夏の朝

                       by Kiwi  



差し込む朝の光で、ジョーは目が覚めた。まだ時刻は早いが、夜はすっかり明け
て海に面したベランダから日差しが眩しいほど入ってくる。シーツの中でウーンとそ
の肢体を伸ばして、彼は傍らに寝ていた男が居ない事に気づく。
額に掛かる長い前髪を右手で掻き上げてベランダを窺うと、男の静かな、それで
いて張り詰めたような息遣いが、聞こえる。
ベッドから出て、ジョーは鍛えられてはいるが、頑強と呼ぶには細い裸体を隠す事
も無く、ベランダに歩み寄った。
昨晩自分を包んでいた逞しい体は、今Tシャツとスウェトパンツを身に纏って、規則
正しく、力強い動きを繰り返している。型の練習をしている男の背中を、ジョーは見
つめた。ピンと張り詰めている筋肉は、時折緩み、そして又張り詰める。流れるよ
うな彼の動きにジョーは見惚れた。
「何時見ても良いな、お前の型は。俺はお前の型が一番好きだぜ」
「おや、型だけですか?」
男の笑いを含んだ声が背中から聞こえてくる。
「そう言えばあんた、昔から型が苦手でしたね」
「実践は得意なんだけどな」
彼は型独特の、流れるような、どこか舞踏を思わせるような動きが苦手だった。一
瞬に気を込めるとか、残心などと言われてもピンこない。それは自分の人種せい
かも知れない。浅倉姓を名乗っていても、ジョーの体の中に流れている日本人の
血は僅かだ。父も確かクォーターか何かだったと思う。それとも、その性格故だろ
うか?

「そんな格好で出てきたら、誰かに見られますよ」
型を終えて、息をついた男が声をかける。
「野郎の裸を見ても、楽しくも何ともないだろう?」
クスッと笑ってジョーは答える。そして、歩み寄って男の首に手を回すと、自分の唇
を男のそれと合わせた。
実際男の部屋はこのマンションの中で最上階に有って、これより高い建物は周り
には無いので、誰かに見られるはずも無いのだが・・・

やがて唇を離すと、ジョーは身を引いて、バスルームへと向かった。その健康的な
オリーブ色に日焼けした肢体には、彼が子供の頃に負った脇腹の傷だけでなく、
長い戦闘が齎した数々の傷が並んでいる。痩せたその体に刻み込まれたその傷
が、何とも艶かしくて、男は昨晩の情事を思い出さずにはいられなかった。
「あんたにしても、健にしても、自分が誰かの目にどう映るかを意識しなさ過ぎます
よ」
振り向いて、怪訝な表情を浮かべるジョーに、彼は言った。
「あんた達は二人とも若い。そしてその若さ幼さゆえの、危うさと、美しさが有る。見
目形だけの美しさだけでなくね。それを手に入れたい、自分の物にしたいという人
間は大勢いるはずですよ」
「健はともかく、俺みたいに可愛げのないのを襲う物好きなんて、居ねえよ」
お前以外にはな、と笑いながら、ジョーはバスルームに消えた。

やがて聞こえ始めた水音に、彼は溜息をついて、煙草に火を点けた。杞憂ならい
いんですけどもね。
『大人の言う事を聞かないのは、昔からちっとも変わらないな。まあ、それも健と同
じだが・・・』
健の美しくはあるが、少しも弱さを感じさせない凛とした顔を思い浮かべて、男は
苦笑した。
『あいつも素直そうに見えて、一筋縄ではいかないしな』

シャワーを浴びたジョーが、バスルームから出て来た。今度はちゃんと水色のバス
ローブを身につけている。その頭を振って、ジョーは未だ濡れている長い髪の毛か
ら水滴を飛ばした。
犬みたいな奴だな・・口元に笑みが広がる。
「どうでもいいんですけど、運動して汗をかいた人間に、先にシャワーを普通譲りま
せんか?」
「そうか?俺、普通は嫌いなんだ」
やれやれ自分の苦労はまだまだ続きそうだ、彼はそう思いながら、バスルームの
扉を開けた。

      続き・・・ません多分
Art by ゆうと・らん
Art by ゆうと・らん


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