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BECAUSE.....

by 鷲尾さゆり


「お呼びですか、博士?」
 別荘内のインターフォンで南部がジョーを呼んだ。居住スペースから南部の研究室や指令室がある階下へと降り、そう声をかけて診察室のドアを開けた。医師でもある南部は定期的にこの診療室で彼等の健康状態をチェックし、また日常的な怪我や打撲傷の手当てもここで行う。レントゲンやエコー等の検査機材も完備され、一般の開業医以上の設備がある。
「来たかね、ジョー。こちらへ入って来たまえ。」
 間仕切りのパネルの向こうから南部の声がした。と、同時に、
「なぜ、ジョーを呼んだんです?俺はー」
「まだ治療が済んでいないんだ、シャツを着てはいけないぞ。座っていなさい、健。」
 刺のある健の声が響き、南部が制止している。いったい、どうしたってんだ?と、ジョーは訝しく思いながら、パネルで仕切られた処置室へ入った。エタノールの匂いがする。
 と、驚いた。小型だが明るい無影灯の下に、上半身裸の健が座っていた。ちらとジョーを一瞥したが、そのまま知らん顔であらぬ方を見遣る。その胸から腹にかけて、いや、肩も、か?無数の鮮やかな傷跡が付いているではないか。くっきりとした、細くて長い赤い傷だ。
「どうしたんだ、健!その傷は?」
「ホントワールで拉致されている時に鞭で打たれたそうだ。」
 南部がキャビネットから取り出した何かの薬品を、小さな注射器に引き上げながらそう言った。
「何だって?あの行方不明の時にか?」
「うるさいっ!おまえには関係のない事だ。」
 いつもの健なら睨みつけてくる。が、健はきつい口調でそう言いながらも、ジョーを見ようとはしなかった。細く見えるが上質の筋肉だけで構成された健の上腕に注射針が刺さる。と、ちょっと顔をしかめた。エタノールの染みたコットンボールでそこを押さえながら、南部が静かに言った。
「そう興奮してはいけない。とりあえず抗生物質を打ったし、熱も間もなく下がるだろう。さあ、ここを押さえていなさい。」
 顔を上げずに、上腕を擦る健の背後に回った南部の顔が曇った。
「まだかなり痛むかね、健?」
「いいえ。もう平気です、博士。」
 背中にも同じ傷があるって訳か、とジョーにも察しがついた。あの様子じゃかなり酷いんだろうな。
「痛むならこの薬を飲みなさい。2錠で効かなければ・・・。」
「痛くありません。こんな傷くらいで、別に何も・・・。」
 健のブルーの目がちらっとジョーを見た。
「何もジョーを呼ばなくてもー」
「御挨拶だな、健。俺だって来たくて来たんじゃねえや。」
 腕組みをし、いつも通りにそう言い返したジョーに、健はおやっという顔をした。ジョーは変わらない。いつものジョーだ、と健の表情が少し柔らかくなった。こうなると口が止まらない。
「だったら帰れ。」「なんだと?」
「やめないか、2人とも。さあ、健、部屋に戻っていいぞ。ゆっくり眠りなさい。」
 南部の言葉に健は赤いTシャツを頭から被り、さっさとドアへと歩いて行く。後を追おうとしたジョーを南部が呼び止めた。
「ジョーは残ってくれ。少し話しがある。」
 ノブに手を掛けた健が一瞬、立ち止まる。しかし、振り返りもせずにそのまま出て行った。

