Need Nobody But You

by Kiwi

1
南部のオフィスを出て、島田はデスクに向かっている南部の秘書に声を掛けた。
「アンジェラ、ジョーを見なかったか?」
島田の言葉に秘書は顔を上げた。金髪が広い額に陰を落として、印象的な碧の瞳を彼女は島田に
向けた。
「今日は見ていませんけど、お家に電話してみましょうか?」
「いや、見ていないなら良い。他を探してみる」
「他の秘書と一緒かも知れませんね」
アンジェラの発言に、島田は立ち去りかけた歩みを止めた。
「アンダーソン長官の秘書達かい?それとも他の博士?」
「さあ、どうでしょう?ジョーは女性と仲良くなるのは、得意みたいだし。女性が集まる処を探
してみた方が良いんじゃありません?」
「ジョーと何か有った?」
「何故ですか?」
「どことなく言葉に刺が有るような・・・」
「あんな子供なんて知りませんわ。誰にでもいい顔をするんですもの」
どうやらジョーとのデートは、一回切りで終わったらしい。自分も年下相手のゲームのつもりだ
ったのだろうに、二回目を誘われなかったのは自尊心に傷が付いたようだ。無理もない。アンジ
ェラは、ISOの男性職員の間では群を抜いて人気がある。それなりのプライドも有るだろう。
だが、それは相手が悪すぎるのだと島田は思った。未だ十六歳に成ったばかりでも、ジョーの女
性遍歴は相当な物だ。こいつ付き合った女の数は俺より多いんじゃないか?と島田は疑っている。
何より健にしても、ジョーにしても、女の方で寄って来るのだから、どうしようもない。
兎に角アンジェラの進言は一理有る。島田は秘書室に行ってみることにした。
「全く何で、俺がジョーを捜して回らないと行けないんだ。俺は奴の子守じゃないぞ」
島田は憤慨気味に足音を鳴らして、廊下を歩いて行った。

秘書室に行く手前で、島田は扉が開いている部屋を見つけた。少し開いたドアの隙間から話し声
がする。それが目当ての人物の声なので、島田はノックもしないで、いきなり扉を開けた。
中には案の定ジョーが居た。唯、彼の細い腰に手を回して唇を合わせているのは、女ではなく、
自分と同じような目立たないスーツを着た若い男だった。突然現れた島田に驚いたようにその男
が身を離そうとするのを、ジョーがアクアマリン色の瞳を島田に向けたまま、相手の首に手を回
して止めた。ジョーと島田の視線が絡んで、気まずそうに視線を逸らしたのは、島田の方だった。
「ジョー、博士が呼んでますよ」
逸らした視線の先の壁に貼られたポスターを、見るとはなしに眺めながら、島田は声を掛けた。
「約束の時間までは未だ有るけど」
やっと自由になった口元は口吻の名残で少し濡れている。それを舌で舐めながらジョーは続けた。
「急ぎなのか?それとも単に手が空いただけか?」
「俺は分かりませんよ。とにかく一緒に来て貰えますか。アラン、お前今日は休みじゃなかった
か?」
アランと呼ばれた若い男は、自分の雇い主の養子とキスをしているところを、自分の上司に見ら
れて、バツが悪そうに笑った。
「俺が呼び出したんだ。今日免許を取りに行くのに、付き合って貰った」
額にかかる長い前髪を掻き上げながらジョーはそう言うと、先に立って部屋を出て行った。
「用が済んだのなら、さっさと帰れ!」
どことなく機嫌の悪い島田に言われて、アランは頷いた。
「分かってますよ。もう帰りますから」
島田の機嫌の悪さが自分の所為なのかどうかは分からないが、彼に逆らう勇気はアランには無か
った。

