激突!

by ボンゴレーノKITT

 バードミサイルは、正確に鉄獣の心臓部を貫いた。物凄い爆風をまともにくらって、
ゴッドフェニックスはコントロール不能となり激しく揺れ、健たちは床に叩きつけられた。
 どの位気を失っていたのだろうか、ゴッドフェニックスは大海原に浮かび、南部博士が
モニターの中で叫んでいる。健は体を起こして、倒れているほかのメンバーに声をかけた。
「大丈夫か、みんな」
 まるで声が自分のものでないようだった。
 ゴッドフェニックスの内部も何だか違って見える。
 ・・・・・いつもの見慣れたバイザーの青ではない。
 紫・・・?
 おい、ジョー、と声をかけようと立ち上がったまま、健は凍りついた。床に倒れている
のは白い翼のガッチャマンで、自分の翼はブルーだったからだ。つまり平たく言うと、健
は今、ジョーなのだった。

 リュウもジュンも甚平もまもなく意識を取り戻したが、「ガッチャマン」だけは目を開
けなかった。
「健の兄貴ぃ」
 ベッドに横たわった「健」を甚平が心配そうに覗き込んでいる。
「健!健!」
 ジュンの声は震えていた。
「おい、健・・・打ち所でも悪かったんかいのう」
 リュウ。そこで揺さぶるな。一応頭を打ってるんだからな。しかし健は腕組みして後ろ
から眺めているしかなかった。
 俺が健だ、とここで言ったら?
(ジョーもアタマ打ったんか)といわれるのがオチだ。
 さっき、健は鏡をしげしげと眺めてきた。きつい目、割れたあご、太い声、何処から見
てもジョーだ。健は混乱して、ただただ黙っていた。
「ジョーの兄貴は冷たいよ」
 甚平がにらんでいる。
「よしなさい、甚平。ジョーだって心配しているわよ、口に出さないだけ」
 ジュンが押しとどめる。健は目を閉じて、なおも抗議しようとする甚平を見ないように
した。ドアが開いて、南部博士が入ってきた。
「検査の結果、何処も異常はない。後は、意識が戻るのを待つだけだ。・・・それにしても、
ヘルメットには何の損傷もない。そんなに強く頭部を打ったとも考えにくいが。」
 と、ため息を小さくついて、後半は独り言のように言った。
「君達は休息を取りたまえ。いつ又次の任務があるか分からぬ状態だ」
 でも、と言いたげなジュンたちに
「俺はここに残る、みんなは休んでてくれ」
 健はジョーの声で言った。有無を言わさぬ口調だった。
 ・・・・皆は出て行った。

「さてと」
 自分の顔をこうして見下ろすのは変な感じだ。当たり前か。いつもは気にならない髪の
毛のぼさぼさ加減が妙に気になる。いや、こんなことを気にしている場合ではない。
「オイ、起きろ」
 健はのんきに寝ている自分の顔に腹が立った。
「おい、ジョー!起きろ!」
 頬を叩くと、眉を少し寄せた。
「・・・・ん、もう一回」
 一体何を言ってるんだ、お前。
「今度はグーで殴るぞ」
 ジョーの声で言うと、何だかとてもハードボイルド。結構、男らしくてドスがきき、
しかもなかなか、甘い声もいけるのである。いくらかでも楽しかったのは、ここまでだっ
た。結果として、いくらパーで叩こうがグーで殴ろうが、「健」は目を覚まさなかった。
 一体あの時、何が起こったんだ?健は、平和な寝息をたてている「健」を見詰めながら
考えた。
(バードミサイルを撃ったジョーは、俺のすぐ隣にいた。
 機体がバランスを失った時、俺はジョーと激しくぶつかった。そのせい?)
 全く科学的ではない。南部博士に、まるでコーヒーのお代わりを勧めるような口調で
「精密検査でもどうかね?」と言われそうである。
 とにかく、この「sleeping beauty」(と自分で言うのもなんだが)が起きない限り、進
展は望めそうにない。空腹を覚えた健はあきらめて部屋を出た。

