hot shot

by Kiwi

1

健は空腹だった。最近ギャラクターの攻撃が多くて、出動回数がめっきり増えてしまっ
たお蔭で、テストパイロットの仕事ばかりか、バイトも出来ない日が続いて、元々少な
い貯金は底をついていた。次の給料日まで後5日・・。唯一の食料であるシリアルも残
り僅かだ。スーパーで安売りしていた時にこれだけは山盛り買っておいたのだが、それ
も三食これだけで過ごせば、あっという間だ。第一直ぐに消化されてしまって、又空腹
が遣ってくる。
「ジュンに行こうか?でも又ツケが増えるしな・・」
さて、どうしよか?と健は真剣に考えた。今ギャラクターが襲ってきたら、俺はきっと
空腹で戦えないぞ。騒ぐ腹の虫をインスタントのコーヒーで黙らせようと、健はキッチ
ンの棚を開けた。が、頼みの綱のコーヒーでさえ、瓶の底に湿って付いているだけだっ
た。
『空腹のヒーローなんて洒落にならないぞー』
何だか空に向かって「グレてやる!」と叫びたい健だった。
その不満が聞こえたかのように鳴った左手首のブレスレットの発信音に、健は驚いた。
「健、直ぐに私のオフィスまで来てくれたまえ」
南部の命令に健の表情は一瞬不満げに歪んだが、それでも流石にリーダー。その表情を
健は直ぐに切り替えた。
「又ギャラクターですか?」
「いや、今回の任務はちょっと違うのだ。とにかく直ぐに来てくれ給え」
「ラジャー」
通信を切った彼は、バイクに跨った。
「ああ・・ガソリンが、もう少ししかない。頼むから途中で止まるなよ」
健の祈りに応えるようにバイクは、健気に走り出した。

健とジョーの前に座っている南部は、彼には珍しく中々用件を切り出さない。手にした
高価そうなペンを弄んでいる。相変わらず空腹の健は「このペンの代金で腹いっぱい喰
えるな・・」などと考えていた。傍らのジョーは空腹でなさそうだが、何となく不機嫌
に見える。大方久し振りにサーキットを走っていたところを呼び出されたか、それとも
デートの途中だったのか?そう考えて健は「デートか・・だったらメシが喰えるな。や
ばいな。今メシを奢ってくれると言われたら、誰にでも付いて行きそうだ・・」と余り
に危険な自分に嘆いた。
「博士、早く用件を言ってもらえませんか?」
とうとう不機嫌なジョーが切り出して、南部は鷹揚に頷いた。
「君達は忍者隊のスポンサーである、モナリンス王国のフレーク王妃を知っている
ね?」
「何とか言うデザイナーを抱えていた王妃ですよね。確かジュンが好きな」
「カリドンだ」
南部の言葉に健は余計に空腹を覚えた。
『竜じゃないが、俺も今はカツどんの方が良いぞ』
「それが何か?ファッションなら俺達より、ジュンの方が適役でしょう」
ジョーの今にも立ち去りそうな雰囲気に南部は、言い出しにくそうに口を開いた。
「今までカリドンは女性ブランドしか作っていなかったのだが、今回のファッションシ
ョーから、男性ブランドも作ることになったのだ。だが、中々イメージ通りのモデルが
見つからない。フレーク王妃が是非君達にモデルを頼みたいと仰っている。しかし、ま
さか忍者隊の素性を知らせるわけにはいかないので、良く似た体型の人間を選ぶと向こ
うには言ってある。」
話の腰を折られないように、南部は一気にそこまで二人に告げた。案の定二人は最初驚
いたように口を開け、次には同時に不満を上げた。
「冗談じゃねぇ!そんな任務は御免だ!」
「それにこの任務は、全然ギャラクターとは関係ないじゃないですか。何故俺達がそん
な事をしなくてはならないんですか。そんな暇が有ったら俺は・・」
「バイトでもして、空腹を満たしたい」と言いかけたのを、健はぐっと我慢した。
「俺は?」
南部の怪訝な表情に、健は「何でも有りません」と答えた。
「勿論これは本来科学忍者隊の任務ではない。しかし、フレーク王妃の寄付無くして科
学忍者隊は有り得ない。ここは我慢して任務に付いてくれ給え。その代わり、君達が得
たギャラは好きにしてくれて良い」
この申し出には健もジョーも目を輝かした。
「本当ですか?」
思わず詰め寄る二人に南部は「勿論だ」ともう一度頷いた。
「そういうことなら話は別です。モナリンス王国に行けば良いんですか?」
「いや、今回のファッションショーは、ゆうとらんどで開催されるらしい。君達は明日
午前10時にこの場所に行ってくれ給え。宜しく頼むよ」
南部に渡されたメモを片手に二人は部屋を後にした。

