運命

by アリー


 その日、健とジョーの二人は基地に無事に帰投してからも戦闘の興奮によって神経が
立っている為に眠る事も休むこともできず、かといって待つ者もいないそれぞれの家へ
帰る気にもなれず、二人でたわいもない話をしつつ時を過ごしていた。
「・・・というわけさ。そうだ、それでさ、お前は"死"について考えたことはあるか?」
 話題の口火を切ったのはジョーだった。
「ああ。」
 健は"死"という言葉に過敏に反応し、それまで与太話に相槌を打ちながら浮かべていた
笑顔が急に憂いを含んだ表情となった。
 ジョーが健に話題を振ったのはほんの軽い気持ちからであって、その意外な程真剣な健
の反応に戸惑った。
 健はテーブルに頬杖をつき、ぼんやりとぬるくなったコーヒーをかき回しながら言った。
「最近、同じ夢を見るんだよな。くり返し、くり返し。」
 ジョーの前にはいつもの鋭気に満ちた大鷲ではなく、憂鬱を身にまとった一人の青年が
いた。
「夢の中で俺は一人で任務を遂行している。バードスタイルになって通路を警戒しながら
進んでいるんだ。そこはまるで空母の通路みたいにドアも床も壁も金属製で、それがオレ
ンジ色に光っている。通路の両側には似たようなドアがいくつも並んでいて迷路みたいな
んだ。ようやく突き当たりに大きなドアを見つけ、俺は心の中で"ここだ"と考える。すか
さず扉を細く開けて手榴弾を投げ込み、それからドアを閉めて爆風をやり過ごす。で、俺
はドアを蹴破り突入すると、内側にはまだ敵がいて、そいつが俺に向かってマシンガンを
撃ち、俺はそれを避けようもなく胸元に7発の弾丸を受けて死ぬ。」
 ジョーは妙にリアルなその夢の話を聞いて、言い様も無く背筋がぞっとした。
「それから?」
「それだけだ。いつも、そこで目がさめる。汗をびっしょりかきながらな。」
「オレンジ色の廊下か。そこで火災でも起きているのか?」
「さぁな。火災だか夕焼けに染まっているのか知らんが、いつもオレンジ色だぜ。見た事
もない場所だがな。」
 健はまじめな顔で答えた。ジョーはその不吉な夢が気に喰わなかった。胸元に七発の弾
丸だと?健が、ガッチャマンがそんなヘマをするものか。
「へっ、くだらねえな。そんな縁起でもない話、忘れちまえよ。」
「ひどい奴だな。お前が聞いたから話したんだろう。俺はべつに気にしちゃいないよ。」
 健はジョーの言い草に少し腹を起てたように言った。ジョーは二人の間に漂う暗い気分
を振り払うように立ち上がった。
「つまらねえ話は忘れてさ、健。パーッと飲みにでも行こうぜ!俺が一晩中でもつき合っ
てやるからさ。」
 健はあきれたように笑顔を作った。
「おい、おい、そう言って、お前、飲みに行く口実が欲しかったんだろう。」
「どうだ?行くのか?行かないのか?」
 ジョーがドアに手をかける。
「行くさ。当然!」
「そうこなくちゃな。なぁに、バーボンでも飲(や)れば、おかしな夢の話なんぞ宇宙の
彼方にぶっ飛んで行くさ。」
「そうか・・・そうだな。よし、俺より先に潰れるんじゃないぞ。」
 二人の青年は笑いながら街へと繰り出した。


 ギャラクターの鉄獣が大空を飛んで行く。
 鉄獣の内部では四つの影がすばやく動き回り、そして片隅に集合した。
「アニキ、爆弾は仕掛け終わったぜ。」
 甚平が息を切らせて健に報告する。ジュンとジョーも頷いた。
「ようし、脱出だ。竜、来てくれ!」
 健はブレスレッドでゴッドフェニックスで待機している竜に向かって呼び掛けた。
「ラジャー!」
 竜はゴッドフェニックスで鉄獣に何度か近寄ろうとしたが、鉄獣の発するバリアにより、
 どうしても機体を鉄獣に寄せることが出来なかった。
「だめじゃ、健。バリアをなんとかしてくれ。」
 竜の悲鳴にもにた声が、ブレスレッドから洩れる。
「アニキ、どうする?早く脱出しなきゃ。このままじゃ、俺達も爆発に巻き込まれちゃう
よ!」
「待って。」
 ジュンが端末を操作して鉄獣の構造を探った。健とジョーはじっとジュンの手許を見つ
めている。
「わかったわ。この鉄獣の動力室で回路を切ればバリアを解除できる。」
 健は身を翻した。
「待てよっ、健。」
 ジョーは突然、言い知れぬ不安を感じ、健を止めた。健はジョーを振り返った。
 ジョーはもの言いたげな視線で健を見つめている。
「5分で戻る。待っていてくれ。」
 健はジョーの心配そうな顔にフッと笑いかけると駆け出した。


