。
 「このクソガキ野郎。何度言ったら判るんだ。俺は仮にもここの室長だぞ。もう少しまもともにしゃべれねぇのか馬鹿野郎っ」
 ぶち破る勢いでノックも無しに扉が開くと同時に罵声が飛ぶ。
 「そのクソガキを指名したのはあんただ。もう一人のクソガキが話があるってよ。チャンネルTSCG_0012だ」
 「TS?。何か掴んだのか?」
 「さあね」
 シークレット回線の指定に、ウッディの表情がにわかに真顔になり、胸元のダイヤルを操作しながら、首にかけていたインカムを付け直す。ジョーはそれを見ながら、切り替えの速さがこの人の最大の武器なのではないかと思う。
 「俺だ。何だ?」
 『油田と博士が繋がりました』
 ケンの言葉は予想通り2日ぶりに入ってきた手かがりだった。
 『油田爆破のために使用された火薬の中に海水を原油に核変換させる特殊構造の火薬が混入されていました』
 この一文が博士の長い講釈の超要約だということをジョーは知らない。
 「海水を原油?」
 ジョーがふんぞりっているデスクの端に腰をひっかけて、ウッディは何かを思い出そうとするように黙り込む。
 「確か。アルファだかベーターだかレーザーをどうのこうのするってやつか?」
 必死に何かを思い出そうとしている様子のウッディをジョーはとりあえず茶々を入れずに見守る。
 『ガンマ線レーザーです』
 「そう。それだ!。あれは確か、パ、、、パーラメント博士!」
 ようやく記憶が繋がったのか、ウッディの声がひときわ大きくなる。
 『さすがですねミスター。パーラメント博士が開発していたものの改良系だそうです』
 「だが、そいつは確か国際科学技術庁を追ん出されたはずだ」
 いいながらウッディは顎でジョーに”検索しろ”と命じる。
 椅子の背に凭れきっていたジョーはしぶしぶ端末に向かった。
 「これか?。ケイ=パーラメント。S重工との癒着発覚により国際科学技術庁マントル計画を除名。って、おい。こいつはもう死んじまってるぜ」
 ”また幽霊かよ”
 ジョーはそう口走りそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。タレコミ電話の音声解析結果を知らないケンには”また”は無い。
 「死んじまってるって以上は本人ではないんだろうが、何らかの関連があったやつの可能性があるってことか」
 ジョーをチラリと見ると、ウッディはごく当たり前の答えを口した。
 『ええ。パーラメント博士をご存じなら話が早い。心当りはありまんせんか?ミスター』
 「心当たりって言ってもなぁ」
 再びウッディは腕を組んだまま考え込む。
 「あっ」
 『何か?』
 「その博士の癒着のカラクリを暴いたのがナンブとワシオだったな確か。俺もワシオに頼まれて調べてたんだよ。そいつの家族を」
 『家族が居たんですか?』
 残されている記録には結婚歴も離婚歴もない。
 「いや、金にも女にもルーズな奴でな。頭は確かに異常に切れるんだが、素行は目茶苦茶だった」
 『それで?』
 「本人も知らない子供がいた。いや、いたにはいたんだが」
 「そいつも死んでるのか?」
 「いや。判らない。母親が産んですぐにどこかへ養子に出したらしいんだが、その母親も亡くなっちまってて、どこへ養子に出したのか、本当にパーラメント博士の子供かどうかの確証さえ出てこなかった」
 『名前は?。名前ぐらい判らなかったんですか?』
 「判らん。いや、おまえのオヤジなら知っていたかもしれないが、確証が無かったんで記録にも残してないはずだ」
 『生きているとしたら幾つぐらいですか?』
 「二十歳ぐらいだったと思うが」
 『そのことは博士は?』
 「ナンブか?。ナンブは知らない」
 『判りました。こっちでも調べますんでそちらも関係者がいないかもう一度調べて下さい』
 「判った」
 そう言って無線を切った瞬間だった。
 「エル=ハイライト。生きていれば23だ」
 ウッディは背後からいきなり聞こえたその声にぎょっとして振り返った。
 視界の中にデスクに足を乗せ、胸の上で手を組んだジョーがいる。
 「パーラメントが”ケイ”だから、”K”の次で”L”だと母親は言っていたそうだ」
 だが、今目の前で喋っているその男は、たった今までここにいた男とは違う気配を纏っていた。
 「だ、誰だ…」
 ゴクリとウッディの喉がなる。
 姿形は間違いなくジョーそのものだ。だが、その表情から受ける印象が別人だった。
 「おまえは…。誰だ!!」
 圧倒されるほどの冷気と異様な緊迫感をねじ伏せてウッディがそう叫んだ瞬間、その気配はスッと消えた。
 「何叫んでんだ?。おっさん」
 「お、おまえ…」
 デスクに乗せていた足を下ろし、首をほぐすように左右に振りながら端末へ向かうジョーの姿を、ウッディは穴が開きそうなほど見つめていた。
 「何だ?。突然でかい声出すかと思えば、今度は何だ?。俺の顔になんか付いてるのか?」
 「いや。悪い」
 あまりに素直に謝るウッディの言葉に、ジョーの方が驚く。
 「どうしたんだ?。何か悪いモンでも喰ったのか?」
 「おまえ…」
 「何だよ。気持ち悪いな。疲れてるんじゃないのか?」
 どこからどう見ても、ジョー以外の何者でもないものに、ウッディは肩の力が抜ける。
 「で、その博士のガキの名前から調べればいいのか?」
 「名前は判った」
 「あ?」
 「エル=ハイライトだ」
 「どういうことだ?」
 「…思い出したんだ。ワシオにも伝えておいてくれ」
 「おい。おっさん!」
 異常なほどに虚脱しているウッディの後姿にジョーはただならぬものを感じていた。


