PC−JOE番外 コンドルのジョーはクリスマスする

by もも

市街地に入ったとたんに華やかな飾り付けと着飾ったオネーチャンたちに目を奪われてし
まった。で、何のために外出したのかを思い出したのは日も傾き始めた頃。ああ、そうだ、
またバードミサイルの乱射で始末書の追加生産しちまったんだった。コンドルのジョーは
溜め息とともに冷え込みを増す街に背中を向けた。

オフィスに入ると、この間来たときには無かったクリスマスツリーが輝いていた。窓ガラ
スにはサンタにトナカイ、星々がふんわりと浮かんでいる。ジュンや甚平がやったのだろ
う。この手の作業には、健は向かない。
「あらさっすがG2、外さないわね〜」
ミーティングコーナーのひとつから、ジュンが顔を出して手を振った。
「軍から差し入れが来たの。ほらぁ」
ケーキを捧げ持ってウィンクする。その横からオダがぴょこんと顔を出した。
「おお、天然、久しぶり」
軍統合情報部少尉ユリウス・オダ。遊ぶ(?)スパコンとの異名をとる南部をして百年に
ひとりの逸材といわしめる超ド級の天才青年である。ただ、その頭脳明晰さを裏切る天然
さがご愛敬。渾名の天然は健が名付け親だ。
「庁舎に来る途中でライズ少佐に買ってもらったんだ」
いやな展開だ、と思った。今回はPC本体を眉間に喰らわないように気を付けようと思っ
た。ちなみにライズ少佐とは史上最強の航空隊ニケを率いる空軍少佐である。政財界を牛
耳る名流の出で、とてもお金持ち。
一方、竜と甚平はもうフォークを構えている。
「あにきとそうトシ変わらないのにさあ、あるとこにはあるもんなんだよなあ」
「ま、遠慮無く頂こうぜい。オゴる平家はお金持ちぃ〜、ってなあ」
け、たかがブッシュドノエル、そんくらい俺だって、とジョーは思った。でも、まぁ、い
いか、ケーキに罪は無いしな。

ジョーはケーキの皿を手に、それでもPCの前に付いた。が、すぐに立ち上がった。健の
気配が無い。航空隊の凄腕の隊長と来れば絶対に出てくる健が(ムカツクことに)。いや何
よりもこのチョコレートのかぐわしい香りにあの健の鼻が。
健は眠っていた。パーティションを挟んでジョーと向かいの席で。
「ISOと空軍と共同演習したでしょ?キツかったんだってね」
オダがジョーのデスクに紅茶の入った紙コップを置いた。
「ああ、なんだっけ。敵地に不時着した、って想定でやるんだっけ?」
「そうそれ。今回は山岳地だったんだって。ライフキットだけで時間制限内に味方地に入
らないとアウト。敵スパイ付きで、バトルロワイヤルさながらだったって」
「健は生還組だろう?」
「うん。双方あわせて参加者50名中、帰還は2名だって」
「やつと健か」
またムカツク。
「ビンゴ」
二人で仲良く帰って来たんじゃねえだろうな。なんでも3〜4日は野宿だって話しだし。
健は元祖誘い受けだしな。あいつに誘われて断る野暮天はこの世に存在しねえし。生来の
妄想と煩悩の塊の上に、始末書ストレスが加わると際限の無いジョーだった。
「少佐とG1は演習経路が違った。別々の生還だぜ。ご心配無く」
ぎょっと振り返ったら、ジョーの鼻息を和らげる微笑と目が合った。
「あ、おお、ご無沙汰」
ジョーも思わずにっこり。ニケの副隊長のギデオン・ノア。通称ギー。
「あんたは生還できなかったのか?」
「俺は敵スパイ役。もう一息ってとこでG1に銃殺された」
「あんたがスパイ?」
穏和そのものの物腰を見直す。あり得ない、絶対あり得ない。だったら凄い。
「タイムリミット間近でさ。もうみんなバテバテってときに、さすがのG1もへばってる
だろうと思って仮眠中を襲って、失敗した。寝起き恐いねぇ、彼氏」
「あ、そりゃ、大失策だぜ。俺ならやつの寝入りハナなんか絶対に襲わない」
「データ収集不足だったな。君に色々聞いてから行けばよかった」
「おお、やつを襲うなら餌は先ず旨い食べ物だな。凄腕の戦闘機乗りってのもアリだぜ。
んでもってクッションが一番いいのはこの階の特別応接室で…」
「特別応接室?」
「あ」
いくらマブダチでもそれはやはり拙い。ジョーは額に汗しながら笑い飛ばした。
「でも、寝込みを襲ってよく無傷だったな。俺なら鼻血かタンコブは絶対だぜ」
いや、まず両方だろう。
「ちゃんと謝ったもん。射殺されたあと」
「謝って許してもらえたのか?第一よくそんな隙を与えて貰えたな」
「あんまり寝顔が可愛かったから、悪かったな、って」
「本当にそんなこと言ったのか」
「ああ。寝起きの恐ろしさを思えば、寝顔の可愛さはまた格別じゃないか。冗談は止めて
下さいよ、って照れ笑いしてたぜ」
そうか、とジョーは目からウロコが落ちる思いがした。なるほど健にヘタな小細工は通用
しない。真っ向勝負で正々堂々と正直に臭いことを言えばいいのだ。

