ANOTHER STORY OF THE GATCHAMAN バナー

AND THEN , AFTER THEN・・・


by 鷲尾さゆり
#1

 ギャラクターは壊滅した。ベルク・カッツエは燃えるマグマに身を投げ、総裁Xは輝く
飛行体となって遥か宇宙へと飛び去って行った。ブラック・ホール作戦もG2号ことコン
ドルのジョーが執念で投げた1本の羽根手裏剣により弊え、地球は既のところで消滅の危
機から救われた。科学忍者隊は勝利したのである。
 しかし、健は知らない。いや、誰も知りはしない。たった1本の羽根手裏剣が呼んだ奇
跡によって、かけがえのない緑の大地が守られたという事実を。無論それを投じたジョー
自身でさえ・・・。


 朝日が差していた。クロスカラコルムから望むヒマラヤの峰々に。朝日は破壊され尽く
した大地を、廃虚を、佇む科学忍者隊の4人を神の慈愛のように優しく包んで、輝く。言
葉もなく、彼らはそれを見ていた。彼らの胸に去来するものは何か?もう昨日へと過ぎ去っ
た過酷な戦いだろうか?これで地球は救われたのだ、という安堵だろうか?失った多くの
ものへの哀しみだろうか?
 ただ黙って4人は陽射しに抱かれて佇んでいた。4人が共通して思うことがあったとし
たら―、それはただ一つ、何故、5人揃ってここにこうして居られないのか―と、いう事
だけに違いない。だがそれを口にする者はなかった。

― 「科学忍者隊の諸君。」
 ブレスレットが通信を告げた。そして、南部博士の声がそう呼び掛けた。南部は最後ま
で彼らを信じた。信じ、科学忍者隊にすべてを委ねることで、南部もまた彼らと共に戦っ
たのである。
― 「科学忍者隊の諸君。G1号ガッチャマン、応答せよ。」
 G1号ガッチャマンこと大鷲の健はブレスレットを見つめた。初めて目にする物のよう
に、瞬きもせずに左の手首に輝くブレスレットを見つめていた。健のスモークブルーのバ
イザーに小さな赤い点滅がチカチカと反射する。そして―
「こちらG1号、南部博士、ギャラクター本部は壊滅しました。分子爆弾は停止しました
 が、各地の被害は?異常は収まりましたか?」
 我に返ったように健はそう報告した。
「ああ、地球は救われたぞ。諸君、よくやった。全員、無事か?」
 その言葉にジュン、甚平、竜の3人が思わず顔を見合わせる。健は一瞬瞑目したが、報
告を続けた。
「G1号、G3号、G4号、G5号は無事です。ここに揃っています。G2号は・・・」
 言葉が途切れた。何と報告すれば良いのだ?何と?だが、報告しなければならない。そ
れがリーダーである自分が果たさなければならない責任だ。
「G2号は、ジョーは行方不明です。状況から判断して、恐らくもう・・・」
 生きてはいません、死亡しました、と口に出せない。いや、出したくない。南部にもそ
れは痛いほど分かる。健の言葉を遮って、
― 「分かった。既に救助隊が出発している。もう少しの辛抱だ。」
 と告げると、少しの沈黙の後、優しさに満ちた声で再び言った。
― 「健、ジュン、甚平、竜・・・みんなよく頑張ってくれた。ありがとう。さあ、帰って
 きたまえ。」

#2

 過去に人間同士が起こした数度の世界規模の大戦から、その都度、復興を果たしたよう
に、今回の未曾有の災禍からも人々は再び立ち上がった。構築したものを破壊し、再構築
することによって人間は文明と繁栄と世界を営々と築き上げてきたのだ。もしかしたら、
それが定められた人間の性なのかも知れない。天災でも、戦争でも、また今回のような未
知の侵略でも、神話や聖書にさえ繰り返し記されている通り、結局は同じことなのである。
そして、それが生きるという事の本質なのであろう。

 クロスカラコルムから救助隊の大型ヘリで中継地点へ、そして地上の惨劇を目の当たり
にしながら、辛うじて倒壊を免れた国際科学技術庁本部に戻った4人を、南部は外へ出て
迎えた。行方を晦ましたジョーの捜索を続行させて欲しいという4人の願いを無視し、帰
還命令を出された時には本気で南部を恨んだ。しかし、結局、南部は彼ら5人を、そして
レッドインパルスを信じ、一縷の望みを未来への可能性に繋げることに成功したのだ。
「よく帰って来てくれたな、諸君。」
 わずか2日の間に驚くほど憔悴した南部を見れば、自分達と同じく、いやもしかしたら
それ以上の辛酸を舐めたであろうことは容易に窺える。胸がつまった。
「博士・・・」
「ご苦労だったな。」
 南部は微笑み、そう彼らを労った。そして穏やかな眼差しのまま、こう続けた。
「ゆっくり休んでくれたまえ。だが、長く休養してもらう訳にはいかない。気の毒だと思
 うが、諸君にはまた新しい任務がある。しかし、もし、科学忍者隊を去りたいというの
 であれば止めはしない。だが、もし、世界の平和を守る手助けをする意思があるなら、
 このまま任務を続けてほしいのだ。」
「分かりました。」
 と、健が言下に答えた。残る3人にも異存はなかった。