「昼飯でも食いに行くか」
ジョーの言葉に「奢ってくれるか?」と健が訊いた。
「何だお前も金が無いのか?」
「て、お前もか?」
「こう出動ばかりじゃ、レースにも出られないし。残ってた金はトレーラーのメンテに
遣っちまったし・・こんな時じゃなきゃ、モデルなんて引き受けるかよ」
それには健も同意見だった。
「ジュンはツケばかりだし・・」
「仕方ねえ。非常手段に出るか」
思い切ったように顔を上げたジョーは、アンダーソン長官の秘書室に入って行った。や
がて二人の秘書の腰に手を回して出て来たジョーは、不思議そうな健にニヤリと笑った。
「お姉さんが、ご馳走してくれるってさ」
「良い性格してるよ、お前は!」

2

「いいわ。二人ともイメージにピッタリよ。なにしろフレーク王妃は科学忍者隊の、取
り分けG1号とG2号のファン。元々彼らのイメージで作って欲しいと言われたブラン
ドですもの。多分プロポーション的にも丁度良いと思うわ。極秘に入手した二人のサイ
ズで作って有るから。もっともレディメイドにする時には、サイズは変えるけれどもね」
『て、おい!何処からその極秘の情報は入っているんだよ』
顔では笑いながら、思い切り不審気なジョーの無言の問い掛けを、健もこれまた愛想笑
いを浮かべながら、無言で答える。
『そんな事、俺が分かるはず無いだろう!』
「今日からショーまで忙しいわよ。余り時間が無いので、貴方達には此処に泊り込んで、
準備してもらいます」
泊り込みなどという話は聞いていなかったが、豪華なホテルの一室を与えられた二人に
は異存は無かった。何より食事には有り付けるだろう。破格のモデル料が書かれた契約
書に二人は嬉々としてサインした。

疲れた身体を引き摺って、健は与えられた自分達の部屋に戻った。カードキィを差し込
んで、扉を開けようとした時に、扉は内側から開かれた。こちらもくたびれた様子のジ
ョーが顔を覗かせた。先にシャワーを浴びたらしく、ホテルの備え付けのバスローブ姿
だ。
「遅かったな」
ジョーの言葉に健は無言でその横をすり抜け、其の儘ベッドに身を投げ出した。
「・・疲れた」
心底疲れた表情の健にジョーが笑いかける。
「気持ちは分かる。俺も同感だ。だが、寝る前に風呂に入って筋肉を解して置く方が賢
明だぞ」
「・・あ、それは言える」
健は今にも眠り込んでしまいそうな身体を叱咤して、バスルームに向かった。
「腹減った」
バスルームの扉は開けっ放しなので、健の声はよく聞こえる。
「俺もだ」
答えるジョーの声にも覇気が無い。
「泊り込みなら、喰いっぱぐれないと思ったのに」
健の声は最早溜息に近い。
「他の奴がお構いなく食べてる横で、食べられないなんて、拷問だ。何だって俺達が今
更ダイエットをしなくちゃならねえんだ!」
ベッドに横に成って目を閉じたまま、ジョーも返す。
「お前も聞いただろ。このままサイズを変えるなって」
長い髪をバスタオルで拭きながら出てきた健は、又ベッドに飛び込んだ。
カリドンの元から別室に連れて行かれた二人は、念入りに隅々まで採寸され、肌や髪の
毛までチェックされた。
「露出が多くて、身体にピッタリしたデザインが多いから、絶対に体重とサイズを変え
ちゃ駄目よ」と厳しいお言葉を頂戴し、夜の外出は睡眠不足から肌が荒れるので禁止。
勿論飲酒も禁止という、二人にとってはあまりに過酷な使命であった。その上、舞台で
歩く為にモデルのウォーキングの練習と称して、さて?今日はどれくらい歩かされたこ
とだろう?唯歩くだけなら良い。普段から身体は鍛えて有る。何キロ歩こうが平気な二
人だ。だが、意識して普段と違う歩き方をするのは話が別だ。何時もは使っていない筋
肉を使ったのか、身体が悲鳴を上げている。こんなことは訓練を始めた頃以来だ。
「うーん」
伸びをして身体を起こして、健は徐にストッレチを始めた。明日の為に其の一。今日の
疲れは今日中に取りましょう!
「ところで、健。お前ちゃんとトリートメントしたか?」
「してないよ、そんなもん」
「お前髪の毛傷んでるから、シャンプーの度にしろ、って言われただろう」
明日の為に其の二。今日の努力が明日の美!
「ジョー、俺はどんなに金が無くても、金輪際モデルはやらないぞ」
苦り切った顔で健は断言した。
「同感だ」
何時も反抗するジョーもこれに関しては、全く同意見だった。

