鷲尾 健 自らを語る

by アリー


(簡素なスタジオの中で、大勢の人間が忙しそうに立ち働いている。)

(スーツの男がスタジオ内のセットのソファに腰を下ろし、自分の前に置いてあるマイク
のテストをしている。)

(スーツ姿の健がスタジオの入口から歩いてやって来る。スーツの男はソファから立ち上
がって健を出迎える。健はセットの中にある椅子に腰を下ろすと、せかせかとアシスタン
トがやって来て健の胸元に小さなマイクを取付ける)

ボブ:どうぞ、リラックスしてインタビューに答えて下さい。お約束通り顔は絶対に写し
ませんし、声も変音器で変えるようになっています。
私は今日のインタビュアーを務めるボブ・ムーアといいます。よろしく。

健:よろしく、ボブ。(ボブと健、握手を交わす)

ボブ:インタビューを承諾してくれてありがとう。特殊部隊の人間に出演してもらえると
は思っていなかったよ。

健:なかなか強気な出演依頼だったそうですね。南部博士から聞きましたよ。

ボブ:我々ジャーナリストは、戦いの実像に迫り、それを未来に向かって残してゆくこと
が第一の使命だと考えているものでね。
ところで、君のことはインタビュー中なんと呼べばいいのかい?

健:ああ、俺のことはk・・・ケイと呼んで下さい。

ボブ:オーケー、Mr.ケイ。さあ、それでは始めようか。

(ボブと健に照明があてられる。スタジオ内のざわめきが静まる)

ディレクター:5秒前、4、3、2・・・・。

(ディレクターがスタートの合図をする)

(カメラの画面にボブの顔がアップで映る)
ボブ:ギャラクターとの戦いは、それまで対立に満ちていた国々を世界平和という一つの
目的の為に強く結び付けることになりました。そして各国は国連軍という形で協力し合い
ギャラクターに対し共同戦線を張ります。それは21世紀初頭の国際情勢から考えると、
信じられない状況でした。外圧が内部の結束を固めるというセオリーが図らずも証明され
ることとなったのです。そして大戦中、この国連軍とISOがギャラクターに対抗する中心
的役割を果したのです。
さて、今回のゲストを紹介しましょう。

(カメラ、健の胸元あたりを写す。)

ボブ:ISO所属の特殊部隊の兵士として長らく戦闘に参加したMr.ケイです。よろしく、
ケイ。

健:よろしく。ボブ。

ボブ:彼は、現在も特殊部隊の一員である関係上、インタビュー中、顔を映さず音声も変
えていますが、許される限りの内情をお話してくださるよう、それぞれの筋より了解を
とってありますので非常に有意義なインタビューになると思われます。
さて、最初の質問ですが、あなたがこの戦いにかかわったのはいつ頃からなのでしょうか?

健:最初からです。我々は・・・つまり俺はある特殊部隊の一員として戦闘に参加してい
たのですが、結局始めから最後までこの戦いに関わることになりました。

ボブ:最初というと、カメに良く似たタイプのメカとの戦いの頃からですか?なんと言い
ましたっけ。ええっと、タートル・・(笑)なんでしたっけ。

健:タートルキングです。(苦笑)

ボブ:ベタな名前ですよね。(笑)
とにかくこの個性的な形状の、型破りのメカと遭遇した時の感想をお聞かせ下さい。

健:自分にとっても始めての作戦だったので、多少の気負いはありました。けれども、そ
の時点まで充分な訓練の日々を送っていたので、戦い自体に驚きというものはありません
でした。仲間と言い合ったものです。「ああ、訓練と同じじゃないか」ってね。

ボブ:恐怖というものは感じませんでしたか?

健:感じない・・といえば、それは嘘になりますが、我々は戦士としての訓練によって恐
怖をコントロールする術をもっていました。更に、ギャラクターに関して豊富とは言えな
いものの、ある程度の情報は持っていましたから、どぎもを抜かれたという訳ではありま
せん・・。しかし、彼等の科学力には驚きましたね。あのメカの攻撃力にも。

ボブ:タートルキングから始まって、戦いの当初は随分後手に回っていたような印象があ
りますが、それは彼我の科学力の差が原因だったのでしょうか?

健:確かにギャラクターは科学力は眼を見張るものがありましたが、自分としては圧倒的
な差は感じませんでした。こちらにはなんと言っても南部博士がいましたからね。まあ当
初は、ギャラクターの正体がはっきりわかっていなかったという点で、彼らが攻撃、こち
らが防御というのは仕方がない亊だと思います。

ボブ:実質的にそれらの戦いのイニシアチブを取ったのは南部博士だったそうですね。ど
うです、彼は軍人ではありませんが作戦を立案する上で不安を感じたことなどなかったの
ですか?

