Bad Angels

                       by Kiwi

1

「健ならともかく、俺みたいに可愛げの無い奴を襲う物好きなんて居ねえよ」
ジョーは本気でそう思っていた。だから、島田の言葉を笑い飛ばした。そんな事が
あるはずが無いと、彼は真剣に思っていた。

「変だな」
口に出して、ジョーは改めて違和感を確かにした。このところ何となく誰かに見張ら
れているような感じがする。ギャラクターなら、下手に出て自分の正体を疑われて
も拙い。最初はそう思って、彼はわざと無視し続けた。だが、ジョーが一番違和感
を抱いているのは、殺気も、威圧感も無い事だった。
「変だな」
もう一度彼は口にした。訳の分からない不安が身体の奥から湧いてきたが、それ
を彼は振り払うように、その長い枯葉色の髪を掻き上げた。
「うじうじ考えたってしょうがねえや」
相手が仕掛けてこなければ、どうしようもない。まさか自分を見ているからといっ
て、誰彼構わず殴り倒すわけにもいかない。
それに、今日は久しぶりにレースが有る。そう思っただけで、さっきまでの憂鬱な
気分は半減していた。ジョーは手早くシャワーを済ませると、愛車に向かった。

自分が何故こんなに車に夢中になるのか、ジョーには分からない。健が父親と同
じテストパイロットになると初めから決めていたような、道標が有ったわけではな
い。唯、自分が16になってすぐ免許を取って、自分自身の車を手に入れたときの
感激を、彼は未だ覚えている。G―2号機とは比べ物にならないオンボロで、性能
も遠く及ばなかったけれども、ジョーはそれに自分が今まで貯めていたバイト代全
部を注ぎ込み、更にバイトの数を増やして、ローンを払った。その日から今日ま
で、ジョーが車に乗らない日は無い。例外は病院に監禁されているときだけだ。
『何時か自分はレースだけをして、生きていけるようになるのだろうか?』
レースは彼にとって、両親の復讐とはまた違う意味で、神聖、譲り渡せない大切な
物だった。自分の愛車のシートに納まっているときが、彼にとっては至福のときだ
った。もし俺が戦いの最中で、命を落とすような事が有るとしたら、お前と逝きたい
な・・・らしくも無い感情が湧いてきて、ジョーは自分を嘲笑って、車のエンジンをか
けた。
『今日はどうかしてる』
愛車はそんな彼の不安には関係なく、何時もと同じスポーツカー特有の軽いエン
ジン音を立てて、走り去った。

他者を大きく引き離して、チェッカーフラッグを潜ったジョーは、ピットクルー達に歓
声で迎えられた。
「やったな、ジョー」
今日は観戦に来ていた健達に笑顔で答えると、彼はメットを取って、その汗を拭っ
た。汗で張り付くレーシングスーツのジッパーを腰まで下ろすと、両袖を使って細い
ウエストで、結ぶ。甚平が差し出した、ミネラルウォーターのペットボトルを受け取っ
て、乾ききった喉を潤した。薄いTシャツを通して、綺麗に付いた筋肉が動きに合
わせて、浮き出される。
その時ふと、何時もの違和感が襲ってきた。
『まただ。誰かが見ている。一体何処から』
ゆっくりとピットの端まで歩いて出てみるが、歓声が上がるだけで、視線の主を突
き止めることは出来なかった。
「どうかしたのか?」
背後から健が心配そうな声を掛けるが、「いや、何でもねえ」と答えながら、ジョー
は自分に歩み寄って来る男を見つけた。
「おめでとう、ジョー」
笑を浮かべながら、握手を求める男の手を握り返して、ジョーは尋ねた。
「久しぶりだな、アル。引退してから暫く見なかったが、どうしてたんだ?」
「この足じゃ、レースはできないし・・・今は人にこき使われる身の上さ」
アルが引退する原因になった事故は、半年前に起こった。ラストまで後2周という
ところで、トップを走っていたジョーを二番手だったアルが、インから強引に抜こうと
した。しかし、彼の車はコントロールを失ってサーキットの壁に激突した。炎上する
愛車から彼は助け出されたが、左足を失い、今は義足を着けている。
「話があるんだが。ちょっといいか?」
アルの言葉にジョーは頷いた。表彰式までは未だ時間がある。アルのゆっくりした
歩みに合わせて、彼はアルの導く方へ付いて行った。
「これはお前にとって、決して悪い話じゃ無いぞ」
そう前置きをしてアルが持ちかけたのは、或る富豪がジョーのスポンサーに成りた
がっているという話だった。レーサーは誰でも、喉から手が出るほどスポンサーが
欲しい。それを見越して、必ずジョーがその話に乗ると思っていたアルだったが、ジ
ョーの口から出た言葉は彼の予想を裏切るものだった。
「俺、駄目なんだ。親父との約束で、レースは程々にってね」
スポンサーが欲しくないはずが無い。ジョーだって将来の夢はF-1のレーサーに成
る事だ。だが、科学忍者隊としての任務が今は何よりも優先される。国外のレース
に殆ど出場出来ないのもその所為だ。スポンサーが付いたら、そんな自由は利か
なくなる。
話がそれだけならと、背を向けようとするジョーにアルは尚も縋りついた。
「ジョー頼むよ。会うだけでも会って、話だけでも聞いてくれよ。その人は本当にお
前に惚れ込んでるんだ。俺の顔を立てると思って、な」
必死にアルに懇願されて、仕方なくジョーは頷いた。
「会うだけなら」
「すまないな。恩に着るよ。今晩8時にこの店に来てくれ。優勝祝いをしながら話を
しようって、その人が言ってるんだ」
アルはジョーにレストランのカードを手渡して、ジョーの気が変わらない内にと、可
能な限り足早に立ち去った。
手の中のカードに記された、名前と住所を見つめて、ジョーは呟いた。
「Tシャツとジーンズって、訳にはいかねえよな・・・」
記されている住所は高級店ばかりが並ぶ地域だった。俺、優勝祝いは、ビールと
ピッツアで良いんだけどな・・・
博士の屋敷に帰って、スーツを取って来なけりゃ・・ジョーは思わず溜息をついた。

