黄昏の彼方 ー甘美なる瞬間ー

by アリー


・・・・ヒュウッッ
荷下ろしの作業の為、クレーンの運転台の相棒に合図を送っていたギャラクターの隊員は、
空を切り裂く音を耳にし、そして、自分のすぐ脇をなにか小さくて光るものが高速で通り
過ぎたような気がした。
 不思議の思って振り返ると同時に、周囲にいた四、五人の仲間たちがうめき声と共に
一斉に床に倒れ伏す。
 びっくりしてのけぞると、丁度目の前では鋭い刃のついた三日月の形のブーメランが
空中で方向転換をして戻って来るところだった。
「うわぁぁぁぁ〜〜っ。」
男は頭を押さえて床に突っ伏した。その美しい武器は男の上を通過してそのまま滑るよう
に宙を飛び、ホールに張り出したバルコニーまで飛んだ所で青い手袋をした手がはっしと
それを掴んだ。
 呆然とそれを見ていた彼はようやく悟った。その武器の使い手である恐ろしい奴等、す
なわち科学忍者隊がここに現れたのだということを。
 次の瞬間、その男はあらん限りの声で絶叫した。
「奴等だ!奴等が来た!科学忍者隊の来襲だー!」
 健とジョ−はうなずき合うとバルコニーを蹴って飛翔し、敵中へと身を投じた。ホール
の中の隊員達はわずかな混乱はあったものの、さすがに訓練が行き届いていると見え、
格納されている武器を次々と手にしては反撃を開始した。警報と怒号、そしてマシンガン
の発射音がホール内に響き渡る。
 警報に引き寄せられるようにして次々と集まって来る敵の様子を見て、健はニヤリと
笑った。そうだ、もっと、もっと集まって来い。こちらに敵の注意が惹き付けられるほど、
アルファ、そしてジュンや甚平の仕事がやり易くなるのだ。
 ギャラクターの奴等を驚かせて思考能力を停止させるために、健とジョ−は文字どおり
"暴れ回っ"た。健はまるで重力さえコントロールする術を身に付けたかのように宙を舞い、
ほとんど反動をつけずに驚く程鋭い蹴りを喰らわせる。その動作にはすべての無駄が削ぎ
落とされた美があり、それが危険な格闘技である事を一瞬忘れさせるほどであった。健の
技が美しく技巧的であるとしたら、その対極にあるのがジョ−の技であろう。ジョ−の攻
撃は直線的な動作による技の連続で抜群の破壊力を誇っていた。健の攻撃が相手の力を利
用したものであるとしたら、ジョ−のそれは相手が誰であろうと圧倒的な破壊力によって
打ちのめすという骨太な力強さに満ちていた。
「何をしている、もっと援軍だ。援軍を呼べ!」
耳を塞ぐような銃撃戦の中、敵の指揮官の叫び声が切れ切れに聞こえる。すかさずジョ−
が敵の指揮官を狙い撃とうと銃を構えると、健がジョ−の肩に手を置いてそれを制した。
「待て、ジョ−。構う事は無い。もっと呼んでもらおうじゃないか。」
「敵はもう充分集まっているぜ。健。」
「遠慮するなよ、ジョ−。さっき派手に騒ぎを起すんだと言ってたじゃないか。パー
ティーは盛大にいこうぜ。」
健が片目をつぶってジョ−に言う。正面の大きな扉が開いて、新たな敵が銃を構えたまま
駆け込んで来た。二人きりでこれらの敵を相手にするのである。それが並み大抵の戦闘で
は治まらないことが容易に想像できた。
「ずっと前から思っていたんだけどよ、お前マゾじゃないか?健。」
ジョ−の問いかけに、健は再びバードランを握りしめるとニッコリ笑った。
「だったら、どうだと言うんだ?」
そう言うと身をひるがえし、健は新しく到着した部隊に向かって走り出した。
「待てよッ。おい、健!」
ジョ−は舌打ちをすると、一人のギャラクター隊員を殴りつけてマシンガンを奪い取り、
健に対する援護射撃を始めた。ジョ−の奮闘のおかげで健はホール中央に開けている危険
地帯を易々と突破し、白い姿はギャラクターの緑のユニフォームの向こうへと消えていっ
た。
「さぁ、コンドルのジョーはここだ!ギャラクターめ、かかってきやがれ!」
マシンガンを乱射しながら半ば自棄になったように叫ぶジョ−の声がホール内にこだまし
た。