(7)

 博士は楽しそうだった。
 特殊構造を持つその火薬に秘められた原理に、まるで初めて玩具を与えられた子供のように夢中になっている。
 結局『南部博士暗殺計画』が持ち上がってからのここ数日、博士が外出したのは数回だけだ。費やせる全ての時間を当てて、その解明に全力を注いでいる、と言えば聞こえはいいが、ようするに『判らない』ことが許せないだけにも見える。
 「つまり、この構造を用いることによって、同一の分子構造を持つものに対して効果を発揮する二重構造を実現しているということになる」
 何が『つまり』なのかさえ判らない講釈を延々と聞かされているケンには、博士の研究報告を聞かされる時間ほど苦痛なものはない。
 ケンに判ったことといえば、それが海中で爆発すれば原油に、空中で爆発すれば雪になるということだけだったが、それ以上は判っても判らなくても大勢に影響はなさそうだ。
 「つまり博士。それを開発した人間はパーラメント博士以上の能力を持っているということですね」
 ケンが知りたいことは、その構造がどうなっているかではなく、誰が何の目的のためにそんなものを油田に仕掛けたのかだ。
 「そういうことになるな。彼の研究ではこの構造への進化は考えられない。ただ、この構造を実用化した場合の問題点は…」
 もう結構。
 そう口走りそうになるのを堪える努力は並大抵ではない。
 「ガンマ線レーザーの照射によって人工核変換が発生する際にエネルギー増幅が起こり、初期爆発以上の範囲へ効果が連鎖することだ」
 「連鎖?」
 その言葉がケンの中の琴線に触れる。
 「そうだ。つまり最初の爆破は、爆発していれば油田どころかあの海域一帯が火の海になるところだった。何しろ燃やす原料を作り出しているようなものだからな」
 「それが目的でその特殊火薬を?」
 「これを使った人間がそのことを知っていればの話だがね」
 ”使った人間”
 依然それが誰なのかを特定できない。
 唯一可能性の一つとして名前の上がった”エル=ハイライト”の消息も判明していない。ウッディが精力的に動き回っているようだが、これといった収穫もないまま、N石油の南部博士暗殺計画の期限は迫っている。
 「さて、そろそろ時間だな」
 博士は自分が狙われているということなど気にもしてない様子で、腕時計の時間を確認すると立ち上がった。
 今日はアンダーソン長官との会食の後、会議だと言っていた。
 当初『外せない』と主張していた件数の半数以下にはなっているものの、博士の外出予定は、これから先懸賞期日の明日まで目白押しだ。
 アンダーソン長官との会食、マントル計画推進報告、予算審議会。
 時節柄、会食、会議が続く。
 「国際科学技術庁までご一緒しましょうか?」
 「いや。今日は普段の倍のセキュリティが付いている。大丈夫だ」
 それはそうだろう。
 国際科学技術庁長官と南部博士を一気に始末できる絶好のチャンスに、セキュリティ達は朝からピリピリしている。
