ACCOMPLICES

by Huey


 <1>

「おい」
 と、ジョーは隣に寝ているココア色の髪の主を小突いた。
「おいっ」
「おーいっ」
 忍耐強く繰り返すこと、3度目にして、
「ん〜〜?」
 と、不機嫌な返事とも言えないような籠った声が応えて、シーツ越しにスカイブルーの
瞳が「うるさいな;」と言わんばかりにジョーを睨んだ。
「ケン、いったい何だっておまえは俺のベッドで寝てるんだ?」
 ジョーは訊いた。いや、実際まったく理解らないのだから訊ねるしかないじゃないか?
第一、トレーラーハウスのベッドは狭い。男2人が快適に眠るのには無理がある。何だっ
てケンはこんな狭苦しいところに潜り込んでいやがるんだ?
「邪魔だから出ろよ!俺はゆっくり寝たいんだ」
 じっとジョーを見つめたまま、また眠り込んでしまいそうなケンにムッとして、ジョー
は邪険にケンの身体を押し退けながら言った。
「へぇ〜、ジョー、おまえ、本当に憶えてないのか?」
 スカイブルーの瞳が一瞬丸くなって、それからネズミをいたぶるネコのようにスッと細
くなって、そう言った。笑いを含んだイヤな感じの口調だった。
「えっ、憶えて、って何をだ?」
「クックックッ……」
「な、何を笑ってやがる?なあ、ケン、いったい何が…」
 ジョーは些か無気味になった。確かに夕べ、というか眠りに落ちる前の記憶は辿ってみ
るとかなりアヤフヤだった。え〜と、え〜と……
「アレックスの店で、ガバガバ飲んだのは憶えてるか?」
 ケンがまだ笑いながらジョーに訊いた。
「あ、そうだ!そうだったぜ、アレックスのとこで飲んだんだっけ」
 だんだん記憶が甦ってきた。バーロォー!あのカマ野郎め!とジョーはもう500回目
くらいの罵りをアレックスに叩き付けた。
『ね〜、ジョー、好きよ。1度でいいから、アタシを抱いてぇ』
 毎度毎度、酔った勢いに任せてアレックスはジョーに迫る。ノンケのジョーは、
『冗談は顔だけにしやがれ!厚塗りのファンデーションを突き破ってヒゲが出てるような
 カマを誰が抱くかっ!』
 と、ムキになってアレックスを拒絶する。だがこれとて海千山千の彼女(彼?)にとっ
てはイイ肴なのだというところに気が付かないのが、またジョーらしく常連客にとっても、
『ジョー、いいじゃないか?1度でいいんだとさ。抱いてやれよ』
『そうそう、ヒゲが気に入らないんならシーツ被せて姦っちまいな』
『そうよ〜、アタシはね、テクもお味も最高なんだから。天国に行かせてあげるわよぉ〜、
 ジョー』
 などと絶好のからかいの種になったりもしている。
 だが、夕べ……アレックスはいつになく怒り出したのだった。
『ジョー、偏見もいい加減になさいよ!オトコがオトコと姦っちゃいけないって法律でも
 あるっての?』
『へン、今に俺が大統領になってそういう法律を作ってやる。おまえみたいなカマ野郎な
 んざ全員死刑だ!』
『ひっど〜〜〜い;言ったわねっ!』
『ああ、言ったがどーした?』
 売り言葉に買い言葉、売りたい酒を買わされるバカ、といった状況に持って行かれたの
にも気付かず、ジョーは無闇無益にエキサイトさせられて、アレックスの計略通りにバー
ボンをガバガバ飲まされてしまったのだった。
 そして、それから、酔った勢いで……

「あああっ!」
 ガバリと起き上がったジョーは、まず自分が一糸まとわぬ姿であることを確認すると、
次にさらにシーツをめくってケンも同様な姿であることを見て、次に乱暴に目をこすった。
「ケ、ケンッ」
 呆れたなぁ、といった表情でケンは慌てふためくジョーを冷ややかに見つめていたが、
やがて婀娜っぽく唇を尖らせた。
「ジョー、おまえってやっぱりヒドイ奴だな」
「や、やっぱり、や、や、姦っちまったのか?お、俺、お、おまえを?」
 ケンはポッと頬を染めて、
「バカ、ジョーのバカ!」
 と、そっぽを向いた。


