クリスマスに・・・
Let's have a Party

by Kiwi


巷には姦しいクリスマスソング。店先のショーウインドーには大きなツリーと、サンタク
ロース。なんだってこんなに街中が浮かれているんだろう。嬉しそうな笑顔を浮かべて行
き交う人々を見ながら、健の機嫌は悪かった。別に何か原因が有るという訳ではない。只
何となく、気に入らない。それは、もしかすると隣に居る上機嫌の男の所為かもしれない。
実際健の機嫌の悪さと反対に、ジョーの機嫌は頗る良かった。一部の隙も無いようにハン
ドルを操って、忙しそうに列を成している他の車を追い越して行くジョーは、彼には珍し
く鼻歌などを歌っている。しかも、ジングルベルだ・・・。
「嬉しそうだな?」
「クリスマスだからな」
「理由はそれだけじゃないだろう」
「何だ?嫌に絡むな?」
「別にお前が誰と仲良くしても、俺には関係ないさ」
健がじっと窓の外を見ながら、不貞腐れた様に言った。そうしていると、幼さが未だ残る
丸みの有る頬が一層丸みを帯びる。
「・・妬いてるのか?」
ジョーの揶揄を健は笑い飛ばした。
「馬鹿言え!」

二人が今晩出掛けたのは、ジョーのレースの祝勝会と、クリスマスパーティを兼ねた集ま
りだった。当然ジョーの周りには人が集まる。健はそんな事を気にしていた訳ではない。
例え居並ぶ女性陣がジョーにさり気無く触れても、それにジョーが、彼女達が魅力的だと
言う笑みを返しても、健には関係ない。何時ものことだ。健も又同じ事を他の女性達にし
ている。
その女性は健の腕にさり気無く自分の白い腕を絡ませて、手にしたグラスの中に泡が立ち
上っていくのを見つめながら、健に微笑んだ。彼女から香る香水は、先日ジョーが身に纏っ
たまま帰って来た香りだ。自分達を見つけるなりジョーに口付けて、それから別室に消え
た二人は暫く帰って来なかった。勿論戻ってきた時には、二人とも何も無かったような顔
をして、只、ジョーのジャケットからは又あの香りがした。
そして、先程ジョーの枯葉色の髪に差し入れられていた長い指は、今健のジャケットの袖
を誘うように滑っている。
『冗談じゃない。あいつと女を競うのは御免だ』
そう思う気持ちも有るが、健は先日消し去った香水の匂いを又、ジョーに染み付けられた
ことに少し腹を立てていた。だから自分を次の獲物のように近付いて来た女に、健は何時
もの彼らしくなく接していた。
『明日はランチじゃなくて、ディナーを奢らせてやる』
隣の自分に心が留まって居ない風の健に、女は赤く塗られた唇を寄せて呟いた。
「・・・健。ジョーはキスが巧いわよね・・それにベッドではとても優しいわ。貴方とも
そう?」
「俺との時はもっと激しくて、熱いよ。貴方との時よりね」
そう答えた健の言葉を、目を細めて聴いている彼女の顔は、ゲームを愉しむ有閑マダムそ
のものだ。暇と金を持て余してスポンサーとして金を出す代わりに、ハンサムなレーサー
と愉しむ。いい暇つぶしだろう。けれど、そんな相手にジョーは本気にならない。そう、
あいつは俺との時はもっと熱い。もっと激しくて、優しい。俺を抱く時も、俺に抱かれる
時も。
「失礼!」
一言だけ言って、女の側から離れた。この次この女がジョーにどんな注文を付けるかと思
うと、少しだけ愉快だ。
『でも、ジョーは絶対あんたには本気にならないぜ』
笑みを浮かべて近寄って来る健に、ジョーは笑い返した。
「どうした?女王様から解放されたか?」
近寄って、彼のジャケットから又違う香りがすることに気が付いた。
『全く女が好きなんだから・・これでディナーは確定だ!』
ちょっと困らせてみたくなった。手にしたグラスのシャンペンを飲み干して、健はジョー
に言った。
「帰る!」
「・・え?」
「俺はもう帰る。お前はもっと居ていいぞ。主役なんだから」
健がこう言って、ジョーが其の儘居るはずが無い事を彼は知っている。自分がこうした我
侭を言う時、ジョーは断った事が無い。文句を言いながら、ちょっと顔を顰めながら、結
局彼は健の言う通りにする。それは昔から・・
「・・・・分かった。ちょっと待ってろ」
暫く考えて答えたジョーは、さっきまで健が一緒に居た女の所に歩み寄った。二人が話し
ている内容は、健には届かない。唯、話しながら女の猫を思わせるような琥珀色の瞳がキ
ラリと光るのを、健は捉えた。そして女はジョーの首に両腕を回すと、自分から唇を合わ
せた。お寝みのキスにしては、かなり長い間二人はそうしていた。
健の元に帰って来たジョーの唇が、微かに赤く染まっていた。女が着けていた赤い口紅が、
ジョーの唇を艶かしく演出している。身の内が少し熱を持つのを認めたくないかのように、
健の機嫌が悪くなった。

やがて車は健の飛行場にゆっくりと停まった。何時もは先にさっさと下りる健は、未だシー
トに納まったままで、ジョーが車のキイを抜くのを見ていた。そうした彼の仕草が、ご機
嫌の悪さを教えさせて、ジョーは横目で彼の表情を窺った。
「気分でも悪いのか?」
「気分は悪くはないが、機嫌が悪い」
口紅が着いているのを教えてやらなかったから、未だジョーの唇は微かに赤く染まってい
る。身に着いている様々の香りも、今日の健には気に喰わない。こんな事なら留守番をし
ていた方がマシだった。車を降りると、先に家に入ってジャケットを脱ぎ捨てた。次には
シャツを、そして靴と靴下と・・後から付いて来るジョーが、健が脱ぎ散らかした衣類を
拾い上げては、ソファに投げた。
「そこら辺に脱ぎ散らかすなよ」
咎めるジョーに健が肩を竦めた。形の良い唇を自分の人差指で示す。
「ここ、口紅が付いてるぜ」
言われた途端に「何でもっと早く教えなかった!」と怒りながら、拭おうとする手の甲を
健は長い指で掴んで、其の儘自らの唇で彼はそれを清めた。口付けたまま指を、ジョーの
シャツから差し入れる。身の内の熱さを語るような冷たい彼の指先は、熱く火照ったジョー
の身体に心地良い。
「パーティをしよう。これから二人だけで・・もっと身体が熱くなったら、冷えたワイン
を飲んで・・クリスマスの夜は未だ長い。今日は眠らせないから・・」
囁く健の言葉にジョーは吐息だけで、答えた。
「相変わらず気侭な奴だな・・」
返したかった言葉は、声には成らなかった。


The End




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