ジョーが追われるようにして出て来た自分の故郷に、未だに未練が有るのを島田は知っている。
自分の幼い時の親友と同じ名前のアランを見た時、ジョーが酷く懐かしそうにその名を口にした
のを、島田は苦い思いで見ていた。車の運転が得意のアランにジョーが運転を習うと言い出した
時も、健同様自分が教えると言い張ったのだが、結局ジョーに押し切られてしまった。何とは無
しにそれが腹立たしい。だが、理由は彼には解らなかった。
『アランはゲイだと言っていたが、ジョーがバイだとは知らなかったぞ。深入りして火傷しなけ
りゃ良いんだが』
「未だアランとはしてないぞ」
島田の思惑が聞こえたわけでも無いだろうに、ジョーの的を射た言葉に島田の方が慌てる。
「ジョー、そういう話をこういう処でするのは辞めなさい」
「お前が気にしてるみたいだから、教えただけだ」
「・・・あんたはアランが好きなんですか?」
「さあ?どうだろう。あんまり好きとか嫌いとかでSEXしたことないし・・・だけど、男相手
だったら、やっぱり好きでなければ出来ないのか?」
「俺は経験無いんで、知りませんよ」
「なんだ、無いのか。仕方がない。アランに訊こう」
「もう、勝手にして下さい」
頭を抱えた島田を無視してジョーは、南部の部屋をノックした。

2

正面に座っている南部の前にジョーは立った。電話中だった南部はジョーにソファに腰掛けるよ
う、目で合図すると、又会話を続けている。島田は所在なげに南部の横に立った。このオフィス
に来るのは何となく居心地が悪い。特に悪いことをしているわけでもないのに、お小言を食らう
ような気がする。
電話を終えた南部が眼鏡越しにチラッとこちらを見ると、ジョーは僅かだが、姿勢を正した。
「免許は取れたかね?もっとも君が落ちるはずは無いが」
南部の言葉に島田は吹き出した。確かに技術的には落ちるはずはない。ジョーが試験中制限速度
を守れば、である。自分の運転技術になまじ自信が有るジョーは「公道でレースをする気か」と、
アランに言われるほどのスピードを出す。スピード違反ぎりぎりのところだが、運転試験の制限
速度はもっと遅い。
吹き出した島田に一睨みをして、ジョーは答えた。
「俺だって、試験中大人しくしている位の頭は有りますよ」
「賢明だね」
「で、俺を呼んだ用事は何ですか?まさか俺の運転免許の結果を、訊きたかったわけじゃないで
しょう?」
「エアーフォースで訓練中の健とは別に、君には来週からアーミーに行って貰おうと思っている。
期間は健同様三ヶ月だ。そこで君は、実戦の為の訓練等を経験し、その研修が終わったら、君と
健は他のメンバーに会うことになる」
「それはどんな奴等なんですか?」
「今は未だ言えない。三ヶ月後を楽しみにしていたまえ」
どことなく意味ありげな南部の態度が引っ掛かるが、南部がこう言いだしたら、絶対に答えてく
れないのは、経験上熟知しているので、ジョーはあっさり引き下がった。
「来週。月曜からですか?」
「その通りだ」
デスクの上の書類に目を移した南部は、もう二人の存在などは気にしていない。
出て行くジョーに付いて島田もオフィスを後にした。
「今日はもう上がりなんですが、屋敷まで送りましょうか?」
島田の申し出にジョーは頷いた。島田がアランを帰してしまったので、足が無い。
「頼む」

