PC−JOE4 コンドルのジョーは報告書を書く4
          或いは 大鷲の健もやるときはやる1

by もも

健たちのオフィス。
ジョーはいそいそと帰り支度を始める。鼻歌が混じる。どの女のとこにしよう…。
「あ、大会議室ですか?そちらに…」
健の声がパーティション越しに幽かに聞こえた。誰かに電話をしているらしい。
「あ、俺です。G1です」
G1と名乗っているのだから、おそらく外部の、それも任務で接触のある人間だ。
「さっきは済みません。お騒がせしてしまって…。で、あの、重ね重ね申し訳ないんです
が、俺、慌てて少佐のペン持って来ちゃって…。はい」
え?と、ジョーは聞き耳を立てる。健、お前、今、しょうさ、って言ったか?
「今日は会議何時までですか?終わったときにお返しします。…いつでもいい?そんなの
だめですよ。…ちゃんと、…はい」
そんなもん、返さなくていい、ジョーは席から立つに立てずじりじりする。
「今晩はうちの長官や軍の上の方々と会食ですか?…。将官だけ?少佐はフリーなんで
すね。久々に一緒に飯食いませんか?…。G2も?いいんです、あんなの」
" あんなの "のジョーが、大魔神モードでじわっと立ち上がる。
「俺、仕事してますから、時間なんて何時でもいいです。はい、はい、じゃ。」
健は、約束ですよ、忘れないで下さいね、と丁寧に念まで押して受話器を置いた。
「…健、お前、今…」
「聞き耳立ててるなんて、行儀悪いぜ」
ぺン持ってきたのわざとだろ、とは口にはしない。健は必ず肯定するから。
「前、任務で一緒になったときには忙しくてゆっくり話してるヒマ無かったからさ」
ゆっくり、なんてしなくていい。
「彼は戦闘機乗りとしての腕が確かなだけじゃないんだぜ」
健の青い瞳がうっとりと細められる。唇が薄く開き、零れる吐息が凄艶な微笑と変わる。
「金も政治力も将来性も、若さも。…ふふ」
ジョーがフリーズする。それは紛れもなく、ソの気の全く無い普通の男でも、オンナ狂い
でも、パソヲタクでも、ロリコンでさえ、漏れなく籠絡する健の貌だった。
「少佐はお前もって言ったんだけどさ、お前これから女のとこなんだろ?」
ジョーは、すとんと席に着いた。ノートPCを広げ、電源を入れる。
「オンナのとこ行かないと、鼻血なんだろう?」
そんなこと言ってる場合じゃねえ。
「始末書書くのか?」
書いたろうじゃねえか。

健はパーティションに隠れて、くすっ、と笑い、舌を出した。
リーダー大鷲の健は、ナンバー2のジョーよりも一枚も二枚も上手なのだった。

ジョーが始末書を書き始めたようだ。健は、チームのユニックス・サーバーのOSのアッ
プグレードをしようと思い付いた。どうも近頃疲れが取れない。あまりタイトな仕事はし
たくない気分だった。アップグレード作業なら、待ち時間が長いから休憩にもなるだろう。
ジョーはPCで轟沈するが、健はユニックスも汎用機も、スパコンも、一通り触れる。
さすがは、リーダーだった。

ぼーっとテレビを眺めていると、アップグレードのプロセスに従ってメッセージが流れて
行く。至って正常に稼働しているようだ。健の足下にあるユニックス本体も、緑のシグナ
ルが規則正しく明滅していた。ジョーのキーストロークの音が響いてくる。あんなにぶっ
叩いたら、今度はキーボードがイカれちまうなあ、と思う。
今頃、南部はISOと軍のお歴々を相手に、今後の戦略展開について一席ぶっているとこ
ろだ。リサもライズもその席にいる。野次馬根性が頭を擡げた。アップグレード作業の窓
を最小化して、サーバ・ログイン画面を起動し、南部のサーバに接続する。プロセス監視
用のコマンドを実行すると、実行中プロセスが山のように表示された。長官、頑張ってん
なあ。もしかして少佐相手に質疑応答してんのかな。遣りづらいだろうな。
それにしても酷く眠い。IOの音を聞きながら、いつしか健は船を漕いでいた。

「ちょっとかくまってくれない?退屈で、退屈で」
PCに向かうジョーの隣にリサが椅子を引きずって来た。ジョーは、少なからずいじけて
ネットサーフィンで遊んでおり、" あなたにも賞金… "とかいうバナーにアイコンを乗せた
ところだった。
「だめよ!」
マウスを握る手の甲をぴしゃり。
「そういう、得体の知れない多額な賞金のとか、エッチなバナーをクリックするのって、
危険なのよ」
「え」
「ウ、イ、ル、ス」
「わ」
「本当にもう、ねえ、あなたも私の教え子だったのよねえ?健やアーサーや天然みたいに。
特にあなたと健は机を並べてレクチャー受けたのに」
今度はどこを張り倒されるのか、と思いながらリサをじっと見詰める。
「いいから仕事しなさいよ。ここに匿ってもらってる間は色々教えてあげるから」
リサはやはりただの面食いなのだった。