3

当然のことながら、其の日二人の機嫌は悪かった。ルームサービスで運ばれて来た朝食
も、二人の空腹を満たすに十分の量ではない。
「俺達はベジタリアンでも、ウサギでもない」
ベーコンやハムどころか、卵さえ付いていない朝食メニューを前にして、不満が募る二
人だった。
だから宣伝用に作るポスターの写真撮影に臨む健は、とっても機嫌が悪かった。そんな
彼にカメラマンは必要以上に、にこやかに映る。しかもやたらと自分に触れる回数が多
いように感じられる。普段はジョーと違って割りと愛想の良い健だが、不機嫌な顔にな
るのは仕方が無かった。そんな彼に又カメラマンが近寄って、態とらしく腰に触れる。
「もう少し、腰を捻って・・そうそう。ズボンをもう少し下げてくれる」
『もう少しって、今だって相当下げてるぞ。これ以上下げたら・・』
因みに今日は健もジョーも下着を着けていない。
「モデルは身体に跡が付いたり、着ている服にラインが写ったりしちゃ拙いから、下着
は付けないんだぜ」と言ったジョーは、何処から其の情報を仕入れたのか?どうやら他
の女性モデルと上手くお近づきになったらしい。確かに普段から身に着けて慣れるよう
にと用意されたカリドンの服は、余りにも身体の線を強調するもので、下着を付ければ
ラインが出てしまう。その上露出が多くて、体型に自信が無い人間なら到底着こなせな
い様なデザインだった。
「一体何処の誰がこんな服を買って外で着るんだ」
用意された服を見た時に上げたジョーの第一声は、健も同じ想いだった。
何度かシャッターが切られて、カメラマンが「OK」と言うのを聞いて、健は溜息を付
いた。
『やれやれ・・やっとこのカメラマンと、おさらば出来るぞ』
そんな健の願いは無常な一言で打ち砕かれた。
「じゃあ今度は全部服を脱いで」
「な、何だって!」
思わず?みかかろうとする健に、カメラマンはにやりと笑った。
「契約書に書いて有ったよね。スタッフにはショーが終わるまで、絶対服従だよ」
「しまった!」と思った時にはもう遅い。アシスタントの手で、健の衣類は剥ぎ取られ
ていた。
「大丈夫。そのままでは撮らないから、このシーツを身体に巻いて。そうそう・・」
そのまま撮らないかどうかは知らないが、しっかりカメラマンは健の裸体を鑑賞した。
「カメラマンやデザイナーはゲイが多いから気をつけろよ」とジョーが言っていたのを
思い出す。
『こんな任務引き受けるんじゃなかった』
健が後悔に唇を噛み締めていると、撮影室の扉が開いて、ジョーが他のアシスタントと
入って来た。彼も健と同じように白い布を身体に巻き付けている。下は彼も全裸のよう
だ。
「じゃあ、次は二人一緒の写真を撮って、それが終わったらジョー一人の撮影に入るか
ら」
何処までも楽しそうな彼と違い、健とジョーの怒りは爆発寸前だった。
「契約期間が終わったら、絶対にぶっ飛ばしてやる!」
物騒なジョーの発言に健も同意する。
「遣る時は俺が最初だ」
「何だ?変なことでもされたか?」
「あいつ遣ったら滅多ら触りまくるぞ。お前も気をつけろ」
益々不機嫌な顔になる二人に、カメラマンの明るい声が掛かる。
「もうちょっと二人とも引っ付いて・・」
ついでにさり気なく二人の身体に触ることは、忘れないカメラマンだった。

健とジョーの忍耐の限りを尽くして、撮影されたカリドンの新ブランドの宣伝ポスター
が、街頭に張り出されては盗まれるという、鼬ごっこを繰り返している頃、ジュンは密
かに手に入れたISOの社内報を手にして、ニンマリしていた。薄い社内報の表紙から4
ページを、健とジョーのポスター写真とその撮影レポートに費やしている。
「甚平、よくやったわ」
ジュンの労いに甚平は、「ISO内でも凄い人気らしくて、今度は有料でショーの時の特
別号を出すんだって。おいら又レポートを頼まれちゃったよ」と、得意げに胸を張った。
「健とジョーには悪いけど、出動が多くて家計が苦しいのは私達も同じ。その上、健達
がちっともツケを払ってくれないんですもの。こんなバイトでもしないと、やっていけ
ないわ」
ジュンの言葉に甚平も頷いた。
「おいらの小遣いにも影響するからね。ところでお姉ちゃん、おいらのバイト代も宜し
くね」
「勿論よ。甚平、次も頼むわよ」

ショーの開催は目前まで迫っていた。ダイエットと諸々のスケジュールに追われる健と
ジョーは、仲間が画策している陰謀について、未だ気が付いていなかった。


THE END



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