 ただでさえここ数日別荘に閉じこもっていて手を出せなかった南部博士暗殺計画ご一行様達にとってはこれからが本番だ。
 「向こうでジョーが合流します。くれぐれも気をつけてください」
 「判っている」
 博士はいつも通り重々しく頷いて部屋を出ていった。
 本当に判っているのか?。
 多少の、いや、多大な疑問が残る。
 本当の元締めが何を狙っているのか判らないが、本気で博士の暗殺を考えているのであれば、世間を騒がせている『南部博士暗殺計画』は絶好の隠れ蓑だ。
 今この状態は、誰が博士を狙ったとしても不思議ではない。誰もが博士に殺意を抱いている。
 まして、期日ギリギリまで博士が閉じ籠もっていたことを考えれば、博士が外に出た時の混乱は必至だ。
 それも計画の内だったとしたら。
 ケンは、自分の考えにドキリとする。
 N石油脅迫のための爆薬に特殊構造の火薬を使用したのも、博士がそれに興味を持つと想定していたとしたら。
 一つの可能性としては有り得ないことではない。
 懸賞期間が過ぎるまで博士が閉じ籠もり続けることは時節柄不可能だ。いや、あるいは期日ギリギリには動かざる得ない予定が入っていることを予め知っていたのかもしれない。
 ただ、逆も想定できる。
 当然セキュリティは普段以上に厳しくなる上、予想外の邪魔が入る可能性も高くなる。
 絶対の自信があるということか。
 一般人が知り得ない、絶好の場所。あるいは通常では不可能な場所。
 一般人では知り得ない…。
 ケンはハッとする。
 何故爆薬は海底油田に仕掛けられたのか。
 何故それは爆発しなかったのか。
 何故博士が爆薬を調査していたのか。
 何故彼はこの爆薬を知っていたのか。
 まさか…。
 ケンはある可能性に気付いて、足早に部屋に戻った。

 元締めが何か事を起こすのなら期日間際。
 それはもう暗黙の了解だ。
 そして、まさにその期日は目前に迫っている。
 『時間が無い。俺もナンブの護衛に回る。調査の方の指揮はおまえが取れ。何か判ったら警備側の回線使え』
 そうウッディが言って来たのは、その日長官との会食が無事に済んだという報告が入った直後だった。
 もっとも『無事』と言っても、当然予想通りご一行様達は何とかチャンスをものにしようと無駄な足掻きを繰り返し、取り押さえられた者は前日までに加え、更に4名追加された。
 「了解」
 ケンは短く答え、画面の中の検索結果が出るのをイライラとしながら見守っていた。
 ケンの中では博士の部屋で気付いた推論は確信となりつつある。だが、それの確証が掴めない。
 博士の命に関わることだ。
 迂闊なことは言えない。
 時間は刻々と過ぎて行く。
 ”ターゲット移動”
 ”O71-S01に入室"
 警備回線から流れる暗号のような記号の羅列をインカム越しに聞きながら、
 「早くしろっ!」
 ケンは検索を続ける画面に向かって怒鳴っていた。


(8)

