激突!2

by ボンゴレーノKITT

 その日二人は、遅い昼食をとってくつろいでいた。
 ジョーは車の雑誌に夢中である。
 しばらくその姿を眺めていた健は、先日から気になっていたことを切り出した。
「なあジョー、俺たちどうしてあの時入れ替わったんだろう」
 ジョーは雑誌から目を上げない。
「さあなぁ。なんでだろうなぁ。」
 健の眉間にシワがよる。あの出来事を「さあなぁ」?
 健はジョーの姿に惚れ惚れすることがある。シャープで無駄のない動き。正確な射撃。
そして実戦の時、ギャラクターに対してみせる激しさ、熱さ。いざという時、ジョーほど
頼れる奴はいないだろう。
 しかし。
「健、見ろよ、このライン。すげえ」
(どれどれ、どの車だよ?この間のモーターショーのあの車か?)
 いつの間にか雑誌は入れ替わっていて水着の女のコがにっこり微笑んでいる。
 ・・・俺もこの手は嫌いじゃない。嫌いじゃないが・・・・。
 プライベートのジョーは、健の理解の範疇を超えることが多かった。

 健と入れ替わることで、何か困ることがあるか?
 今までと違ったタイプの女の子が寄ってくる。新規開拓も悪くない。
 いざ、科学忍者隊として出撃しても、身体能力はさして変わらないんだし。あ、レース
の直前だったらちったぁ困るかもしれないが。さして、問題はないんじゃねえか。
 と、雑誌のページをめくりながらジョーは思っていた。


 次の朝、いつものようにベッドで寝返りを打ったとたん、ジョーは頭をしたたかに打った。
 しまった、こいつが隣に寝ていたんだった・・・。
 薄れゆく意識の中でジョーは、昨晩酔っ払ってもぐりこんできたココアブラウンの男を
床に蹴落とした。・・・・つもりだった。

 目が覚めると、床に寝ているのはココアブラウンの、ジョーであった。
 やっちまったか・・・。
 ほんの一週間ほどまえに、健とジョーは頭を激突させ、入れ替わってしまったのだが、
あれ、一回だけじゃなかったのか・・・。
 その後、もう一度頭を激突させれば元通りになるということは分かっている。
 ジョーは息を止めて、安らかに眠っている「自分」に頭をぶつけてみた。
 痛い。
 しかし、何も変わらない。「ジョー」は、すやすや寝たままだ。
 両方起きていないと駄目なのか?
 こいつが起きるまで、待つより他はない。
 ジョーは髪を整え、トレーラーハウスから出た。
 新規開拓も悪くない。

 いつもと違うタイプの女の子達に目を奪われながら通りをぶらついていると、ジュンに
ばったり会ってしまった。
 マズイ。一番会ってはいけない人間である。
 ジュンは最近少し機嫌が悪い。無理もない。
 丸一日の眠りから覚めた「健」は、優しくジュンを抱きしめ、甘い言葉を耳元で吐き散
らした。やっと自分の思いが通じた、とジュンが感激したのも束の間、その後出撃した健
はどうも今までの朴念仁となんら変わることなく、それとなく誘ってみても全く通じない。
 ジュンは、あの時の「健」がアルコールの匂いをぷんぷんさせていたのを思い出し、
(お酒が入っていて、覚えていないんだわ)
 と、健気に自分に言い聞かせているらしかった。
 が、しかし、ジョーの口からは反射的に言葉が出てしまう。
「やあ、ジュン、美容院の帰りか?」
「え?健、分かる?」
 ジュンの顔がぱっと輝いた。
 健、おめえがこまめに声を掛けてやらねえから、こんな挨拶で大喜びじゃねえか。
 ジュンもかわいそうだよな。
 ジョーとしては、健の日頃の不手際のフォローのつもりである。
 性根の優しいジョーとしてはついつい付け足してしまう。
「その新色のグリーン、いかすぜ、良く似合ってる」
「ホントぉぉ?」
 あ、こんなに喜んじゃって。どうするんだ、一体。俺は知らねえっと。
 しかしこのままでは、いずれ「健」は健ではないと分かってしまうに違いない。
 ジュンを今冷静にしてはならないのだ。
「俺、今用事があって急いでるんだけど、今度、ジンペイ抜きでどこか行こうか」
「ジンペイ抜き!?」
 今や、ジュンは何も考えられないに違いない。ここでトドメ。
「バイト代が入ったら、なっ」
 ジュンは頬をピンクに染めて頷く。
「じゃ、又」
 少女のように嬉しさで固まっているジュンを残し、ジョーは早足で歩き出して、呟いた。
 ジュン、俺が言うのもなんだけど、ちょっとは冷静に考えたらどうだ?健のバイト代は
いつもツケに消えるに決まってるだろうが。
 たぶん、ジュンはあと数秒で何かおかしいと気付くだろう。ジョーはさらに足を速めて、
角をすばやく曲がった。

