LOVELY4<脱出!>

by アリー

 10キロ四方にガソリンスタンド一軒すらない道の路肩にシルバーのベントレーが
停車していた。そのベントレーのボンネットから白煙がモクモクとでている。南部は
苦虫を噛み潰したような顔で運転席から出る。ジョアンナも煙の為に咳き込みながら
車から出てきた。
南部はボンネットを開けようと手を掛けたが、弾かれたように跳びすさった。ボン
ネットはすでに熱のため触れないほど熱かった。
「くそっ!」
南部にしては珍しく怒りをあらわにして、ベントレーの前輪を蹴り上げた。健や
ジョー、そしてアニー達を救うために一刻も早くISOに行かなければならないのに、
こんな平原のど真ん中で故障とは何たることだ!
その時一台の大型トラックがギラギラとライトを光らせ疾走してきた。南部は両手を
広げ道のまん中に出て必死にトラックを止めようとしたが、耳をつんざくようなクラク
ションと濛々たる埃を残し、トラックはスピードを緩めもせずに走り去った。
「博士、ほら手を出して!あー、赤くなってるわ。やけどしてるじゃないの。」
ジョアンナは呆然としている南部の手を取り、ボトルの水をかけた。
「そんなにカッカしていたら、よい知恵も浮かばないわよ。」
無神経なのか強心臓なのかジョアンナはピリピリしている南部に平気で話し掛ける。
睡眠不足と疲れと心配で南部の忍耐は限界へと達し、とうとうジョアンナに向かって
声を荒らげた。
「この大事な時に車の故障か!もとはといえばロケ地から脱出した時、君が車を柵に
ぶつけたのが故障の原因じゃないか。どうして君は平気な顔をしているのかね。
見てみたまえ、ここは360度地平線が見えるド田舎だ。おまけにこのいまいましい
看板には街まであと20Kmと書いてある。は、20キロだぞ!こうしている間にも
刻一刻と彼等の命は危険に晒されつつあるのだ。」
ジョアンナはちょっと驚いたように南部の顔を見つめたが、やがて、ニカッと笑って
しゃべり始めた。
「あたし、今、ちょっとだけ博士の亊を見直したわ。」
南部はジョアンナの反応に意表を突かれ、次なる言葉を飲み込んだ。
「さっきまで博士って冷たい人だと思ってたわ。作戦、計算、論理・・・博士の
興味あることってそれだけだと思ってた。だって、自分の部下が敵に捕まっても平然と
しているんですもの。だけど、本当は健やジョーのことが心配で心配でしょうがない
のね。」
南部は不思議な生物でも見るような表情でジョアンナを見下ろした。彼女は南部の
人生の中でも出会った事のないタイプの人間であることは間違いない。
「誰かの亊を想っているなら、今みたいに我慢しないで、カッコもつけないでもっと
素直に自分を出したほうがいいと思うよ。博士は、はっきりいって感情表現がヘタ
なのよ。ぜーんぜん伝わらないよ。・・・・アニー・ロッセリーニにもね。」
南部は目を丸くしてジョアンナを見つめていた。しばらくの絶句ののち、途切れ
途切れにやっと言葉を絞り出した。
「私が、君の言葉に、このように感銘を受けるとは、なんとした亊だろう。」
「ちょーっと!博士、なんか、それ失礼なんじゃない?アドバイスしてあげたって言う
のに。」
ジョアンナはふくれてみせた。
南部は苦笑した。
「そうか、そうだな。私も今、この瞬間、君の亊を少しだけ見直したよ。ジョア
ンナ。」
「あたしたち、良い友達になれそうじゃないの。」
ジョアンナは手を差し出した。南部は目の前でにっこり笑う天使のような容姿を持った
傍若無人な娘をしげしげと見つめた。それから、いかにも学者らしい白い細っそりした
手を差し出し握手した。
「わからないことがあったら、なんでもあたしに聞いて!友達のよしみで教えてあげる
から。」
南部は驚いたことに、この生意気でこましゃくれた物の言い方をする娘に好意に近い
感情が芽生えていた。
 ジョアンナは元気よく南部の背を叩いた。
「さ、元気だして、私、ヒッチハイクは得意なのよ。物には"やり方"ってものが
あるの。博士、悪いけど隠れていて。」
ジョアンナは張り切って道路を照らす街灯の下に歩いていった。
南部は言われるがままに故障したベントレーの陰に身を隠した。夜空を見上げると、
月は中天にかかり皓々と寂しい荒野を照らしている。こんな時間に通るのは長距離
トラックぐらいなものだ。いくらあの子でも、こんな平原のど真ん中で車を止めるのは
不可能だろう。
 キキーーッ。
そう南部が考えを巡らせていると、程なく車が急停車する音がした。街灯の下で
ジョアンナは親指を隣町の方角へ立てて胸をそらし得意げなポーズを取っていた。
そして、その脇には業務用車と思われるセダンが停車している。ジョアンナは大声で
運転手と交渉をし、それから南部に向かって跳びはねながら手を振った。
「はかせーっ、早く来てーーっ!行くわよ。」
びっくりして運転席から顔を出した若者は、くしゃくしゃの髪形に皺の寄ったワイ
シャツ姿の南部の姿とうれしそうに手を振って迎えるジョアンナを交互に見て、
あっけに取られている。
「さぁ、乗って、乗って!彼がユートランドシティまで連れて行ってくれるって!」
ジョアンナは得意満面の表情で後部座席のドアを開け乗り込んだ。南部も後に続いて
乗り込むと、運転席の純朴そうな若者はがっかりとした様子で南部を見た。
"カワイ子チャン一人きりだと思ったら、こんな変人で気難しそうなオッサンが一緒
とは、な"という心のつぶやきが聞こえてくるようだった。
「ユートランドシティでいいんだよな。」
若者はやけくそになってアクセルを踏み、猛スピードで車は走り出した。
南部は胸をなで下ろした。健、ジョー、アニー、待っていてくれ。もうすぐ救援を
送るから・・・・。
 それから、南部はジョアンナの顔をふと見直して聞いた。
「さっきの話しの続きだが・・・君はどう思う?私の気持ちはアニーにぜんぜん
伝わってないのだろうか?」
ジョアンナはニカッと笑って言った。
「それは無理ね。」