2

スーツを着るのはどうも性に合わない、良く南部はこんな窮屈なものを毎日来てい
るものだと、鏡に映った自分の姿に思う。
「俺ってスーツを着ると、本当にやくざかボディガードか・・・島田と張るよな」
と、島田が耳にしたら、「心外ですね。あんたほど俺は目つきが悪く有りませんよ」
と言い返せれそうな独り言を呟きつつ、苦労してネクタイを締めた。細身とはいえ、
筋肉質の身体にスーツを纏った姿は、それなりに似合っているのだが、昔甚平
に、「ジョーの兄貴、それでサングラスをかけたら、まるっきりやくざだね」とコメント
されたのを未だにしつこく憶えているジョーだった。
「なんだ、出かけるのか?」
扉を開いた健が顔を覗かせた。
「ノックしろよな」
「したよ。したけど、自分に見蕩れていた誰かさんには、聞こえなかっただけさ」
「嘘付け」
鼻を鳴らして、ジョーは長い髪をサイドから後ろへと、ムースで流した。
「おお、力が入ってますね。コンドルのジョー君。今日のお相手は年上、グラマラス
な美女ですか?」
「だったら善いんだけどな。野郎相手に飯を食ってもな・・」
「にしてはめかしこんでるけど」
「場所柄、仕方無しにね」
ジョーが手渡したカードを見て、健が成る程と頷いた。「リッチだね」と口笛を吹く。
ル・ボン・ポリという名前そのレストランは、高級店が並ぶ通りの中でも、群を抜い
ている。
「で、誰と待ち合わせ?」
「アルが俺にスポンサーを紹介したいって、言うんだよな」
「ははーん、それでOKしたのか?」
「それ程馬鹿じゃないぞ」と、健を睨みつけて、ジョーは財布とキーの束を手にし
て、ドアに向かった。
「アルが会うだけでも会って、顔を立ててくれって言うからさ」
「うーん、しかしジュンと甚平が残念がるな。祝賀会をするって、張り切ってたぞ」
「明日なら空いてるから。て、言っといてくれ」
怒れるジュンは怖い。きっと或る意味誰も太刀打ちできない。そそくさと、彼は屋敷
を出て行った。

約束のレストランに8時丁度に着くと、ジョーは高価な調度品で飾られた中へと入
って行った。
「浅倉様ですね。お連れの方はもうお待ちです」
ジョーが告げた名前を聞いて、支配人が自ら彼を案内してくれた。
「こちらです」と、彼は重厚なドアを示した。
「浅倉様がお見えになりました」
支配人が扉を開けて告げると、アルが椅子から立ち上がって、ジョーを出迎えに来
た。
「ジョー来てくれて、嬉しいよ」
『何て言ったって聞かなかったくせによ』
と、一瞬ジョーは苦い顔をしたが、取り敢えず笑顔を作って、アルが差し出した手を
握った。
「ジョー、この人がお前のスポンサーに成りたがってる人だ」
アルの言葉に、ジョーは自分の正面に腰掛けて居る男を見つめた。未だ島田と同
じ年くらいだろうか、イタリアの高級ブランドのスーツが一部の隙も無く、着こなせ
ている。どうやら生まれつきの金持ちのようだ。
「初めまして。君の活躍は何時も拝見しているよ。君は想像していた通りの人だ
な」
視線に何やら含みが有りそうで、ジョーは背筋に悪寒が走った。
「私の名前はルイス・マクルヴァー。是非君のスポンサーに成りたい」
「あー、Mrマクルヴァー」
「ルイスと呼んでくれたまえ」
「・・ルイス・・何で俺なんですか?他にももっといいレーサーは一杯居ますよ。そ
れにその件についてはアルに断ったはずですが」
ジョーの言葉にルイスはアルの方に視線を移した。その途端アルは血相を変え
て、ジョーを宥めた。
「まあそれは食事をしながら。な、善いだろうジョー」
「そうだね。さあ、乾杯しよう。今日は君の優勝祝いだからね」
高価なシャンパンが開けられて、背の高いシャンパングラスに注がれた。三人は
グラスをそれぞれ掲げて、口を付けた。
やがて食事が運ばれてきて、暫くは当り障りの無い話が続いた。その間もジョー
は嫌に饒舌なルイスに対して、居心地の悪いものを感じていた。
「もう一度考えて貰えないかな?」
と、デザートも終わった後ルイスが切り出し、ジョーの右腕に触った途端、ジョーの
嫌悪感は限界に達した。
「せっかくですが、それはお受けできません」
『この野郎放しやがれ!』
と、手を振り払って殴り倒したいのを、アルの手前じっと我慢して、ジョーは立ち上
がった。いや、立ち上がったつもりだったが、実際には彼の身体は椅子に腰掛け
た状態から、少しも動いていなかった。
「ああ、薬が効いてきたね」
クスリと、笑うルイスの表情は先程までと何ら変わらず、笑みを浮かべている。
が、その笑みが、何か冷血動物を思わせるような冷たい物に変わった。
「身体が動かないだろう。心配しなくてもいいよ、一時的なものだからね。君が素
直に私の申し出を受けて付いてきてくれたら、何も手荒な事をするつもりは無かっ
たのだがね。ここは私が懇意にしているレストランでね。頼めば幾らでも、スペシャ
ル料理を作ってくれるんだ」
尚も自分の身体の自由が利かないのを、納得出来ない様に、腕で身体を支えて
立ち上がろうとしているジョーの耳元で、ルイスは囁いた。
「本当の招待はこれからだよ、ジョー」
毒を含んだ言葉に、ジョーはルイスを睨み付けた。
「ああ、いい顔をするね、君は。その目が私は一番気に入って居るんだよ」
「勝手な事ばかり、言ってるんじゃねえ」
「話は私の家でしよう。心配しなくても、時間はたっぷり有る」
その言葉が合図のように、黒いスーツ姿の男たちが現れた。
「ジョー君をお連れしてくれ。不手際の無い様にな。私の大事なお客様だ」

