黄昏の彼方 ーその名はアルファー

by アリー


 荷物を満載したトラックがギャラクター基地をめざして曲がりくねった山道をけっこう
なスピードで飛ばしてゆく。その荷台に科学忍者隊の面々が身を潜ませていた。
 険しい山道で急カーブの連続であり、甚平はジュンに小声で文句を言い始めた。
「乱暴な運転なんだから、おいらケツが痛くてしょうがないよ。」
「がまんしなさい。これでギャラクターの基地に潜入出来るなら楽なものでしょう!」
「まあね。ようし、基地に潜入したら燕の甚平さまが大暴れしてやるぞ!えへん!攻める
立場ってのは気分がいいもんだね。」
甚平の言葉に隣にいた健が笑った。
「現金な奴だな。さっきまで泣き言をいっていたくせに。だが救出作戦っていうのはむず
かしいんだ。油断は禁物だぞ。」
「おいらは、いつもしっかり気を引き締めているさ。ただ、情報部がいつもこんな風に役
に立ってくれれば楽だなぁって思ってさ。ね、ジョー?」
「ああ。」
ジョーは表情も変えずに生返事をした。ジョーのそっけない態度に拍子抜けした甚平は肩
をすくめた。普段から無愛想なところのあるジョーだったが、女隊長と対決するかもしれ
ないという興奮が彼を一層無口にしていた。
 峡谷を通り抜け、山中の開けた場所にたどり着くと、トラックはスピードを緩めた。そ
の時不意に、岩で巧みにカムフラージュされたギャラクター基地の入り口が開きトラック
はその中へと吸い込まれた。トラックが完全に秘密基地内に入ったと同時に、四つの影が
荷台から散った。
 鼻歌まじりの運転手は何も気付かずにトラックのスピードを上げて更に奥へと走り去り、
秘密の入り口が閉じると完璧な暗闇があたりを支配した。
 数分の沈黙の後、健が短い口笛を吹いた。するとジョ−、ジュン、甚平が岩場の陰から
姿を現した。
「よし、全員いるな。」
健が皆の姿を確認してうなずいた時、背後でパチッと指を鳴らす音が響いた。
「誰だ!」
瞬時に全員が四方に散って身を隠し、健が誰何する。
 すると、物陰から一人のギャラクターの兵士が姿を見せた。ただし、敵意が無い事を証
明する為に手を上に掲げている。
「きさまは何者だ?」
ジョーが銃を構えたまま岩陰から出て厳しい声で問うと、その兵士は手を上げたままジョ
−に向かって話し掛けてきた。
「ハロー、俺は味方さ。君たちをここへ招待した張本人だ。コードネームはアルファ。
ジョ−、俺の亊を忘れたのかい?相変わらずつれないねぇ、ダーリン。その物騒なもので
俺の心臓を狙うのはやめろよ。」
ジョ−はニヤリと笑って、ゆっくりと銃を降ろした。
「健、間違い無い、このふざけた口調は確かにアルファだ。」
アルファはゆっくりとヘルメットをはずした。ヘルメットの下からは輝く金髪と碧眼の諜
報部員というよりはロックスターのような容貌が現れた。
「ジョ−!しばらくぶり。少し痩せたな。」
「アルファ、元気だったか?マックレイの消息を突き止めるとはお手柄じゃないか!」
アルファは両手を広げ、嬉しそうにジョ−と抱擁を交した。
 それから健、ジュン、甚平のほうに向き直ると微笑みながら手を差し出す。
「ホントワール基地へようこそ!」
「よろしく、アルファ。俺は大鷲の健。その隣が白鳥のジュンと燕の甚平だ。」
健は科学忍者隊のリーダーらしく毅然とした態度で握手を交わした。
「あれ?科学忍者隊は5人だったよね。もうひとりは確か・・・。」
「ミミズクの竜は俺達の脱出の支援をする為にゴッドフェニックスで待機中だ。さぁ、
基地の案内を頼む。」
 健はどちらかというとアルファのようなタイプは苦手なのだろう。極めて事務的な口調
で言った。しかし、アルファは普段より冷ややかな健の視線にはまったく頓着せず、良く
言えば自由奔放で華のある、悪く言えば派手で悪趣味な雰囲気をふりまいている。
「オーケー、この通路の先は基地内の物資集結所へと続いている。そこから侵入するのが
一番いいだろう。その先は君らの作戦に従うよ。」
アルファはそう言うと再びギャラクターのヘルメットをかぶり直し、基地の奥へと向かっ