 柱の影に身をひそめ、アルファはじっと耳を澄ましていた。遠くで銃声や人のわめき声
が聞こえてくることから、健とジョーの陽動作戦が始まったことがうかがわれた。基地内
の人の動きが急に激しくなり、眼の前を慌ただしく銃を持った兵士達が行き交う。
 その時、シュッという音と共に閉ざされていた扉は開き、内部から十数人の兵士が走っ
て出て行った。そして、その後から悠然とシンプルな紫の服を身にまとった女隊長が姿を
現わした。科学忍者隊突入の知らせに怒りと興奮を覚えている為か、その頬はわずかにピ
ンク色に上気している。
 アルファは息をするのも忘れて女隊長の姿を見つめた。なにしろ、こんなに近くで女隊
長を見たのは初めてであったのだ。手を伸ばせば届くほどの距離に氷の美しさを持つその
女はいた。ほとんど表情を動かさない横顔はいにしえのギリシャ彫刻のようであり、厳し
く部下に指図する声はクリスタルのように硬質な響きを持っていた。女隊長の姿を目にし
たとたん、鳥肌がたち鼓動が早まる。
 幸いなことに柱の陰に隠れているアルファに気付く事なく女隊長は通り過ぎて行った。
「さすが女隊長だな。雑魚どもとは迫力が違う。」
 去り行く女隊長の後ろ姿を見送りながらアルファが額に手をやると、いつの間にか汗で
じっとりと濡れていた。
 百戦錬磨の自分がこの有り様か・・・。アルファは自嘲の笑いを漏らすと、急いで柱の
陰から忍び出でて閉じかけている扉の内側にそっと身を滑り込ませた。それから扉の内側
にある操作パネルのスイッチを無造作に押し扉を開け放しの状態でロックさせると奥へと
急いだ。
 扉を一歩はいると、そこは居住者の為に快適に作られた空間が広がっていた。廊下には
うす紫の絨緞がひかれ、照明もデザイン性を重視したものが壁に取り付けられている。廊
下の左右にはいくつかの扉があったが、突き当たりの扉はひときわ立派かつ装飾的であり、
そこが特別な部屋であること見て取れた。アルファはその扉へ忍び寄り、そっと押すと抵
抗なく扉は開いた。
 その部屋はここが軍事基地であるという事実を忘れる程、華美な装飾に満ちていた。
本物の大理石の床、金で象眼をほどこした家具。テーブルの上には芳香を放つ真紅の薔薇
が美しい花瓶に生けられており、壁にはくもりひとつない大きな姿見と作り付けのクロー
ゼットがある。
アルファは興奮のあまり自分自身に向かって呟いた。
「やったぞ!とうとう見つけた。ここが女隊長の部屋だ!」
だが、任務はこれで終わりではない。一刻も早くマックレイの居場所を突き止め連れ出す
のが彼の与えられた仕事である。アルファはマックレイの痕跡を求めて執務用机や書類棚
を丹念に調べ始めた。