<2>

 ジョーの手から引ったくったシーツに包まり、恥ずかしいのか俯いたケンの肩が小刻み
に震えている。
 えっ、泣いているのか?
 ジョーはドキリとしながら言った。
「おい、ケン……その、俺が悪かったよ。だから……」
「悪かった、だと?」
 と、振り返って、シーツの影からキッと睨んだケンのスカイブルーの瞳が濡れている。
 あああ、やっぱり、と焦りながらも、どうにかしなくちゃ、と思ったらしい。ジョーは
何度か(も?)こうした場面に遭遇したこれまでの経験(すべて相手は女だったが)と知
識(姦っちまったんだから、男の場合もきっと同じだろう)を総動員して、まずはケンの
機嫌を取ることにした。
「ンな、怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜ、ハニー」
 フッと微笑んで肩をすくめる。内心、大いにビビっていたが、幸いケンに『誰がハニー
だと?』と意地悪く問い直されることはなかった。よぉし!
「俺の性格は誰よりもおまえがよく知ってるだろ?そうさ、俺は我慢が足りねえ。欲しい
 ものは欲しいって奴さ。だがな……」
 にじり寄って顔を近付ける。ジッと睨んだままのケンの目はちょっと怖かったがジョー
はゴクリと唾を飲んで、わざわざタメたとっておきの殺し文句を低く続けた。
「ンだが、そりゃ、おまえがあんまり魅力的だからだぜ、ハニー」
 よし!さぁ、素早く熱いキスを決めちまえ。四の五の言い返される前に、もう一度、相
手をその気にさせちまえばこっちのもンだ……今だ、行けっ!と、ばかりにジョーはケン
を抱きしめるとその唇を奪って、同時に素早くシーツの中に右手を差し入れ、たわわに実っ
た果実のような豊満な胸……あれ?胸が……?
(くそ、ボインが無い;あ、そうか。こいつはケンだ、ボインがあるワケはねえや;チッ、
 俺はボインが大好きなのに!だが今はそンな贅沢を言っている場合じゃねえっ)
 とジョーは勝手と構造の違いに戸惑いながらも、きれいに発達したケンの胸(大胸筋?)
を遮二無二愛撫しつつ、逃れようともがくケンをさらに引き寄せ、熱い熱い舌でガッチリ
と噛み合わせた門歯をこじ開けにかかった。
「むっ、ぐっ」
 唐突なジョーのアタックに、ケンは苦しげな声を漏らしながらも何とか引き離そうと試
みたが、息を整える暇も無かった不利からか、やがて息苦しさに負けて、
「ハァ……」
 と息をついた。すかさず熱いジョーの舌が滑り込んで激しくケンの舌に絡みつく。
 押し返すケンの舌をなだめながら、ジョーはケンの唇を優しく咬んだ。
「ん…ン、んん……」
 抗議の喉声が少しづつ甘い音色を含むにつれ、ケンの抵抗は徐々に弱くなり、無闇に蠢
いていたジョーの指が勃ち上がりかけた乳首を捉えた時、
「ああっ、うっ」
 艶めいた喘ぎを濡れた唇から発し、ケンは全身を短く震わせた。
(嘘だろう?こいつ、オトコだぞ……でも…すっごく悦い……すっごく色っぽいぜ)
 クラッの次に、ムラムラッ……と来た。
 ああ、もう……もう…我慢できない……
「ケン、頼む、1発でいいんだ。頼むから1発姦らせてくれっ!」
 ジョーが思わずそう叫んだのとほぼ同時に、ケンの膝がガツンとその腹に入った。

「バーカ!」
 クックッと笑いながら、ケンは痛む腹筋を押さえるジョーのラシッドブロンドをクシャ
クシャと掻き回した。
「チェッ、おまえのがヒデエじゃねえか、ケン。人をその気にさせやがって−」
「その時点ですでに作戦失敗だろ?ジョー。俺をその気にさせたかったんじゃないのか?」
「あ、そうか!」
 あ〜あ、しょうがねえなぁ、と苦笑いを浮かべるジョーの首に緩く腕を回して、ケンが
囁くように言った。
「忘れるなんてヒドイぞ、ジョー。夕べもああして……」
「おまえを抱いたんだな?」
「そ・う・だ」
 と、耳元でケンの唇が少し恥ずかしそうに答える。
「でも、何だかまだ信じられないぜ。俺がオトコのおまえを……」
 ジロリと上目遣いにケンのスカイブルーの瞳がジョーを見上げて言った。
「はン、よく言うぜ、ジョー。何が、信じられない、だ。それが3回も中出しした奴の言う
 台詞か?」
「3回ぃ?」
 こくり、とケンが頷く。
「おまえの中へ?」
 こくり。
「ケンッ!」
 ジョーはガバッと向き直り、ケンの両肩を力強く掴むと、「えっ?」と驚くケンに、
「おまえ、ピルは飲んでるのか?」
 と、真顔で訊いた。


 その夜、アレックスの店のドアには「定休日」のボードが下がっていたが、薄暗い店内
の止まり木にはアレックスとケンの姿があった。
「でさ、ジョーの奴、あんなに飲んだのにいやに早く目を醒ましやがって……ふわ…」
 寝不足だというケンはまた眠気に襲われたのか、軽くうつ向いてアクビを噛み殺す。
「ごめん、眠くて−」
 艶かしく濡れているケンのスカイブルーの瞳を見て、アレックスはクスッと笑った。
「そっかぁ、これじゃ、さすがのジョーも落ちるワケよね」
「うん?」
「ううン、いいの、何でもないわ。ケン、ありがとう。これでジョーに憎まれ口を叩かれ
 ずに済むわぁ!ふふふ、ザマ〜ミロよね」
「で、俺のツケなんだけどさ……」
「もちろん約束通りチャラにするわよ、ケン」
「サンキュ!アレックス」
 ニッと笑い合って、それから共犯者達がチン!とグラスを鳴らして乾杯したことなど、
言うまでも無くジョーはまったく知らない……。


- THE END -
 


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