抱きかかえられる様にして、店を連れ出されて無理やり車に乗せられそうになる
のを、ジョーは自由の利かない身体で、必死に抵抗しようとした。
「未だそれだけ動けるのか?本当に君は私が思っていた通りだな。柔軟で、若い
野生の獣のようだ。けれどもう限界が近いだろう。何故そんなに抵抗する?恋人
に操でも立てているのかね」
「恋人?」
「どちらが君の恋人だね?栗色の髪の可愛い坊やか?それともこっちの日本人か
な?」
そう言ってルイスは写真の束をジョーの足元に放り投げた。散らばった写真にはど
れも自分が写っていた。レースの時の写真や、スナックジュンで甚平やジュン達と
談笑している写真もある。ルイスが言っているのは自分と健が笑って写っている
写真と、どうやって取ったのか、先日島田のマンションに泊まった時の写真だっ
た。
「君が招待に応じてくれないのなら、この二人に痛い目に遭ってもらうのもいいか
もしれないね」
「・・・・やってみな。お前達の手に負える二人じゃないぜ」
ジョーの口調には絶対の信頼が有った。健の可愛い面に騙されて、痛い目に遭っ
た奴を俺は山ほど知ってるぜ。
「じゃあ、こういうのはどうだろう?」
そう言うとルイスは黒服の一人に、目で合図した。男が懐からコルトを抜き出し
て、アルに向けた。
「やめろ!」
ジョーの叫びが銃声で消えた。アルは信じられないような顔をして、自分の腹部に
空いた穴を見つめた。そこから血が溢れ出して来る。
「な、何故だ。アルには関係ないだろう」
「この男には生きている価値は無いよ。金欲しさに彼は君を売ったんだよ」
「じゃあ、お前は何なんだよ?薄汚いサイコ野郎か?」
言ったと同時に右頬を思い切り殴られた。
「口には気を付けてくれ。私は唯、君が欲しいだけだ」
痛みにのた打ち回っているアルに背中を向けて、ルイスが尋ねた。
「招待に応じてくれる気になってくれたかね?」
「・・・・アルに救急車を手配してくれるなら」
噛み締めた口からジョーは声を絞り出した。
「約束しよう」
ジョーは車の窓からアルの姿を見た。
『アル、すまない』
倒れたアルの身体の下に血溜りが出来ていく。しかしその姿は彼方になり、直ぐ
に見えなくなった。