 薄暗い灰色の廊下を、健はそっと忍び足で進んだ。振動と騒音の具合からして動力部ま
ではもうすぐだ。
「通路が別れている。どっちへ行けばいい?」
 健はブレスレッドを口元に運び囁いた。ジュンは端末を見ながらナビゲートする。
「右側の通路を進んで。健。もうすぐよ。」
 ジョーはイライラしながら健に話し掛ける。
「おいっ、健。まだか?」
「焦るな、ジョー。おっと、誰か来た。一旦、交信を切るぞ。」
 通信は途切れ、沈黙が広がった。
 緊張の十数秒が過ぎ、突然、アラームが鳴り響くと白色光の照明が非常灯に切り替わっ
た。今まで陰鬱な灰色だった室内が、どこもかしこもオレンジ色に変わった。
「健にトラブルでも起こったのかしら?ジョー?」
 ジュンがジョーを見上げると、ジョーの顔色は真っ青に変わっていた。
 "オレンジ色、オレンジ色の迷路を進む健・・・"
 ジョーの脳裏に以前耳にした健の夢の映像が浮かび上がった。
「なんてこった、健・・・健ッ!」
 ジョーはあっけに取られているジュンとジンペイを残し、健のいる通路に向かって疾風
のように走り出した。

 ビーーッ、ビーーッ。
 単調なアラームがくり返し鳴り響く。夢に見たそのままのオレンジ色に染まった迷路。
 健はデジャヴに襲われ、立ち尽くしていた。が、それも数秒の間の事で、気絶させて抱
えていたギャラクターの隊員をゆっくりと床に転がすと、何者かにいざなわれるかのよう
に迷路の奥へ・・・つまり、あの扉に向かって足を踏み出した。
 始めて訪れた場所であると頭の中では認識してはいても、心の中ではどうしようもなく
既視感を感じる。よろめくように通路の角を曲がると、とうとう目の前に例の扉が現れた。
 鼓動が耳鳴りのように響く。
 健は立ち止まった。
 "俺は、もうすぐ死ぬのか?"
 だが、扉を前にして他にどうすることが出来ようか。扉を開ければ自分は死ぬ。しかし、
扉を開けてバリアーを解除しない限り、ジョーもジュンも甚平も死ぬ事になる。どの道を
選んでも"死"が待っているのなら・・・
 "死神がいるとしたら、あんたも地獄へ道連れだぜ!"
 健は顔を上げて手榴弾を掴み、扉の内側に投げ込んだ。マントで身体を覆い隠し、耐シ
ョックの姿勢をとる。数秒後に爆風が襲って来た。その粉塵も治まらぬうちに健は扉を蹴
破り部屋の中へと突入した。
 部屋は爆発の為、半壊状態であったが、数人のギャラクターは物陰から顔を出し、健に
向かって銃を発射した。


「健、健、しっかりしろ!」
 全速力で駆け付けたジョーは爆発でめくれ上がった扉を乗り越えて中へ飛び込むと、コ
ンピューターに覆いかぶさるようにしている健に飛びついた。
 すると、健は顔を上げ、微笑みながらジョーに答えた。
「おい、ジョー。俺は生きてるぜ!今、コンピューターが停止したかどうか確認していた
んだ。」
 ジョーは目を丸くして健を見つめ、それから、怪我をしていないかどうかを確認するた
めに健の身体を撫で回した。
「馬鹿、大丈夫だよ、異常無しだ。」
 健はくすぐったそうにジョーの手を振りほどいた。ジョーは大きく息を吐き出した。
「驚かせるなよ、俺はてっきり、、、。」
 ジョーは目を閉じて健の肩に突っ伏した。普段のクールさをかなぐり捨てたジョーの姿
を健は優しい瞳で見つめていたが、静かに語りだした。
「俺は、運命に操られているかのように突入した。内部には夢と同じようにギャラクター
がいて、俺に向かって銃を撃って来た。ああ、これで終わりだとその時は考えたよ。だが、
土壇場になって、生来の反骨精神が顔を出したんだ。このまま大人しく夢に従うものかっ
てな。夢と違って俺は身体を横に投げ出して弾丸を避けた。気がついたら床に転がってい
たよ。」
「そら、見た事か!俺の言った通りだろう。ただの夢だったんだよ。」
 ジョーは安堵していつもの元気を取り戻し、健をからかった。しかし、健はジョーの冗
談の誘いには載らず、真顔のまますぐ脇に倒れているギャラクターの隊員を指差した。
そのギャラクター隊員は既に息が絶えているようだった。
「あれは、やはりただの夢ではなく、死神が気まぐれに俺の度胸を試しに来たのかもしれ
ない。俺は気がついていなかったが、通路で気絶させたこの男が何かのはずみで息を吹き
返して俺を殺そうと後を付けて来ていたらしい。だから、少しでも臆病風に吹かれていた
ら、どちらにせよ俺の命はなかったに違い無い。」
 健は息をついてジョーに微笑みかけようとしたが、その努力は成功したとは言えなかっ
た。
「俺はマシンガンの銃弾をよけ、そして、俺の背後のこのギャラクターに当ったんだ。死
神の鎌は俺の上を通り過ぎ、次の犠牲者を見い出したって訳だな。」
 ギャラクターの隊員の胸には、健が夢でみた通りに七つの銃弾が打ち込まれていたの
だった。
 運命の振り子は常に揺れ続ける。誰の上にも等しく。そして、運命は、時には気まぐれ
に人を試すのかもしれない・・・。
 健とジョーは黙ったままギャラクターを見つめ、立ち尽くしていた。


- The End -
 
 



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