 「今日はこれで終わりだろ?」
 博士の斜め後方に立ち、ジョーは同じように横に立つウッディに囁く。
 「ああ。後はいよいよ明日一日だ」
 予算審議会議など聞いていても欠伸しか出てこない。
 ジョーがもう何度目になるかも忘れた欠伸を噛み殺そうと、顔を横に向けた瞬間だった。
 目の前の窓越しにそれは突然現れた。
 『ミスター!!。狙われてるのはあんただ!』
 「伏せろぉ!!」
 インカム越しのケンの怒鳴り声と同時に、ジョーは叫んでいた。
 ウッディと博士の身体に飛び掛かり、そのまま床に引き倒す。
 その上空を弾丸が掠め、後方の大型モニタが火花を上げる。
 防弾ガラスを突き破った穴の向こうに、ヘリの機影が見えた。
 「なっ。なんだぁ?」
 いきなり引き倒されたウッディが顔を上げる。
 『無事ですか?。元締めに狙われているのは博士ではなく、あなたです』
 インカムからのケンの声に、ウッディとジョーは思わず顔を見合わせていた。
 「何で俺が狙われるんだ?」
 『説明は後です。追跡できますか?』
 「おお!。おい助手っ!。ヘリポートだ。ヤツを追うぞ」
 言うが早いからウッディは走りだす。博士を助け起こしていたジョーは慌てて後を追った。

 「何であんたが狙われるんだ?」
 「知るか!。ワシオに聞け!」
 インカムのケンは沈黙している。
 ヘリポートからジェットヘリに乗り込み、ヘリの機影が消えた方向へ進路を向ける。
 「ワシオ。ヤツは誰なんだ?」
 ウッディはヘリを操縦しながら、指揮官としての声で尋ね直した。
 『ミハエル=キャビン。あなたが去年あの事件の直前に解雇した男です』
 「あ?。あ。あぁ」
 ウッディの深い吐息がジョーの横の席からもインカム越しからも聞こえてくる。
 「あいつか…」
 ウッディは厳しい表情で前方を見つめたまま黙り込んだ。
 『かなり優秀だったようですが、性格的に問題があったようですね』
 「ああ。変質的なところがあってな。確かにこんなことを仕出かすようなヤツだった。ようするに逆恨みか?」
 『ええ。もっとも逆恨みの原因は解雇のことばかりではありませんが』
 「どういう意味だ」
 ヘリは肉眼でも捉えられるほどに近付いている。
 『エルが育った施設は彼が育った施設と同じでした。兄弟同然に育ったようです。エル=ハイライトはその施設に入る前の名前でした。ミスター、リンド=エル=テイラーだったら聞き覚えがあるんじゃありませんか?』
 「…そういうことか」
 ウッディの表情に僅かに動揺が走るのをジョーは見逃さなかった。
 ”そういうことだよ”
 インカムに聞き慣れない男の声が割り込む。
 ”エルはあんたが射殺した男だ。あんたが護衛してた奴を守るためだとか言ってやがったよな。あんたがその護衛の為に今回はいったい何人ぶち殺してくれるかと楽しみにしてたんだが、一人も無しか。残念だよ。だからあんたの代わりに俺がやってやるよ。これ以上近付いてみろ。このヘリを火の玉にして下へ突っ込むぞ”
 「やめろ!」
 ヘリは住宅街の上空へと差しかかっている。
 『ジョー。ヘリの中のヤツを狙えるか?』
 通信をブレスレットに切り替えたケンが呼びかける。
 「あ?。狙うったって」
 「後部シートの下にライフルがある」
 筒抜けの会話を続けるわけにはいかず、インカムを切ったウッディがジョーの真横で怒鳴った。
 「やってやれないことはないが」
 『ヘリを操縦しているヤツは、彼に脅されているだけだ。内部情報をリークしていたのも彼だ。何とか下に着陸させろ。ただしチャンスは一度だ』
 「どういう意味だ?」
 「狙われていると判ればヤツは強行する」
 ジョーの横でケンの代わりにウッディが答えた。
 「無茶言うな。一発でこの距離を仕留めろっていうのか?」
 『やるしかない』
 「やるしかねぇ」
 二人の声が同時にヘリの中に響き渡った。