 椅子を回した南部はジョーの長身を見上げて話し始めた。
「ジョー、今夜一晩、健の様子を見ていてくれるか?」
「鞭の傷が酷いんですか?」
「いや、軽い熱が出ているが大した事はない。私が心配しているのは、傷よりも健の精神状態だ。しかし、私は出掛けなければならないし、それにいくら尋ねても私には詳しくは話してくれんのだ。」
 書類を鞄に入れ、身支度を整えた南部と一緒にエントランスへと向かう。
「原因はやはりRIの、いや、健の親父さんの事ですか?」
 ジョーは単刀直入に訊いてみた。
「むろんそれもある。しかし、あの健があんな行動に出たのは、むしろ話そうとしない部分に理由があるのではないかと思うのだ。」
 温厚そうに見えても南部は短気だし、これまでも健や自分を叱りつける事はよくあった。だが、手を上げた事は一度も無い。その南部があの健を殴ったのだ。確かにあれは健が悪い、とジョーも思う。ジョー自身、あんな健を見ているのは嫌だった。しかし、健が南部に話そうとしない事とは?
 ジョーは湖畔で健の加勢に駆けつけた時、警察隊長だという男が乗馬用の鞭を持っていた事を記憶していた。冷酷そうで、ヒステリックな男だった。あいつが鞭傷の原因ならば、話したくない理由は想像がつく。ああいう手合いが、健のような坊やにする事と言えば・・・。まあ、博士には分からないかも知れないが。
「ジョー、健も君になら何か話すかも知れない。頼んだぞ。これは精神安定剤だ。痛みも緩和されるし、よく眠れるから、出来れば飲ませてやってくれ。」
 そう言い残して南部は国際科学技術庁から寄越させた迎えの車に乗り込んだ。戻るのは明日になると言う。待機していたが、南部の車を運転する仕事はなくなった。だが、もっと面倒な事を言いつかってしまったな、とジョーは伸びをしながら居室のある階上へ上がって行った。
 別荘には訓練を受けていた頃のままに彼等5人の部屋がある。一番左端の健の部屋のドアをノックしたが、応答がない。不審に思ったジョーは、預かったマスターキーで開けてみたが、部屋はガランとしてしばらく使用された形跡もない。健はここ数日、別荘にいたはずだが?
「どこへ行きやがったんだ?健の奴は・・・。」
 ふと、思い当たる場所があった。
「そうか。きっとあそこだ。」
 一つ上の階へと上がる。この建物の中で一番生活感のある階だ。キッチンがあり、プライベートなダイニングやリビングがあり、南部の寝室もある。そしてまだ子供だった健とジョーが暮らしていたのもこの階だった。キッチンのドアには鍵がない。ジョーは冷蔵庫を開けてみた。男の子が2人もいた頃とは異なり、いやに整然としていたが、いつものようにワインが数本冷やしてあった。適当に2本ばかり抜き出すと、2人の寝室だった部屋のノブを回した。