3

絡みつく両腕も、身体を這い回る生暖かい舌も、ジョーにとっては嫌悪感以外の何
物でもない。執拗に彼の敏感な場所を探していたルイスの舌が、意を得たように
ジョーの股間に達し、彼の物を咥えた。ちらりとジョーの顔を窺うが、彼は声を漏ら
すのが堪え難い屈辱のように、眉根に皺を寄せて沈黙している。
『強情な・・・』
と、ルイスは思ったが、こうした表情や、プライドの高さが、尚の事彼の征服欲を煽
った。
「声を出しても誰も聞いていない。この部屋の防音装置は完璧だよ」
笑いを含みながら話されると、その度に自分のものが刺激されて、思わず声が出
そうになるのを、ジョーは頭を強く振って耐えた。枯葉色の髪がシーツの上で、さら
さらと音をたてる。
「いい、表情だよ」
ルイスは更に愛撫を続けた。ジョーの物はもう限界まで追い詰められて、解放を彼
に命じていたが、それさえも許されないように、ジョーは唇を噛み締めた。切れた
唇から流れ出した血をいとおしがる様に、ルイスは舐めて、彼はジョーの細い腰に
手をかけて、自分の物で、ジョーを貫いた。ショックで上がりそうになる叫びを、両
手を口に当ててジョーは噛み殺した。それでも、ルイスが更に腰を進めると、押さ
え切れない呻きが彼の口から漏れ、ルイスは満足げに微笑んで、自分をジョーの
中で解放した。同時にジョーの物からも白い液体が飛び散り、彼の下腹を覆った。
それを舐めつくして、ルイスはジョーに口付けた。
舌を噛み切ってやろうか・・と思った瞬間にルイスが唇を離した。
「危ない、危ない。まだ君は諦めていないんだな。だが、此処からは出られない
よ。もう君は私の物だ」
再びルイスはジョーの股間に手を伸ばした。
悪夢は未だ始まったばかりだった。


「誰が来ていると言ったかね?」
南部は秘書の告げた名前がピンと来なくて、もう一度尋ねた。
「所轄の刑事さんですわ。ジョーさんの事でお聞きしたい事が有ると、仰ってます」
「・・・分かった。通してくれ。それと健と島田を呼んでくれ」
「分かりました」
秘書からの電話を切って、南部は訪問者が来るのを待った。やがて南部のオフィ
スの扉を開けて、いかにも刑事と言う容貌の二人が入って来た。その後から健と
島田も現れる。
「朝早くからお仕事のお邪魔をして、申し訳ありませんな、博士」
「どうぞ、お掛けください」
南部は部屋の中のソファを示して、自分もその向かいに腰を下ろした。その後ろに
警戒するかの如く、島田と健が立った。二人の刑事はその姿に居心地の悪さを感
じながらも、切り出した。
「私はマーティン・クリム。こっちはアンドリュー・トレーダーです」
バッチを見せながらそう自己紹介をして、マーティンは三人の反応を暫く待った。
南部はその表情を全く変えなかったし、健と島田に至ってはバッチさえ見ていなか
った。早く本題に入れと、言わんばかりだ。
「それで、ジョーについて何かお話が有ると言う事でしたが」
話始めない刑事に変わって、南部が口火を切った。
「そうそう、レーサーのジョー・浅倉は博士のご子息でしたよね」
「彼が8歳の時に正式に養子にしましたが・・」
「成る程。実はちょっと彼にお会いして、話を聞きたいのですが、今はどちらに?」
「ジョーは昨晩から戻っていませんが。それが何か?」
「行方が分からないと言う事でしょうか」
「まあ。あれももう子供ではありませんし、自分の住処も有りますから・・・」
「単刀直入に申し上げますと、彼は或る殺人事件の重要参考人になっています」
「殺人事件?」
思わず上げた健の声に刑事は頷いて、三人に写真を見せた。写真を見た健は顔
色を変えた。
「アル?」
「そうです。元レーサーのアルバート・ウォーカー。ご存知ですか?」
「昨日サーキットで見かけましたが」
「彼が昨晩9時過ぎに殺されましてね。最後に一緒に居たのは、ジョー・浅倉です。
発見場所はル・ボン・ポリの駐車場。アルバートは、ジョーの車の横で、腹部に銃
創を受けて死んでいるのを、店から出て来たカップルに見つけられました。検死の
結果食事を取った直後に殺されてます。彼は昨晩ジョー・浅倉とそのレストランで、
食事をしていますね」
「ジョーは誰か同席するようなことを言ってましたが?」
ジョーが犯人に違いないような刑事の物言いに、健は怒りを感じた。
「予約はウォーカーの名前で取られていますね。支配人によると、二人だけで食事
を取ったようですが」
「しかし、そこはかなり高級な店ですね。失礼だがウォーカー氏はそんなに羽振り
が良かったのですか?」
「決して、裕福では無かったでしょうね。唯、女房にはもうじき大金が入るから。と、
言っていたようです」
南部の質問に対して、マーティンは答えた。
「ジョーはアルがスポンサーを紹介したがっている。と、言っていました。絶対誰か
が同席していたはずです」
健の言葉に刑事は肩を竦めた。
「それは分かりませんな。目撃者も居ないことですし、事によるとスポンサー話が
流れて口論になって、アルバーとを撃ち殺したのかも知れない」
そこで刑事は口を閉ざした。三人の目に激しい怒りを感じたからだ。
「まあどっちにしても、もっと調べてみないと・・申し訳有りませんが、博士、彼から
何か連絡が入ったら必ず知らせてください」
刑事達は連絡先を書いたカードを置いて、帰って行った。
「くそー。ジョーは何処にいるんだ」
健は刑事が置いて行ったカードを腹立ち紛れに、握り潰した。
「あれはジョーの仕事じゃ有りませんからね。俺は仕留める時には必ず一発で息
の根を止めるように、ジョーに教えましたからね」
物騒な事を冗談めいて話す島田に、南部が苦い顔を向ける。
「彼が何処にいるにしても、何かトラブルに巻き込まれているのは確かだな」
「それにしても、何も連絡して来ないなんて変ですよ。ブレスレットだって持ってい
るのに。それにG−2号機を置きっ放しなんて、ジョーがするとは思えない」
「或いは連絡できない状態に居るのか?」
島田の言葉に健の秀麗な顔が翳る。
「それなら、何としても探し出さなけりゃ」
「ジョーの事だけでなく、G−2号機も問題だ。証拠物件として、警察に保管されて
いるだろう。こんな時にギャラクターが襲ってきてみたまえ。君達は戦うことさえ、
出来ないぞ」
「必ずジョーを探しますから。博士は万一のことを考えて、ゴッドフェニクスを、G-2
号機無しでも出撃出来るようにして下さい」
「分かった」
走って出て行こうとする健の背中に、南部が声を掛けた。
「健、十分に気を付けるんだぞ」
それに笑顔で答えて、健は部屋を出て行った。
「君は行かないのかね?」
呟く博士の言葉に、何を言っているのか?と、言う表情で島田は博士を見返した。
「俺は博士のボディガードで有って、ジョーのお守役じゃ有りませんよ」
「私以上に君が心配しているように、私には感じられるのだが・・」
南部は自分とジョーの関係を知らないはずだ。だが、あまりに確信めいた口調に、
まさか知っているのかと、内心ひやっとする。
「俺にとっての最優先は博士ですよ。それは昔から変わりません」
「損な性分だね、君も。では命令をすればいいのかね?島田、健を助けて、ジョー
を取り戻してくれ」
「博士がそう仰るなら」
答えて島田は踵を返した。
一人になった部屋で、南部はデスクに向かい、両手に顔を埋めた。
暫く其の侭でいて、やがて彼は立ち上がった。