 エレベーターには一人先客がいた。ライトブラウンの髪の毛を後ろでひとつに束ね、細
い銀縁の眼鏡をかけた女性職員である。グレーのスーツに白いブラウスの地味な服ではあ
るが体の線をさりげなく強調するように仕立てられていて、彼女のスタイルがかなりのレ
ベルであることに、健は気付いた。
(確か、資料室のケリー?こんなにスタイルが良いなんて知らなかったな)
 いつもの習慣でにっこりと笑って乗ると、ドアが閉まるなり、彼女がそっと指をからま
せてきた。
(?!)
「この間は、とっても愉しかったわ」
 叫びそうになるのをようやく堪えた。
 この「愉しかった」は、そーゆー意味だよな。
「又ね。木曜以外はいつでもオーケーよ」
 彼女は微笑んでエレベーターを降りていった。眼鏡の奥にこんなに妖艶な目があるとは、
今まで気付かなかった。ブラウスの絶妙の合わせ目に、あんなに眺めのいい谷間があるこ
とも。
 え?
 ・・・・今のは、俺の思考だよな?
 なんだか、ジョー化してないか?

 エレベーターを降りると、一階の受付が見えてきた。
 いつもの健は、受付など意識したことはなかった。そこは単なる出入り口であり、受付
嬢は単なるスタッフに過ぎず、習慣として笑って挨拶するだけのことである。ジョーにい
たっては、挨拶すらしない。受付嬢は好みではないのだろうか、目を伏せたまま通り過ぎ
ることがある。
 そうだよな、資料室のあんなに固そうに見えたケリーと、あんな仲なんだものな。
 しかしそれは、健の誤解であった。
 健としては、いつものジョーの失礼な態度をカバーする気もあり、受付嬢たちに向かっ
てにっこり笑って、(健としてはいつもの通り)挨拶した。
 すると。
 健の視界に、突如として情報が押し寄せてきたのである。
 アン(又来てね、待ってるわ)
 ララ(今夜、私とどう?)
 ベス(最近誘ってくれないのね)
 ほんの一瞬の眼差しに、こんなやり取りが含まれているとは知らなかった。今まで、俺
は何を見ていたんだろう、と健は思った。道理でジョーの奴、受付嬢たちと目を合わせな
いようにしているわけだ。
 健は笑顔のやり場に困って慌ててドアの方を向いた。しかしその視線の先にもやはり女
性がいて、
「あら、ジョーってばここではいつも知らん振りするくせに、今日は愛想がいいのね」
 と、話しかけてくるではないか。その金髪で小柄な女性は、確か研究室の新しい助手だ。
(さすがに名前までは知らない・・・・あ、リンダだ。・・・・何で俺、知ってるんだろう?)
 この瞬間、エントランスホールに奇妙な緊張感が生まれたのを健は悟った。もしかする
と、俺は一番やってはいけないことをしてしまったのかも。この局面において健の知識や
勇気は何の役にもたたない。
「後は野となれ山となれ」
 ふと脳裏にこんな言葉が浮かんだ。
 健はとっておきの笑顔で周囲の女性たちに「今度、な」と打電した。
 あ、しまった、他の関係のない女性にも送っちまった。
 緊迫感が倍増したエントランスホールを振返る勇気は、今の健にはなかった。

 丸1日たって、ついに、「健」は目を覚ました。
 連絡を聞きつけて真っ先にドアを開けた健が見たのは、ベッドの上で看護婦にキスをし
ている「自分」だった。しかも片手は胸のボタンに、もう一方の手は太ももにのびている。
「おい!」
 看護婦は真っ赤になって部屋を出て行った。
「やあ、ジョー」
 「健」は傍らの瓶を手にとり、最後の一口を飲み干した。
「待て、それは酒じゃないのか?」
「ああ、さっきの親切な看護婦さんに頼んだのさ、今のはほんのお礼」
「分かってるんだろうな、お前は今『健』なんだぞ」
「そうらしいな、髪もブラウンだし、看護婦さんもそう呼んでたし」
「今のヤバイ状態が理解できているのか?」
「勿論。だから飲んだ」
 もっともだ。
「もう一度、あの状況で頭を激突させたら元通りになるかな」
「なるかもしれないし、ならないかもしれない」
 歌うように言ったジョーを見て、こいつが目を覚ましてもなんら状況は好転しないじゃ
ないか、期待した俺がバカだったと健は思った。