 "涙が死者への弔いになどならないことを俺達は知っている。戦場でしか生きられない
者は、戦場で死ぬしかないのだ"
ふと、好きな小説の一節が健の頭に浮んだ。この小説を読んだ時の胸がえぐられるような
感覚を思い出す。確かに自分達は戦場で生き、そして死んでゆくに違い無い。
 警報が鳴り響き、新たな敵が続々とホールに集まってくる。健は頭を振って自らに気合
いを入れ直した。目の前の現実と無関係な事が頭に浮かぶとは、戦闘の疲れが溜まってき
たに違い無い。
 なにしろジョ−とたった二人で大勢のギャラクター兵士相手に大立ち回りをしているの
である。
 ジョーほどの男とペアを組むのでなかったら、こんな無茶な作戦を立てるものか、と健
は考えた。皮肉にも自分たちがいかに息が合うコンビであるかを思い知らされるのは、常
に戦場であった。
 ギャラクターとの戦闘で自分の背後のカバーをまかせるのはいつでもジョ−だけだ、と
そこまで考えた後、健は噴き出しそうになった。これではほとんどジョ−に対する愛の告
白じゃないか。誰よりも君を信じる、君だけに俺の未来を託す・・・か、俺は確かに疲れ
ているな。ばかばかしい。
 振り返った途端、ジョーと目線が合う。ジョーは撤収のタイミングを見落とさないよう
に、先程からずっと健の動きを注視していたのであろう。
「おい、この大ピンチに何をニヤついてんだ?」
健がかすかに微笑んでいたことに気がついたジョ−は文句を言う。相変わらず注意深くセ
ンシティブな男だ。
「にやけてなんかいないさ。」
健は顎にしたたる汗をぬぐうことによって顔に残っていた微笑みを誤魔化した。

 その時、彼らを抱囲していたギャラクター達の間でにわかにどよめきが起こった。健と
ジョーはその方向に顔を向ける。そのどよめきの中心に薄紫の衣装に身を包んだ長身の美
女の姿があった。
「女隊長!」
ジョ−はその姿を目にした瞬間、めまいがするほどの衝撃を感じた。
「とうとう現れたな!」
健も興奮して思わず叫ぶ。とうとう御大を引きずり出したわけである。
 ジョ−は、女隊長を見つめたまま目が離せなくなった。その様子はまるで永年離ればな
れだった恋人と思いがけなく再会した男のようだった。だが、ただ一つ違っていたのは、
その瞳には明らかな殺意がこもっていることであった。
 一陣の風と共に健の脇を青い翼を広げたコンドルがすり抜けた。
「ジョ−!」
健が叫び声を上げた時には、ジョ−は既に女隊長に膝蹴りを喰らわせていた。女隊長の口
元から赤い血が流れる。
「やっと見つけたぜ、女隊長。お前の亊を一日たりとも忘れたことはなかった。」
ジョ−は凄絶な微笑みを浮かべて言い、続けざまにパンチを放った。
女隊長はなんとか態勢を立て直そうとするが、スピードと力を兼ね備えた攻撃にはさすが
に反撃の糸口さえつかめない。ギャラクターの兵士達もジョ−の素早い身のこなしに狙い
をつける事もままならず、ただ遠巻きに固唾を飲んでいるだけであった。
 一方的な攻撃の後、とうとうジョ−は女隊長をそのたくましい腕で壁に押さえ付けた。
"ようやく、女隊長をこの手で捕まえた!"
ジョ−に喉元を押さえらた女隊長は抵抗を諦めてなすがままに立っていた。間近で見れば
見る程、その姿は艶かしく整い過ぎるほどの美貌の持ち主である。しかし、半眼の瞳には
なんの感情も表さず、ぞっとするほど冷静な表情でジョ−を見ていた。
 ジョ−の脳裏に悪夢のようなBC島での思い出・・・白い砂に突き刺さった薔薇爆弾と
女の高笑いが蘇った。