 
 閃光が散った。
 ジョーはヘリの中で、男が身をかがめて呻いている姿をスコープ越しに確認する。ヤツの右肩を撃ち抜くと同時に、ヤツが手にしていたものが空中に放り出され、上空で爆発した。
 爆風に煽られたヘリが、態勢を建て直しながら、ゆっくりと降下し始めるのを見て、ジョーはようやく全身の力を抜いて、ドサリとシートに凭れた。
 「ご苦労さん」
 ウッディのねぎらいの言葉もジョーの耳には届かない。激しい疲労感が強い睡魔となって襲ってくる。
 そういや、俺は寝たかったんだ。
 いったい何日前のことだかも忘れた思いがふと思い出される。
 「日が変わっちまったな。メリークリスマスだ」
 まったく、クリスマスだって言うのに、このオヤジと関わるとロクなことがねぇ。
 薄れていく意識の中でそう思いながら、ジョーは導かれるままに睡魔の元へと旅立っていった。

 漆黒の空から雪が舞う。
 クリスマスイルミネーションに輝く街中に静かに降り注ぐ。
 上空で爆発したものが例の爆弾だと判ったのは、地上に降りてからだった。
 「いつまで寝てるんだ。ジョー」
 足を蹴られて目覚めたジョーの目の前に、ここ数日声しか聞いていなかったケンの顔があった。
 「ん?。ああ?。もう少し寝かせろよ」
 ジョーは自分の腕で目を覆い、態勢を代えようと身動ぎ、身体に当たる硬い感触に目を覚ました。
 「あぁん?。何だって俺はこんなところで寝てるんだ?」
 見回せば、そこはヘリのシートの中で、いつ地上へ降りたのか、目の前には追っていたヘリが数台の車に取り囲まれサーチライトに照らされている。
 その光の中にはウッディの姿も見えた。
 「おまえが起きないから迎えに来いと言われたんだよ。珍しいなおまえがこんなところで寝るなんて」
 「ん?。ああ」
 ジョーはシートから引き起した身体を両腕を突き上げて伸ばす。
 多少はすっきりしたが、まだ眠い。
 「んんっ」
 強張った首をほぐそうと左右に首を振ったジョーは、驚くほど間近にあるケンの顔に驚いた。
 「な、何だ?」
 そう言葉にした時、ジョーはドクンと音を立てる自分の心臓を自覚した。
 「それはこっちのセリフだ。おまえ、何泣いてるんだ?」
 「あ?」
 頬に手を当てる。その指先に滴が触れる。
 「なっ、何だァ??」
 これと、まったく同じことがあった。
 ゾクリと背中が震える冷気を背後に感じる。
 「ま、待て。俺に近付くな!」
 「あ?」
 「いいから。あっちへ行け!」
 「は?」
 「俺に近付くなぁ!」
 叫びながらジョーの腕がケンの身体へと伸びる。
 ジョー自身の意思とは無関係に、ジョーの腕はケンの身体を引き寄せていた。
 両腕にケンの温もりと重さを感じる。
 「…ケン」
 そう呟いた声が自分のものとは違う気がした。
 ”メリークリスマス”
 その同じ声を頭の中で聞いた瞬間、腕から力が抜ける。
 「何やってんだおまえは!!」
 耳元でケンの怒鳴り声がする。
 ケンにはその声は届かなかったようだ。
 勘弁してくれよ。
 ドサリとシートへ再び身体を沈めたジョーは視界の中で、ウッディがふと何も存在しない空間へ、何かに呼びかけられたように顔を向ける姿を見ていた。
 きっと彼にもジョーと同じ声が聞こえたのだろう。
 「ワシオぉ!。メーリークリスマスだっ。馬鹿野郎ぉぉぉ!!」
 一瞬の間の後、何もないその空間に向かってウッディが吠える大声が、降りしきる雪の中に木霊する。
 ウッディが叫んだ『ワシオ』がケンのことではないと気付いたのはジョーだけだった。


