Dear my BAD GIRL !

by ルーイ


「お見合い?!あなたが?!誰と」
リサからは予想通りのバカ笑いが返ってきた。統合情報部中佐、というより健やジョーの
ITの師匠で姉さんがわりだ。十年来の付き合いになる。
「ちょっとガキなのさ。美人の予備軍ってとこだな」
ジョーは、リサが差し出すマグを受け取って熱いコーヒーを一口啜った。
「そりゃ、あんたが見合いするなら当然美人でしょうよ。でも美人なだけじゃないんでし
ょ?」
「長官が断り切れなかったんだ」
「まぁ、一事が万事、はっきりしたあの南部さんが」
「もっとはっきりした野郎が相手でよ。よりによって大口スポンサーの」
ジョーの苦笑に、リサは優しく目を細めた。久しぶりの、他愛の無い会話だった。
「ライズのじいさんが、孫娘をごりごりと。名前なんて言ったっけな?アリス…」
「ああ、あの不良娘」
「へ?」
「喫煙、飲酒、果ては不純異性交友、ドラッグ。あの名流の一員でありながら、追い出さ
れた学校は数知れず。そういえば今度の高校で卒業できるのかしらね」
パーティーの席で一回会ったきりだ。そんな娘にはとても見えなかった。女はガキでも要
注意だな、と肝に銘じ直したジョーだった。
「じいさんや長官もよ、俺みたいなモテる男の心配じゃなくて、あんたの心配すりゃいい
のになぁ」
「大きなお世話よ。プロポーズならついこないだも断ったばかりだわ。第一、ライズ老は
あんたの心配してるんじゃないわ。孫娘の心配してるのよ」
リサがプロポーズを、で引っかかったが、その話題は勢いで流れて無くなった。
「確かに、あんたくらいじゃないと付き合えない娘だわね。でも、あたしはあの娘、好き
よ。淋しがりの度合いがちょっと人よりきついだけ」
「寂しがり?」
「戦争で両親を亡くしてしまった。だからライズ老のところに居るの。会ってみたら?別
にぜひお嫁さんにしなきゃならないってことじゃないんでしょ?」

リサの認識は甘かった。ライズ老にランチに招かれてみれば、夫妻そろってやる気まんま
んで待ち構えていた。少女は一見しおらしく、口数も少ない。ジョーに合わせたのか、ジ
ーンズとTシャツの出で立ちは、掛け値なしに可愛い。暗褐色の髪はゆるいウェーブで、
青い瞳は健と同じ、空の色だ。

「にに、庭でも案内してやれ」
と鼻息の荒い祖父に、彼女は、はいとご令嬢に返事して立ち上がった。テラスから庭に続
く階段を二人で下りていくのを、老人はさも付いてきたそうに見送った。
やたら可笑しかった。笑うのを堪えるのに一苦労した。
「ISOってヒマなのねえ。こんなことに付き合ってさ、バッカみたい」
それは、いきなり来た。
「あたしはいいわよ。好みのタイプじゃないけど、あんたくらいのイケメンなら。これから
どうしたい?ま、することなんてそうないけどさあ」
妖艶な微笑み、になっていない幼さがジョーには眩しかった。とりあえずはこっちが地な
わけだ。ジョーは堪えきれずに吹き出した。
「何が可笑しいのよ」
ふっくらとした頬に朱が指す。
「かわいいなぁと思ってさ」
「か、かわいい??大抵の見合い相手はこれで退散するわよ?!」
「そいつらタマ付いてたの?」
「見てないから分かんないわ」
お嬢様にしてみれば可成り頑張った返答だろう。本当に、かわいいな、と思った。
「じゃ、ちゃんとしたのを、見てみるか?後学のために、ってやつで」
本当に不純異性交遊してたのか、というような情けない顔を彼女は見せた。
「ついでに触ったり、ナニしたり、って色々教えてやってもいいぜ」
ジョーがずい、と近寄ると、小さく悲鳴を上げてへたり込んでしまった。

