L' ARBRE DE NOEL '07
- Santa Claus is coming to town ! -


by さゆり




(1)

 あまり季節感の無いユートランドの街もさすがにこの時期だけは嫌が上にも " 季節 " の色−赤と緑と白と金色−に染まる。ダウンタウンに並ぶ店々のショーウインドウが派手にディスプレイされ、スクエアやモールの前に巨大な樅の木が立てられて行くのを横目で睨みながら、ケンは「ちぇっ」と小さく舌打ちをした。いや、ケンとて心浮かれるこの季節が特に " 嫌い " と言う訳では無いのだが‥‥
 
 いつもの店のガラスのドアの前でケンは立ち止まった。
 熱いコーヒーが飲みたいな、とは思う。ついでに−もしあのこましゃくれた弟分の機嫌が良ければ−ハムサンドも食べたいな、とも思う。しかし例によって例の如くケンはおけらだった。
(何で金が無いことを " おけら " って言うんだろ?おけらって貧乏な虫なのかな?)
 ふとそんな愚にもつかない疑問が頭に浮かんだその時、
「よぉ、ケン。何ボーっと突っ立ってんだよ?入らないのか?」
 と、肩を叩かれた。
「何だ、ジョーか。ん、まあね」
「まあね、か。ははン、例によっておけらだな、おまえ。とにかく中へ入ろうぜ。コーヒーぐらいなら−」
「おごってくれるか?」
 いいや、とジョーは首を横に振って軽く溜息を吐いた。
「ツケで飲ませてくれるだろうぜ。実は俺もおけらなんだ」

「ふ〜ん、なるほどね。ま、ジョーはツケでもいいけどさ‥‥」
 ジュンが不在だったのは幸いだったが、クリスマスセールで賑わう街角の店はそれなりにけっこう混んでいて、ジンペイの機嫌はあまりよろしくなかったが、それでも落とし立てのコーヒーをふたりの前にサーブしてくれた。
「すまん」「わりーな」
 泣く子も黙るG1号とG2号も形無しだった。
「でもさ、兄貴はいつもの事だけど、ジョーまでおけらって珍しいね。いったいどうしたの?」
「う‥‥」
 どうやらジョーは理由を聞かれたくないらしい。
「ねえねえ、何かあったのかい?」
 そうなると俄然聞き出したくなるジンペイだったが、その時、
「あ、そうだ!なあ、何で " おけら " って言うんだ?ケラって虫だろ?虫が金持ってるワケないよな?」
 ケンが思わぬ助け舟を出す格好になった。いや、ケンとしては別にジョーが口籠っているからでも、話を逸らそうとした訳でもない。借用する当てにならないと知った瞬間からもはやジョーの懐とその事情には興味も関心も失せていたからだ。つまりケンはただ単についさっきふと浮かんだ疑問をふたりに訊いてみただけだったのだが、
「やだなあ、兄貴。おけらの大将のクセにそ〜んな事も知らないの?」
 さっそくジンペイがそちらに食いついたので、ジョーは内心ホッとした思いで「助かったぜ」と物の判った(?)相棒に目配せした。
「ちぇ、じゃあジンペイ、おまえは知ってるってのか?ン、何だよ?ジョーまでそんな目をして‥‥」
「あのな、ケン、虫のケラを捕まえて見な」
「そうそう、ケラを指で掴むと " バンザーイ " ってするだろ?」
「節足動物が " バンザーイ " ?」
「そうそう。つまりそのポーズをさ、一文無しでお手上げってとこに引っ掛けてんの」
「一説じゃあ朮って植物から来てるってのもあるぜ」
「えっ、植物のクセにそいつも " バンザーイ " するのか?」
「しねえよ!何考えてるんだ、おまえは?」
「いや、ジゴキラーみたいなやつかと思って‥‥」
「その朮って植物の根から薬が取れるんだ。で、根っこの皮を剥ぐとこから身ぐるみ剥がれるってのに掛けたんだとさ」
 身ぐるみ剥がれる‥‥う、イヤな言葉だ、とジョーは眉を顰めた。
 実はジョーの懐は夕べまではとても暖かかったのだ。レースには続けて勝ったし、その賞金を突っ込んだカードゲームも実に実に好調だったのだが、ケンじゃないが「しまった!」と思った時には既に遅く、有り金はすっかりディーラーの元へと‥‥つい熱くなった自分が悪いのだ、と判っていても、お調子者だが意外な程しっかりしている弟分に、
(馬っ鹿じゃないの?有り金全部賭けるなんて!)
 と呆れられるのも癪だ。だからジョーは上手く話を逸らしてくれた−訳ではないが−ケンに感謝したのだが‥‥
 
