宴の翌朝

by あずき

 飲み過ぎた朝特有のどんよりした覚醒の始まりの中で、俺は自分がいつもとは
違うベッドに寝ていることに気づいた。
「夕べは・・・」
 まだぼんやりとした頭で少しずつ思い出す。ああ、そうだった、夕べは、随分と呑
んで、はしゃいだんだった・・・。ワインと、バーボンだ。その臭いが、まだ残ってい
る。ワインとバーボンを呑んで、散々に呑んで、それから・・・。
 俺はまだ酔っているのか、と思うと、何だか可笑しくなる。まあ、いいか。適度に
心地よい二日酔い気分だ。そう、心地よい。この程度だったら、スクランブルが
鳴ってもすぐに対応できる。そう安心すると、もう少し惰眠を貪りたくなって、体を伸
ばしながら、深呼吸したのだったと思う。
 と、ワインとバーボンの臭いに混じって、別の臭いが鼻腔を擽った。草の香と枯
れ草の混じったような臭いと、それに混じる、かすかな甘酸っぱい臭い。よく知って
いる男の体の臭いと、馴染みのない、けれども確かに覚えのある女の体の臭
い・・・。
 その入り混じった臭いが一気に鮮明な覚醒をもたらして、思わずはね起きると、
俺は一人で、素っ裸で、汗に湿って乱れたシーツの渦の中にいた。ああ、そうだっ
た、夕べは・・・、いや、あれは、もう・・・。
「ようやくお目覚めか」
 あわてて振り向くと、あいつが皮肉っぽい笑みを浮かべて腕を組んで、開いた扉
に凭れていた。
 俺の頭は、何だかまだぼんやりしている・・・。そうだ、俺たちは、夕べ、いや、あ
れは、もう明け方近くだったか、ともかく、俺たちは・・・。
「ああ、そうだったな」
 という俺の声は、何だか擦れていて、それで俺は少し咳き込んで、「ジュンは」と
声に出そうとしたのだが、それよりも先に、
「彼女はとっくに出かけたさ。さあ、早くシャワーを浴びてこい。下でコーヒーを飲ん
だら、そのシーツやらベッドカバーやらを一切合切まとめて、お前がランドリーに運
んでいけよ。そのくらいのことはしろよな」
と言って、あいつは踵を返しかけた。おい、待てよ、と思いながら、
「ジンペイ・・・と、竜は・・・?」
と尋ねた俺の声は、二日酔いの寝起きのせいで擦れていただけでなくて、いくら
かの困惑や狼狽を含んでいたんだろうか、あいつはハハッと笑って、再びドアに凭
れると、半ば自嘲するような口調で答えた。
「事情を知ってか知らずか、ともかく、竜には感謝しなくちゃならねえ。明けきった
頃だったらしいけどな、ジュンがそっと下に降りていったら、まだ眠いとか、上の
ベッドでちゃんと寝直したいとか、ぐずぐずほざいてやがるジンペイを引きずって、
おもてに出てくところだったとさ、”ほれ、ジンペイ、祭りの朝市に行きたいちゅう
とったのは、お前だろが、早よせい”とかなんとか言いながらな。これで俺たちは4
人とも、竜に一生の借りを作っちまった、て訳だ。まあ、もっとも、ジンペイにはそ
の”借り”の意味を、あんまり知らせたくはねえがな」
 大きく息をつきながら、ああ、全くだ、と俺は応えて、ベッドの端から足を下ろす。
何だか、まだ全身が重い。
「おい、いつまで寝惚けてやがんだ、そろそろ朝市組が帰ってくるぜ、いくら何で
も、それまでにはそのシーツを片づけなきゃ、言い訳が立たんだろうが!」
 ああ、そうだな、と俺は答えて、だるい体に鞭打って、シャワーを使いに立った。

(THE END)


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