farewell 或いは June Bride 2

by ルーイ

決戦を間近に控えたその日、健がニケの演習場に5人で行こうと言い出した。
「今月を限りに、連中は古巣に帰るという話しだ。今のうちに、ちゃんと筋を通しておき
たい」
「筋?」
竜が首を傾げながら、健を見返した。
「どう言ったら良いのかよく分からない。ISOという最前線に来たせいで、彼らは最強
のときの半分になった。だからって、泣き言ひとつ言わないで、この街とISOを背にし
て踏ん張り続けたんだ。俺たちとも何度も一緒に飛んで、戦った。俺は、そんな彼らに、
覆面を被りっぱなしってのは、嫌なんだ」
「お礼参りにいくのかい?」
甚平。
「馬鹿、それじゃあ、お前、喧嘩売っとることになるじゃろうが」
「甚平のは間違ってるが、まあ、気持ち的には、ご挨拶ってことなんだろ?」
いいぜ、付き合うぜ。とジョーは言った。竜も甚平も頷いた。
「あたしは反対だわ」
ジュンが、きっと言い切った。
「わざわざ正体を曝すようなことをするのはナンセンスよ。相手は軍よ。今はいいけど、
いつ敵になるか分からないわ」
「ジュン。お前も見ただろう?俺を庇って墜ちたのは、あそこのナンバー2だ。それに、
大佐は俺やジョーのことは知ってて、黙り通してくれたんだぞ」
あの件の入院は長引いた。一時は病院から出勤する日々も続いたようだった。
「それがあの人たちの仕事なんじゃない。任務が変われば、あたしたちと対立することに
なるかもしれない。今だけじゃない、先のことも考えてよ。健」
健は酷く悲しそうにジュンを見た。言い過ぎた、とジュンは咄嗟に口を噤んだ。
とにかくあたしは反対だから、と言い置くと、ソファを立ち、ドアを走り抜けて行った。
健は項垂れ、3人は暫しジュンを見送った。
「お姉ちゃん、きっついよ」
いくらなんでも、と甚平がジュンを追おうと席を立った。ジョーが、それを制した。まあ、
ちょっとだけひとりにしといてやれや。
「ジュンの言うことが正しい…」
健は呟くように言った。俺が、甘えてたんだ、俺がひとりで行けばいい。
「いや、そうじゃねえ。あいつの悲しい性分でああいうきつい言い方になったがな、まぁ、
ホンネは違うところにあるのさ」
ジョーと竜、甚平の間で、無言の応酬があった。
「お前の機、ジュンがキレイに整備しただろ?」
健は訝しげに3人を見回しながら、頷いた。
「なんもせんと、いきなりパパパッとできるようにはならんわなあ」
「それは、竜やじいさまが」
「いくらジュンでも航空機はまだまだ。この糞忙しいのに、相手しきれんわ」
「あにき、こんなことにまで鈍いや。いたじゃん、超ヒマなプロがひとり」
な、と竜と甚平が顔を見合わせた。さすがの健も思い当たった。入院中の…。
「まあ、詳しい経緯はおいといて、ジュンはやつに、自分は俺たちの部隊のバックの新米
スタッフだと自己紹介したらしい。G1の乗機を整備できるようになりたいんですっ、て
な」
ああ、そうか、と健は思った。5人で行くと、嘘がばれてしまうのだ。
「そんな嘘、彼は気にも留めないぜ」
でも、ジュンが、嫌なんだろうな、と健は思った。
「お前の気持ちは、よおっく、分かってるのさ。けど、ジュンも女の子だ。小さな嘘の中
で、ちょっと遊んでいたかったのさ」
健はきょとんとジョーを見た。うまいこと言うねえ、さっすが。甚平と竜が腕で目を覆い、
くうっ、と泣き真似をした。

**

ひとり整備場に駆け込んだ。ここに来てしまうのは、もう条件反射だった。
やっぱりバレちゃうか、と思った。" 君は誰だ "と聞かれたとき、健やジョーと同僚だと言
ったら、途端に眉を顰められた(ような気がした)。特殊部隊の女の子なんか嫌い?と苦し
紛れに身分詐称。我ながら、下ッ手な嘘、と思った。