 大して広くもない店が珍しく混んでいるのだから、当然の事、ツケのふたりに長居は許されなかった。街はクリスマスカラー一色で、どこからともなくジングルベルが聴こえて来る。日が落ちれば様々なイルミネーションが明るく眩く輝き出してみんなの心をさらに浮き立たせるのだろうが、まだそれにはちょっとばかり早い時刻のようだった。
「さっきはすまなかったな、ケン」
 肩を並べて歩く、ちょっと寒そうな相棒にジョーは礼を言った。
「ん?すまない−って、何だっけ?」
 とぼけてくれるのか?いい奴だな、おまえ‥‥と、ジョーがその男同士の友情に一方的に胸を熱くしたその時、
「そうだ!な、ジョー、おまえも懐が寂しいのなら、今夜、俺と一緒にバイトしないか?」
「イブの夜にか?」
「ああ。何か予定があるのなら仕方ないけどさ」
 予定はない。と言うよりもイブだろうが何だろうがお構いなしの任務に付いている以上、予定なんぞは立てようがなかった。それでもまだ金さえあれば、とジョーは溜息を吐いた。リザーブなんかしとかなくても、美味いワインと花束を持ってイブの夜に悦ばす女なんかはゴマンといるジョーなのだ。
 でも、このままじゃワインも花束も買えねえや。
「別に‥‥予定はねえけどよ」
「そうだよな、いつ呼び出されるか分からん俺達だもんな。だから今夜のバイトも前々から決まってたワケじゃないんだけど、さっき訊いたら欠員が出たらしくてさ、急遽、って話なんだけど‥‥」
 ちぇ、つまらねえイブだぜ!だけどこのままじゃニューイヤーイブもふいにしちまう事になるな、とジョーは考えた。助けて貰ったことだしな、今夜稼いでおけばそれを元手にニューイヤーイブまでには夕べの負けを取り戻せるかも?
「で、ケン。そのバイトってのは何なんだ?」
「クリスマスケーキの配達だよ」
 なぁんだ、簡単そうじゃねえか!
「サンタクロースの恰好してさ、" Merry ! Christmas ! " って子供達にケーキを配って歩くんだってさ」
「へぇ、なかなか面白そうだな」
「やるか?ジョー」
「おう、やってやろうじゃねえか!ま、たまにゃそんなイブも悪くねえや」
 そう思った事を数時間後、ジョーは後悔することになる‥‥。


(2)

「樅の木には星の飾りと赤いリボン、ジンジャーブレッドハウスには砂糖の雪とキャンディーの飾り、ご馳走には焼いた七面鳥と丸太に似せたブッシュ・ド・ノエル、そして窓の外には白い雪とスノーマン‥‥いかがですかな?これこそが誰もが思い浮かべるクリスマスの風景でしょう!」
 国際科学技術庁長官R・アンダーソンは得意満面といった面持ちで会議室に居並ぶ面々を見回した。賛同の拍手、そして口々に発せられる好意的な囁きとあたたかい微笑みが広がる中、
「無理ですな」
 突如発せられたそのにべもない一言が一同をフリーズさせた。
「ツリーや料理は人が作る物、従って何とでもなりますが、ここユートランドで積雪を望むのは愚の骨頂です」
「な、南部博士‥‥またそんな身も蓋もないことを〜;せっかくのクリスマスなんですぞ?」
「クリスマスだろうと何だろうと自然の摂理である天候は変えられませんな」
「しかし、博士は人工降雨実験を成功させておられるし、砂漠緑化のための気象調整プロジェクトや台風の進路をコントロールする実験も手掛けておられるではないですか?」
「それは我々の自然破壊がもたらした異常気象と、地球本来の天候との誤差を修正しているに過ぎません」
「そ、その御尽力には感謝致します‥‥なるほど、誤差を修正するだけ、なのですな。その、つまり南部博士の御研究というのは。なるほどなるほど、たった1日、このユートランドに雪を降らせることさえお出来にならない、という程度の−」
 むっ、という表情が南部の眉間に浮かぶのを認めて、国際科学技術庁長官R・アンダーソンは内心ほくそ笑んだ。
「出来ないとは申し上げておりません」
「ならば、お出来になる?」
「もちろんです!地域気象レベルでの人工降雪の原理は人工降雨と同じものです。かつては雲の中にヨウ化銀を散布することで人工降雪に成功していましたが、それは地上気温が0℃で、さらに上空5500mにマイナス30℃未満という寒気が存在する地域でのみ可能な‥‥」
 してやったり!である。だからアンダーソンはもはやその後の南部の長広舌をまったく聞いていなかった。
 