4

「この部屋から出る事は出来ないが、この中では自由にしてくれていいよ」
そう言い残して、ルイスがやっとジョーの身体を解放して、部屋を出て行ったのは
もうそろそろ夜が明け始めようとする頃だった。
「アルはどうしただろう・・」
ルイスはアルが金の為にジョーを売った、生きる価値の無い存在だと言ったが、ジ
ョーにはそれを非難するつもりは無かった。花形レーサーまで昇り切れなくて、引
退する者の方がこの世界では断然多い。一人身の自分と違って、アルには奥さん
と、確か子供が二人居たはずだ。もしアルが死んだりしたら、彼女達はどうするの
だろう?それを招いたのは自分の所為のような気がして、ジョーには堪らなかっ
た。
皆どうしているだろう?涙が一筋こめかみに向かって流れていくのを、乱暴に手の
甲で拭って、感覚が戻った長い脚をベッドから下ろして、バスルームへ向かった。
抵抗しようとすればするほど、ジョーに与えられるのは苦痛でしかない。身体の
奥が動作の度に疼くのを我慢して、ジョーはシャワーを浴びた。
「何とかして此処から出ないとな」
ジョーは未だ諦めては居なかった。左手首に有るはずのブレスレットを無意識に探
す。服と一緒に剥がされたはずだが、それが何処に有るのか彼には分からなかっ
た。それを取り戻すまでは、帰るわけにもいかなかった。
何をするにしても必要な体力だけは、確保しておかなければならない。ジョーは痛
む身体を少しでも回復させる為に、その身をベッドに横たえた。

浅い眠りを遮るように、重い扉が開けられて、黒いスーツの男が朝食を載せたトレ
ーを手に入って来た。ジョーは身を起こして、物憂い表情で前髪を掻き上げた。テ
ーブルを男が慣れない手つきでセッティングするのを、じっと見つめていると、男の
方もジョーの方を横目で窺っている。
『遣ってみるか』
ジョーはもう一度髪を掻き上げると、流し目気味に彼を見た。男の視線が自分の上
で止まるのを確認した上で、態と少しシーツをずらした。ルイスが昨晩付けた赤い
印が、男の目に入った。男の喉がゆっくり上下するのを、ジョーは薄く笑って、見
た。その笑いを誘いと見たのか、男が近寄って来た。自分の肩に手を掛けて、キ
スをしようとする男の腹に容赦ない膝蹴りをお見舞いして、ジョーはすかさずベッド
から身を躍らせた。身体の疼きを無視して、男の首筋に両腕を回して、その首を捻
った。男の首が有り得ない角度に曲がって、絶命した事を確かめると、ジョーは彼
の懐から、拳銃と部屋の鍵を失敬した。そして、迷う事無く扉を開けて廊下へ出
た。
健や島田には死んでも見せられない遣り方だが、この際ジョーは自分の身体を餌
に投げ出してもこの部屋から出たかった。幸いな事に誰もが彼を唯のレーサーだ
と思っている。警戒もそう厳しくは無い。だがこれで逃げるのを失敗すれば、二度
目は上手く行かないだろう。ジョーは走り続けた。何とかしてブレスレットを取り返し
て、此処を出なくてはならない。
廊下の端から駆けつけてくる、黒服の男達を手にした拳銃で葬りながら、ジョーは
ルイスの姿を探した。
『あいつが絶対に持っているはずだ』
だが、それまで弾がもつか?手にしたリボルヴァーは、6発しか装填されていな
い。それよりも出てくる男の数が多ければ、それで一巻の終りだ。
走り続けるジョーの前方に、ルイスの姿が見えた。それを守るように自分に拳銃を
向けている男に一発お見舞いして、ジョーはそれで全弾撃ち尽くした事に気付い
た。用を成さなくなった拳銃を投げ捨てて、ルイスに向かって走った。が、その身
体は銃声と共に弾き飛ばされた。右の二の腕を掠めた銃弾が、背後の白い壁を
穿った。
座り込んだジョーに、ルイスは落ち着き払って歩み寄った。
「本当に野生の獣のようだな、君は。・・ああ、やっぱり君には赤い血が良く似合
う。だが君に傷を付けていいのは、私だけだ」
うっとりとした様な口調で言うと、彼は隣の男から拳銃を取って、ジョーを撃った男
を一瞬の躊躇いも無く、撃ち殺した。
目を見張るジョーに笑いかけて、ルイスは彼の右足首を掴んだ。
「それと聞き分けの無い子供には、お仕置きをしないといけないね」
捻り上げられた足首が悲鳴を上げ、噛み締めた呻き声が漏れた。骨の折れる音
がして、ルイスは満足げにジョーの足首を離した。
「これでもう逃げられる心配も無い」
『このー!サイコ野郎、絶対に許さねえ』
痛みに霞む頭で、ジョーは思った。
「医師を呼んで、治療させろ」
命じてルイスはジョーを抱きかかえて、元の部屋へ戻った。死体を片付けさせて、
ジョーをベッドに寝かせる。
「大丈夫直ぐに楽になるよ」
優しいとも言えそうな口調で、彼は言った。