車を走らせながら、島田は横目でジョーの様子を窺った。
「来週からあんたまで居なくなったら、マーサが寂しがりますね」
「お前が居なくなって、二週間前に健が行ってしまって、マーサが随分寂しがってた」
「特にあんたは、マーサに懐いてましたからね。マーサも心配でしょう」
「仕方ねえ。いつまでもガキで居られる訳じゃない」
「もう、その話は終わりだ」と言うように、ジョーは窓の外に視線を移した。
「でもな、三ヶ月の女っ気無しなんて、耐えられそうにもないや」
「・・・成る程。深刻ですね」
アーミーにも女性は居るだろうが、ジョーの好みとは多分かけ離れているだろう。ジョーの顔が
思い切り顰められている。
「まあ、あんたにはそれも良い薬です」
「お前何時から人に説教できるほど、品行方正に成った?」
「俺は元々清く正しく生きてます」
「よく言うな」
窓から見える風景はクリスマスカラー一色で、デパートのショーウィンドーには大きなツリーと、
お馴染みの赤い服を身に纏ったサンタクロースの姿がある。後三週間でクリスマスだ。
「ちぇ、クリスマスはベースで過ごさなくちゃならねえのか!博士も時期を考えてくれればいい
のにな」
「アーミーにも、クリスマス休暇くらいは有るんじゃないですか?」
「お前他人事だと思って、完璧に面白がってるな」
「とんでもない。俺は真剣にあんたの悩みについて、同情してるんですよ」
同情して貰っても仕方ない。南部の決定は絶対だ。ジョーはせめてこの一週間を楽しむことにし
た。

「まあ、一成。久しぶりね」
出迎えてくれたマーサは、島田がこの屋敷を出て未だ一ヶ月程しか経っていないのに、酷く懐か
しそうに彼を歓迎した。
「元気そうだね、マーサ」
「それだけが私の取り柄ですもの。今晩は夕食をしていけるんでしょう?」
「この後、用事は無いが・・・」
島田は自分の部屋のバカでかい冷蔵庫を思い浮かべた。容量は大きいが、中にはビールしか入っ
ていない。帰っても先ず買い出しに行かなければ、何も食べる物が無い。それよりも作る気も無
い。
「ジョーもその方が喜ぶわ、きっと」
「ジョー?」
「あの子、最近食事の量がめっきり減ってしまったのよ。貴方が出て行った時も、その兆しは有
ったけれど、特に健が行ってしまってからは、何を作っても余り食が進まないみたいで・・・博
士も一緒に食事をすることも稀だから、寂しいのかしらね」
そう言えば何日か振りに見たジョーは少し痩せていた。普段タフを装っているジョーのメンタル
な部分が、意外に脆いのに島田は気付いている。幼い頃に両親を殺されたジョーは、自分の大事
な人間を失うのを極端に恐れている。それ故、彼は余り他人と関わりたがらない。付き合った女
性と長続きしないのも、必要以上に思いを掛けて、後で傷つくのが嫌なのだろう。だが、それを
素直に見せるジョーでは無い。そこが又一種の保護欲を駆り立てる処なのだが。
「じゃ、ご馳走になりますよ」
島田の返答に嬉しそうに、マーサはキッチンへ消えた。

