ANOTHER WORLD OF THE GATCHAMAN バナー

HIS REGRET

- As time goes by -

by 鷲尾さゆり




「はあ、それで電話を差し上げたのですが‥‥ええ、かなりの重症です。いえ、打撲傷の方は大したことはないのですが‥‥ええ、間違いありません。G2号とか言ってました。ええ、そうです」
 G‥‥2号?
 自身の識別コードが俺を眠りの底から引き戻すと、誰かが俺のことを話していた。
 消毒薬の匂いに白いカーテン。ここはどこだ?
「古い傷ですが、どうも弾の破片がいくつも残っているらしくて‥‥」
 こいつは医者なのか?そうか、ここは病院だ。
 それじゃ俺はあのドライバーにここへ担ぎ込まれたって訳か。
 ふう、助かっ‥‥
「他の部位ならばともかく、脳に傷があるのは致命的です」
 −えっ?
「まあもっと詳しく調べてみないと何とも言えませんが、彼の症状からみて‥‥」
 な‥‥っ?
「お気の毒ですが一週間‥‥或いは長くても十日保てばいい方かと‥‥」
 一週間‥‥或いは長くても十日‥‥
 そうして俺は俺自身に残された時間を知ったのだった。
 だから、俺は‥‥


「追え!追えぇぇ−っ!」
「ガッチャマンだぁ−!」
 ガッチャマン‥‥?‥‥ケン!
 ‥‥どこにいるんだ?
 ケン、おまえに本部を知らせなけりゃ、俺は、俺は‥‥
「ケン、ケェ−−−ンッ!」
 霧が‥‥くそ、何も見えねえ‥‥
 いや、あれは、あの白い影は‥‥
「ジョーーッ!」
 ああ、来てくれたんだな、ケン。
「ジョー、おまえって奴は‥‥」
「分かってるって、それ以上言うな。ケン、ここが本部への入り口だ」
「何だって、ここが?」
「ああ‥‥」
 俺は薄く笑って頷いた。
「さあ行け!急がねえカッツェの奴がそろそろ動き出すぜ」
「ジョー‥‥」
 空の青をたたえたその瞳から涙の粒が1つ、2つ、と転がり落ちるのが見えた。
 すまねえな、ケン。でもこれが俺の生き方だったのさ。
 だから、後は頼んだぜ‥‥
 あいつは黙ったまま涙を拭うと、クッと唇を噛んでブレスレットを叩いた。
「こちらG1号、ここが本部への入り口だ。集合しろっ、本部に突入する!」
 へへへ、これでもう思い残すことは何もねえや。
 あばよ、みんな。
 あばよ、ケン‥‥


「ジョー。おい、ジョー」
 う‥‥ん?
「ジョー、しっかりしろ」
 ケン?‥‥おまえ、何をやってるんだ?まだここにいるのか?
「気がついたか、ジョー」
「ケン、おまえ‥‥早く奴らを−」
 シィーッ、とケンは起き上がろうとする俺の肩を押さえた。
「無茶をするなよ、ジョー。おまえは手術を受けたばかりで、まだ起きたりしちゃいけないんだ」
「しゅ、手術?」
「ああ、そうだ。頭、痛むか?」
 いや‥‥と俺は首を横に振ろうとして確かに目のすぐ上までをすっぽりと包帯と思しき物に覆われていることや点滴やら何やらに繋がれていることに、そして身体中に鈍い痛みと酒に酔った時のような熱感があることに気付いた。
 ああ、そうか。脳にあると言ってた傷を手術したのか。
「それじゃあ俺は‥‥いや、奴らは?ケン、地球は‥‥」
 うん、と頷いて、ケンはそれからゆっくりと晴れやかに微笑んだ。
「何もかも終ったよ、ジョー。奴らは滅んだ。そして地球は救われたんだ」
「ほ、本当か?」
「本当だとも。だからおまえはここにこうしているんじゃないか」
「ケン、みんなは?ジュンやジンペイ、リュウ、それから南部博士は無事か?」
「安心しろ。ジュンもジンペイもリュウも、それに博士もアンダーソン長官もみんなみんな元気だぞ」
「そうか‥‥良かったぜ」
 うん、良かった。それにおまえが−、と言いかけたケンは一瞬だけ俯いて瞑目し、それから再び顔を上げると空の青をたたえたその瞳を真直ぐに向けた。
「ジョー、目を醒ましてくれてホッとしたぜ。おまえ、あれからずーっと意識が戻らなくてさ。俺はそれが気掛かりで気掛かりで‥‥馬鹿野郎!勝手なことばかりしやがって‥‥」
 手遅れ寸前の、とても危険な手術だったんだぞ、と言葉を続けるその頬をあの時と同じように涙の粒が1つ、2つ、と転がり落ちるのを見、俺はようやく自分が犯した間違いに気付いたのだった。
「‥‥すまん。だけど、あの時は俺も−」
「もういいさ」
 もう全てが済んだことさ、とケンは俺の言い訳を遮って屈託なく微笑むと、ツイと手を伸べて冷たい指で俺の頬に触れ、
「ジョー、ああ、生きているんだな、おまえ」
 そう呟いて、本当に嬉しそうに笑った。
「ああ。ちゃんとこうして生きてるぜ、ケン」
 そう応えて、俺もあいつに笑い返した。

" You must remember this
A smile is still a smile
A sigh is just a sigh
The fundamental things apply
As time goes by ......" 