"ピーッ"
カードリーダーの電子音と共にドアの脇にある赤い点灯サインがグリーンに変わり、
ロックが解除される音がした。
キースを先頭にして健、ジョーの順で研究棟へと足を踏み入れた。ギャラクターの
緑の制服を身につけ監禁されていた倉庫から抜け出た三人は、研究棟内の通路をゆっく
りと歩いて行く。
建物の内部は白を基調としていて、清潔だが無機質な出口のない迷路といった印象を
与える。
研究棟には健やジョーが予測していたよりも大勢のギャラクター隊員がいた。ラウ
ンジのドアを押し開けた時にはさすがの健とジョーも思わず眼を見張った。広いラウン
ジには、なんと数百人ものギャラクターたちが居たのである。キースに従って健と
ジョーはギャラクター隊員達がくつろぐ真っ只中に足を踏み入れた。
「南部博士のボディーガードとはいえ、あんた達、並の人間じゃあないな。」
何百人というギャラクターとすれ違いながらも、その誰からも意識されずに歩いて
いく健とジョーに対してキースは感心したように声を洩らした。
「例えばあの女優さんは、ただ黙って立っているだけでどこにいても鮮やかに浮き
上がってしまうだろ。それとはまったく逆に、おまえ達はまるで保護色の恩恵を受けて
いるみたいに、何の違和感もなく周囲に溶け込んでいるじゃないか。」
「俺達もそれなり訓練をしてるってわけさ。」
ジョーはちょっと気取って言い、そして、さりげなくあたりを見渡した。広々とした
ラウンジには白いテーブルが並んでいて大勢の隊員達が雑談をしたり軽食を取ったりし
ている。
周囲に気を取られて二人から遅れてしまったジョーは、追い付こうとして気が焦り、
正面から来た人物とすれ違った拍子にうっかり肘をぶつけてしまった。
「おっと、失礼。」
「待て。」
その険悪な声の調子に三人は振り返った。白衣を着た研究員がジョーを睨み付けて
いる。その男の手にしたトレイの上ではカップからコーヒーが溢れだし、その男の
白衣にも茶色の染みをつけていた。
「コレを見ろ、どうしてくれるのだ。」
「ああ、すまなかった。わざとじゃないんだ。」
男の尊大な物言いにカチンと来るものを感じたが、ジョーは取りあえず下手に出て
謝った。
「兵士の分際でなんだその態度は!オレの白衣をクリーニングに出してこい。
この愚図め。」
その研究員はコーヒーカップをテーブルの上に置いて白衣を脱ぐとジョーに投げ付
けた。
「ジョー。」
健が小声でささやいた。
 オーケー、了解しているぜ、健。せっかくうまく潜入しているんだ。この馬鹿の言う
ことなど屁とも思わないさ。ジョーは腹の中でゆっくりと数をかぞえながら、ひき
つった笑顔を健に向けた。
 そう、それは子供の頃から短気なジョーに繰り返し南部が諭してきた教えだった。
"ジョー、腹が立ったときは深呼吸をしてゆっくり10数えるんだよ。そうすれば
我慢できる。君ならきっとできるさ、ジョー。立派な男はここぞという時以外は
怒ってはいけないのだ。"
 しかし、その直後、南部愛用の眼鏡をふざけて掛けていて壊した亊がバレてこっぴ
どく怒られ、子供心に"これがここぞという時か"と疑問に思ったジョーではあったが・・・
一方、研究員は逆らいもせずに頭を垂れているジョーを見くびり、弱いものをいたぶる
喜びに身を任せた。
「こっちは汚染事故以来、ろくろく寝られない程対策に追われているというのに、
気楽なものだな、お前らは。ええ?この無駄飯ぐらいが!」
男はニヤリと笑うとテーブルの上に置いてあるコーヒーカップをジョーの頭上に
掲げた。ジョーは男を睨み付けた。
"シックス、セブン、・・・そいつをオレにかけてみろよ。エイト、・・・おまえの
弱っちいアゴを・・ナイン、拳でぶち割ってやる・・・。"
 研究員の手首が回ってコーヒーカップが傾けられた。
「テン!」
ジョーが呟き拳を固めた瞬間、キースがジョーの前に立ちはだかりまだ湯気を
立てていたその褐色の液体を頭上に受けた。
一瞬周囲が静まり返って、石像のように佇立する研究員とキース、そしてジョーに
視線が集まった。
「こいつはひどいぜ。」
一人のギャラクター隊員が声を上げた。そして、その声をきっかけとして不満を表す
声はさざ波のように周り集まった野次馬達に広がっていった。基地内ではあらゆる面で
優遇されている研究員と一段低く扱われている平隊員の間に深い溝が存在していたが、
それはこのような些細なきっかけからも不満が噴出するほど深刻な問題となっていた。
もちろん、健とジョーはそのような事情を知るよしもなかったが、白衣組と緑の戦
闘服組の間のただならぬ雰囲気に二人は耳をそばだて状況を把握しようと努めた。
「お、おい。」
友人らしき男が研究員の袖を引いた。研究員はあたりを見回して、周囲の雰囲気が
険悪になっていることに初めて気がついたようだった。研究員は自分の気晴らしが
とんだ騒ぎになりつつあるのを知り焦った。顔を真っ赤にして左右を見回し、床に落ち
ている白衣を拾うとそそくさとその場を去っていった。
主要人物が逃げ出してしまうとその場に充満した緊張はあっけなく解けて人垣も崩れ、
ラウンジはもとのザワザワとした風景の戻った。
ジョーは驚きの表情のまま立っていた。キースは見知らぬ兵士が投げて寄越したクロ
スで顔をぬぐっていたが、"行こう"というゼスチャーをすると身をひるがえし先へと
進んだ。健もキースの後に続いて歩き始め、通り過ぎる時にジョーの肩をひとつ叩
いた。