ている通路の案内に立った。薄暗いトンネルに五人の足音がこだまする。
「アルファと面識があったのか?」
健はジョ−に小声で尋ねた。
「諜報部に共通の友人がいて知りあった。だが、実際顔を合わせたのは三、四回かな。な
にしろ、アイツは大抵、敵基地に潜入しているか、隠密活動中だからな。ちょっと変わっ
ているけど、さっぱりしていてウマが合うんだ。」
「お前に対して凄い歓迎ぶりだったな。驚いたぜ。」
健は先程のアルファとジョーの大胆な抱擁シーンを思い返して言った。
「いや、アルファは皆にそうなんだ。健も次回に会ったら歓迎してもらえるさ。あいつは
お前の亊が気に入ったみたいだから、ひょっとしたら熱いキスの嵐もついてるかもしれな
いぜ。」
「それは勘弁願いたいな。」
健はあきれたように肩をすくめた。
「おい、アルファ!」
ジョ−が前方を歩くアルファに向かって、ふと思い付いたように声を掛けた。
「この任務の後、お前はここを撤収するのか?」
科学忍者隊の任務にはホントワール基地の破壊も含まれている。そうなれば潜入任務中の
アルファも、当然お役ご免となるに違いない。
だいぶ先を歩いていたアルファは立ち止まって二人が追い付くのを待ち、健とジョ−の会
話に加わった。
「ああ、さっき俺宛に届いた指令に、"ゴッドフェニックスに同乗して脱出し、ISOに戻る
ように"とあったよ。あの青く美しい不死鳥に乗れるのかと思うとワクワクするなぁ。」
「ここへの潜入は長かったんだろう?アルファ。」
「二年。潜入の仕事では一番長いんじゃないかな。ユートランドに帰ったらアパートの管
理人は幽霊を見たと思って腰を抜かすこと間違いなしさ。」
アルファはその光景を想像してクスクスと笑った。
「お前も人が悪いな。帰る前に連絡しておいてやればいいじゃないか。」
アルファはジョーの目の前で人さし指を左右に振って反論した。
「あの管理人は前回の任務の時、俺が死んだと早合点して俺の荷物を売り払っていたんだ
ぜ!それぐらいやってやらなきゃ気が済まないのさ。」
「お前の任務も大変だな。たまには嫌だと思うことはないのか?」
ジョーが尋ねた。諜報部の任務は危険が大きく見返りは少ないという話をISOの職員から
聞いていたからである。
「俺達の仕事といえば、人を騙してとことん利用し情報を引きだすいう気の滅入るような
ものだし、万が一捕まったらどんなに軽く見積もっても震え上がるような目に合うことが
解っているけれど、こういう汚れた仕事は誰かがやらなくちゃならないことだからな。」
意外にも真面目に答えるアルファをジョーは感心した顔で見返した。
「お前でも、そんな亊考えることがあるんだな。」
「ま、俺も大勢の仲間を失っているからな。落ち込んだときは潮時かと思うこともある
し・・・。」
 華やかで刹那的で一見悩みや逡巡とは無縁に思えるアルファでさえも、戦いによって心
に大きなストレスを負っていることを知って、健とジョーは黙り込んだ。
 するとアルファは、さっと顔を上げ、自分に似合わぬ真面目な発言のバランスを取るよ
うにふざけた口調で言った。
「ところでジョ−、帰ったら"無事に帰還しておめでとうパーティ"をやろうぜ。」
「パーティって、いつもの、あのメチャクチャなヤツか?」
「そ、御馳走にきれいな女と乱痴気騒ぎ!最高にイカれたパーティさ!良かったら健も来
てくれよ。」
シリアスな雰囲気を吹き飛ばすアルファの発言に乗ってジョーも楽しげに言う。
「こいつのパーティは楽しいぜ。いいだろ健。」
「・・・ああ。」
健がお愛想のつもりでうなずくと、アルファは大げさに手を天に突き上げた。
「やったぜ、今、俺のモチベーションはうなぎ上りさ!よーし、そうと決まったらどんど
ん仕事を進めようぜ。おっと、ダーリン、行き過ぎてしまうところだった。ここが俺達が
めざしていた入口だ。」
アルファはトンネルの壁の片隅にある"非常用"という金属のプレートのついた扉を押し開
けた。薄暗い通路に光がさっと差し込んでくる。 健が片手を上げて"前進"の合図を送る
と、全員がその内側に身を滑り込ませた。