 そんな経緯があってから約1ケ月後のイブのユートランドは、国際科学技術庁が誇る世界的な科学者・南部考三郎博士の綿密な計画と周到な準備によって、日没とともにぐんぐん気温が下がり始めていた。そして異常とも思えるその寒気の中でケンとジョーはクリスマスケーキのデリバリーに勤しんでいた。
「なんだって今夜に限ってこんなに交通規制が多いんだ?」
 ちくしょう!クリスマスケーキの配達を " なぁんだ、簡単そうじゃねえか " と思った俺が馬鹿だったぜ、とジョーは早くも後悔していた。いや、たかが配達、そう難易度の高いバイトではない筈なのだ。車さえ使えれば。ところがユートランドの街路には思いもかけない交通規制が布かれ、徒歩での配達を余儀無くされる有り様だった。実はこの規制、時ならぬ降雪に備えての配慮だったのだが‥‥簡単な筈のバイトはとんでもなく難儀なものに変わっていた。しかも‥‥
「それになんだってトナカイなんだよ?」
「仕方がないだろ?サンタの恰好が似合わなかったんだからさ。でもそれ、そもそもトナカイじゃなくてイヌだぜ、きっと」
「へン、んな慰めにもならないことを抜かすな!」
「ほら、行くぞ、ルドルフ」
「誰がルドルフなんだよ!」
「トナカイの名前と言えばルドルフだろ?それにジョー、鼻が赤いぞ、おまえ」
「寒いんだよっ!」
「うん、何だかやけに冷えるな。ともかく寒くてかなわんし、サッサと配達しちまおうぜ」
「‥‥ああ」
 
「Merry ! Christmas ! はい、おまちどおさま!」
「わぁい、サンタさんだ!サンタさんがケーキを持って来てくれたよ〜!」
「メ‥‥リ・クリスマ−」
「わあ、ママ、見て見て。へ〜んなトナカイさんも来たよぉ!」
「うるせえな、このガキ!俺だって好きでこんな恰好してんじゃねーや!」
「わーん、ママぁ;」
「まあ!なんて柄の悪いトナカイかしら‥‥」
「よせよ、ルドルフ。坊やに当たるな」
 素早くドアを閉めたサンタの扮装のケンがジョーをたしなめる。
「ま、変なトナカイなのは確かなんだから、せめて愛想良くしてくれよ」
「やかましいやいっ!」
「いいか?にっこり笑って " Merry ! Christmas ! " だぞ。いいな?」
「‥‥」
「Merry ! Christmas ! ケーキをお届けに‥‥」
「Merry ! Christmas ! だぜ、馬鹿野郎ーっ!」


(3)