 ジョ−は女隊長の額に銃口を押し付けた。
 それこそ長年夢に見た甘美なる瞬間のはずだった。しかし、ジョ−は突如、自分の心が
想像していたよりも冷え切っていることに気がついた。
 両親の死にうなされたベッドの上で、また群青の海に向かって復讐の叫びを上げた断崖
絶壁の上で、時には絶体絶命の弾の雨が降る路上で、女隊長に死を与える瞬間の事を何度
も何度も想像し、自らを奮い立たせてきた。しかし、それはぜんぜんこんな気持ちでは無
いはずだった。彼女に死を与える瞬間はもっと痛快で、その時にこそ復讐に凝り固まった
自分の魂は浄化され、救われた気分になるはずであった。
 だが、今の自分はどうだ。望みの達成を目前にして戸惑いと空しさを感じているのであ
る。ジョ−は混乱を感じながら女隊長を見つめた。
 この女は命乞いもしなければ、悪あがきもしない。そう、まるで実験結果を観察する科
学者のように冷ややかだ。
 その時、ジョ−の脳裏にある考えが浮かんだ。この女は類を見ないほど残酷で美しい、
だが、同時に類を見ない程不幸なのではないか、と。
 引き金に掛けたジョ−の指が震えた。
そのとき、健の力強い声が響き、ジョ−を現実の世界に引き戻した。
「ジョー、殺すな。生け捕りにしろ。奴に情報を吐かせるんだ!」
 ジョ−が振り返ると健が4、5人の敵をなぎ倒しながらジョ−の方へと必死に近づいて
来ていた。ジョ−は再び女隊長に視線を戻す。
"引き金を引いちまえよ、戦場でのことだ。後でなんとでも言い訳はつく"
ジョ−の中の悪魔が密かに囁いた。引き金を握っている人さし指に力がこもる。頭の中に、
虚空を掴むように伸びた母の細長い指が、そして、血染めのワイシャツ姿でこと切れてい
た父の姿が浮かんだ。
"ちきしょうっ"

・・・・結局、ジョ−は引き金を引かなかった。
 その代わりにジョ−は女隊長と自らの双方に対する押さえ切れない怒りを込めて、銃把
で女隊長の顔を殴りつけた。女隊長はその勢いで壁にぶつかるとずるずると床に崩れ落ち
る。
 その場に健が到着した。
「健、チャンスなんだ。どうしてこいつを殺っちゃいけないんだ。この女を殺す事でギャ
ラクターは大きなダメージを受ける。」
「ダメだ。博士の言葉を忘れたのか?捕虜にして口を割らせるんだ。」
「喋りっこないさ。この女に自分のしたことの償いをさせてやるんだ。」
「ジョ−!」
「俺を止めないでくれ!お前がなんと言おうと、俺は・・・。」
だが、ジョ−の懇願を健は拒否し、黙って首を振った。それから健は視線を宙に彷徨わせ、
何かに耳を傾けるような仕草をした。そして、はっと振り返ろうとしたその瞬間・・・・

ドキュー−−ン!