 3

自分の首筋にかかるアランの息がくすぐったくて、ジョーは笑い声を上げた。
「くすぐったい」
自分も笑って、アランが右手をジョーのTシャツの裾から差し入れ、彼の肌に触れる。口吻をし
ながらアランの指が滑って、自分の右の乳首を摘もうとするのを、ジョーはアランの手を掴んで
制した。
「未だ駄目かい?」
悲しそうに訊くアランに、ジョーは薄く笑った。
「アランとこうしているのは、嫌じゃない。だけど」
言葉にしにくそうに眉を顰めるジョーの髪を、アランは優しく梳かしてやる。
「でもSEXするほど、好きじゃない?」
「分からない。好きでなくてもSEXは出来るだろう?」
「多分ね。でも男同士は少し違うと俺は思っている。自分と同じ男に抱かれる、抱くっていうの
は、女相手とは少し違う」
腑に落ちない様な表情のジョーに、彼は続けた。
「例えば、自分が抱かれるとする。自分と同じ男に組み伏せられて、女のように身体を押し開か
れて・・・男にとっては或る意味屈辱だろう?気持ちが伴わなければ、出来ないと俺は思う」
「・・・抱く方は?」
「抱く方も勇気が要るよね。その行為を相手に強いる訳だし。唯力づくで、征服する気なら別だ
ろうけど。それでは関係は成り立たないだろう?」
「で、俺は気持ちが伴っているんだけど、ジョーはどうなのかな?」と尋ねるアランの視線を、
ジョーは外した。何時も真正面から人を見つめるジョーにしては珍しい。それを答えのように、
アランはジョーから離れた。
「未だ、いいよ。俺は待ってる。君が訓練から帰って来てからでも、構わない」
部屋から出て行こうとするジョーに、アランが声を掛けた。
「ジョー」
歩みを止めて振り返ると、アランの濃い茶色の瞳がそこに有った。
「島田チーフが好き?」
質問に眉を顰める。
「好きなら、自分の気持ちに素直にならなくちゃ駄目だよ。こんな仕事でなくても、誰も明日は
分からない」
アランの言葉に不吉な物を感じて、ジョーは彼の元に戻った。
「一般論だよ。俺は思いを遂げるまでは、少なくとも死ぬ気は無いから」
ジョーの真剣な表情に、アランは冗談めいて笑った。
「さあ、もう行かなくちゃ。ジョーも、島田さんに見つかる前に帰れよ」
出て行くアランを見送って、ジョーは暫くそこを動けずに居た。
「誰も明日は分からない。アランも、島田も。そして俺も・・・戦いの中でなくても、人は簡単
に死んでしまう」
「島田が好きか」と、アランは尋ねたが、ジョーにはそんな実感は無かった。島田が長く住んで
いた南部の屋敷を出て行く時、寂しくなかったと言えば、嘘になる。だが、島田のことをアラン
や健以上に好きなのかは分からない。
「俺は島田相手にSEXをする気にはならないぞ」
声に出してみて、「本当か?」と、自問する。島田の体つきは好きだ。どちらかと言えば、ボデ
ィガードとしては彼の身体は余り大きい方ではない。だが、無駄な筋肉のない逞しい身体つきを
している。自分や健が未だ少年期の頼りなさを残しているのに対して、島田は完成された大人の
身体だ。ちょっとした彼の動きを作り出す筋肉の流れに、見惚れている自分は確かに存在する。
でもそれは、あくまで自分も何時かはそうなりたいという、一種の憧れだとジョーは思っていた。
「ああ、もう!アランが変な事を言うから、意識しちまうじゃねえか!」
結論の出ない自問にケリをつけて、ジョーは部屋を後にした。

「ジョー」
背後から悩みの種に呼びかけられて、ジョーは立ち竦んだ。無視するわけにも行かないので、ゆ
っくりと振り返る。
「南部博士に何か用ですか?」
「・・・アランと昼飯を食いに来ただけだ。もう帰るよ」
「・・ベースに行くまでにきちんと食事を取って、体重を元に戻した方が良いですよ」
「余計なお世話だ」と言いたいのを我慢する。確かに島田の意見には一理有る。
「分かってるよ」
話しながら二人は南部のオフィスの前までやって来た。ガラス越しの秘書デスクに腰掛けたアン
ジェラが、アランと話している。手の中に定形外の封筒を持って訝しげな表情の彼に、ジョーは
手を振った。それに手を振り返して、アランは封筒の封を切った。
途端に爆発音が起こって、彼の身体が見えなくなった。同時に内側から破壊されたガラスの破片
が島田とジョーに降りかかってきた。床に伏せてそれを避けたが、大きなガラスの欠片がジョー
の左の二の腕を切り裂いた。それに気を取られる暇もなく、上がった炎から島田とジョーは身を
隠した。警報装置が鳴り響いているようだが、近距離でした爆発音に耳鳴りがして聞こえなかっ
た。炎を消し止めようとしている島田や警備員が、何事かを大きな声で叫んでいる。ジョーはア
ランの姿を探した。瞳に映った物には、最早アランの面影は無かった。自分を映していた濃い茶
色の瞳はもう何も映さない。
「アラン・・・アランが」
呟いて、アランの元に行こうとするジョーを、島田が引き留めた。
「放せよ」と暴れるのを抱き留めて、自分の身体でアランの姿をジョーの視界から隠して遣った。
「あんたも手当が必要ですから、行きましょう」
「未だ死なないって、言ってたのに」
「仕方ないんですよ、ジョー。誰にも未来は分からないんです」
ジョーの顔を胸に抱き寄せて、島田は諭すように言った。アランと同じ事を島田は言う。島田の
胸を濡らしながら、ジョーはアランに応えて遣らなかった自分を責めた。