健:ええ、博士は科学者でしたが、敵の科学力を正確に理解し作戦を立案できるのは南部
博士以外にはいませんでした。

ボブ:では、いわば軍事の素人が指揮を取ったという訳ですか?

健:(少々ムッとして)博士の作戦は最善のものでした。実際にその作戦で戦い続けた俺
が言っているのですから間違いありません。博士は必要に応じていろんな専門家の意見も
参考にしていたと思います。

ボブ:いや、もちろん私も博士の業績の偉大さには本当に感銘を受けていますよ。なにし
ろ地球を救った立役者の一人ですからね。
ということは、南部博士はギャラクターに関する第一人者で、彼等の正体については誰よ
りもよく存じていらっしゃったということですよね?

健:(誇らしげな表情で)そうです。南部博士の深い知識と鋭い観察力と適切な作戦がな
かったならば、勝利はあり得なかったと、俺はそう思っています。しかし、博士でさえ、
彼らの真の狙いや全貌を知るまでは長い時間がかかりました。ギャラクターは実に巧みに
その正体を隠していたのです。彼等の正体は、戦いを続けてゆく中で、ジグゾーパズルが
完成してゆくように少しずつ解り始め、それに従って我々も次第に攻勢に転じるように
なったのです。

ボブ:そして、ついに総裁Xが宇宙人であったという亊も判明したのですね。

健:うーん、宇宙人というには語弊がありますね。それはあまりにも俗っぽい言葉ですか
ら。総裁Xは、映画や小説の中に見られるような"宇宙人"ではなかったようです。我々の
チームも敵基地に潜入しての任務などを随分こなしましたが、その実体を見たことはあり
ません。なにしろ最終決戦から一年経った現在もISOの研究部門がクロスカラコルムの基
地の残骸を未だに調査中なのです。

ボブ:では、総裁Xは典型的な宇宙人想像図にあるようなタコの化け物のようではなかっ
たんですね。

健:(苦笑)違います。

ボブ:それはいったいどんな風だったのでしょう。

健:南部博士は"地球外生物"という表現をしていました。それは精神集合体であり、また
同時に物質であるとも・・・おわかりになりますか?

ボブ:お手上げですねぇ。(笑)

健:俺もですよ。(笑)これを理解できるのは南部博士と同等のレベルの知識の持ち主だ
けでしょう。

ボブ:この話題に関しては、もっと科学的な取り組みの番組にゆずるとして・・・。
それでは、話題を変えましょう。Mr.ケイ。あなたが一番印象に残った戦いは何ですか?

健:改めて振り返ってみると我々は本当に多くの戦いに参加し、どれもがまるで昨日の事
ように思い起こされますが・・・。そうですね、南部博士が建造し、あの当時ギャラク
ターに対する唯一の砦であった海底基地が破壊された事。あのショックは大きかった。

ボブ:"三日月基地"の愛称で知られた基地ですね。

健:そうです。結局、機密保持の為、我々の手で基地を爆破することになったのですが、
目の前が真っ暗になるとはああいう心地かと思いましたよ。

ボブ:確かにあの出来事は大戦中、我々もショックを受けました。基地で働く人々の犠牲
も多かったと聞いています。

健:今思い返しても怒りが改めて湧きます。ギャラクターは戦闘員、非戦闘員の区別なく
戦いを仕掛ける酷い奴らだった。

ボブ:(深く頷いて)全くその通りです。戦争の中でもっとも醜い部分です。
Mr.ケイ、特殊部隊の一員として戦闘状態が日常であったということで、君も死とは常に
隣り合わせだったのですか?

健:(青い瞳でじっとインタビュアーを見つめる)俺は死神から嫌われ続け、とうとう戦
いを生きのびることができましたが・・・掛け替えの無い友人を失いました。

ボブ:(眉をひそめて)大変お気の毒なことです。Mr.ケイ。君の任務の性質上、作戦行
動中の死亡率は随分高かったのでしょうね。

健:いや・・・。
そんなことはなかった。我々は本当に良いチームで、厳しい訓練と南部博士の的確な作戦
によって、損失すること無しにこの大戦のほとんどの時期を過ごすことができていた。だ
から、半ば自らの亊をこう思うようになっていたのかもしれない。"俺達は特別だ!俺達
は若く、強く、決して死なない"ってね。・・・・・馬鹿みたいだろ。でもその時は本気
でそう信じ込んでいたんだ。

ボブ:わかりますよ。Mr.ケイ。そう信じなければ
危険な任務に赴くことなど出来ないでしょう。

健:・・・大切な友人を失ったのは地球の存亡のかかった最後の戦いの時でした。あと少
しであいつも生き残れたのに・・・。(唇をきつく噛み締める)

ボブ:それは、まさに悲劇ですね。

健:(皮肉な表情で)最近ね、南部博士の調査チームがクロスカラコルム基地跡をいろい
ろ調べて新しい事実が判明したのです。

ボブ:それはどんな亊ですか?

