L' ARBRE DE NOEL '07
- In the telephone booth -


by さゆり




RRR‥‥
『ハロー?』
「やぁ、ジョー。俺だよ」
『ケンか!おい、おまえ何やってやがる?約束の時間はとっくに−』
「わかってる。仕事が長引いちまったんだ。待たせてすまなかったが、パーティーにはひとりで行ってくれ。これからじゃとても‥‥え、何だって?」
『今、どこから掛けてるんだよ?そう、おまえはどこにいるのか?って訊いてんだ』
「えーと、ウォルシャー通りのテレフォンブースだ」
『ウォルシャー通り?』
「ああ」
『どこのウォルシャー通りだよ?まさかモータウンの、とか抜かすつもりじゃねえだろうな?』
「そう、モータウンの外れだよ」
『ふざけんなよ、ケン。モータウンからじゃどんなに急いだって−』
「ああ、だから電話したんだ。どんなに急いだって3時間はかかる。だから、ジョー‥‥」
『ハッ!2時間も待たせた挙句にそれかよ?なあ、ケン、今日は何の日だ?』
「‥‥せっかくのイブだってのに待たせて悪かったさ。でも仕事だったんだ、仕方がないだろ?」
『仕事、仕事ってなあ、おい、ケン。おまえ、仕事と俺とどっちが大事なんだよ?』
「は?」
『だから、仕事とアタシとどっちが大事なの?って訊いてんじゃないのー!何よ、ケンの馬鹿っ!とんちき!もう知らないッ!』
「‥‥ジョー、おまえ‥‥おい、大丈夫か?」
『ぷっ、ぷふーッ。あーははは。ばーか、冗談に決まってんだろ』
「ちぇ、ひとりで笑ってろ。何だよ、驚かせやがって」
『俺のは冗談だがな、ケン、女ならマジでそう詰め寄るぜ。イブの晩に待ちぼうけを食わせるような野郎にはな』
「は!そんな女は御免だね」
『ばーか!そんなだから可愛いんじゃねえか、女ってのは』
「もうコインが無いんだ、切るぞ」
『‥‥ん。薄着でほっつき歩いて風邪引くなよ、ケン』
「ああ。今夜はすまなかったな、ジョー。でもまだ間に合うだろ?パーティー‥‥だから−」
『ああ、わかった』
「じゃな」
『ケン!』
「うん?」
『メリー・クリスマス!ケン‥‥せっかくのイブだ。おまえも何とかケーキくらいにはありつけよな』
「ふふふ。ああ、メリー・クリスマス!ジョー」

 樅の木には星の飾りと赤いリボンを、
 ジンジャーブレッドハウスには砂糖の雪とキャンディーで飾りを、
 ご馳走には焼いた七面鳥と丸太に似せたブッシュ・ド・ノエルを、
 窓の外には白い雪とスノーマンを‥‥
 
 結局、俺はいつまで経ってもそんなクリスマスってやつとは縁がないらしい。
 今宵もまた俺は見知らぬ街角にいる。
 樅の木も賑やかなイルミネーションもない暗い街角で、俺達は気を許したら冷たい骸となりかねない相手と対峙している。
 いつかのように約束があるわけでも、俺を待っている友がいるわけでもないが、いつまでもこうしていても仕方がない。
 さあ、そろそろ片をつけなくては‥‥
「なあ」
「何だ?」
「ここからあのテレフォンブースを狙えるか?」
「ああ。おい、何をするつもりだ?」
「俺が囮になる。援護してくれ」
「危険だ!奴はまだ弾を残してるぜ」
「なぁに、どうせハンドガンだ。だからきっと奴は確実に俺に当てる事の出来る所に姿を現わすはずさ。それに‥‥」
「それに?」
「今夜はイブだろ?帰りを待ってる女がいるんじゃないのか?」
「ちぇ、そっちこそ。そのポケットのプレゼントは何なんだよ?」
「ふふふ。だからさ、とっとと終わらせようぜ。女にとっちゃ地球の明日よりもイブのパーティーの方が大事らしいからな」
「ははは」
「たぶん奴は俺が電話を終えてブースを出た瞬間を狙うだろう」
「なぜそう思う?ブースに入る瞬間か、灯りが点いてるブースの中の方が狙い易いぜ?」
「奴はプロだし、残弾は僅かだ。俺かどうかを確認した上で、一発で仕留めようとするはずだ。だから背中やましていくら灯りがあっても横向きのボディは狙いやしないさ。だけどブースを出る時には‥‥」
「なるほど、胸を曝すことになる、か」
「ああ」

RRR‥‥
『ハロー?』
(やぁ、ジョー。俺だよ)
「やぁ、ジョー。俺だよ」
 懐かしい声に応える俺の声を俺はもう一度復唱する。
『ケンか!おい、おまえ何やってやがる?約束の時間はとっくに−』
(わかってる。仕事が長引いちまったんだ。待たせてすまなかったが‥‥)
「わかってる。仕事が長引いちまったんだ。待たせてすまなかったが‥‥」
 どういうわけだか俺の電話のICレコーダーに残されていたあのイブの夜の通話。いい加減待ちくたびれて寝ぼけてでもいたのか、それとも苛ついて電話器でも叩いたのか、あいつが何かの拍子にレコードボタンをオンにしちまってたのだろう。
『どこのウォルシャー通りだよ?まさかモータウンの、とか抜かすつもりじゃねえだろうな?』
 懐かしい声が「どこだ?」とまた俺に訊ねる。
『ハッ!2時間も待たせた挙句にそれかよ?なあ、ケン、今日は何の日だ?』
 わかってるって、ジョー。今日もまたイブだ。
『仕事、仕事ってなあ、おい、ケン。おまえ、仕事と俺とどっちが大事なんだよ?』
 さあな?俺には未だにそれがわからないんだ。
 わからないから聖なるイブの夜にこんな暗く寒い街角にいるんだ。
 わからないから自分の電話のアンサリングなんかと喋ってるんだ。
 わからないから今年も渡す当てのないプレゼントを持ってるんだ。
 だけど、ジョー‥‥はっきりとわかってることもあるんだぜ‥‥
『‥‥ん。薄着でほっつき歩いて風邪引くなよ、ケン』
 あの夜、おまえが置いて行ってくれたこのダウンがとても暖かいということと、
『ケン!』
 そして‥‥
『メリー・クリスマス!ケン‥‥せっかくのイブだ。おまえも何とかケーキくらいにはありつけよな』
 そう、そして必ずおまえが「メリー・クリスマス」と言ってくれるってことさ。
(ふふふ。ああ、メリー・クリスマス!ジョー)
「‥‥ああ、メリー・クリスマス!ジョー‥‥」
 今年も互いに「メリー・クリスマス」を言えたな、ジョー。
 ま、ケーキにありつけるかどうかは今の相棒の腕次第だぜ。

 あっ‥‥
 ‥‥雪だ。



 THE END.




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