夜明け前

by Kiwi


身体の向きを変えた時に、ふと目が覚めた。薄目を開けて時計を見ると、早朝を示してい
るが、未だ冬の夜は明けていない。腕を伸ばした先に触れる温かみが、今自分が一人で居
るのではない事を教えてくれて、それがふと笑みを浮かべるほど嬉しかった。長い睫が影
を落としている彫の深い顔は、普段の印象より少し幼い。寝返りを打つ振りをして、俺は
腕を奴の身体に回した。その感触に奴の身体は一瞬ビクッとして、けれど俺の懐に居るの
が少しも不快でない様に、目を覚ますことは無かった。小さく丸く開けた唇が、寝息を立
てて俺を誘っている。「キスを・・」と今にも強請りそうな。いや、決してこいつは、強
請りはしないのだが、だから尚の事夢の中では魅惑の言葉を紡ぎ出してくれそうな・・そ
んな唇にふと触れたくなる。そっと手を伸ばして触れた唇は柔らかい。「下唇が少し肉厚
なのが、セクシーなのだ」と言った女が居たっけ。奴に触れた指先を、俺は自分の唇に当
ててみた。そんな子供のような戯れに、笑いが起こった。
「未だ触れることを怖がってるガキみたいだ・・」
小さく呟いた俺の声が聞こえた訳でもないだろうに、ジョーは水色の瞳を開いた。
「・・何か言ったか?」
「何も・・」
俺の答えに背中を向けて再び眠りに入っていこうとするのを、ジョーの肩に手を掛けて自
分の方に顔を向けさせた。
「何だ?」と尋ねるようにもう一度薄目を開けるのに、俺はジョーの身体に両腕を絡めた。
答えは返さない。それでもジョーは納得した様に、瞳を閉じた。少しだけ肉厚な下唇を啄
ばむように唇を合わせて、俺は感じた。
『指先で触れるより、もっと柔らかい』
「キスを・・」とジョーは強請ってくれない。だから俺が強請ってやる。
「ジョー、キスを・・もっと長くて甘いキスを・・」
シーツから露になった身体に浮き上がってきた赤い花びらが、一層俺を誘っている。互い
に触れ合っている部分が、次第に熱を持つのを感じながら、俺達は口付けを続けた。熱く
なったジョーの身体に散っている花びらに、俺は再び口を付けた。更に赤味を帯びたそれ
にジョーが、眉を顰めて抗議する。
「誰にも見られる場所じゃないぜ。裸にならなきゃな」
これで暫くデートは出来ない。俺は自分の仕事に満足だった。
「お前にも付けてやる!」
微かな怒りを込めたジョーの柔らかな唇が俺の胸元に押し当てられて、其処が熱を帯びた。
舌先が其処から滑って下まで下りて来る。
「・・いいぜ。但し見えない所にしてくれよ」
ジョーが決して強請らないことを、俺は強請ってやる。
「ジョー、キスを・・もっと長くて甘いキスを・・」
俺に答えて口付けて呉れるジョーの熱い身体に、俺は手を伸ばして抱き寄せた。ジョーの
首筋に唇を這わせると、奴の身体が少しだけ快感に震えた。
「もっとお前を・・」
口にしたのは俺。でもお前の想いも同じと、俺には分かる。口にはしない意地っ張りなお
前に代わって、俺がもう一度・・
「・・もっとお前を・・」


The End




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