5

ル・ボン・ポリの駐車場に車を停めて、健と島田は様子を窺った。店は未だ開店前
で、準備中のようである。
「話を聞くには丁度いいかも知れませんね。とにかく支配人に当たってみましょう」
先に立って歩く島田について来ながら、健は尋ねた。
「島田さんは、ジョーの恋人でしょう?」
いきなり何を聞くのだ。と、焦ったが、内心の動揺を隠して、島田は答えた。
「ベッドを共にするというのがそうなら、そうでしょう」
「微妙な言い方ですね。それ以外の恋人が有るんですか?」
「俺は有ると思いますよ。お互いに深く求め合っていても、肉体関係の無い愛情も
有ると思ってます」
貴方とジョーのようにね。とは口に出して言わなかったが。
「ふ〜ん」
と、健は唇を少し尖らせて、納得したのかしないのか、分からないような顔をした。
そんな顔をすると、何時もにも増して童顔になって、邪な男ならクラッと来てしまい
そうになるな。と、島田は自分もジョーに手を出している、邪な男なのを棚に上げ
て思った。

「間違い有りませんよ。浅倉様はウォーカー様とお二人でお食事をなさっておられ
ました」
「誰か同席するような事は無かったのですか?例えば遅れて到着したとか?」
健の質問に支配人は首を振った。
「いいえ、どなたも同席なさいませんでした」
「ここはかなり高級なレストランですが、ウォーカー氏はよくこの店を利用していた
のですか?あまり裕福だったとは聞いていないのですが」
「さあどうでしたでしょうか?二、三回お見えだったかもしれません。お越しになる
お客様も多いので、常連の方以外は全てのお客様を記憶しているわけでは有りま
せんし・・」
島田の質問に彼は言葉を濁した。さっきまでのきっぱり口調が変わっている。
「全てのお客様を記憶しているわけでは無い割に、ジョーとウォーカー氏が二人で
食事をしていた事だけは、かなりはっきりと記憶されているわけですね」
畳み掛けるような島田の言葉に、支配人の態度も硬化した。
「もう、宜しいでしょうか?店も開店前で忙しいですし、警察の方でもない貴方方の
質問にお答えする必要もないかと、思います。これで失礼します」
と、背を向けて奥に入られてしまった。
仕方なく店を出て、二人が車に帰ろうとすると、背後から呼び止められた。
「ねえ、貴方たちジョー・浅倉を探してるんでしょう」
「そうだけど、何か知ってるのか?」
と、詰め寄りそうになる島田を制して、健が声を掛けた若い女に笑顔を向けた。
「そうなんです。何かご存知なら教えて頂けませんか?彼は僕の友達なんです
が、昨夜か行方が分からない上に、今日は刑事さんまで色々訊きに来るし・・彼の
恋人も心配で気が気では無い状態なんです」
『おいおい、その気が気じゃない恋人ってのは俺のことかよ』
と、島田は呆れ顔で煙草に火を点けた。どうやら此処は健に任せたほうが、上手く
聞き出せそうだ。
「私、この店でアルバイトをしているんだけど、彼のファンなのよ。だから彼が入っ
て来た時からずっと見てたんだけど」
「それで?」
健が笑みを浮べたまま先を促す。女はその笑顔に少し頬を赤らめて、「貴方もとっ
ても素敵だけどね」と付け加えた。
「それで、支配人が奥から態々出て来て、彼を個室に案内するのよ」
「個室に?」
健と島田は顔を見合わせた。
「で、気になったから、予約表を盗み見したら、ルイス・マクルヴァーになってたの
よね。そいつは凄い金持ちで、あの店の常連なんだけど、時々そうやって個室を
予約するの。その度に支配人とコック長が何やらコソコソやってるのよ。何だか怪
しいから気を付けてたんだけど、個室はその続きに専用に出口が有って、玄関を
通らなくても駐車場に出られるの。だからジョー達が出て行くのは見てないの。で