「いつ事故が起こったんだ?」
健は小声でキースに尋ねた。ラウンジを抜けた三人はエレベーターホールで立ち
止まり、上階へ向かうエレベーターに乗り込んだ。
「三日前の深夜だった。」
キースは相変わらず低い声でつぶやいた。
「この研究所の兵士の内、ほぼ三分の一がゾンビ化したんだ。恐かったぜ、つい
さっきまで一緒に冗談をいっていた奴が、深夜に廊下や庭、とにかくいたるところを
うろつき、襲いかかってきたんだ。」
「そりゃあ、すげえな。」
「すぐに被害を受けた者を皆で押さえ付けて解毒剤を投与して・・・。研究所の所長は
すぐに拘束され事情聴取のためどこかへ連れていかれた。そんなこんなで、解毒剤を
管理する部署は大忙しだし、研究棟の警備も手薄だ。普段だったら、いくらなんでも
こんなに簡単に侵入はできないさ。」
なるほどというように健はうなずいた。
白い廊下を進んでいくと突き当たりに"第一研究室"というプレートが掲げられて
いる部屋があった。キースは健とジョーに向かって目配せをした。
「いくぞ。」
健は一つ深呼吸をすると、ノックとともに室内に入り込んだ。
研究室の内部では白衣を着た隊員たちが装置に取り付き、忙しそうに立ち働いて
いる。一番近いデスクに近寄ると、健はまじめそうな表情を浮かべ研究員に話し
かけた。
「解毒剤を取りに来ました。」
中年の研究員は頷くと、奥に向かって声を張り上げた。
「ドクター・マッコーリ!」
その声を聞いてひときわでっぷりとした男が装置から顔を上げ、健達に近づいてきた。
「遅かったじゃないか。準備は出来ているぞ。おや、マークはどうした?。」
「ドクター・マッコーリでいらっしゃいますね。マークは輸送の準備に忙しいので、
替わりに我々が取りに来ました。」
ドクター・マッコーリは自らのデスクの上からアタッシュケースを持ってきた。
「これが現在保管している全ての解毒剤だ。」
ドクター・マッコーリはそう言いながらアタッシュケースを開けてみせた。中には
透明な液が入っているアンプルが緩衝材の間にきっちりと詰め込まれていた。
 健はドクター・マッコーリの差し出した用紙に受け取りのサインをした。
「ふむ・・・ふむ。後日必ず命令書がくるんだろうね。」
ドクター・マッコーリは念を押す。
「ええ、勿論ですとも。」
健は笑顔でうけおった。ジョーは神妙な顔でアタッシュケースを左手に下げた。
ドクター・マッコーリが仕事に戻るために背を向けようとすると、健は再び声を
かけた。
「ドクター、申し訳ありませんが、もう一つお願いがあります。」
ドクター・マッコーリはめんどくさそうに振り返った。
「まだ、なにか用か?」
「すみませんが、白衣を何着か貸して頂けませんか?」
「白衣を?いったい何に使うんだ?」
健は肩をすくめてみせた。いかにも上司の言うことに逆らえない部下といった風情だ。
マッコーリーはしぶしぶとロッカーに首を突っ込み探し始めた。
"疑われないためには、ずうずうしく振る舞うことだ。そうすれば相手は、かえって
君に安心感を抱く"と、昔、心理学の教官に教わって以来、健はその教えを忠実に実行
している。
サンキュー、先生。あなたの講義は立派に役立っていますよ。健は遥か昔に世話に
なった教官の面影をふと思いだした。
「今、予備の白衣は二着しかないが、それで足りるのかね?」
「ええ、ありがとうございます。」
マッコーリは探しだした白衣を健に手渡した。
「他には何かないのかね?」
マッコーリは目をぎょろりとさせ、多少嫌みまじりに聞いた。健はニッコリと晴れ
やかな笑顔を浮かべ礼を言うと、ドクター・マッコーリは三人にさっさと背を向けて
大きな体をゆすりながら仕事に戻っていった。