健:いや、多くの人にとっては、それは何の価値もないニュースかもしれませんが、俺に
とっては胸がつぶれるような思いを味わいました。

ボブ:と、言うと?

健:最後の戦いは地球のマントルに向かって総裁Xがミサイルを発射し、地球を破壊する
ことを目的にしたものでした。我々は敵基地に潜入し、あらゆる手を尽くしてミサイル発
射を止めようとしましたがうまくゆかず、最後のミサイルの発射カウンターが一秒ごとに
時を刻んでゆくのを胃が焼け付くような思いで見つめるしかありませんでした。その時、
まるで奇跡のように、何かの原因で最後のミサイルが発射されなかったのです。我々がど
うしても破壊できなかったミサイルがですよ。

ボブ:それは、なぜ?

健:ミサイル発射装置の歯車に親友の愛用していた武器が挟まってました。それが歯車を
止め、ミサイルを止めたのです。・・・俺はつい昨日、その事実を知りました。

(数瞬の間、スタジオに沈黙が流れる)

ボブ:それは知られざる歴史の側面ですね。ミサイルの発射停止が、あなたの親友が命を
投げ出した結果とは・・・。
なんという事実でしょう。あなた方の大きな犠牲と勝利への努力によって我々はこうして
ここにいます。こうした無数の人々の貴い犠牲によって平和が築かれたことを我々は忘れ
ないようにしなければなりません。
ところで、地球に平和が訪れたという第一報が伝わった時は、多くの人々が平和を祝福し
歓喜の声を上げて喜びました。もちろん私もスタジオで悲鳴のような歓声を上げてニュー
スを伝えましたよ。ライブ番組の最中でしたのでね。Mr.ケイ、君は戦いを終えた瞬間を
どのように迎えましたか?

健:平和が訪れた瞬間は、うれしいというよりも疲れ切っていて、そして、友を失った悲
しみに圧倒されていました。その時目にした朝日がやけに眩しく沁みたことを覚えていま
す。帰還した後、仲間と一緒に人類の勝利を告げるTVのニュースの画面をただ眺めてい
ました。画面の熱気が、その時の自分の気持ちとあまりにも懸け離れていたので、どこか
遠い世界の出来事のように感じたものでした。我々は勝利に酔うという気持ちにはなりま
せんでした。払った犠牲があまりにも大きかったので・・・。
戦いが終わったのだと実感したのは2カ月も3カ月も後の事でした。

ボブ:君の中では非常に辛い戦いだったのですね?

健:(うなずく)それは濃縮された人生の瞬間の連続でした。激しい戦闘のくり返し、そ
の中に敵の罠があり裏切りもありという状況で、当時俺は十代後半でしたが、そんな若造
にはキツイ経験でしたよ。そうかと思うと、逆に人間の崇高な一面に触れる思いをしたこ
ともありました。自分は戦いを経験しなければ、もっと違った人間になっていたでしょ
う。

ボブ:例えば、どんな?

健:うーん、そうだな。もっと気ままで、気楽で、鳥のように自由に人生を生きていたん
じゃないかな。

ボブ:それが変わってしまった?

健:ええ・・・。けれど、後悔はしていません。これが俺の人生ですから。

ボブ:では、最後の質問です。
何が君を戦いへと駆り立てたのでしょうか?

健:(数瞬の間、インタビュアーを見ている。やがて、ぼそりと呟く)責任と誇り・・・
だと思います。

ボブ:今日は率直な意見をありがとう。Mr.ケイ。

(二人の男は握手を交わす)

ディレクター:カット!

(照明が落とされる。スタッフが器材を片付け始める。)

ボブ:いい番組を撮ることができたよ。ありがとう、ケイ。(ボブは健の肩を叩きながら
席を立ち、スタッフと賑やかに会話を始める。)

(健は椅子から立ち上がり、ひとりスタジオの出口に向かって歩き始める。)

(途中、健はふと足を止め天を仰ぎ見る)


健:ジョー、お前はそこにいるのか?いるんだろ。お前が命を賭して手に入れた平和に
、俺はこんな風にひたっているのさ・・・。
だけどな、ジョー。実際、お前がいなくなって、さびしい。

(しばらく天を仰いでいた健、深いため息をつき再び歩き始める)

(スタジオの扉を開け、顔を上げ外へと出て行く)

END


Art by phantom.G


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