も。マクルヴァーには良くない性癖が有るって、支配人がコック長と笑いながら喋
ってるのを聞いたことが有るの。気に入った者ならどんな事をしても手に入れて、
それから・・・」
「それから?」
島田に怒鳴られて女は飛び上がった。
「分からないわ。その後二人で何だか嫌な笑いを浮べてたけど・・・でも、ジョーが
マクルヴァーと一緒に居るのは間違いないと思う」
「どうして、警察には話さなかったんですか?」
「警察って嫌いなのよ。私たちみたいな人間より、マクルヴァーみたいな上流階級
の人間の言う事のほうを絶対に信じるでしょう?それにジョーのことを犯人って決
め付けてるみたいな感じだったし」
「絶対にジョーを見つけてね」と、言って立ち去る女を見送って、二人はもう一度レ
ストランに戻った。
「もうお話する事は有りませんよ」
高飛車な支配人の態度に、意外なほど穏やかに健が言った。
「お時間は取らせませんから、駐車場まで来ていただけませんか?」
口調は穏やかで、笑みを浮べているが、サファイアを思わせる瞳は笑っていない。
どちらかと言うと剣呑な光を放っている。
島田が有無を言わさず彼の腕を掴み、店から連れ出した。
「ルイス・マクルヴァーをご存知ですよね」
単刀直入に健は切り出した。
支配人はギョッとしたように目をむいた後、何とか平静を保とうとして、失敗した。
「と、当店の常連のお客様ですが・・」
と答える声が上ずっている。
「当店だけじゃなく、お前にとっての小遣い稼ぎの大事なお客様なんだろう」
島田にズバリ指摘されて、彼の顔は真っ青になった。
「貴方の小遣い稼ぎについて、どうこう言うつもりは有りませんが、僕達はジョーを
取り返したいんです。彼が何処にいるかご存知ですよね?」
健は駐車場に止めてある車にその背を凭らせて、にっこりと微笑んだ。
「教えて頂けますよね。僕の連れは気が短いんです。早く教えていただく方が貴
方の身の為だと思いますよ」
健の脅しに島田の方を窺った支配人は、彼の懐の銃を見せられて、慌ててジョー
が監禁されているであろう場所の住所を答えた。
「有難う御座います。ああ、丁度刑事さんもいらした事だし、彼らにも真実をお話し
下さい。真実をお願いしますね。僕の連れは気が短いですが、事によると僕の方
がもっと短いかも知れませんよ」
言い残して、健は島田の車に向かった。

6

「治療が終わりました」
入って来た男に告げられて、ルイスは頷いた。
「直ぐに行く」
男が出て行くと、ルイスはさっきまで弄んでいたジョーのブレスレットを手にしたま
ま立ち上がった。
「余程大切な物のようだったが・・」
もう一度手の中のブレスレットに目を遣る。この屋敷に連れ込んで、服を剥ぎ取っ
て、次にこのブレスレットに手を掛けた時に、殆ど自由の利かない身体で、激しくジ
ョーは抵抗した。薄い金属製のそれはこれと言って高価そうに見えるわけでもな
い。恋人からのプレゼントか・・と思うと、歪んだ嫉妬心が湧いて、彼はそれを壁に
叩き付けた。
ルイスはジョーの部屋に行くため、自分の書斎を後にした。

「腕の傷は掠っただけですから、縫合をして置きました。唯足首のほうはオペが必
要ですね。このままだと、一生足を引き摺る事になるかも知れません」
「オペは此処では不可能だろう?」
ルイスの問いかけに医師は頷いた。
「それなりの設備が必要ですからね。私の病院で出来ますよ」
医師の言葉を暫くルイスは考えていたが、首を振った。
「このいたずらっ子を此処から出すのは得策じゃないな。まあいい。どうせ此処か
ら帰す気も無い。少しくらい足を引き摺っても、それも魅力の一つと言うものだ」
その言葉に医師は薄寒いものを感じたが、何も言わずに診察鞄を手に出て行っ
た。