 ブレスレットが鳴った。南部博士からだ。
「健、最近君は昏睡状態に陥ったね。念のため精密検査を受けたまえ」
「検査・・・ですか?」
「そうだ。これからすぐ来られるね?」
 この「来られるかね?」は「来い」という意味である。仕方がない。
「分かりました」
 あの受付を通るのか。
 しかし、今自分は「健」である。何も怖いものはない。
 新規開拓、新規開拓。
 ジョーの足取りは軽かった。

「鷲尾健さんですね?博士がお待ちです。」
 プラチナブロンドの秘書が出迎えた。しかもメリハリのきいたスリーサイズ。
「ありがとう」
(どお?)と信号を送ってみたが、反応はなかった。
 ま、こういうこともあるさ。きっと、この童顔は彼女の趣味じゃねえんだ。
 自分に言い聞かせながら遠ざかる秘書の後ろ姿に見とれて歩いていたジョーは、書類を
見ながら歩いている南部博士にぶつかってしまった。
 !!!
 次の瞬間ジョーの目に入ったのは、床に倒れている健だった。
 自分の手を恐る恐る見ると、薄い空色の袖口に黄色のシャツ。
 もしや。
 ネクタイがキツイ。むしり取る。
 上着も窮屈。脱いで肩にかける。
「これは、いかん」
 え?今、俺は「こいつはマズイぜ」と言ったのに、勝手に変換されてる?
 そこへさっきの秘書が入ってきた。
「あら、博士、お暑いですか?冷房が効いてません?」
 ついじっと見詰めてしまう。これはもう習慣。プラチナブロンドには、ちょっと弱い。
「博士、ここに倒れてらっしゃる・・・・」
「いい香りだ、なんという名前かね?」
 ああ、言っちまった。マズイ、これは絶対にマズイ。
「・・・博士?」
 かなりの努力でブレーキを踏む。
「いや、いいのだ、気にしないでくれ給え」
「博士・・・」
 あ、だめだ。秘書の目が潤んでいる。こりゃ、前から博士に気があったな。
 博士は、研究一筋で気付かなかったと見える。
「シャネルのチャンスですわ。今朝から替えましたの。それまではラルフ・ローレンのロ
マンスでした。気付いてくださったのね」
 もともと、来るものは拒まず、のジョーである。徐々に距離を狭めてきた秘書の腰に反
射的に手を回す。断っておくが自分のヨコシマからではない。女性への礼儀からである。
目を見詰め、低い声で囁く。
「うむ、今晩食事でもどうかね」
 ひょっとして、博士のプラチナカードをプラチナブロンドと使い放題?
 健の体より、こっちの方がよっぽどいいじゃねえか。
 しかし、秘書は怪訝そうな顔で「博士」を見上げた。
「博士、今晩はアンダーソン長官と会食の予定ですわ」
「お、そ、そうだった。では、その後は・・・・」
「危険な任務に就いている親友と一年ぶりで会うと、あんなに楽しみにしていらしたでは
ありませんか」
「ええ?では明日の朝は・・・・」
「朝食後すぐにスタッフとのミーティングがあります。」
 う。
 秘書はきらきらと輝く目で「博士」を見詰めた。
「プライベートな時間を一切投げ打って、世界平和と人類の発展のために尽くす博士って、
本当に素敵ですわ。私がいくら休暇を勧めてもお取りにならないんですもの。その熱意、
私、心から尊敬しております。今週も出来る限り、要人と会食できるよう取り計らってお
きました。残りの時間は研究室にこもれる様に手配してあります。」
 頭が痛い。めまいがする。息が苦しい。心臓が締め付けられるようだ。
 酒を飲む時間は?マシンを思う存分吹っ飛ばせる時間は?プラチナブロンドとよろしく
やる時間は?
 床に倒れていた「健」が動いた。
「う・・・」
 やばい。
「コホン、君、はやく医者を呼んでくれたまえ」
 秘書は慌てて部屋を出て行った。
 ジョーは、フラフラと立ち上がる「健」の頭に、頭突きをくらわせた。
 ・・・もはや、一秒たりともこの体には留まっていたくないジョーであった。

 THE END


 蛇足:その晩、南部博士はアンダーソン長官と、有名なフランス料理店で向かい
    合っていた。アンダーソン長官は美食家で有名だ。食べる量も半端ではな
    い。いつも、あっさりしたものを軽めに食べる南部博士であったが、その
    晩だけは勝手に口が動いて恭しい態度のウェイターにこう告げた。
   「特大ハンバーグは出来るかね、ケチャップとマヨネーズをたっぷりかけて」
    ・・・勿論、我に返って慌てて取り消したのは言うまでもない。
ART by まりこ 
ART by まりこ


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