「お願いがあるの」
ジョーの腕に縋って立ち上がりながら、アリスは半べそを掻いていた。
「あたしのことなんか気に入らない、ってお祖父さまに言ってほしいの」
「なんで、俺はあんたみたいなタイプ好きだぜ。嘘はつきたくねえ」
半べそが全べそになるのを堪えながら、とにかくお願い、とアリスはジョーの前で両手を
合わせた。
「あたし好きな人がいるの」
「爺さんが嫌がるようなやつか」
「そうじゃないわ。あたしが今まで遊んでたような男とは全然違う。誓って、ちゃんとし
たひとよ。でも、お祖父さまがいいも悪いも、彼があたしを」
そう、好きじゃないの、とアリスは項垂れた。
「アーサー・ライズか?」
軍統合参謀本部大佐。一族のみならず、国のエース。離婚したばかりだし、絶対にこれだ、
と思った。この年頃の孤独な娘が、煌々しい従兄に憧れても何ら不思議はない。が、アリ
スは、一瞬、目を丸くしてから、あははと笑った。
「違う違う、彼じゃないわ。前はちょっと好きだったけど、なんか大人すぎて付いていけ
ないんだもん。彼は、あたしみたいな親もチカラも無いムスメ、そういう対象としては興
味ないしね」
「いや、案外だぜ。やつなら、とりもってやれるかも、だが?」
アリスが嘘を付いている、とジョーは思ったのだった。けれど彼女は、万が一にもその気
になられたら困るからやめて、と笑った。
「あたしさ、随分悪くてさ、今のガッコも1年といるわけじゃないの。高校卒業できるか
どうか本当に怪しくなっちゃって、お決まりの家庭教師だったの」
「ほうほう」
話しが読めてきた。
「家庭教師なんて今までチョロイもんだったんだけど…。まぁ、そのお陰様であたしは卒
業式の総代になれたわけ」
やはり、元々頭の良い娘だったのだ。ライズ老は現金な男だ。孫を誰でも可愛いがるタイ
プの爺さんではない。
「卒業パーティーで、彼に絶対パートナーになってもらうの。あたしは酷い不良娘だった
から、ちゃんとした男の人が誰も相手にしてくれない、って泣きつくつもりでいるの」
「了解、もう言わなくていい。そいつとは、今でも会ってるのか」
「うん…進学後の相談とかのってもらってる…」
「じいさん、別に会うな、って言ってるわけじゃないんだな?」
「だって、この家で会うんですもの」
アリスは忌々しそうに唇を尖らせた。いよいよ相手にしてもらえてないらしい。
「そうだな。俺はじいさんに、あんたのことを、かわいいお嬢ちゃんだがお子さますぎる、
と言っておく。これはホンネだ。じいさんは、まあ焦らず相手してやってくれ、と言うだ
ろう」

な、とジョーは青い瞳を覗いて微笑みかけた。彼女は不安そうに、目を瞬いた。
「女には不自由してねえから、あんたに手を出そうとは思ってねえよ。色々教えてやる、
相談しろ。噂ほどは、色事に長けてないようだからな」

アリスはやっと安堵の微笑みを見せた。ジョーは恐らく、アリス本人よりほっとしていた。
このテの顔が不安そうにしているのは、生理的に受け付けられない。
「で、ホントにちゃんとしたヤツなのか。どんなヤツなんだ」
「え、ええ。もちろんよ。頭が良くて、ハンサムで、優しくて」
恋する女の子は綺麗だ。この生命の息吹を、あのガラスの中に運んで行けたら…。

ガサっと木々が擦れる音がした。
どきっとして振り返ると、ライズ老が真っ赤な顔をして突っ立っていた。
「は、話しは弾んでいるようだの」
巨躯に常日頃の態度のデカさが、彼を諜報活動には不向きな人間にしていた。
会話を聞かれてしまった気配はない。ジョーは先ずアリスに、そして老人に微笑みかけた。
「魅力的なお嬢さんですね。十年後が楽しみだ」
さあ、頑張れよ。おじょうちゃん。

END



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