前 夜

by Kiwi

自分の部屋の前で、島田は思わず固まった。蹲っているジョーを見つけたからだ。
抱えた膝に頭を埋めて、座り込んでいる彼からは微かにアルコールの臭いがする。
「こんな所で何を遣ってるんだか。何時もは合鍵でさっさと入るくせに」
誰にでもなくそう言いながら、島田はジョーの肩先に手を置いて、彼の体を揺すった。
「ジョー、何をしてるんですか?酔っ払って寝るなら自分の家にして下さいよ。俺は疲れてるんですから」
寝ているのかと思ったがそうでは無いらしい。ジョーは頭を持ち上げて、島田を見つめた。
そのアクアマリン色の瞳が何時もよりも深い色合いをしているのを、島田は不思議な気持ちで見つめた。
「どうかしましたか?」
「別に」と言って立ち上がって、ジョーはジーンズの汚れを叩いた。
「飲んでますね」
「少しだけ」
島田の言葉に舌を出す。
「年齢的には合法ですが、あんまり感心しませんね」
と島田が叱るのは、ジョーが何時戦闘に呼び出されるか分からないからだ。
自分のように誰かと交代すれば、一応お役御免と言う訳ではない。
正義の味方には休息は無いのだ。
「・・飲みたい時も有るだろう?」
「それは認めますが。どうします?入りますか?」
「俺はお前の帰りを待ってたんだぜ。門前払いする気かよ」
「だったらどうして何時もみたいに、入って待ってないんですか?」
扉の鍵を開けて、真っ暗の部屋の電気を手探りで探して、点けた。
「お前が今日帰ってくるか、分からなかったし・・・」
どうも何時もの彼らしくない。島田は先程からのジョーの言動がどうしても腑に落ちない。ジョーが此処に来始めたのは、
もう2年も前だ。それから一度として玄関先で待っていた事も、島田が帰ってくるかどうかを気にした事も無かった。
居なければ、帰って来るまで、気侭に過ごしているし、その間に任務が有れば、勝手に出て行く。
「何か有ったんですか?」
保護者意識で一応訊いてみる。絶対に答えは返って来ないのは分かっているのだが、今日のジョーはどうもおかしい。
案の定返事は無く、ジョーは彼の気に入りのソファに落ち着いている。
『まあ、いいか』
島田は背広を脱いでハンガーに掛けると、シルクのネクタイを取った。シャワーを浴びようと、バスルームへ向かう。
着ていたシャツを洗濯物を入れている籠にポンと投げ入れ、彼は次々と身に纏っていた着衣を取り除くと、
シャワーブースに入った。
バスタブとは別にシャワーブースが付いていたのが、この部屋を買う時に彼の気に入りだった。
熱いお湯を一杯に出して、彼はその下に佇んだ。
水音で扉が開いたのは気が付かなかった。自分の腰に廻された手が、ジョーの物だと気がつくのがもう少し遅かったら、
彼は肘打ちでジョーの肋骨をへし折っていたかもしれない。
「ジョー、あんた何をしてるんです?」
綺麗に日焼けした肌をバスルームの落とした照明に照らし出して、ジョーは島田の後ろに居た。
彼の腰に廻した手を、ジョーは少し引き寄せて、島田との間隔を狭めた。
島田の引き締まったヒップに、丁度ジョーの股間が当たる。
それは少し頭を擡げていて、その物が当たる感覚に島田の物も、微妙に刺激された。
島田の腰から頭に手を移動させて、ジョーは彼を振り向かせた。
その唇に自らの物を合わせると、自分から舌を絡ませた。
ウットリと瞳を閉じているジョーの顔を、島田は両手で挟んだ。息苦しさに離れようとする彼を、
今度は島田が腰を強く引き寄せて、更に深く口付けた。降り注ぐ熱い雨も今は気にならなかった。
眉根に皺を寄せて耐えていたジョーが、限界のように口付けを振り解いて、
シャワーブースの壁に寄り掛かって、息を整える。
その姿を愛おしそうに眺めて、島田はジョーの身体を抱き上げた。
「放せよ」
とその状態から喚くのに、
「放しませんよ」
と言い返して、島田は彼の体をベッドへ放り投げた。
「挑発したのはあんたでしょう」
そっぽを向いた背中にキスをすると、彼の背骨が綺麗な曲線を描いて、身体がベッドの海で泳いだ。
仰向けにしてその首筋を舌で愛撫すると、閉じていた瞳が一瞬開いて、それが島田を捉える。
「感じますか?」
何時もなら返らない答え。けれどその晩ジョーはしっかりと頷いた。
「ああ」
驚く島田の腕を掴んで、ジョーは身を起こすと、島田の物を口に含んだ。
目を見張る彼に薄く笑って、ジョーは彼の物を快感に導びこうとする。
「駄目ですよ」
それを止めて、島田はジョーの長い指に口付けた。
「それは俺の役目です」
反対に自分の物を咥えられて、ジョーは小さく呻いた。
快感は身体全体に広がって、次に来る挿入を彼は待った。


未だ夜が明ける前、ジョーは目を覚ました。傍らには島田の眠る姿が有る。
彼の眠りを妨げない様に、ジョーは静かに身を起こして、
島田の寝顔を暫し見つめた。彼の唇にそっと自分の唇を触れさせて、それは直ぐに離れた。
そして、彼はベッドから出ると服を身に付け、扉に向かった。
最後に一度だけ眠る島田を振り返ると、もう迷いは無いように
彼はその印象的なアクアマリンの瞳を前だけに向けて、島田の部屋を後にした。


自分の愛車に乗り込む前に、引っ掛けていたオウタムコートのポケットから、彼は航空券を取り出して、
何度も繰り返した様にそこに記されている日時を又確認した。
車に乗り込むと、ジョーはエンジンを掛け、駐車場を後にした。
走っていく車を窓越しに見て、島田は煙草に火を点けた。
ジョーの様子が何時もと違う訳を問い質したい彼だったが、それを素直に打ち明けるジョーでは無い。
「自分から言い出すまで、待ってみるか。又今晩尋ねても良い」
そう言った彼だったが、後に島田は自分の判断に後悔する事になる。



THE END




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