 「ヒューッ」
ジョーが小さく口笛を吹いた。そこはドーム状の広い空間が広がっている。目の前には、
幾つかのプラットホームがあり、数台の貨物列車が停車していた。また、方々からの地下
トンネルの終着点となっていて、大型のトレーラーやトラックがぞくぞくと到着してい
る。この場所はさまざまな物資の集積所となっており、荷下ろしの作業を行っている隊員
たちの活気で溢れ返っていた。
「よし、皆集まってくれ。」
健の一言にジョー、甚平、ジュン、アルファが側に寄る。
「今回の作戦の目的は二つだ。一つはマックレイ博士の救出。もう一つはこのホントワ−
ル基地の破壊だ。だから我々は二組のチームに別れて行動することになる。マックレイの
救出は俺とジョーでやる。ジュンと甚平は基地への爆薬のセットを頼む。」
「ラジャー!」
甚平は得意そうに鼻の下をこする。ジュンは健と眼を合わせて頷いた。ジョーは腕組みを
したまま黙っている。ジョーの場合、文句を言わないのが了解のしるしだ。
「アルファ、君は俺やジョーと共に行動してマックレイの救出に協力してくれ。」
健の言葉にアルファはウインクで答えた。
 すぐにジュンと甚平は基地の爆破の為にかねて用意しておいた装備を点検し始め、健と
幾つかの点について最終確認をする。
「爆薬を仕掛け終わったらバードシグナルを三度点滅させてくれ。その後、その場で待機
して俺の合図を待ってから点火だ。」
「オッケー。シグナル三度ね。じゃあ行くわ。甚平!」
ジュンは身をひるがえし彼等の目指すポイントに向かって走り出した。甚平は健に向かっ
て大きく手を振ると、ジュンの後に続いた。二人の姿はすぐに闇に溶け込んで見えなくな
り、ただ遠ざかってゆく足音が微かに聞こえるだけであったが、やがて、それも完全に聞
こえなくなった。
 健はじっとそれを耳で確かめていたが、一枚の図面を取り出すとアルファを呼んだ。
「これは南部博士から渡されたホントワ−ル基地の図面なのだが、基地の最深部にブラン
クのエリアがあるだろう。このエリアには何があるんだ?」
アルファは健の手元の図面を覗き込むと軽くうなずいた。
「ああ、それね。そこはさすがの俺にも手が出ない一般兵士立ち入り禁止エリアなんだ。
特別な資格がないと入れない所で、基地内の医師に取り入ってなんとかしようとしたんだ
が駄目だった。肝心なところで、彼がびびってしまってねぇ。悪い男じゃないんだが、残
念ながら、彼、キリギリス程度の度胸しか持ち合わせていないんだ。だが、その立ち入り
禁止エリアこそ女隊長の居住エリアで、そして、おそらくマックレイはそこにいる。」
 健はジョーを見た。ジョーは羽手裏剣を唇の端で噛みしめていた。それはジョーが考え
事をしている時の癖で、ジョーは女隊長のことに思いを馳せているに違いなかった。
「ジョー。目の前の任務だけに集中だ。わかっているな。」
健が声をかけるとジョーはハッと顔を上げ、健のリーダーとしての口調に反抗するかのよ
うに黙ってにらみ返した。
 意地っ張りで鼻っ柱の強い奴、健は心の中でため息をついた。自分はもちろん南部博士
でさえも、ここまで思い込んだジョーは止められない。健の気持ちを知ってか知らずか、
ジョーはまるで軍鶏のように首をそらし、鋭い視線を健に投げかける。健とジョ−の間に
緊張した雰囲気が流れた。
 その時、首筋にいきなり腕が回されたかと思うと、ザラついた感触のアルファの声が耳
元に響いた。
「今回の作戦をマックレイお得意のチェスに例えるとさ、俺達、騎士(ナイト)が囚われ
のキングを助けに行くってところだね。ロマンティックでステキだと思わないかい?マイ
ディア。」
ウインクをしながら脳天気なセリフをささやくアルファに健は一瞬唖然とした表情を作っ
たが、咳払いをしながら馴れ馴れしく肩に回された腕を外した。ジョーはその光景に思わ
ず噴き出す。
 健はジロリとアルファを睨むと、それこそリーダーの威厳をこめて命令した。
「では、アルファ。その張りきっている気持ちを尊重して君に先頭を切ってもらおう。」
必要以上ていねいな健の口調に危険な雰囲気を感じ取ったアルファは、ジョ−に肩をちょ
っとすくめてみせてから、猫のような身のこなしで歩き始めた。
 とにもかくにも一同はアルファの先導で通路を進みはじめた。狙ってやったのかマイペ
ースなのかわからないが、アルファの一言でジョーとの間に生まれかけていた緊張状態が
弛み健はひとまずほっとしていた。しかし、一歩一歩基地の奥へと進むにつれ、"女隊長
との対決が近い"という戦士としての予感が強まってゆき、肌が粟立つような期待と戦慄
を覚えた。