 その頃、国際科学技術庁ビルの屋上では‥‥
「う〜ん、これは実にいよいよ本当に降りそうな気配ですな♪南部博士」
「降りそうなのではなく "降らせる" のです。私の計算によれば5分後から降雪が認められるでしょう。5分といっても多少の誤差はありますが」
「ほぉ、誤差が。で、いかほど?」
「計算では30秒以内です」
「南部博士、そんなものは誤差の内に入りませんよ!いかに科学忍者隊の諸君と言えども人の子ですし‥‥」
「いえ、誤差は誤差です。それに今回のプロジェクトに彼らは関係ありません」
「え?諸君がマイナス火の鳥とか、何かその類いのもので上空をパパーッと冷やしてくれるのではないのですか?」
「アンダーソン長官、このプロジェクトの概要は先般ご説明申し上げた通りですし、また詳細は計画書にある通りで何ら変更はありません。降雪、即ち上空の大気をコントロール出来れば地球温暖化対策に繋がる可能性のある実験だからこそ私は長官の立案を支持し、同時にマントル計画気象コントロールプロジェクトの一環として−」
 そんな大仰なことになっていたとは‥‥とも、説明も概要も詳細もろくすっぽ聞いても読んでもいなかったとも言えないR・アンダーソンは、ユートランド気象台開闢以来の低温下の、しかも吹きさらしの高層ビルの屋上で赤らめた顔の汗をそっとぬぐった。
「さきほどマイナス火の鳥とか仰いましたが、あの作戦の後、私達がフロンガスの処理にどれほど苦慮したことか」
「いや、そうでした。そうでしたな」
「それに仰る通り、科学忍者隊も人の子、ごく普通の青少年達です。彼らもイブの宵を楽しく過ごしていることでしょう」
「いや、そうでしょう。そうでしょうとも‥‥」
 ますます顔の赤らむアンダーソンを救ったのは、
「南部博士、降雪実験、最終カウントダウンに入ります!」
 イブの宵というのに寒風吹きすさぶ屋上で、忙しく立ち働かされている所員の声だった。「うむ」と応じて南部がコンソールに向かう。みなさん、ご苦労様です。成功を祈ってますぞ、とエールを送ってアンダーソンはその場を離れようとしたのだが‥‥
「どちらへ行かれるのですか?長官」
「いや、私はここに居ても−」
「いえ、居て頂かなくては困ります。この実験の主幹及び責任者は長官ですからな」
「えっ?え、え、え?」
「何を驚かれるのです?計画書には既にお目通し頂き、サインも頂いているではありませんか」
 あなたが提出される書類全てに目を通し、その全てを理解した上でサインしたことなど一度もありませんぞ!と正直に言ってしまえたらどんなに楽だろう−いや、そんな事を言ったところで表情一つ変えずに「御冗談を」とか言い返されるのがオチだし、この場に釘付けな状況が打開されるとは思えんな−と、アンダーソンはそっと溜息を吐いた。だけど、だけど‥‥
(ああ〜、せっかくのコンサートが、パーティーが〜〜!)

 斯くして5分12秒後、
「あ‥‥」
「ちっくしょ〜!妙に冷え込むと思ったら、とうとう雪になりやがったぜ」
「へぇ〜、ユートランドにも雪が降るんだなあ」
「チェッ、よりによって何だってこんな時に雪なんか降りやがるんだよ?ああ〜、せっかくのホワイトクリスマスだってのに俺達はバイトかぁ?ったく冗談じゃねーぜ!」
「そんなこと言ってる場合じゃなさそうだぞ。やばい、見る見る積もって来たぜ。おい、急げ!ルドルフ。このままじゃお届けが遅れちまう」
「だからルドルフって呼ぶなってば−!」
 思いがけない大雪の中、ケンとジョーはケーキを配達しまくって行った。
「Merry ! Christmas ! おまちどおさま!」
「Merry ! Christmas ! ほらよ、ケーキだぜ!」
「Merry ! Christmas ! ケーキをお届けに来ました!」
「Merry ! Christmas ! おらおら、泣く子はいねえが−?」
「ルド、じゃなかった、ジョー、何か違うものになってるぞ、おまえ」
「うるせえやい!だいたいサンタクロースなんか誰も信じてやしねえだろ?こんなの無意味だぜ」
「でもさ、子供はけっこう信じてるんじゃないのかな?」
「なるほど、ガキはこんなんでも喜んでくれるか。ま、俺もガキの頃はサンタさんが来るのを楽しみにしてたもんな。ところで、ケン、おまえはいくつまでサンタさんを信じてた?」
「ジョー、俺は4つの時から南部博士の所にいたんだぞ。あの博士と一緒にいてサンタさんを信じられると思うか?それにそれ以前なんてサンタさんを信じてたかどうか以前にほとんど記憶がないしさ」
「す‥‥まん」
「ん?別におまえが謝る事じゃないだろ?」
「そりゃそうだけどよ‥‥で、ケン、あとどことどこだ?」
「あとはMM地区に新しく出来たタワーマンションと‥‥あれ?国際科学技術庁の特別気象実験チーム宛ってのもあるな。こんな夜に実験とは大変だなあ」
「ヘン、大変なのはお互い様だろ?」
「ははは、違いないや。よし、行こうぜ」
「おう!‥‥って、何だかやけに薄暗くねえか?」
「本当だ。発電所に何かあったのかな?」

