Emotion

by Kiwi


自分の脇腹の辺りから這うようにして上がって来た指に眠りを妨げられて、ジョーはその
手首を少し力を込めて止めた。
「よせよ、後でだ・・」
「先週もそんな事を言って、出動でお流れだったじゃないか」
少し拗ねた口調で健が不満を唱える。そうした年齢より幼い口調が、何時もの健らしくな
くて、ジョーは閉じかけた瞳を又開いた。
真夜中過ぎに健の家に遣って来たジョーは、アルコールの匂いを身体に付けて、少し疲れ
たような足取りだった。けれど、健はアルコールの香りに混じって、いや、それより強く、
女性用の香水の香りを嗅ぎ取った。
だから健は眠りに入っていこうとするジョーを、意地悪く攻め立てた。
『女の相手はしてきたくせに・・』
今晩パーテイで会う相手が、ジョーにとって大切なスポンサーになる筈の女性なのは分かっ
ている。黒のフォーマルを、意外に着慣れた風に着こなして出て行くジョーを、引き止め
る権利は健には無い。分かってはいても、普段は感じない不快感を抱くのは、そのままシャ
ワーも浴びずに遣って来たジョーの所為だ。
腹立ち紛れのように健は、ジョーに止められた手を又滑らせた。次第に下に下りていく健
の指先に、堪らずにジョーが小さく声を上げて、薄目を開ける。
「健。頼むから寝かせてくれよ・・先週の約束通り、今日はヨットハーバーのレストラン
にランチを喰いに連れて行って遣るから・・」
全く見当違いのジョーの言葉に健は、腹が立った。
「絶対に寝かせて遣るもんか!」
健の青い瞳が、室内の仄かな灯りに妖しく光った。
枕に顔を埋める様にしているジョーの背中に、ピッタリと自分の胸を付けると健は、一瞬
の躊躇も無しにジョーの物を下着の上から愛撫した。ビクリとそれは震えると、持ち主の
意に反して頭を擡げる。シーツから出て冷たくなっているジョーの肩口に、健は温かい唇
を押し付けた。
「クッ・・」と小さく呻いたジョーは、身体を反転すると健に向き直った。
「健、俺は寝かせてくれって言ってるだろう」
「お前の此処はそう言っていないけど・・」
意地悪く愛撫を続けながら、健が告げる言葉はジョーの耳元で吐息の様に囁かれて、その
息がジョーの耳を愛撫する。
「止めろよ」と言いながらも、ジョーの手は試みれば簡単に健の手を振り払えるのに、そ
うしなかった。それは健にとっては、承諾と同じだ。彼はジョーの股間に施す愛撫を更に
巧みに、優しく、そして激しくした。次第に重みを増すその部分に耐えられない様に、ジョ
ーは眉を顰めた。
「我慢できないんだ・・」
もう一度健が耳元に唇を寄せて囁いた。それはゾクリとするような快感をジョーに齎す。
閉じていた瞳がゆっくりと開かれた。健が覗き込んだ青白いその色には、もう眠気は感じ
られなかった。少し開いた唇に自分の唇を押し当てて、健はそこから舌を差し入れて、ジョ
ーの物を導き出した。互いに絡めた舌先から充足感が伝わって来る。
『ああ・・俺はこうしてお前と居る』
二人同時にそう感じて、そうした感傷に笑みが浮かんだ。明日が分からないからこうして
居たい。明日の約束も、来週の予定も確かな物は何も無い。何時左手のブレスレットが無
粋な音で遮って、シーツを蹴飛ばして出て行かなくては成らないか?そして俺達は又、疲
れた身体を引き摺って此処に帰って来られるのか?こうして互いの身体の温もりを確かめ
られるのか?それとも身を引き裂かれるように痛みに耐えながらも、前に進んで行かなけ
れば成らないのか?
だから刹那的に愛し合う、というのではない。お互いがお互いらしく有る為に、二人でこ
うしている事が必要なのだ。時々押し寄せるような不安や嫌悪感が、互いの腕に包まれて
いると楽になる。決してそれを忘れられるとか、消し去れるとか言うのではなく、「同じ
気持ちの奴が此処に居る」という安心感に似たものかも知れない。
「いいぜ・・好きにしろよ」
続けられていた愛撫に「降参!」と言う様に頷いた、ジョーの物を健は口に含んだ。今ま
で愛撫されていたその物は、生暖かい健の口に含まれ舌で愛撫されて、雫を健の口に垂ら
しだした。更に行為を続けるココア色の健の長い髪をジョーは優しく梳かした。次第に高
まっていく感情に、その指先の動きが緩慢になり止まった時、健は雫を飲み干した。
顔を上げて窺うと、ジョーは何時ものように目を閉じて、快感の波を押しやろうとしてい
る。健はジョーの呼吸が整うのも待たずに、彼の長い両足に手を掛けて押し広げた。その
まま自分自身の高まりを彼の中心に埋め込んだ。未だ触れられていなかったその柔らかな
秘所は、一瞬健を押し返そうと反抗したが、意外にすんなりと健の侵入を許した。ジョー
の吐いた息が健の耳に届いて、健は満足そうにジョーに口付けた。協調したように動きな
がら、二人は長い口付けを続けた。

汗ばんだ身体をジョーの横に寝かせて、健はジョーの長い前髪が目を覆うのを後ろに梳か
してやった。
「今度こそ寝かせてくれよな」
哀願するジョーの耳朶を少し噛んで、健は笑った。
「仕方が無い・・但し朝飯を作ってくれよな。それとランチの約束は覚えてるよな」
どこまでも非情な健の言葉にジョーは、枕に一層深く沈んだ。
「もう朝の5時じゃねえか!」
「未だ2時間くらいは寝られるさ・・」
不満を更に訴えそうなジョーの唇を健は素早く塞いだ。冬の夜明けは遅い。未だ外は寝静
まっている。疲れて寝息を立て始めたジョーの髪の毛を、健は弄んだ。
「明日は少しくらい寝坊してもいいさ・・」
ジョーの耳元で健は優しく呟いた。


The End



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