 ギャラクター本体は壊滅したが、長い年月と周到な計画によって世界の隅々に食い込ん
だ組織を一掃した訳ではない。さらに荒廃した地域で繰り返される無秩序や暴力にも対処
して行かなくてはならない。科学忍者隊は国連軍・国際科学技術庁とともに、こうした問
題の解決と終結に向けて忙しく飛び回らなければならなかった。当面の敵であり、打倒す
べき相手はギャラクターだったが、科学忍者隊の真の目的と存在理由は地球の平和を維持
することである。疲弊していたが、それは誰も同じだった。ましてや多くの人員と機材を
失った各国の治安維持機構をサポート出来るのは、スペシャリストである彼らをおいて他
になかったと言っても過言ではあるまい。
 しかし、こうした任務は彼らにとってありがたいものでもあった。忙しく、緊張して任
務に当たっている時は何も考えずに済む。時折、ゴッドフェニックス内の空席にハッとす
る事や、会話の中に聞き慣れた皮肉や冗談がない事に寂しさを覚える時があっても、時間
の無さがそれらを相殺してくれた。と、同時に彼らは敢えてジョーの事を話そうとはしな
かった。いや、出来なかったと言った方がいいだろう。
 こうして忙しい日々が数カ月続いた。帰還した翌日に詳細を報告して以来、多忙のため
指示を伝えるのみで、直接、会うことのなかった南部が健を呼び出した。呼び出した、と
いっても、その頃4人は奇跡的に無傷だった南部の別荘で暮らしていたのだが―。

「お呼びですか?南部博士。」
「だいぶ各地の混乱も収まったようだね。よく頑張ってくれたな、健。」
「任務ですから。」
 事実、健は以前にも増して与えられた任務を着実に果たしていた。恐らく健は驚異的な
精神力で自己を厳しく抑制しているのだろう。以前に見せた反撥したり、独断的な行動に
出たり、といった人間臭い部分は全く形を潜めている。レッドインパルスの死に際しては
あれほどの動揺を見せた健なのに、何故か?と、南部は訝しんだ。もともと感情の起伏が
激しい性格である事をよく知っているだけに、むしろ今回の冷淡さは府に落ちなかった。
無理をしているのではないか、という心配があった。直接、顔を会わせる事がなくとも、
南部にはそう感じられた。そして久しぶりに見た健の顔にはやはり以前の明るさがない。
(また辛い思いをさせる事になるかも知れない。)
 と、思いながら、南部はデスクの引き出しから何かを取り出した。小さな物だ。
「クロスカラコルムへ調査団が行った事は知っているな?数カ月をかけて我々はギャラク
 ターの本部を徹底的に調査した。そこでこれを発見したんだ。健、見たまえ。」
 南部が健の掌に乗せた物は1本の羽根手裏剣の残骸だった。折れ、捩じ曲がり、焦げ、
見る影も無かったがそれは確かに忍者隊の羽根手裏剣の残骸だった。ジョーの遺品だった。
(ジョー、おまえはこれで戦ったのか?たった独りで―)
 健はじっと小さな残骸を見つめ続けた。

「君の報告によると、制御装置のない分子爆弾投下装置は有りったけの爆薬を使っても、
 回路を遮断するだけで止めようがなかった、という事だったな。」

 あの時の出来事が悪夢のように蘇る。あの焦燥感、無力感、だが何とかしなければ、と
空しく足掻いたあの時―。最後まで諦めるものか、と固く自分を信じていたにも関わらず、
ジュンの言葉に俺はすべてを放棄したんだ、あの時―。
「最後の手段として、君が装置の内部に入ろうとした時、内部から原因不明の爆発が起こ
 り、そして装置は停止した。そうだったな、健?」
 健はジュンが涙ながらに引き止めた事を報告しなかった。だが、ジュンの取った行動は
正しい。もしあの時、自分が内部に潜入したとしても装置を停止出来る可能性はほとんど
無かっただろう。ジュンや仲間と一緒に死ぬのが人として正しい事なのは分かる。だが、
許せないのは俺自身だ。最後の最後になって諦めたのだから―。任務のためと言って、死
ぬ時はともにと誓ってきたジョーを置いて来たのなら、挫けずに俺も独りで死ぬ道を選ば
なければならなかったはずだ。それが無駄か無駄でないか、に関わらず―。
 泣きたい、と健は思った。悔しい、辛い、と父が死んだ時のように泣けたら、どんなに
楽になるだろう、と思った。だが、ジョーに別れを告げて以来、涙は一滴も出なかった。
「せめて俺の心だと思って―」
 と、言ってブーメランをジョーの手に握らせた時、きっと俺の心は死んだんだ。いや、
きっと心だけはジョーとともにあるからだ、と健は泣けずにいる自分を空虚な思いで見て
いた。

 南部は続けた。
「我々は分子爆弾投下装置の残骸の中からこれを見つけた。あらゆる点から分析した結果、
 この羽根手裏剣が何らかの理由で投下装置の最深部へ入り込み、ギアか接続コードかを
 破壊し、そのために本来の位置からずれた所で分子爆弾が爆発して、装置そのものを停
 止させたと思われる。」
「どういう事ですか?」
 健が南部の言葉に顔を上げる。南部は健の掌に乗った羽根手裏剣の残骸を指差して、静
かに言った。
「つまりこれが地球を救ったのだよ、健。」


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