「おや?南部博士、何やら薄暗くありませんか?」
「既にお目通し頂いた通り−」
「や、もちろんちゃんと全部目を通しましたとも!ははは。ええと、確か電力が−」
「はい、この実験にはかなりの電力量が必要なのです。ですからトラッシュ発電所にフル稼動と併せて緊急配電を依頼し、不用と思われる部分の電力をこちらに回して貰っているので、照明などに多少影響が出ているのでしょう」
 う、イブだというのに、コミーベ博士、すまん‥‥と、アンダーソンは今頃は恐らく修羅場と化しているであろう発電所の方向にそっと手を合わせた。

「はっはっはっ‥‥おい、大丈夫か?ジョー」
「はぁはぁはぁ‥‥こんな高層マンションなのに、どうしてエレベーターが動いてねえんだよ?」
「節電かなあ?街灯やイルミネーションも消えてるし‥‥だけどどこも部屋の灯りや空調には問題ないみたいだから、お出かけしなきゃ不便はないのかな?」
「不便だろうがよっ!配達の俺達が!」
 30階もあるタワーマンションの、しかも薄暗い階段をケーキを抱えて昇ったり下りたりしている内に、ジョーはほとほとイヤになってしまった。そもそもが我慢のない男である。地道・忍耐といった類いが何よりも嫌いな男である。
「クソッ!もうイヤだ!俺はやめるぜ、ケン」
「ジョー、何を言うんだ?まだケーキが−」
「ヘン、そんなもん、もうどーだっていいじゃねえか!」
「馬鹿っ!」
 ケンは投げ遺りなジョーを一喝すると、さらに言葉を続けた。
「配達員は感傷に溺れてはいけない。現実を厳しく見つめ、分析し、行動する。ケーキが残っている限り、そしてそれを待っている人達がいる限り−」
「ケン、おまえ‥‥」
「分かるな?ジョー。俺達は何があっても諦めてはいけないんだ!」
「‥‥」
 う、すまねえ、ケン。俺が甘かったぜ−とジョーがケンの並々ならぬ責任感に感動しかけたその時だった。
「それに‥‥全部配達しないとバイト代が貰えないんだよ」
「げっ!」
 な、なんてこったぁ〜〜!
 降りしきる雪のユートランドにジョーの咆哮がこだました。


(4)

 雪はこんこと降り積もる。ユートランドの街に‥‥
 しかし今回の降雪実験については市民にくまなく通達され、交通規制その他の対策も万全だったため、市民は国際科学技術庁がプレゼントしてくれたホワイトクリスマスのイブをそれぞれに心行くまで楽しんでいた。だが例外も少々‥‥