 案の定、鍵が開いている。そっとドアを開けると、フットライトだけの部屋は薄暗かった。窓辺に並べられたベッドが、少し開いたカーテンから差し込む月明かりに仄白く浮かんでおり、向かって左側のベッドに健が寝ているのが見える。左側が健のベッドだった。あの頃もー。2人がそれぞれの個室を使うようになっても、この部屋は変わらない。いつもきちんと掃除され、リネン類も新しくなっている。何故、この部屋があの頃のままに整えられているのか、少し不思議な気がした。南部の指示なのか?それとも逆に、そうしなくていい、という指示を出し忘れているのか?それとも、俺や健がいつ帰って来てもいいように、との配慮なのか?
(何だ、寝ちまったのか・・・。)
 と、思った瞬間、視界いっぱいに何かが広がった。ジョーは反射的に空いている腕でそれを払いつつ、跪いて防御の姿勢を取る。だが、目の前に影のように飛び下りた相手が誰かを認めて、寸でのところで殴ろうとした拳を止めた。
「健っ!?」
 眠っていると思ったのに?こいつはー。殺気を孕んだ青い瞳が目の前にあった。
「なんだ、ジョーじゃないか。」
 部屋のライトを点けると、パジャマ姿の健が不機嫌そうな顔でそう言った。誰かが入って来た気配に、咄嗟に身体が反応したってのか?ベッドスプレッドを投げ付けて、その影から攻撃しようとしたらしい。しかし、何故?ここは健にとって最も心安らぐ場所ではなかったのか?
「黙って入って来るな!」
 呆気に取られているジョーを後目に、健はまたベッドに潜り込んでしまった。怒鳴りつけてやりたかったが、南部が言うように健の精神状態は普通とは思えない。ここは何も言わない方がいい。黙ったまま床からベッドスプレッドを拾い上げ、シーツに包まって丸くなっている健に掛けると、ライトを落とした。こう機嫌が悪くては話しを聞くどころではないな、とジョーは軽く舌打ちした。
「痛むのか?博士から薬を預かって来たぜ。それともワインの方がいいか?」
 眠っていないのは分かるが、やはり健は返事をしない。ナイフでワインの栓を開け、ナイトテーブルにそれらを置くと、放り出してあった健のブレスレットが月の光を反射して微かに光っている。
「シャワーを浴びて来るからな。大人しく寝てろよ。」
 何を言っても健は頑なに枕に顔を埋めたまま、黙り込んでいる。まあ、ああしているうちに眠ってしまうだろう、と、ジョーはバスルームのドアを開けた。シャワーカーテンの中に懐かしい香りと微かな湿気が残っていた。シャワージェルもシャンプーも、以前と同じにBRONNLEY社のホワイトアイリスが置いてある。健はシャワーを浴びてからベッドに入ったようだ。たっぷりと用意されている柔らかなバスリネンも、数枚引っ張り出された形跡があった。
(熱が下がって、シャワーを浴びたのか。)
 と、少しホッとしたジョーは熱いシャワーを頭から浴びた。しかし、最前見せたあの目は異常だ。健は肉体的にも、そしてそれ以上に精神的にも非常にタフな男である。外見からは想像しにくいが、鋼のような意志と強靱さを持っている。反面、それが脆さでもあり不安定さでもあるが、ここ数日のように追い詰められた印象を受けた事はなかった。肉親との悲劇的な別離を考えればあのくらいは当然なのかも知れない。やはり南部に話さないという部分が大きく影響しているのか?
 シャワーの温度を下げて、ゆっくりと考えを巡らす。
 あの健が拉致され、あそこまで鞭で打たれた事自体、信じ難い。何かの情報を喋らせるために打たれたのか?いや、それなら健は南部に報告する。例えどんな辱めを受けようとも、任務に関する事ならあいつの責任感ってやつが黙ってはいない。では何故、健は苛まれたのか?何を黙って健は自分を苛んでいるのか?

 ジョーは白いバスローブを羽織ると、ラシッドブロンドをごしごしと拭きながら、健の様子を見に窓辺へ行った。さらに高く昇った月の明かりが健を半分だけ照らしている。頭から被ったシーツがいやに小刻みに上下しているのにギョッとし、
「おい、健?」
 と、思わずそのシーツを引き剥がした。健は自分を抱くように腕を身体に巻き付け、ガクガクと震えていた。熱でも上がったのか、と額に掌を当てたが取り立てて熱いという程ではない。
「どうしたんだ?こんなに震えてー」
「寒いんだ。」
 目を瞑ったままでそう答えると、健は物憂気に目を開けた。深い海のような沈んだブルーの瞳が潤んで見える。やはり熱があるのか?ジョーは自分の額を健の額に押し当ててみた。だが、僅かに熱っぽさを感じはするものの、震える程の高熱だとは思えない。しかしー。
「そうだ!薬を飲めよ。痛み止めは熱冷ましにもなるからな。」
 手を伸ばしてナイトテーブルから取った錠剤を口元に差し出した。
「いらない。」
 と、健はにべもないが、早くて浅い呼吸を見ているとどうにも不安になる。乱暴だが仕方がねえや、とジョーは自分の口に2つの小さな錠剤を放り込み、ボトルからワインを一口呷ると、健の顎を掴んだ。驚いて大きく目を見開く健の唇に唇を押し当て、強引に錠剤をワインで流し込む。顎を上向かせると、健の喉は嚥下反射でそれを飲み下した。
「何をするっ!?」
 そう怒鳴って、健はベッドから飛び出した。
「具合が悪いのに薬を飲まないから、飲ませてやったんだ。さあ、いいから寝てろ。」
 手首を掴んでベッドへ戻そうとしたジョーは、ハッとして掴んだ健の手首を放した。そこにも傷があった。鞭のものとは違う、擦過傷がブレスレットのように両手首にぐるりと絡み付いている。
「手錠の跡だ。こいつでぶら下げられてたんだ。」
 他人事のように言いながら、それでも健は素直にシーツの中に戻った。
 ジョーは自分のベッドに腰掛けると、ワインをボトルからごくごく飲んだ。温くなったワインは苦味が立って不味い。だが、飲まずにはいられなかった。目の前でこちらに背を向けて寝ている健とは別の健の姿が脳裏に浮かぶ。どこだか分からないが、たぶん薄暗い所で、手錠に吊り下げられた健に向かって鞭が鳴る。あいつは悲鳴を上げただろうか?それとも歯を食いしばって耐えただろうか?それからあの隊長は何をした?乱れた長い髪の間から覗く、健の辛そうな顔や深い海に似た沈んだ瞳の色までが見える気がした。妄想の中のその情景と、その表情がひどく扇情的で、身体が火照った。なんて馬鹿な事を・・・!慌ててワインを喉に流し込む。俺は何を考えてるんだ?ジョーは狼狽えて、
「冗談じゃねえっ!」
 と、大声を上げた。

