ENVY

by ルーイ

ISO長官執務室のドアを開けたら、南部の笑顔に出会した。眼差しの先には、書類を纏
めているオダがいた。オダは、健とジョーに気が付くと、ふんわり笑って目礼した。5人
の横を抜けて行く。途中、ジョーが茶々を入れて揶揄う。
ふたりが交わす楽しげな談笑が、暫し、健の耳を苛んだ。
ねえ、あの子、だれ?とジュン。軍服だけど。
軍のITスペシャリスト。長官の相談役もやってる。と、ジョー。
あら。かわいいだけじゃないのね。彼、受付の女の子から食堂のおばさんにまで人気者な
のよ。要チェックね。名前はなんていうの?
天然。
てんねん?ええ?なんですって?
そう呼んでみな。返事するから。

飛行司令室の屋上から、ぼうっと宙を眺めていた。ISOの戦闘機が降りてきた。糸を引
くような滑らかな動き。ジョーだ。当人は車のほうが得意だし、好きだと言っているが、
実際には、その辺のジェット乗りより、ジョーのほうが戦闘機の操縦も巧みだ。
列線に戻った機の、前席からジョーが降りてきた。後席から、オダが。ジョーがオダに手
を差し伸べる。その手に縋ってオダが降り立つ。ジョーがオダに明るく笑みを投げかける。
オダが応えて、ジョーに屈託無く微笑む。

そこにいるのは俺のはずだ。
なぜ、お前が。

疲れやすくなっている健を気遣って、オダは、夜は早いうちに帰宅するようになっていた。
その日は、健の部屋でのITレクチャーだった。もうお開きにしようよ、というのを無視
して、夢中になって資料を追った。
「ユーリ、ここさ…」
と言いかけて、椅子に掛けたまま眠っているオダに気付いた。さらさらの細絹の黒髪。長
い睫毛。
−そら、やつとの任務は楽しいぜ。手間取らねえし。実際、綺麗な子だしな。
鎌首を擡げてきた想いを、心の一番奥底にねじ込んで蓋をした。

ベッドに運んでも、目を醒まさなかった。安心しきって深い寝息を立てている。指先をゆ
っくりと滑らせる。額から頬に、唇に、また頬に、耳朶に、首筋に、鎖骨へと。擽ったそ
うに身を捩ってシーツを被ろうと探す。その指を握った。
「…けん…?」
まだ微睡んでいる、シャツのボタンをひとつひとつ外していく。前を大きくはだけると、
薄暗い部屋に白い半身が浮かび上がった。瑞々しい肌、華奢な肩、伸びやかな四肢。あの
嫌なモノが、心の一番奥底で暴れ出し、蓋を押し上げてせり上がって来た。
あいつが抱くのは、女でなければ、俺だけだ。…だけど。
ジョーが部屋に戻らなくなって、もうずいぶん、経っていた。

鎖骨の窪みに舌を這わせた。
「健?」
さすがに目覚めた。健はのし掛かって下半身を封じ、腕を押さえつけると、胸の突起に舌
先を触れた。腹の下にある躰に緊張が走った。舌で執拗に嬲る。爪の先で摘む。顎が仰け
反る。目尻に涙が浮かんだ。
「嫌か?」
目蓋をしっかり閉じて、唇を噛み締めている。首だけ、小さく横に振った。
「じゃあ。ユーリ、目を開けて。俺を、見るんだ」
おそるおそる健を見上げる。その瞳を間近から凝視する。
「俺を好きか?」
今度は首を小さく縦に。
「だめだ。ことばにして、俺に聞こえるように。俺を好きか?」
お前に聞こえるように。お前の心に、間違いなく届くように。
「俺だけを好きか?」
「…うん…」
「最初から最後まで、ちゃんと言ってくれ。" 健だけを好き "って」
「健だけを…」
すき。胸に歯を立てた。ジーンズを一気に引き下ろして、ベッド脇に落とした。脚の間に
膝を入れる。それを手の中に包み込む。そっとそっと焦らせるように。
「何もかも、俺に任せればいい。…力を抜いて…お前の声が聞きたい」
いやいやをするように首を振る。乱れた黒髪が、白いシーツをざわざわとのたうった。猶
予を与えず、責め立てる。感じるんだ、俺を。融けるほどに。
「“健”って呼んでくれ。" 健だけを好き "って」
「…け…ん…。…あ…」
閉ざした唇が緩む。吐息が漏れる。けん。堪え切れずに身をくねらす。許さずに押さえつ
ける。そう、けんだけをすき、と。俺だけを好き、と。けんだけのもの、と。俺だけのも
の、と。掌の中で硬くなったものを、口に含む。途切れ途切れの悲鳴が上がる。舌で、指
で、容赦無く弄ぶ。
そうだ、からだの隅々まで、骨の髄まで、俺だけのものになれ。おれだけの。

汗の滲んできた躰を、這わせ、指で試す。息遣いが一層荒くなる。
「我慢できるか?」
「…健なら、…いい…」
細い腰を両手で引き寄せる、そして、そのまま、貫いた。躰がぐっと強ばった。
「動くよ」
ゆっくりとゆっくりと、腰を使う。息もつけず、細い指がシーツを掴む。間接が白くなっ
て、震える。悲鳴すらが掠れた。
「けん、って呼んでくれないのか?」
額の汗が鼻先に零れて流れ、白い背中に滴り落ちる。張りのある若い肌。項の白さが健の
目を射抜いた。一層に苛む。細く高い喘ぎ。そうだ、それでいい。
「いいよ。ユーリ、最高だ。お前は、こんなこと、俺としかしちゃいけない」
「…けん…健…」
健だけ、健だけが好き。譫言のように繰り返す。いい子だ。俺しか見えなくなっただろう?
もっと、鋭く深く、刻み込んでやる、鮮やかに、焼き付けてやる。
「悦いだろう?…達けよ。俺といっしょに…」

弓なりに撓った半身を受け止めてきつく抱き締める。頬を伝う涙を舐め取って、接吻ける。
縺れたまま、ベッドに倒れ込んだ。

**

疲れ切って再び眠りに就いた、力を失った躰は、健の腕の中でまだ熱かった。
丁寧に髪を撫でる。体中にキスを鏤める。かわいいユーリ、お前は俺だけのもの。もう、
離れない。ずっと俺だけのそばに。…それは、極上の呪い。

ダレニモ、ワタサナイ。

あいつは、おれの、ものだ。…おれだけの、ものだ…。


END < ENVY
注:このお話は、Breathe本編とは、一切、全く、金輪際、関係ありません(爆)




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