Diary in May

by アリー



May 1st

 馬鹿な事をした。忙しい中、わざわざ病室に立ち寄ってくれたジュンを感情にまかせて
怒鳴り付けてしまったのだ。
 動作の一つ一つを気づかうように追い掛けてくる眼にはどうにも耐えられなかった。俺
はもはや仲間から気づかわれ、いたわられる存在でしかないのだろうか。俺はまだリー
ダーなのか?どうなんだ?
 ともあれ、全面的に俺が悪かったということは充分わかっている。ジュンはただ不機嫌
のとばっちりを喰ったにすぎない。俺も最低の男に成り果てたものだ。次に会った時に
ジュンはいつも通り微笑ってくれるだろうか?
 次に会う時?そう書いていて今、苦笑したところ。自分自身にどれだけ時間が残されて
いるかさえも定かでないというのに、俺はまだ未来の事を勘定に入れている。生来の楽天
的なとこがこんな時にも顔をだす。
 治療の方法さえ手探りな状況なのだと南部博士から説明を受けているというのに。


May 3rd

 戦闘の時以外はこの病室でほとんど閉じ込められるように暮らしている。現在の我が病
室をちょっと記述してみようか。
 ISOビルディングの22階に位置していて、病室の窓からの眺望は素晴らしい。眼下には
大小のビルが立ち並び、更に下の高速道路には玩具みたいに見える車が数珠つなぎに走っ
ている。西側のビルの彼方に水平線がかすかに見える。そのあたりにユートランド国際空
港があるため、飛行機がチカチカとライトを光らせながら次々と発着しているのをあきる
まで眺める事ができる。
 さて、それでは病室内だが、こちらはなんと殺風景でつまらないことか。ベットが一
つ。テーブルと来客用の椅子。それからDVDとTV。ベットの脇には私物入れと、それから小
型の冷蔵庫。
 病室にしては随分と広めだが、それもそのうちバイオリアクターのような大型の機械を
入れなければならない状況を想定してのことであろう。とりあえずこれが今俺を取り巻く
全世界なわけだ。ここでなるべく何もせずにぶらぶらしているのが今の俺に与えられた使
命である。本当に"退屈"の一言。
 俺は飛ぶ事以外、これといった趣味がなかったことに初めて気がついた。クロスワード
も音楽も飽きるまで三日と持たなかったな。だから、俺らしくもなくこうして日記を書い
ているのだが。


May 8th

 点滴を打つ間、二本映画を見た。一本目は「ライトスタッフ」という大空を飛ぶ事に全
てを捧げた男達の物語だ。前半部分の主人公であるチャック・イエーガーが興味深い。こ
んな風に全身全霊を飛ぶ事に集中できたらどんなにか幸せだろう。彼が愛機を駆って滑る
ように大空を飛んでゆくシーンを見、俺がかつて呼吸するように自然に空を飛んでいた事
を思い出す。イエーガー、あなたがうらやましい。俺は戦い以外はこうして地上につなぎ
止められているんだ。
 ニ本目は宇宙飛行士つながりということか「ノイズ」という映画で、これはB級。ジョー
のやつめ、適当に選んだな!飛行と書いてあれば俺がよだれをたらすと思っていやがる。
こんど顔みたらうんと文句を言ってやろう。あのいかつい口を尖らせて、どう言い訳する
やら楽しみだ。


May 10th

 体調が最低。戦闘でアレを使った後、頭痛と吐き気が止まらない。今日はこれ以上書け
ない。


May 11th

 昨日は最悪な一日だったが、リアクターのお陰で今日は嘘のように回復している。空は
青く、雲は薔薇色に染まり、金色の陽射しがビルの窓を透過する。世界は相変わらず美し
い。こんな日は希望というものが信じられるような気がする。
 総裁Zとの戦いに勝って治療だけに専念すれば俺は生き延びられるのではないかと思えて
くる。バイオリアクターに身体がよく反応しているし、その他複合的な治療によりある程
度の効果を見込めそうだと南部博士が教えてくれた。どうか奴等を倒すまで身体が持ちこ
たえてくれますように。


May 13th

 今日は南部博士の葬儀に参列した。


May 25th

 ここのところ、どうしても日記を書く気持ちになれなかった。なんという悲劇。我々は
誰よりも大事な人を失ってしまった。どうやってこの試練に耐えれば良いのだろう?
 あの瞬間思い出す。何度も、何度も。なぜ博士を守る事が出来なかったのか。


May 31st

 午後ジョーと雑談をしていたら、ガキの頃イタズラや訓練に明け暮れた日々など要する
にすっかり忘れていた昔話を思い出した。
 人間の脳というのは意外に優秀なもので、この無数の神経細胞とシナプス回路の中に生
まれてからの記憶が全部しまってあるのだと聞いた事がある。
 と、なると、人が死の直前に走馬灯のように一生を思い出すというのは充分あり得るこ
とだと俺は思っている。それどころか、実のところ俺は脳内で上映される人生最後の映像
を案外と楽しみにしているんだ。
 例えば戦闘前に緊張気味の顔でこっちを見るお前。例えば砂浜に座り込んで黙りこくっ
たまま二人で何時間も海を見ていた思い出。例えば月明かりにぼんやり白く浮かび上がる
お前の・・・。

 おっと、くだらないことを書いているから、ほら出動のアラームが鳴ってしまったじゃ
ないか。さぁ、行こう。今日こそ総裁Zと決着をつけてやる。
 まてよ、何か書き忘れたことはなかったっけ?..........思い出した!
 I love you till I die.
 
 
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 "全てが終わった"後、ジョーが健のベットの枕の下から見つけた日記はそこで終わって
 いた。
 ジョーは読み終わるとノートを握りしめ、人目も憚らず哭いた。
 
 
 
 THE END


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