「そうか‥‥くたばりかけてた俺をリュウとジンペイがGPで運んでくれたのか」
「ああ、GPは強行着陸の時に左翼フロートとランディングギアをひどく破損しちまってたからな。飛べるかどうか心配だったが、さすがはリュウだ。よくやってくれたぜ」
 へへへ、リュウの奴にはきっと「まったく世話を焼かせるのぅ」なんて文句言われるんだろうな。いや、ジンペイにも「協調性に欠けるんだよ」って説教されんのかな。ちぇ、うんざりするぜ‥‥と俺は笑いながらも大袈裟に顔を顰めて見せた。こうして助かってみればみんなの思いやりは心底嬉しかったが、俺はそれを素直に伝える術を知らないヒネくれた男なのだ。
 そんなことはないさ、と、そんな俺の不器用さを誰よりもよく知っているケンは静かに首を横に振った。
「照れるなよ、ジョー。いや、リュウにだけはちゃんと礼を言うんだぞ。リュウの奴、" 生死を共にして来た仲間に精一杯のことをしてやれないのかよ? " と俺に食って掛かっ たんだからな」
「リュウが?」
「ああ、そうだ」
 リュウだけじゃない。ジュンもジンペイも‥‥いや俺だって、心からおまえを助けたい。もちろんそう思ったさ。だけど、俺は‥‥
「科学忍者隊のリーダーとしての命令だ。コンドルのジョーはここに残し、全員ギャラクターの本部に突入する!」
 ‥‥そう命じたのさ。
 ふふふ、非道い奴だと恨んでくれていいんだぜ、ジョー。
 そう言って、ケンは目を上げると真直ぐに俺の目を凝視めた。
 空の色をたたえたその瞳に今はもう一点の曇りも涙も無かったが、その透き通るほど澄んだ青の向こうに、死ぬ時は共にと誓って来た友を見捨ててでも行かなければならなかったあいつの辛さや哀しさが見えた気がした。
 だから―
「別に恨みやしねえさ。おまえを残してひとり突っ走ったのは俺の方だぜ」
 すまなかったな、ケン。勝手な真似ばかりしちまって‥‥
 と、俺もケンにだけはやっと素直に詫びることが出来た。
「そうか」
 それならばいいんだ。
 おまえなら理解ってくれると思っていたよ‥‥
「それにおまえはこうして生きていてくれたしな」
 ジョー、戦いは終ったんだ。
 もう友と別れることもない。
 もう泣くことも苦しむこともない。
 ゆっくりと噛みしめるように言いながら、ケンはもう1度晴れやかに微笑むと、
「だから、ジョー、早く元気になれよ‥‥」
 そう言って俺の手を握りしめた。
「ああ」
 頷いて、その手を握り返そうとした俺の指は、しかしそこにある筈のケンのその冷たい指を捉えることが出来なかった。

 えっ‥‥?
「一一ケンッ!」
 驚いて見開いた俺の目に飛び込んで来たのは‥‥
「ジョー!ああ、気がついたのね。ジョー!」
「ジュン‥‥ケン、ケンはどこだ?」
「ジョー、ケンは‥‥」

 カッツェが嘲笑った通り、あの装置には制御装置が無かった。ありったけの火薬を放り込んで一つの回路を遮断してもまた別の回路が動き出して‥‥でも一刻も早く止めなければ地球が一一
「よし、俺がこの中へ入る。内側からなら何とかなるだろう」
「やめて!ケン!」
 ゾッとして、ジュンは思わずケンの腕を掴んだのだそうだ。
「放せ!やるだけの事はやるんだ。俺達は科学忍者隊だぞ!」
「機械の中へ入っても歯車に潰されるだけよ。死ぬならここで一緒に‥‥あたし、もういや。離ればなれになって独りで死ぬなんて一」
「ジュン‥‥」
 泣きながら遮二無二抱きついたジュンをケンは一瞬だけその胸に抱き返して、それから静かな声で言ったのだそうだ。
 ジュン、どんな時にも死ぬことなど考えるな。
 無駄か無駄でないかを考える時間があったら、
 生き残るために今はやるだけの事をやるんだ。
 俺達はこれまでもそうして来たじゃないか一
「ケン‥‥」
 そして、ハッと我に返ったジュンにケンは命じたのだそうだ。
「ジュン、この装置ではなく動力源のシステムを破壊するんだ。行けっ!」
「ラジャー!」

「!‥‥そ、それで?」
 わからないわ、とジュンは泣いた。
 ケンが装置を内部から破壊したからなのか、あたしが動力システムを破壊したからなのか、或いは他に何か障害があったからなのか‥‥わかっているのは1発の分子爆弾が暴発して装置を止め、そして地球は救われたってことと、ジョー、あなたがこうして生きていてくれたってことだけよ。
「それじゃ、ケンは一一」
「わからないわ」
 とジュンは泣いた。
 そして俺は知ったのだ。
 あいつが手の届かないところへ行ってしまったことを‥‥


 あれからもう何年経つのだろう?
 しかしどんなに時が経っても、透き通るほど澄んだあの空の青さは少しも変わらない。
 そしてどんなに時が過ぎても、俺を呼び覚ましたあいつの声が、言葉が忘れられない。
 " ジョー、戦いは終ったんだ。
  もう友と別れることもない。
  もう泣くことも苦しむこともない。"
  だから一一
  " ジョー、早く元気になれよ‥‥ "
  だから一一 
 ああ、大丈夫。俺は元気でやってるぜ、と俺は頷いて、
 そう、どんなに時が流れても決して忘れることのないあいつの笑顔に微笑み返すのだ。

 もうすぐ、またあの日がやって来る‥‥

 " Hearts full of passion love and hate
He need you and you must have his mate
That no one can deny
It's still the same old story
A fight for peace and glory
A case of do or die
The world will always welcome them
As time goes by ..... "


- THE END -


Top  FicList

バナー ANOTHER WORLD OF THE GATCHAMAN