「何が冗談じゃないって?」
 我に返ると目の前に健がいた。驚いたのと、勝手に描いたものへの羞恥心とで頭に血が昇った。何も考えられぬまま健を捉まえると、パジャマの上着に手を掛けた。
「おいっ、よせ!」
 と、健が身体を引いたが、ジョーは手を放さなかった。強引に上着を脱がせると、露になった胸の傷跡が目に飛び込んで来た。背中は?と、乱暴に身体を反転させる。何かを諦めたように抵抗もせぬまま、健はバランスを崩してベッドに俯せに倒れ込んだ。
「胸と同じようなもんだろ?自分じゃ見えないがー」
 健がまた他人事のようにそう言う。ジョーの指が傷跡をなぞった。
「おまえは抵抗しなかったのか?こんなに酷く打たれて...」
「抵抗しようにも手も足も自由にならなかったんだ。」
「どうして?おまえなら手錠を掛けられる前に逃げ出せただろうに。おかしいぞ、健。いったい何があったんだ?何故、何も話さない?言えよ、喋っちまえよ、そうしたら・・・。」
 ジョーはそう捲し立てていた。そうしたら、どうなるのだろうか?だが健も少しは楽になるのではないか?いや、狼狽えた自分に腹が立つからか?それとも!?
「ジョー、おまえ、本当にそれを聞きたいのか?」
 健は身体を起こすとジョーの手からパジャマを取り、肩に羽織った。そしてジョーに向き直ると、ブルーグレイの目を真直ぐに見つめて、そう訊いた。
「ああ。俺になら話せるだろ?」
 うん、というように健は少し顎を引いた。ジョーは博士に頼まれたんだ。俺からは話せないが、ジョーが代わりに話してくれるだろう。隠しておいて何になる?博士に苦しい思いはさせたくはない。と、健は心を決めた。ジョーになら話せる。ジョーならきっと・・・。それから苦労して微笑むと、どこか遠くを見るような目つきで話し始めた。
「ちょっと引っ掛けられてね、それで隙が出来ちまった。ざまあないぜ、まったく。ああ、あれはバルビツールか何かかなあ?注射されたと思ったら、いきなり目の前が真っ暗になった。だが、鞭で打たれると気がつくんだ。痛い時には気を失っていたいのにさ・・・ああ、痛みで気がついたのか?なんだ、そうか・・・凄い叫び声がして、びっくりして目が覚めたら自分の声だった・・・。」
 髪を掻き上げながら、健は話し続ける。
「それから、そうだ、あの男が言ったんだ。『おまえの親父が憎い』ってさ。だから俺、ああ本当に親父は生きてたんだなあ、と思ったぜ。だけどテストパイロットだったはずなのに、なんでスパイなんかになって、こいつに憎まれてるのかなと、それが不思議で・・・。」
 そうか、それで博士には話せなかったのか、とジョーは胸が痛んだ。言えば恨み言にしかならない。だから、健は何も言わなかったのだろう。そして、たぶん博士も全てを承知の上で、わざと聞き出そうとしているのだろう。「あなたのせいだ」と詰られた方が、博士としては気が楽なのか?
「気を失って、打たれると痛くて気がついて・・・何度かそれの繰り返しだった。ただ喉が乾いて、それが辛かった。それから、手首が痛くて・・・手錠に繋がってる鎖を握ってたんだが、気を失うと手を離してしまうんだ。手首が痛くて、腕もだるくて、鎖が弛んで手を下ろせた時は心底ホッとしたぜ。」
 両方の手首を交互に擦って、健はまた薄く笑った。
「それで、鎖を外してくれたのか?」
 他に尋ねる事もないまま、ジョーはどうでもいい事を訊いた。ぴくっと健の肩が緊張する。一瞬、唇をぐっと噛んで、眉根を寄せたが、しかし健は再び話し出した。
「俺の膝が床に着くように緩めただけだ。まあ、その間は手首は痛くなかったけど。」
「その間って?」
 言ってしまってから、あ、しまった!とジョーは後悔した。慌てて、
「待てよ、言わなくていい。もう分かった、分かったからー」
 と、打ち消したが、遅かった。キッとブルーの瞳がジョーを睨んだ。そこには渦巻くような怒りと、行き場のない悔しさがあった。
「話せと言ったのはおまえだろう、ジョー?最後まで聞けよ!あいつは俺に、俺を...くそっ!それで笑いやがった。『もっと叫べ』だと、『おまえの親父に見せてやりたい』だと?ふざけるなっ!ちくしょうっ!」
「健っ!」
 ジョーは思わず健を抱きしめた。暴れ出すのではないか、泣き出すのではないか、としっかりと健の身体を抱いた。少しの間、健は荒い呼吸とともに激しく震えていたが、泣きも喚きもしなかった。口元を埋めたチョコレート色の髪からホワイトアイリスの香りがする。懐かしい香りだった。