「リサって会議じゃねえの?」
もう、目がしょぼついている。報告書仕事だと、5秒で眼精疲労のジョーだった。
「あんなのただの儀式よ。いいの、最初だけ顔出したから、出席にはなってるわ」
おいおい、あんたの講義じゃあるまいし、とジョーは思った。リサは軍に招聘されるまで
は大学で教鞭を執っていた。ジョーたちとはその頃からの付き合いだ。
リサはジョーのPC画面を覗き込んで何か言っている。ふうん、ISOは文書ソフトはこれ
を使ってるのね、とかなんとか。
「あなた、それ自動保存の設定してるの?何かの拍子に落ちたらおじゃんよ」
その苦い思い出は、ジョーの臓腑に染みついていた。
「どうやってやるんだ?」
「こういうツール使ってて分からないことがあったら、とりあえずヘルプ押すのよ。でキ
ーワード入れて検索するの。" 自動保存 "。しょっちゅうやっておいたほうが、トラブルが
あったとき失われる情報が少ないけど、うっとうしいわ。ま、好みね」
「ふむ」
PCも、分かってくると面白いものかもしれない。リサはくすっと笑った。
「まあ、あなた向けの作業じゃあないわねえ」
「可哀相だろう?俺。慰めたくならねえ?」
「あなたがパラレル・サーバを組み立てられるようになったら、考えても良いわ」
それって、おととい来やがれ、って言ってんのと同じだぜ、リサ。
「天然、何やってんだ?」
「念のために、長官のサーバ本体サイドで待機。あの子が一番頼りになるからね。ま、何
も無いでしょ。一番厄介な処理はもう抜けたもの」
世の中そんなに甘くない。リサが“何も無いでしょ”と言った、まさにその時、南部の操作
するシミュレーション画面が、万観衆の前で、固まって落ちたのである。

さらにまさにその時、健がテレビの前で蒼白になっていた。何枚ものCD−ROMの読み
込みがやっと終わり、OSの再起動を掛けようとシャットダウンコマンドを実行した。チ
ームのサーバに接続した画面から実行したつもりだった。しかし、連日の徹夜でさすがに
ボケていたのだろう、シャットダウンコマンドを、南部のサーバに接続したほうの画面で
実行してしまったのだ。
ユニックスのコマンド入力画面など、2色刷りのテキストオンリーの画面だ。違うサーバ
の画面でも、下手をすると同じようにしか見えない。
し、しまった。俺としたことが…。

携帯が突然鳴った。健はその小さな電子音に跳ね上がった。続いてリサの声が突き刺さ
った。ジョーのことはケナしておいて、今度は健が聞き耳を立てていた。
「ハイ。あ、アーサー?…ごめん、あんまり退屈だったもんだから…。え?何?システム
が落ちたア?長官が白くなってるう?」
アーサーとはライズ少佐のこと。
「ごめんなさい。ちょっと貸して」
リサはジョーのPCを自分の方に向け、ユニックスへログインする画面を起動した。
「ネットワークが切れてる。そっちの会場の環境の問題じゃないわね。待って。ISOと
うちが共同開発したシステムが不安定ってことになったら、長官も拙いけど、私(統合情
報部)も拙いのよ。時間稼ぎして。長官に質問でもいちゃもんでもぶつけて。得意でしょ、
そういうの。煩いわね。つべこべ言ってると入籍するわよ」
官庁データであろうが、銀行データであろうが、この世にリサが操作できないデータは存
在しない。
「はい、素直でよろしい。え?どのくらい?まあ1時間ね。よろしく」
うわ…、と健は南部を思った。あの舌鋒を一人で1時間…。

リサが通話を切った途端、再びその携帯が鳴った。
「ハイ。今度は何?ああ、てんね…。ええええ?シャットダウンが走ってるぅ?何それ、
システムもマシンも全部正常なのね?誰かがどこかで強制終了かけただけ?」
オダらしい。何だよ?と、ジョーがきょとんとリサを見詰めていた。

リサの声を聞きながら、健はイヤな汗が止まらない。今度は健の携帯電話が鳴った。
−健、そっちで何かあったのかね。こっちのシステムが落ちてしまった。
き、来た、と思った。
−ジョーは何もしていないかね?
ウィルスだの液晶破壊だので、この分野の信用が皆無の、ジョーだった。
−いい、時間が無い。分かった。今度という今度は、私からジョーに直接言って聞かせね
ばなるまい。
電話は切れた。南部の静かな怒りは強烈だった。健は否定しなかった、敢えて…。

我に返ると、ジョーのパーティションに、リサの他にオダもいた。
「参ったわね。長官が操作できるようになるまでどのくらいかかる?」
「1時間弱ってとこ。マシンそのものは正常だから、落ちて上がるのを待つだけ」
「ったく、どこのどいつがいらんことを」
リサの声に健は身の竦む思いがする。
「起動したら、シャットダウン・ログを調べてみるよ。そしたら、どこから強制終了され
たか分かるから。なんかのトラブルだと拙いもんね」
え?PCじゃシャットダウン・ログなんか残らないのに。ユニックスは残るのか??
オダ〜、そんなもん、調べなくていい〜。叫びをぐっと飲み込む。
バレるのは時間の問題だ。そしたら、リサのホワイト・ボードが飛んでくるのか??
ジョーは必要以上の悪ガキだったが、健は一応優等生だったのに。

「健、何かあったのか?」
ジョーがこっちを見ている。南部に売ったばかりの、その一番の幼なじみは、健の顔を見
ながら小首を傾げた。うす青の瞳が怪訝そうに健を見る。
「どうした?顔色悪いぞ」
来るな。心配なんかするな。(寝不足の腹いせに)俺はお前を裏切ったんだ〜。

顔面蒼白の健を見て、ジョーは思った。蒼褪めた健ってのも、キレイだな。
今日は美味いもん食わせてもらって、体力つけて、明日までお前と。ふっふっふ。

どっちもどっちな、リーダーとサブ・リーダーだった。
大丈夫か?!科学忍者隊。


END < コンドルのジョーは報告書を書く4



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