「はぁはぁ‥‥」
「ぜぇぜぇ‥‥」
 メインストリートから徒歩でタワーマンションのエントランスまでケーキを運び、それを抱えて階段を昇ったり下りたり‥‥これを延々と繰り返したふたりはメインストリートのパーキングに停めたG2号機へと戻ると思わずシートにへたり込んだ。
「はぁ〜、あのマンションの分は終わりだ。ジョー、後は国際科学技術庁だけだぞ」
「ふぅ〜‥‥おう!頑張ろうぜ、ケン。ん?おい、なんでまだこんなにケーキがあるんだよ?まさかおまえ、間違えたんじゃねえだろうな?」
「ええと、いや、これでいいんだ。"特別気象実験チーム様・ホワイトA×12個" と書いてある」
「そっか、おし!んじゃ楽勝だ」
「ああ、まさか国際科学技術庁のエレベーターまで止まっちゃいないだろうしな」
「ははは、まさか!だぜ」
 積雪とそれに伴う速度規制に邪魔されながらもふたりは国際科学技術庁に到着した。ユートランドの街に威風堂々と聳え立つその超高層ビルは実に地上100階!ふたりが祈るような思いでエレベーターホールへと12個のケーキを運んで行くと‥‥しめた!いつも通り稼動しているではないか。やれやれ‥‥と乗り込んで特別気象実験チームがいると聞いた屋上階のボタンをまるでバードミサイル発射の如き気合いを込めて「うりゃ!」とジョーが叩いた。しかし、スーッと上昇を開始したのも束の間、無情にもそれはカクンと止まってしまった。
「あれっ?」
「どーしてだよ?どーして止まりやがんだよっ?えい、動け!動きやがれ、こらっ!」
 あれこれとボタンを叩きまくってもエレベーターは動き出そうとしない。
「おかしいな‥‥」
「ああ、おかしいぜ、ケン。ちっきしょう!こいつはきっとギャラクターの仕業に違いねえ!」
「でも−」
「でももクソもあるか!雪を降らせて階段を昇らせて挙句の果てに閉じ込めやがってー!ギャラクターめ、そんなに配達の邪魔がしてえのか?」
「だけど、ケーキの配達を邪魔したってしょうがないじゃないか?それにもし雪を降らせたり停電させたりしているのが奴らならば、とっくに南部博士から連絡がある筈だ」
「ヘン、どこぞのパーティーかなんかで浮かれてて気付いてねえんだよ、博士は」

 いや、そんな事はないのである。
「あっ、博士、電力がダウンしています!」
「む、これはいかん。おい、急いで原因を突き止めるんだ」
「何者かがこちらへの電力を他へ回しているようです」
「うぬっ!直ちにその回路を遮断したまえ!」
「はい!」

「よし、念のためにジュンに連絡してみよう。こちらG1号、G3号応答せよ」
−「うるさいわね!何よ?ケン、ギャラクターでも出たっての?」
「いや、そうじゃないんだが‥‥でもそんな噂を聞いてないか?」
−「聞いてないわよ!こっちはデーモン5のクリスマスコンサートがオジャンになるかならないかって非常事態なの!あいつらが出たんならジョーにバードミサイルでもぶち込んでとっとと片付けて貰ってよ。あ〜、せっかくこっちに回した回路が切られちゃった;なによー、負けないからね!キィーッ!」
「ジュン、いったい何をやってるんだ?」
−「電力よ、PAに必要な電力が足りないのよ!もー、何とかしてよ、ケン!何とかしてくれたらツケはチャラにしてあげる」
「え、ほんと?でも "何とか" って言われてもさあ‥‥あ、おい、ジュン!ちぇ、通信を切っちまいやがった」
「何だ?ジュンはどうしたって?」
「よく分からんがデーモン5で忙しいみたいだ。どうやら向こうも電力不足らしいぜ。あ、いかん。ケーキを運ばなくちゃ!おい、ジョー、こうなったら手動でドアを開けてあとは階段で−」
「か、階段?またかよ?じょ、冗談じゃねえぜ‥‥って、そんな場合か?ケン。これはギャラクターの陰謀だぞ?」
「違う。どういう理由かは分からんが、ギャラクターは関係ない!」
「なぜそう言い切れるんだよ?いや、きっとそうだ。その証拠に俺はさっきから背中がゾクゾクしてるぜ」
「背中がゾクゾクしてんのは風邪のせいだ!とにかく違うったら違ぁーう!」
「ぬぁにを〜!」
 とジョーはカッとなった。カッとなってムキになった。とにかくそういう男である。
「よし、じゃ賭けるか?ケン。このバイト代、全部」
「いいとも!賭けてやるぜ。このバイト代、全部」
 ヘン、後で吠面かくなよ、とジョーは不敵に笑い、いいから、急げ!とケンはそんなジョーを急き立てつつ屋上へとひたすら階段を昇って行った。ケーキを6個づつ抱えて‥‥
「はぁはぁはぁ‥‥」
「ぜぇぜぇぜぇ‥‥」
「ああ、やっと屋上だ!Merry ! Christmas ! ケーキをお届けに来ました〜!」
「ひ〜‥‥め、Merry ! Christmas ! 」
「おや?ケンとジョーじゃないか。何をしているのかね?そんな恰好で」
「な、南部博士?」
「え゛?」
 そしてふたりは遅まきながら "事" の全貌を知ったのだった。