 一発の銃声が響いた。そして、ジョ−の目の前で健の身体が弾き飛ばされ、床へと倒れ
た。
「健!」
ジョ−は痛みに体をよじって耐えている健に飛びついた。
「すまないっ、すまない。しっかりしろ、健。俺がわかるか?」
ジョ−は真っ青になって健の顔を覗き込んだ。
「俺としたことが、ざま・・・ない・・ぜ。」
健の肩からは血が滲み出ている。
ビシッ、ビシッ
周囲の床に弾丸がはじける。狙撃兵からの第二弾の攻撃がはじまったのだ。
 見上げるとホールの二階へと続く螺旋階段にギャラクターの狙撃部隊が散開し、手すり
の上から二人に向かって4、5挺のスナイパーライフルが狙いをつけていた。
 ジョーは間髪いれず手にしていたマシンガンを上方に向かって乱射した。怪我で身動き
のとれない健をなんとかして次の弾丸から守らなければならない。
 狙撃兵たちのいる螺旋階段の手すりには弾丸が弾けて、破片が跳び煙があがる。そして
一人の狙撃隊員が叫び声を上げながら階段から落ちてゆき、それに反応した狙撃兵のライ
フルの列は一旦は物陰に引っ込んだ。
 敵のひるんだ一瞬の隙をついて、ジョ−は健の上に覆いかぶさり、資材の陰の安全と思
われる場所へと引きずり始めた。健は体が引きずられるたびにかすかな呻き声を漏らす以
外は、青い瞳で天井を睨んだまま全てをジョ−にゆだねている。
 あと2メートル、1メートル。二人の周囲に再び弾丸が弾けた。ジョ−は片手で健のベル
トをつかんで引きずりながらもう一方の手で銃を握って応戦するという離れ業を演じつつ、
じりじりするような、しかし、実際はわずか一分間ほどの奮闘を終えて資材の陰の避難場
所にたどり着いた。
「あいつら、ワンショット−ワンキルの狙撃のプロだ。お前に当てるとは良い腕してる。
・・・じっとしてろよ、止血をするからな。」
そう言いながらジョ−は背中側の傷口を確認した。
「良かった、思ったより傷は軽いようだ。弾も抜けている。・・・これから少し走らな
きゃならないが大丈夫か?」
「"少し走らなきゃならない"か、お前も控えめな奴だな。もちろん俺は大丈夫さ。」
健はちょっと顔をしかめたが、つとめて平静を装った表情で答えた。
 ジョ−は周囲をさっと見回し、数メートル離れた所に倒れているギャラクター隊員に目
をとめると、その隊員目掛けてジャンプした。
ビシッ、ビシッ
すぐにジョーの足元に弾丸が弾ける。ジョーは倒れているギャラクターの隊員からベルト
を外すと、今度は床を回転して弾丸を避けながら健の所へと戻ってきた。ジョーがその避
難場所に辿り着くと同時に銃声は止む。戦場には奇妙な膠着状態が訪れ、かすかな咳払い
すら響き渡るほどの静寂が支配した。
 ジョーはそっと健の体を起こすと、手に入れたベルトで止血を始めた。
「静かだな・・・。」
健がつぶやく。
「ああ、静かだ。今はな。」
 確かに今、射撃は止んでいるが、それは狙撃隊が、二人が脱出の為の一歩を踏み出す瞬
間を待ち構えているだけの話であり、それゆえにこの静寂は無気味な緊張を孕んでいた。
ひとたびこの隠れ場所から出たら、狙撃兵たちはここぞとばかりに弾丸の雨を降らせてく
るだろう。
 健の手当てを終えると、ジョ−はブレスレットのスイッチを入れた。
「ジュン!こちらジョ−だ。健が負傷した。今は基地の奥にあるホールにいる。そっちの
様子はどうだ?」
ブレスレットについている小さなランプが瞬き、すぐにジュンの心配そうな声が応答して
きた。
「健が?大丈夫なの?こっちはすべての爆薬を仕掛け終わったところよ。今、甚平と一緒
にそっちへ合流するわ!」
「待てジュン。聞いてくれ、俺達は敵に囲まれている。だから、予定を変更して、仕掛け
た爆弾の一部分を先に爆破させて欲しいんだ。その混乱に乗じてここを脱出する。」
「それなら、今、全部爆破させたらどうなの?基地は崩壊するけれど、それでも脱出する
時間的余裕は充分あるわ。」
そこへ二人の会話を聞いていた健が通信に割って入った。
「どうしてどうして、ジュンが俺達五人の中で一番過激な思想の持ち主かもしれないな。
ジュン、肝心のマックレイの救出がまだなんだ。アルファが女隊長の居住エリアを捜索し
ている最中だから、全部爆破するのはダメだ。」
「健!」
ジュンの叫びがブレスレットから響いた。
「大丈夫、俺はかすり傷さ。いいか、あくまでも仕掛けた爆弾の一部分だけを爆破させて
くれ。そうだな、五分後に爆破開始だ。マックレイを確保したら連絡するから、それから
残りを爆破させて脱出。わかったら復唱してくれ。」
「一部爆破、そして待機。連絡があったら残りを爆破ね。じゃあ、カウントを始めるわよ、
今からちょうど五分後。」
「頼んだぞ、ジュン。」
通信が切れる寸前にジュンの声が聞こえた。
「ジョ−、健をお願いね。」