健、ジョー、キースの三人が倉庫兼監禁用の部屋に戻ると、アニーは両手を胸の前で
祈るように合わせ、ほっとしたように息を吐いた。
「無事でよかった!」
だが、三人の男の表情は厳しいままだ。この研究所のゲートを出る瞬間まで油断はでき
ないことを戦いのプロである三人はよく知っていた。
「ジョー、今何時だ?」
「夜十一時を回ったところだ。」
ジョーは即座に答えた。ギャラクターを欺き解毒剤をまんまと手に入れたが、時間が
経てば経つほど計画に齟齬をきたす可能性は高くなる。ましてや、今回のように、
急造で建てた計画なら尚更の亊である。
健は左手首の瞬きを繰り返すブレスレットを見つめる。それは、この研究所の場所を
知らせるべく電波を発進し続けていた。南部が脱出に成功し、順調に亊が運んで
いれば、そろそろユートランドシティのISOにたどり着いている頃だ。ゴッドフェ
ニックスや国連軍がこの電波に誘導され漆黒の空を近づいてきているはずである。
健は目をそっと閉じ、ひとつ深呼吸をした。さぁ、いよいよ戦いの幕があがる。
 自然と健を囲むように皆が集まる。健はうなずいて説明を始めた。
「脱出の為に、俺達がここへ来た時に乗せられたあのトラックを頂くとしよう。
キース、トラックの鍵はどこで保管してあるんだ?」
「駐車場の手前にある警備員の詰め所で車両の鍵の保管をしている。」
「よし、ジョーとアニーは研究所員を装い、俺とキースは移送のための兵士のふりを
する。俺とキースが警備員をうまくごまかして車のキーを手に入れる。そして、手に
入れたトラックでゲートを突破する。もしかしたら、多少荒っぽいことになるかも
しれない。ジョー、お前がアニーと解毒剤を守ってくれ。」
健はそこで言葉を切って、アニーを振り返った。
「もし、ドンパチが始まったら、その時はアニー、ジョーの命令に必ず従ってくれ。
いいね。」
健は"命令"という言葉に力を込めた。そう、彼等の棲む世界では"命令"は絶対で
あり、お互いの命を賭ける約束なのだ。アニーはこの若者達の生きる世界の厳しさを
垣間見た心地がした。
「わかったわ。」
「では、ギャラクターのユニフォームに着替えて、その上にこの白衣を羽織って
くれ。」
健は服と白衣を手渡した。アニーはうなずき、物陰に着替えにいった。
健はジョーに残りの白衣を手渡し、ジョーが白衣に袖を通し終わるのを待って
アタッシュケースを渡した。
「頼むぞ。」
「ああ。」
二人はいつも通り、短い言葉でお互いの意志の全てを伝えあった。