爆発自体は小規模で、被害は南部の秘書室だけだった。ISOに隣接している付属の病院で手当
を受けていたジョーに、島田が近づいてそう言った。南部宛の郵便は全て秘書であるアンジェラ
が開封する事になっている。
「一通差出人が記憶に無い相手だったので、不審に思って、アランに相談したようです」
それが丁度、南部がアンダーソン長官の部屋に行っていて不在だったため、南部の身に危険は及
ばなかった。それを彼らは喜ばなくてはいけない。が、二人の胸中は複雑だった。犠牲が出たこ
とには変わりは無いのだ。
「アンジェラは?」
「火傷を負っていますが、比較的軽傷です。アランの対処が良かったですね」
「送っていきましょうか?博士は未だ事後処理でISOに残っていますし」
頷きかけて、ジョーは首を振った。今日は南部の屋敷に帰る気にならなかった。
「お前の家に連れて行ってくれないか?」
「俺の家には何も食う物は有りませんよ、冷食しか。あんた冷食嫌いでしょ」
「食う気になれば、何だって食えるさ」
どっちにしても余り食欲も無かった。高価なレストランの食事も、島田の家の冷食も同じ事だ。
「後で文句は言わないで下さいよ」
しつこく念を押す島田に、ジョーは頷いた。