 ジョ−が通信を切った時、急に健が身じろぎをしてホールの中央を指差した。
「見ろ・・女隊長への守りは薄いぞ。今ならあいつを捕まえる事が出来るぞ!チャンスだ
・・・行け!ジョ−。」
健はジョ−に命令した。
 だが、ジョ−は、今回は健の言葉を頭から無視することに決めたらしく、健を担ぎ上げ
た。
「やめろ、下ろせ。俺は大丈夫だから、早く女隊長を捕まえろ。」
「おい、動くな。出血がひどくなる。それより、もうすぐジュン達が仕掛けた爆弾が爆発
する。基地と心中するのが嫌ならおとなしくしていろ!」
「俺の言う事が聞けないのか?」
「状況判断もできない馬鹿者の言う事は聞けないさ。今のセリフはリーダーじゃねぇ、
ただのガキ大将だな。」
ジョ−の言葉に健は一旦は悔しそうに黙り込んだが、再び口を開いた。
「わかった。その点に関しては譲歩しよう。だが、行き先については俺の意見を聞いても
らおう。これから行くのは脱出の為の集合地点ではない。基地の奥にいるマックレイの所
だ。」
そう告げると健はぐっとジョーの肩においた手に力をいれた。
「お前、その怪我で無茶な事を言うな。」
 健を速やかに脱出させる亊しか頭になかったジョーは、その思いもよらない選択肢に
あっけに取られた。諦めるということを知らない、なんという不屈の男なのだろうか。
「だが、健。最初の計画じゃ、マックレイ救出はアルファに任せたはずだろう。」
「"計画とは変更することに意義がある"」
「何だ?それは。」
「今、俺が考えついた言葉さ。」
健は唇に薄く微笑みを浮かべた。
「さぁ、あと十数秒でジュン達の爆破が始まるだろう。ジョ−、マックレイの元へ行くな
ら方向が違うぞ。右ではない。左側の入り口へ行かなくちゃな。ふふふ・・・気がついて
いるか?これは狙撃部隊の裏をかく事にもなるんだぜ。あいつらはプロだが、それだけに
俺達の脱出方向に銃の照準を合わせているはずだ。爆破の動揺と俺達の意外な方向への移
動。うまくすれば、一発もかすりもせずにこの場から逃げる事ができるぜ。」
 切羽詰まった状況の中でよくもこう思考が働くものだとジョーは内心舌をまいた。確か
にその作戦は完全に狙撃隊の裏をかくだろう・・・。
 とうとうジョ−は観念したように首を縦に振った。
「ちぇっ、お前はどうして、こう、口がうまいんだ。結局、俺は従うしかないじゃない
か。」
「お褒めいただいて光栄だな。」
健はジョーに向かって得意そうな笑みを浮かべ、行こうぜとでもいうようにポンと背中を
叩いた。
ジョ−は健を担ぎ直し、それから自分達の通る道筋を作る為に女隊長やギャラクター兵士
に向かってマシンガンを撃ち始めた。健は時計を見てカウントを始める。
「5、4、3、2、1!」
 基地を揺るがす大爆発が起こった。その場にいるギャラクター達は全員身を竦め、その
場に臥せる。と、同時にジョ−が健を担いだまま地を蹴った。
 上から狙っていた狙撃兵たちは、健の予想した通り、完全に二人が物陰から出る方向を
見誤っていた。バルコニーから出ていた銃口は虚をつかれ、それぞれ慌てて二人の姿に照
準を合わせ直す。が、その時は既に二人の姿は基地の奥へと消えていた。


to be continued

※"涙が死者への弔いになどならないことを俺達は知っている。戦場でしか生きられない
者は、戦場で死ぬしかないのだ"
 ト−ルハンマーさん作 「Guessing Game」より引用しました。
ト−ルさん、ありがとうございます。


Top  Library List