ルイスはジョーのベッドに歩み寄った。未だ麻酔が効いてジョーはその目を閉じて
いる。その長い髪を梳かして、ルイスは口付けた。うっすらと瞳を開くジョーの身体
に、彼は舌を這わせた。ゆっくりとジョーの物に手を伸ばし愛撫すると、その色が濃
くなり、そして変化する。痛めている右足に負担が掛からないように、左膝を胸に
付けるほど大きく開かせて、ルイスはジョーの中に侵入した。
小さく呻いて、ジョーは視線を泳がせた。薬と痛みに朦朧とした彼の眼には、自分
を包んでいる島田の姿が見えた。その両腕を伸ばして、彼は島田の首に手を回し
た。うっすらと微笑んだジョーの顔に、ルイスは狂喜した。ジョーが遂に自分の手に
落ちたのだと彼は思い込んだ。
「・・島田」
と、ジョーの唇が動いた瞬間、ルイスの狂喜は狂気へと変わった。
「お前は私の物だ。他の名前を口にするな!」
怒りに端正な顔を歪めて、彼はジョーの首に手を掛けた。其の侭両手に力を加え
ようとする。
その時部屋が揺れた。
「何事だ?」
耳を澄ませば、爆発音や銃声、叫び声が防音された部屋にさえ届いて来る。
ルイスは部屋の外に出て、自分の屋敷の変わり果てた姿に気が付いた。豪華な
調度品は倒れて粉々になり、美しく施されていた壁紙は剥がれ、壁には罅やら大
きな穴やらが空いている。
「一体誰がこんな事を?」
訝しがっている間にも、爆発音と銃声は止む事が無い。しかも段々と自分に近付
いて来ている様だ。恐怖心と言う物を彼は初めて味わった。そして、彼はその場
から逃げ出した。

一室に踊りこんだ健と島田は、拳銃を装填しなおして、一息を付いた。豪華なその
部屋は書物に囲まれていて、どうやら主の書斎のようだ。中を点検していた島田
が、小さく声を上げた。
「どうかしましたか?」
健が島田の手の中を覗き込んで、かれもまた小さく声を上げた。島田の持ってい
る写真にはどれも少年が写っていたが、どの少年も背中やら胸やらに、鞭を打た
れた後や切り傷やらが刻まれて、痛ましい姿を晒していた。
「成る程良くない性癖だな」
吐き出すように島田が言うと、健は押し殺した声で、呟いた。
「ジョーをこんな目に遭わせていたら、俺は絶対に許さない」
「健、これはジョーのブレスレットじゃないのか?」
尚も物色していた島田が、壁際に落ちていたブレスレットを拾い上げた。それを受
け取って、健は島田に頷いた。
「早くジョーを探しましょう」
ポケットにブレスレットを突っ込むと、先に立って健は書斎を出た。
出てくる黒服の男達を撃ち殺しながら進んで、やがて彼等は重厚な扉の前に辿り
着いた。ドアノブを廻すが当然のように鍵が掛かっている。
「下がって下さい」
健は叫ぶと、手にした小型の爆弾を扉に向かって投げ、爆発音と共に扉は壊れ
た。
「遅いぞ・・」
聞こえてきたジョーの声に、健と島田は彼が横たわっているベッドに近付いた。日
焼けした身体に残った陵辱の後に、健の怒が増す。
「島田肩を貸せ。ちょっと一人じゃ歩けない」
「運びますよ」と、言った島田にジョーは首を振った。
「俺を抱えてちゃ、お前拳銃が撃てないだろう」
自分の肩に手を置いてベッドから降りようとする彼を、島田はベッドに押さえつけ
た。
「俺が運びます。あんたに俺の拳銃は預けますから。健、先を行ってくれます
か?」
健が頷いて、先に部屋を出た。
島田はシーツで、裸のジョーを包むと掬い上げて、自分も健に続いた。
「大体はもう片付いているはずですよ」
先に立つ健が肩越しに島田に告げた。
健の言葉通り、そこからは邪魔をする男たちも現れなかった。が、出口まで後僅
かの処で、銃弾が島田の頬を掠めた。
「ジョーは何処にも行かせないよ。彼は私の物だ」
拳銃を自分に向けているルイスを、島田は無表情に見つめた。健が間に入ろうと
するのを、島田が目で止めた。それと、ジョーがルイスの胸を朱に染めるのと同時
だった。
「悪いな、お前には俺は手に負えないと思うぜ」
呆然と見つめるルイスの横を彼らは通り過ぎた。

7

島田はベッドの端に腰掛けて、眠っているジョーの髪を一房引っ張った。「やめろ
よ」
と、不機嫌そうな声がして、ジョーが寝返りを打って自分に背中を向ける。
昨日病院を出て来たばかりのジョーは、その足で彼のマンションへ遣って来た。自
分が島田の腕の中に居るのを、確認したがっているように、何度も求める彼に応
じてやりながら、島田もその行為に溺れた。
「もっと。島田・・もっとだ」
呟く言葉を口付けで消して、彼はジョーと一緒に果てた。

「いい加減に起きなさい。もう夕方ですよ」
島田に言われて、仕方なくジョーは身を起こした。
「何処かに食事に行きましょう。朝も昼も抜きで、よくそれだけ寝られましたね」
ベッドから下りてバスルームへとジョーは向かった。その右足は未だ少し引き摺っ
ている。自分を見ている島田に、ジョーは笑った。
「元通りに歩けるには、もう少しリハビリが必要だって、博士が言ってた」
「・・・そうですか」
「島田早く、仕度しろ。俺腹が減った」
水音と共に聞こえてきたジョーの声に、彼は苦笑した。
「今まで寝てたのは、あんたでしょうが!」

やがて何時もの水色のバスローブに身を包んで出て来たジョーの、湿った髪に手
を差し入れて、キスしながら、島田は思った。
『こんなふてぶてしいあんたを、可愛いと思う俺はやっぱり変人なんだろうか?』
唇を離して、ニッと笑うジョーを彼は何故か可愛いと思った。

The End


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