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IN MIDSUMMER , IN BROAD DAYLIGHT

by 鷲尾さゆり




 あいつの家の事務所には3人掛けの古いがなかなか立派な革のソファがある。
 この建物がエア・ステーションの管制棟と待合室だった頃、きっと旅客のために
置かれたものだろう。夏の昼間、太陽がてっぺんにある時、このソファは最高の昼
寝場所なのだ。開け放したドアと窓から風が吹き抜け、楡の木々がサワサワと子守
り歌をうたう。真っ白な光を見ながら、この濃い影に抱かれてまどろむ心地良さは
堪えられない。

 あいつのセスナが帰って来た。爆音が近づき、やがてプロペラがキュルキュルと
余韻を残して沈黙する。また、蝉の声が近くなった。

(ガシャッ) キャノピーを開けたな。
(ザッ)   低翼のセスナからあいつが飛び降りた音だ。
(ザッザッザッ・・・)

 おや? いつもなら真直ぐにこの部屋に入って来るのに、何をしているんだ?
 俺は目を開けて、開け放したドアから真っ白な陽光が降り注ぐ滑走路を眺めた。
エンジンの調子でも見ていたのか、あいつはまだセスナの側にいた。そしてちょう
ど振り返ったところだった。鳥でも見つけたのか、腕を上げて青く輝く空を見上げ
る。腕が作った濃い影の下、表情は分からないが、あいつはにこりと微笑んだよう
だった。
何を見てるんだ?ジリジリと照りつける真夏の太陽に焼かれて。
まあいいさ。もうじきあいつがやって来て、俺を起こすんだから。
それまでは目をつぶっていよう。眠れるものならあと1分でも5分
でもこうしていたい。そして、風と木々の会話にじっと耳を澄まし
ながら、夢の続きを見よう。

「いたのか?」
 しばらくして部屋に入って来たあいつが言った。
 バサバサとデスクの上の書類をひっくり返してから(何をしていやがる?)無線機
のスイッチを入れた。
「こちらWAS イーグル・ワン、コントロールセンターどうぞ。」
―「こちらコントロールセンター、おかえりイグール・ワン、天気が良くて最高だっ
 たでしょ?」
「やあ、リズ、ただいま。クライアントの荷物は時間通りに届けた。連絡を頼む。天気
 は上々。朝からずっと青空の中を飛んでただろう?どうなったと思う?」
―「さあ、分からないわ?」
「目が青くなっちゃった!」
(くだらない事を言ってんじゃねえっ!おまえはトンボか?)
―「健ったら、やあね。おかしいわ。」
(おかしかねえぞ!)
「イーグル・ワンより以上。リズ、またいい仕事があったら回してくれよ。それから
 また君の手料理が食べたいな。」
―「OK、じゃ何か作ってあげるわね。いつも連絡が取れればもっと仕事も回してあげ
 られるのにね。コントロールセンターより以上。またね、健。」
(仕事と女か。そりゃ欲張りってもんだぜ、健。)

 喧しい無線機と馬鹿な会話がプッツリと切れた。葉ずれと蝉の声がまた近くなる。
「眠ってるのか?変わってくれよ。朝から飛んでくたくたなんだ。」
 あいつはそう言いながら、キッチンに行き、冷蔵庫を開けている。
「ああ、暑かった!汗びっしょりだ・・・」
 バサッというのはきっとシャツを脱ぎ捨てた音だろう。
 声がキッチンからこっちへ近づいて来た。俺は相変わらず目をつぶったまま、知らん
顔で寝たふりをしている。あいつはすぐ傍に立って、喉を鳴らして何かを飲んでいる。
爽やかな柑橘類の香りが心地良く鼻孔をくすぐる。そして氷の鳴る涼やかな音。
  そういえば喉が乾いたな。
「起きろよ。そこは俺専用だ。腹を出してるくせに、なんで靴は脱がないんだ?」
「ベッドで寝ればいいだろ?」
 俺はまだ目をつぶったまま、そう言った。
「向こうの部屋は暑いんだよ。さあ、起きろ!ジョー!」
「やだね・・・うわっ!」
 あいつは俺の腹にいきなり氷の塊を乗せやがった。思わず半身を起こすと、ソファに
片膝をついたあいつが目の前で笑っていた。
「ははは、びっくりしただろ?」
「この野郎!」
 俺はあいつの長い髪を掴むと、笑っているその唇にキスした。ふっくらとした唇はグレ
ープフルーツの味がした。片方の手にグレープフルーツジュースを飲み干したグラスを持
ったまま、あいつは目を閉じて俺のキスに応える。太陽の熱に火照った肩を抱き、俺はあいつの汗が残る首筋に舌を這わせた。
「よせよ!シャワーを浴びてくるから。」
 だが、俺はあいつを抱いて放さない。
「いや、このままでいい。ソルティードッグだな、おまえは。真夏にはぴったりの酒じゃ
 ないか?」

蝉の声が消えたかわりに、風が強くなったのか楡の木々が盛んにざわめき出した。
まだ太陽はてっぺんにある。眩い陽光に照らされて、なにもかもがぼうっと白く光っ
ている。そしていよいよ濃いこの影に抱かれるこの心地良さと言ったら・・・。

―カシャーン―
と、音がしてあいつの手から落ちたグラスと氷がダイアモンドのように輝いた。



- THE END -




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