「ははは、ああ、ケーキを頼んだのは私だ。イブにも関わらず頑張ってくれた実験チームのみんなにささやかなプレゼントを、と思ってね。しかしまさか君達が配達に来るとは思わなかったよ」
「なるほど、そういうワケだったんですか」
「ああ、ホッとしましたよ。俺はてっきりギャラクターの‥‥」
 そこまで言いかけてジョーは「うっ」と我に返った。賭けちまったんだっけ、またもや有り金(予定)全部を‥‥な、なんてこった!と青ざめたトナカイの脇腹を無慈悲なサンタが小突いた。おい、俺の勝ちだぜ、と。
「南部博士、実験終了3分前です。カウントダウンに入ります!」
 うむ、と頷いて南部はアンダーソンに右手を差し出した。
「おめでとうございます、長官。実験は成功です」
「え、ではもう行ってもいいのかね?」
「はい、ご苦労様でした。さあどうぞ念願のホワイトクリスマスを存分にお楽しみ下さい。コンサートにもたぶん間に合うでしょう」
「おお、南部博士!この成功は偏にあなたのお陰です。おめでとうございます。なんと素晴らしい雪でしょう!市長始め市民のみなさんもお喜びですぞ。いや、ありがとう!本当にありがとう!実験チームの諸君もどうもありがとう!メリー・クリスマスですぞ〜♪」
 さあ、デーモン5だ、パーティーだ!いぇい!と、うきうきと立ち去るアンダーソンを見送りながら、ケンは南部に告げた。
「博士、エレベーターが止まっていますが、長官は大丈夫でしょうか?」
 ああ、心配要らんよ、と南部は微笑んでトラッシュ発電所を呼び出した。
「ご苦労様でした、コミーベ博士。お陰様で雪を降らせることが出来ました。ええ、実験を終了致しますので1分後に通常配電に戻して下さい‥‥」
 ん?1分後に通常配電?‥‥あ、そうだ!と、ケンは密かに通信ボタンを叩いた。
(ジュン、俺だ。聞こえるか?いいか、 あと1分ほどで電力は復帰する。ああ、ほんとだとも。え?さすがはケンだって?ま、まあね。だからツケの件、よろしくな!)
 やったぁ!うふふ、しめしめ‥‥しめこのウサギとはこの事だ♪バンザーイ!オケラから一気にコガネムシになったぞ。
「‥‥ええ、はい、ありがとうございます。では、良いクリスマスを、コミーベ博士」
 こうして降雪実験は終了し、ユートランドの街に電力が戻った。
 街の灯が、そして街中の様々なクリスマスイルミネーションが一斉に輝き出す。
 真っ白な新雪に映えて、あたかも宝石箱をひっくり返したように街中が眩く煌めく様は見る者全てに息を飲ませるほど美しかった。
「きれいだな」
「ああ」
「一夜限りの魔法だがね。だがこれでケンとの約束を果たせたな」
「は?」
「なんだ、憶えていないのかね?ホントワール生れの君は "クリスマスに雪が無いとサンタさんの橇が来られない" と言って泣いたじゃないか。だから私はいつか必ず、と‥‥」
「何だよ、ケン。つまりおまえのせいだったんじゃねえか!」
「そ、そんな昔のこと言われたって‥‥もう時効だ、俺のせいじゃないよ!」
「いいや、おまえのせいだ。雪も停電も何もかもな。だからさっきの賭けは無効だ!」
「おい、ジョー、馬鹿な事言うなよ!俺は関係ないし、賭けは賭けだぞ!」
 なにをー?やるかー?とまるで子供のようなふたりを南部はたしなめた。
「こらこら、ふたりともやめなさい!良い子にしていないとサンタさんは来てくれんぞ」

You better watch out
You better not cry
Better not pout
I'm telling you why
Santa Claus is coming to town

He's making a list,
And checking it twice;
Gonna find out Who's naughty and nice.
Santa Claus is coming to town

He sees you when you're sleeping
He knows when you're awake
He knows if you've been bad or good
So be good for goodness sake!

O! You better watch out!
You better not cry.
Better not pout, I'm telling you why.
Santa Claus is coming to town.
Santa Claus is coming to town.



The End.



by Phantom.G
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