キースは、ひとり部屋の片隅でギャラクターの警備兵マークから取り上げた拳銃を
手に取ると、腰のホルスターにしまおうとしていた。ジョーはキースに近づき、右手で
その拳銃をゆっくりとつかんで取り上げた。キースはハッとジョーを見上げた。
「あんた・・・まだ、俺のことを疑っているのかい?」
その声には悲しさとくやしさがにじんでいる。
ジョーは黙ってキースから取り上げた拳銃を部屋の隅に置いてあるゴミ箱に放り込
んだ。そして、次に、厳重な身体検査をものとせずに、何処かに隠し持っていた愛用の
コルトを取りだすと、キースに向かって差し出した。
「お前はもうギャラクターじゃないんだから、あんな銃を使うんじゃない。」
キースは自分の手の内のコルトをしげしげと見つめ、それからジョーを見上げた。
ジョーの灰色の瞳は"いいんだ"というようにもかすかにうなずいた。
キースはそっとコルトを構えた。良く手入れされたグリップは手にしっくりとなじむ。
キースはジョーのコルトを腰のホルスターに入れ、心底うれしそうに言った。
「ありがとう。ジョー。」
ジョーはキースの肩を叩いた。


アニーが、その黒く美しい髪の毛をギャラクターのヘルメットに詰め込むのに苦労を
していると後ろから誰かが手伝ってくれるに気がついた。
「健?」
健はアニーのヘルメットを押さえてやりながらためらいがちに聞いた。
「アニーさんは、博士の若い頃からの友人ですよね。博士の友人のテストパイロットを
していた男をご存知だと聞きましたが。」
「ええ、そうよ。ジョーに聞いたの?」
アニーは顎のバンドを止めながら言った。
「後で、無事に全てが終わったら、俺は個人的に、その時の亊を聞きたいんです。」
健は自信なさげな小さな声で言った。
アニーは振り返って健の顔を見つめた。さきほどまで皆を引っ張っていたリーダーの
顔とはうって変わって、繊細な表情が浮かんでいる。
"きっとこの子の本当の姿はこっちなのね。"
青く澄んだ瞳が思い詰めたようにアニーを見つめている。
「わかったわ。お互いに無事に生き延びましょう。そしたら、質問には全部答えて
あげる。約束するわ。健。」
アニーは美しく微笑んだ。
「約束。」
健は繰り返し、それからキリッと顔を上げると声を掛けた。
「よし、それでは行くぞ!」


to be continued


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