 健、ジョー、アルファの三人は時には闇にひそみ、時には燕のような敏捷さで廊下を駆
け抜け、とうとうひときわ頑丈な扉の前に辿りついた。その扉には許可無き者が足を踏み
入れぬよう厳重なロックがほどこされている。
 アルファは扉に歩み寄り、扉の下の部分を黒のシューズでひと蹴りした。
「俺が来たことがあるのはここまでだ。このロックは事前に登録された指紋によってのみ
解除されるようになっている。」
健もジョ−も、今までの戦闘経験の中で何度もギャラクター基地に潜入したことはあるが、
このような最深部まで入り込み、女隊長の居住区を探しだしたのは初めてのことだった。
二人とも感慨を込めて、堅く閉ざされた扉を見上げる。
 健は腕組みをして考え込んだ。目的がマックレイ救出である以上、ギャラクターに存在
を悟られずに探し回る時間が必要だ。健は数秒で考えをまとめ上げると、顔を上げた。
「それならば内側から扉を開けさせればいいことさ。陽動作戦を使おう。俺とジョーが向
こうで騒ぎを起こす。その間にアルファ、君は内部に潜入してマックレイを探してくれ。」
健はアルファとジョ−の顔を見つめた。
「オーライ、マイディア。」
アルファは自信たっぷりに答える。
「わかったぜ、健。派手に騒ぎを起こせばいいんだな。そういうことなら、俺に任せてお
け。アルファなんぞに今回の手柄を独り占めさせる気はないさ。」
ジョーは横目でアルファを見て、両手をポキポキと鳴らす。健は二人の様子に満足そうな
表情でうなずくと言った。
「よし、いくぞ、ジョ−。ついて来い!」
健はサッとマントをひるがえし疾走する一個の黒い影となった。間髪いれずジョ−も後に
続く。

 二人はしばらく走った後、先程通り抜けた物資集積所の入り口でぴたりと立ち止まった。
そのホールは三つの階を貫く吹き抜けになっていて、壁際にある階段で上の階層へと登れ
るようになっていた。遥か上にライトが一面取りつけられている天井が見える。内部には
駐車している車両や貨車の他にも積み上げられた資材や荷物を釣り上げる巨大クレーン等
があり、派手に立ち回るには充分広い上に身を隠す場所にも困らない、戦闘にはおあつら
え向きの場所であることが見て取れた。二人は一瞬で状況を読み取り、共通の認識に達し
たことをお互いの瞳で確認した。
「ジョ−。」
健はホールの中央で作業をしている敵を見つめたままジョ−に声をかけた。
「なるべく奴等の注意を惹き付けるんだ。頃合いを見て俺が"撤退"の合図を出す。
・・・ぬかるなよ。」
健は彼の"戦闘モード"のスイッチが入ったのだろう。緊張し、集中し切っていた。
 ジョ−はその引き絞った弓のように張りつめた美しい横顔に一瞬見とれたが、同時に
そんな自分に悔しさも感じた。
「お前もな!」
思わず口にしたジョーの憎まれ口に、健は引き締まった目もとを一瞬緩め、口の端に笑い
を浮かべた。そして、次の瞬間、バードランに手を伸ばしギャラクターに向かって放った。


to be continued


Top  Library List