今にして思えば、随分、ド素人なことを訊きまくった。赤面してしまう。
レポート用紙に図解しながら、俺はなんでこんなところ(病室)でこんなこと(おサルの
ためのジェットエンジン解説)をしているんだ、と呟かれてしまった。てっきり、もう来
るな、と言われるかと思い、慌てて捲し立てた。

こういうのどう?あたしは、あなたの生き別れの妹なの。これ以上、美形で出来のいいの
が増えたら、余計ややこしくなるからって里子に出されたわけ。4つ違いで、ね、ありそ
うでしょ。ほら、だから、妹の面倒は見てやんなきゃ!

よくそんなことを考えつくな、と一層呆れられた。しまった、と思ったが、怒られなかっ
たから、いいや、と思った。

実際に機の内部に頭を突っ込むと、机上の予習など簡単にぶっ飛んだ。竜を捕まえて、鴨
を捕まえて、それでもどうしようもなくて、電話を掛けまくった。
そして、
−俺が手を出すとこなんか全然無いぜ、いつの間に。
健のあの一言。余りの嬉しさに、後先考えずに電話を入れた。午前3時だった。
良かったな、と言われた。周りが妙にざわついていた。実は、ISOで戦略シミュレーシ
ョンをしている最中だった。やっばー、と思って、早々に電話を切った。怒られなかった
から、いいや、と思った。

ああゆうお兄さん欲しかったなあ、とジョーにぽろっと零したことがある。背が高くてハ
ンサムで、どっか大人で優しいの。腕組んで歩いてみたくなるの。
で、案の定、あっさり笑い飛ばされた。
「背が高いハンサムな大人、は認めるぜ。でも、そんなのんびりしたタイプじゃねえよう
な気がするがな」
あんな短気なのとじゃ、ただの二人三脚になっちまうぜ。おいっち、に、って。
違うもん、元は気長で優しいんだから、とジュンは思った。出会ったシチュエーションか
ら、ジョーや健とは違っていた。戦場の辣腕将校と病院の入院患者。
甚平は弟、健やジョーや竜は、同列でライバル、そして友人だった。南部は父親みたいな
気がするが、やはりちょっと年齢に差がある。
10メートルでいい、腕を組んで歩きたいな、と思った。二人三脚じゃなくて。

今度は、多少、時間帯を考えて電話した。午前9時だった。
腕を組んで10メートル歩く、が目標だった。
ジュンは自分がどれくらいキレイでかわいいか、ちゃんと知っている。
あたしにデートしようって言われて、ノーと言える男は、うちの4人だけよ。
ただ、ロック関係者でも、バイク関係者でもない相手は経験不足だった。
「あの」
−なんだ。今度は何が分からないんだ。
「今日はそうじゃないの。あの。デー…、…ください」
ガラにも無く、照れて口籠もったのが拙かった。" デートしてください "。
−データ?それなら俺よりG1かG2経由でシーン中佐に言ったほうが早い。
タイミングも悪かった。ITどっぷりだったので、デーとくればタ、だった。
その後、長官から電話、と、どこからか呼ばれて、電話は切られてしまった。

もう、長官のすっとこどっこい!
八つ当たりだとは分かっていた。

**

本当に、生き別れのお兄さんだったらよかったのに、と思った。いろいろオネダリできた
かな。健のことも相談できたかな。どこかしら、物寂しかった。
でも、誰も傷付いたわけじゃない。嫌われても、怒られても、いいや、と思った。

少し、伸びをして、走ってきた廊下を歩いて戻った。
ドアが開くと、4人がまだたむろって居た。
「健。ちょっと、考えたんだけど、あなたの言う通りね。あたしも行くわ」


END < An extra story of Breathe [farewell]
注:このお話は、Breathe本編とは、ちょっとくらい関係あるかもです(爆)




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