 ここにベッドを並べて寝ていた頃、ジョーは夢に魘されて飛び起きる事があった。そんな時、健が枕を持ってジョーのベッドに来てくれた。そして何も言わずに一緒に寝てくれた。温もりとホワイトアイリスの香りに包まれ、泣かずにいられた事を思い出す。
 ジョーの胸で、ふふっと健が笑った。
「どうした?」
「いや、ジョーの匂いがするなと思って。」
「俺の匂い?」
「ああ、子供の頃のおまえの匂いだ。懐かしいな。」
 あ、そうか、とジョーは思った。自分も同じホワイトアイリスを使っていたのだから、当然と言えば当然だ。だがお互いに相手の香りとしてだけ記憶している。或いはそれぞれの身体に移った香りが、こうして溶け合った時にだけ、忘れかけた記憶が呼び覚まされるのかも知れない。
「サブにはおまえがいなかったんだ。だが、俺にはおまえがいる。だから・・・。」
 健が静かにそう言った。落ち着いた、いつも通りの声だった。きっと朝が来れば、深い海に沈んだ青い瞳は空の色を取り戻すだろう。だから、ジョーはそれが誰かとも、だから何かとも訊かなかった。 黙ったまま抱擁を解き、少し躊躇い、少し困ったような顔で、しかし思いの丈を込めて、健の唇にそっと唇を重ねた。ホワイトアイリスがまた香る。これは健の匂い。そしてジョーの匂い。分かつ事の出来ない、互いの記憶がまた静かに香っている。

-THE END-


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