 その時、ジュンが部屋に駆け込んできた。
「健!目を覚ましたのね!心配したのよ!」
 つい反応しそうになる健を軽くかわして、ジュンはベッドの「健」の胸に飛び込んでいっ
た。その姿はいじらしくて、とてもスナックJでツケの取立てをしているジュンと同一人
物には見えない。あれ?ひょっとしてジュンは俺のこと?どうして今まで気付かなかった
んだ?
 ベッドでは、「健」がジュンの背中を優しくなでながら、「ジョー」に向かって不敵に
もウィンクを投げてきた。目を健に向けたままジュンの耳に口をよせて何か囁いている。
 それにしても、俺はだんだんジョー化してきているのに、どうしてジョーはジョーのま
まなんだ?わけもなく敗北感を感じて、健は部屋を出た。
 何しろ、ここ一日色んな事が分かるのである。
 シシーの立派な胸は半分は偽物だとか。ユリアの目元はどうも不自然だとか。ダイアナ
は実はなかなかいい女なのに本人が気付いていない。もったいないぞ。その10年前に流行っ
た髪形をナントカしろ!とか。
 ジョーは溢れるほどの情報を手にし、手を出すかどうか即座に判断を下し、すばやく目
で合図を送っていたのだ。この情報処理能力は凄い。しかもその後のケアもかなり好評の
ようだ。このままジョーの体に入り続けていたら、違う人生が開けるかもしれない。ちょっ
と期待したりして。いや、いかん。こんな事を考えること自体が、もはや深刻なジョー化
と言えるのではないだろうか。
 苦悩の表情で腕を組み廊下の壁にもたれて立っていると、ジュンが幸せそうな顔で出て
きた。足取りが軽い。
「健・・・・何か言ってたか?」
 思わず聞く。
「うふ、内緒」
 あああ。ジョーの奴、一体何をジュンに吹き込んだんだ。

 ブレスレットが鳴った。ギャラクターだ、出撃だ。
 健は今までになく血が騒ぐのを感じた。廊下の火災報知器の赤いボタンにすら人差し指
がうずうずする。たまらん。今日の俺はバードミサイルを何発撃ってしまうのだろう。
 「健」が困るかな?いいさ、なるようになれ!
 バード・ゴー!まばゆい光に包まれたとたんにドアが開いて、中から足元の怪しい「ガッ
チャマン」が飛び出してきた。
 ゴンッ!
 健の目から強烈な火花が飛んだ。意識も飛んだ。

「健、ジョー、ここで何をやっているのかね」
 南部博士の押し殺した声が降ってきた。健とジョーは、りりしいバードスタイルであり
ながら、あるまじきみっともない姿で廊下に倒れていた。
「他のメンバーはもうゴッドフェニックスに乗っているのだ。恥ずかしくないのかね」
「は、博士、申し訳ありません」
 よろよろと立ち上がりながら、健は博士の顔に焦点を合わせようと努力した。
 あ、この声は俺だ!元に戻ったんだ!
「健、体の方は大丈夫かね」
「すっかり良くなりました!」
「む?健、なんだか酒臭いようだが、君はもしや・・・・」
「気のせいです!行くぞ!ジョー!」
 ヘルメットに手を当ててぼーっとしているジョーの手を引っつかんで、健は駆け出した。
「健、すまねえな、博士にあんな・・・」
「気にするな、ジョー。今はギャラクターのことだけを考えるんだ!今日はバードミサイ
ルを何発打ってもいいぞ!」
 そういいながら、健は心の中でジョーに詫びた。
 すまん、ジョー。受付嬢たち、いや、あの場に居合わせた女性たちからこの先どんな仕
打ちをうけても、俺のことを許せ!と。

THE END


 補足:戦いから戻った健は、南部博士に呼び出され、酩酊状態で任務に就く危険性に
    ついて長い説教をくらい、ジュンからは期待を込めた熱い眼差しを受けた。
    しかし女性の情報をキャッチする能力が失われていた健が気付かなかったのは
    言うまでもない。


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