(無題)

by KITT


 なあ、ジョー。
 どうしてお前は俺を置いていっちまったんだ。
 今日はあの日と同じような風が吹いてる。
 ささやき声、だとか、温もり、だとかいうやつも、
 全部はるか遠くに運んで行っちまうような、あの風だ。
 
 お前の頬に見舞ったパンチの手ごたえを、
 俺は今でもこの拳に思い出すことができるぜ。
 お前の頬は、俺の拳を思い出してふと痛んだりするんだろうか。
 生意気なセリフを吐いて、にやりと笑って振返るあの仕草、
 俺は未だに、街の人込みにそれを見かけたような気になるんだ。
 
 こんな風が吹くと、俺はいつもこの言葉を呟いている。
 還って来い。
 俺は声にならない声で、祈る。
 ジョー、お前はあの風と共に、俺の半分を持っていきやがった。
 
              ガード下の飲み屋にて 丹下段平


 THE END  
 



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