-End-


And

 聖なる夜に雪が降る。
 街の喧騒を覆うように。
 静かに。
 静かに、雪が降る。

 「まったく俺もヤキが回ったもんだ。電話をしてきた本人に調査を依頼しちまったんだからな」
 持ち上げたグラスの端を合わせると、ウッディはそう言って苦笑した。
 「本人じゃねぇ」
 その隣でジョーは不機嫌そうにそう呟くとグラスの中身に口をつけた。
 「中身が何であれ物理的にはおまえだろ」
 「まあ、…多分な」
 カウンタの端に乗った小さなツリーが控えめな飾りつけで瞬いている。
 ゆったりとしたスツール。決して会話の邪魔をしないマスター。カウンターの端に陣取ったウッディとジョーは、目の前に置かれたグラスをゆっくりと味わっていた。
 普段ならばそう客の多くない店内も、今夜はカップルばかりだ。
 「多分か。そうだな。証拠は何もないからな」
 ウッディは苦笑すると一口グラスの中身を口に含む。
 鼻に抜ける香りを楽しみながら、思い出したように小さく笑った。
 イブだというのに一日中事後処理に追われ、ようやく解放されたのはサンタクロースが全世界を飛び回り始めたであろう時刻だ。
 「とんだサンタクロースだな。まったく何しに来たんだ野郎は」
 「あんたと博士を守るため。だろ?」
 「よせよ。柄じゃない」
 ウッディは照れたようにジョーから視線を外す。まるで思春期の少年がそのまま大人になってしまったかのようなウッディのその態度に、ジョーは俯いて小さく笑った。
 「おまえの相棒がミハエルの存在を見つけ出さなかったら、今頃俺はあいつのお仲間だったな」
 自分が標的だったことなど想像だにしなかったと、ウッディは自嘲的に笑う。
 「いや。もしケンが調べきれなかったとしても、多分俺の身体があんたを守ってたさ」
 「柄じゃねぇって言ったろ。馬鹿野郎」
 そっけなく、それでいて小さく呟くように言うウッディに、かつては友人だった二人の関係を見たような気がした。
 「それにしてもまんまとはめられる所だった。あれだけ盛大にナンブが狙われてりゃ、ナンブの護衛をしていた俺に弾が当たっても流れ弾だと思われるだろうからな」
 「二兎追うものは一兎も得ず」
 「あ?」
 「あわよくば賞金も頂こうとでも思ったんだろ。じゃなきゃ、あんたを狙う機会なんていくらでもあったからな」
 「確かにな。それにしてもワシオはよく判ったな。俺が狙われてるって」
 「あんたに繋がっていなけりゃ判らないことを知り過ぎてるっていうのがヒントだったらしいぜ。ただし、万が一違っていたら警備も捜査も撹乱しちまうからな、それで言い出せなかったらしい」
 たったそれだけのことを聞き出すのも苦労するほどにあの後ケンは機嫌が悪かった。
 「さてと」
 ジョーは残っているグラスの中を開ける。
 「天使のご機嫌伺いにでも行ってくるか」
 スツールからスルリと身体を下ろす。
 「あん?。何だ天使って?。女か?」
 「残念。色気のねぇ天使さ。今夜はあいつにとって特別な夜なんでね」
 立ち上がったジョーを怪訝そうな顔つきで見上げていたウッディは、ふと思い当たったように頷く。
 「そうか。じゃ、俺も天使に会いに帰るとするか」
 「そうしろよ。一週間帰ってないだろ」
 「余計なお世話だ馬鹿野郎」
 ウッディの少しにかんだような笑顔に見送られ、ジョーはイブの街へと足を踏み出した。

 メリークリスマス。
 彼はケンを抱き締めて何を思ったのだろう。
 ケンの温もりと、重みとを感じることができただろうか。

 メリークリスマス。
 夜空に向かって『馬鹿野郎ぉぉぉ』と吠えたウッディの目に光るものがあったことを、ジョーは知っていた。

 メリークリスマス。
 聖なる夜に、雪は降り続けている。
 Here,There&Everywhere


-Fin-


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