PC−JOE6 コンドルのジョーは残暑お見舞いする

by もも

暑い。
体温を上回る最高気温が、天気予報を蹂躙している。
エアコンの効いたオフィスに入っても、しばらくは汗が引かない。
その日、コンドルのジョーは、ソフトクリームを歩き食いしていた。
ちなみにその日は40度近い、きちがい沙汰な猛暑で、ソフトクリームなど買ったその場
で緩くなっていた。そう、少し頭が冷めてさえいれば気が付くことだったのだ。ソフトクリ
ームをキーボードにお相伴させるかも、ということは。

べちょ。

と同時に、わちゃ〜、と蒼ざめた。幸いに健の姿は見えない。今のうち、とばかりに掃除
上手を発揮。ティッシュと雑巾で、一見すると分からない程度にキーボードを磨き上げた。
ついでにデスクの上もきれいに掃除して、ブックシェルフの埃まで払った。というわけで、
ジョーはすっきり爽やかに、朝のオフィス・ライフをスタートさせた。

ところが、世の中そうは問屋が卸さない。PCを起動させた途端にアイコンが暴走してい
た。げ。いや、大丈夫だ、こんなにきれいに拭き掃除したんだから…。
いや、しかし、このアイコンぶるぶる状態を健に見られるのはよくない。グーを喰らって
しまう。こんなときには、とジョーは受話器をとった。
「あ、オダ?今、ISOにいるのか?長官室出たトコ?おー、いいタイミングじゃねえか。
アイス奢ってやるからさ、来ねえ?」

で、5分後、オダはジョーのPCの前に座らされていた。
「ほんとだ。ポインタが暴走してる。面白いじゃん。どうやってやったの?」
「しらねえよ。起動したら変になってたんだよ」
「なんかヤな予感したんだよな。奢ってくれるとかってさぁ…」
夏服の開襟シャツが涼しげに映る。何かの拍子に、襟元から胸部までがのぞき込めてしま
う。ううん。暑い夏っていいかもしれない。
「アイスさ、ちょっと汗かいてからにしねえ?」
「何それ。勤務中に運動は拙いでしょう?」
「平気さ、いい場所知ってるんだ」
「ISOってジムもあるんだっけ?…ああ、マウスは正常だね…」
オダは、PCの電源を落とした。キーボードを両手で持ち上げてゆすっている。
ちょっと小首を傾げた。眉根が寄せられる。鼻を近づけてくんくん…。
「いちごの匂いがする」
おお、ご名答!お前、わんこか。あんなに綺麗に拭き取ったのに、なんで分かったんだ?
オダは、ジョーを見上げてくすっと笑った。嫌な感じだった。指先で探りながら、キーボード
のパネルを開ける。何のつもりだ!
「ジョー、キーボードにストロベリー・アイスあげた?」
キーボードのコネクタを外して、オダは椅子から立ち上がった。
「う、あ、おわ、あわ」
これではアシカだ。蓋が開くとは知らなかった。引きかけた汗がまた滲んで来た。
「コンピュータとその周辺機器にはくれぐれも食べ物・飲み物は与えないで。ブラックの
コーヒーや紅茶なら水で洗えばなんとか…。でも、砂糖やミルクが入ってたら、もうダメ」
「えええ、じゃ、そのキーボードは?」
「とりあえず、水洗いしてみるけど、多分もうイっちゃってると思う。IT担当者の人に頼ん
で、キーボード調達してもらいなね」
オダはキーボードを抱え、小走りでオフィスから出て行った。
だから、そのIT担当は健だって、何度も…。オダは興味の無いことは覚えない。なので、
グーだのかかと落としだのに対する配慮は無い。

健がここに来る前に、こっそりキーボードを万引きして来よう…。
任務がら、留守が多いのが健以下の5人だった。ジュンはいた。じゃ、竜か甚平のあたり
か…。

昔の人は言いました。災難は忘れた頃にやってくる。

「ジョー…」
リーダーは、ここぞというときにやってくる。
「そこのトイレで、オダに会ったぞ」
そうか、そういやこいつ、宇治金時の食い過ぎでハラ壊してたんだった…。
「キーボードにアイス食わせたって?」
下腹に力が入らないので、グーも、ましてやかかと落としなど仕掛けられない健だった。
「洗うのくらい、自分でやれよな…」
窶れたがゆえに、一層、凄艶な健だった。襲いたい衝動に駆られたが、それはこいつの腹
下しが治ってからにしよう、と考え直した。
「しかも、なんだって?ちょっと汗かいたらアイス奢るって??」
ああ、なんて色っぽい貌して笑うんだ、お前は…。それに、どうしてなんだってそんなバ
カ正直に全部健に話しちまうんだ、お前は…。
「健も一緒に行こうよ、って言われたぞ、俺は」
おー。3Pじゃねえか。でかした、天然。お前にしか、そんなこと健には言えないぞ。

「ジョー、いい加減にしろよ」
俺には、絶対に言えないぞ。…それは、物凄く恐いからだ…。でも、この雰囲気はまずい
な。ちょっとボケなきゃな。悲しき、ナンバー2だった。

「じゃ、健、特別応接室でどだ。あっこのソファがいっとうクッションが…」
言い終わる前に、腹部に異物を感じた。ボケが滑ったことに気付くのが遅かった。
鳩尾に、22口径が突きつけられていた。う。そっちの飛び道具は止めにしねえか、健。
今度は脂汗が滲んできたジョーだった。

冷たいものの食べ過ぎ、飲み過ぎにはくれぐれもご注意あれ。
合掌。


END



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