島田の部屋に来るのは初めてだ。珍しそうに家具が余り無い部屋をぐるりとジョーは見回した。
「意外に片づいているな。掃除をしてくれる女が居るのか?」
「居ますよ」と言う島田の返事がキッチンからする。
「契約してる掃除の代行人ですけどね」
「週に二回掃除に来るのが今日だった」と島田は続けた。
「何を食べますか?大した物は無いですが」
「腹減ってない」
居心地の良さそうなソファを見つけて、ジョーは腰掛けると膝を抱えた。
「少しは食べないと保ちませんよ」と尚も言う島田に「後で」と答えて、ジョーは目を閉じた。
頭の中にアランの姿が浮かぶのを振り切るように立ち上がると、ビールを片手に電子レンジのタ
イマーを合わせている島田に近づいた。かなり背が伸びたジョーだが、並べば未だ島田の方が
少し背が高い。
「来年くらいには追い越されそうですね」と島田が何時か言っていたのを思い出す。
「何か食べる気になりましたか?」
「・・・お前を」
ジョーの答えに「え?」と問いかけるのを、ジョーは口吻で遮った。そのまま自分の舌を島田の
物と絡めて、次の質問を避ける。島田の手が未だ握っていた缶ビールを、ジョーは奪ってカウン
ターに置いた。長い口吻を振り払うようにして解いて、島田はジョーを見返した。
「挑発をすると、どうなっても知りませんよ」
それには何も答えずに、ジョーは着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。その拍子に傷ついた左腕が痛
んで、少しだけ眉を顰めた。島田が見ている前で、ジーンズと下着を脱ぐと、ジョーは何も言わ
ずに寝室の扉を開けた。部屋の大部分を占める大きなキングサイズのベッドに彼は腰を下ろして、
扉の前に佇んでいる島田に笑いかけた。
「挑発に乗る気に成ったか?」
「・・・成りました」
少し掠れた声で答えて、島田は自分の唇をジョーの唇に合わせた。先ほどよりも更に長く二人は
口付けた。着ている物を乱暴に剥ぎ捨てると、島田は唇をジョーの首筋から胸まで這わせて、ジ
ョーの反応を楽しんだ。這い上がってくる快感の波に耐えるように、眉を顰めている彼の表情は
ぞっとするほど、色気が有った。自分の物同様に熱を持って、勃ちかけているジョーの物を島田
は口に含んだ。その愛撫に堪えきれない声が、少し開いたジョーの口から漏れ出るのに、島田は
満足した。
探し当てた秘所の周りを指で愛撫して、潜り込ませようとするが、ジョーのそこは固く入り口を
閉ざして、島田の指を拒否する。
「力を抜いて下さい」
島田の言葉に息を吐くと、ゆっくりとジョーの蕾は島田の指に進入を許した。だが、辛そうに唇
を噛んでいるジョーを見て、島田は不安を覚えた。
「あんた初めてなんですか?」
「・・・当たり前だろう」
『あんな挑発をする奴が初めてなんて、思うわけが無いだろう』
「止めましょう。俺も男相手は初めてです。あんたを傷つけてしまうかもしれません」
「途中で止めるなよ。俺が誘った。気にするな」
長い前髪を掻き上げながら、ジョーはアクアマリン色の瞳で、真っ直ぐに島田を見つめた。
「俺はもう後悔したくないんだよ」
右手の掌で島田の彫りの深い顔に触れて、彼は続けた。
「だけど、もしお前が俺と同じ気持ちでないなら、良い。何処かへ行って他の奴を捜す。アラン
の事は好きだった。でもアランに抱かれる気には未だ成れなかった。何故なのか俺には分からな
い。アランにお前のことが好きかと訊かれた。それも俺には分からない。だけど今夜はこうして
いたいんだ。お前の腕の中で眠りたい」
「挑発をすると、俺はどうなるか分かりませんよ」
もう一度そう言うと、島田は彼の身体を組み敷いた。再び舌でジョーの物を愛撫すると、彼の長
い脚を押し広げた。膨れ上がったジョーの物から溢れ出た滴を飲み干すと、彼は自分の高まりを
ジョーの秘所に押し当てた。必死に押し返そうとするその部分を切り裂くように、彼は進入した。
ジョーの身体が苦痛を避けるように動くのを、両腕で包み込んで制すと、彼はジョーの耳元で囁
いた。
「他の奴を捜させるなんて許しません。俺はこう見えても嫉妬深いんですよ」
彼の囁きに笑って、ジョーは両腕を島田の首に回した。腰を進めながら、島田はジョーの唇を貪
った。

ベッドに深く沈んで、目を閉じているジョーに島田は歩み寄った。
長い枯葉色の髪に触れると、気配で目を覚ます。
「傷痛みませんか?すみません、怪我人なのを忘れてました」
傷口よりも痛む体を起こして左腕を見れば、白かった包帯が僅かに赤く染まっている。島田は手
慣れた様子で、包帯を解いた。赤く染まったガーゼを取って、傷口を調べている島田表情は不安
げだ。その顔にウィンクをすると、ジョーは島田にキスをした。
「ジョー!俺は真剣に心配してるんですよ」
「もう一度しようか?もっと傷が悪化したら、ベースに行くのが延びるぞ」
冗談なのか本気なのか分からない口調でそう言うとジョーは、舌先で傷から流れ出した血を舐め
た。犬の様なその動作に島田は笑った。
「ベースで誰彼とも無く挑発しないで下さいよ」
「・・俺は、マッチョは嫌いだ」
器用に包帯を巻きなして遣りながらの島田の忠告に、ジョーの返事は寝惚け声だ。
「はい、出来ましたよ。俺は仕事に行きますが、あんたは未だ寝て居て良いですよ」
答えを聞かずに島田は部屋を出て行った。薄目を開けてサイドボードの時計を見ると、午前五時
だった。もう一眠りして、目が覚めたら買い出しに行こう。今夜帰って来た時に、未だ居る自分
を見つけたら、島田はどうするだろう?
「何か冷食意外の物を、作って置いてやろう」
重い体を暖かいベッドは眠りに誘う。ジョーはもう一度目を閉じた。


THE END


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