「と、会議スタートだ」
時計を見上げて、彼は踵を返した。去り際にジョーの肩をぽんと叩き、ジュンや甚平、竜
たちに軽く片手を挙げた。その時、ジョーは見た。ジュンが彼に駆け寄ってネクタイを直
すのを。
「ありがとう」
微笑みかけられてぽっと赤くなったりしている。うおおお、一体何なんだこれは!
「今度はあたしの手作りのケーキ持って来るわ。次はいつ来るの?」
嘘つけ嘘を。お前、いつケーキなんか焼けるようになったんだ、甚平にさせるんだろうが
〜。小首を傾げながらもじもじしているジュンの姿に、顎が外れるジョーだった。
見れば、さっきまでオダが居たところに甚平がにまにまと突っ立っていた。
「重いもの持ってくれたり、傘さしかけてもらったりしたらしいんだ。お姉ちゃん、そゆ
ことしてもらったこと無いからもうメロメロ。おいら的には、ニケの将校なら高給取りだ
ろうし、頑張ってほしいとこなんだけどね」
「ジュンは健狙いじゃねえのかよ」
「あにきが全然相手にしてやんないから、お姉ちゃんだって考えることあんだよ」
ジュンには至って冷たい健は、ジョーの向かいの席で爆睡している。
「それがさ」
甚平の声が一段と低くなる。
「現在フリーでカノジョ募集中ってのは突き止めたんだけど、好みが“普通の女の子”で
さ」
「フ、フツーのオンナノコ〜」
うおおおお、ふるふる。
「そうなんだよ。お姉ちゃん的にいっちばん難しいタイプなんだよ。で、お姉ちゃんとし
てはそら涙ぐましい努力をしてるってわけでさ」
「それでケーキかよ。お前一応弟だろ?止めてやれよ。時間の問題だぜ」
失恋するのは。それで、あたしはやっぱり健一筋よっ@きいっ、ってことに…。
「夢くらい見たっていいじゃんか。万が一ってこともあるしさ。恩給も良いし」
甚平ってこんなに現実主義者だったっけか?ツケ払ってやれよ、健。溜め息ひとつのジョ
ーだった。
「ま、っちゅうわけなんで、暖かく見守っていてやってよね」
甚平、去る。ああ、楽しく見物させてもらうさ、ジョーはウィンクを返した。

そして、歓談の時は過ぎ、現実が突きつけられる。−始末書。
エディターの画面を起動しただけで眠くなる。ケーキを頬張る。ぱらぱらとスライスアー
モンドがこぼれ落ちた。げ。元来、きれい好きなジョーである。俺様を舐めて貰っちゃあ
困るぜ。さっと羽根手裏剣を取り出す。
−科学忍法羽根箒!
やおら羽根手裏剣をひっくり返すとキーボードとデスクとさかさかと掃き掃除し始めた。
クリスマスって大掃除の季節だよなあ、とこうなると脇目も振らない。
しかし、テンキーの間に嵌り込んだ破片が取れない。
畜生。往生際の悪い野郎だぜ。この俺に盾つこうってのかい?!羽根手裏剣を指で挟んで
狙いを定める。科学忍者隊G2号というより、簪のヒデの気分だった。
しゅぴッ→うおおお@ごりごりごり(かけ声&ほじくっている音)→ぱき→あ;

羽根手裏剣の先っぽが折れてテンキーの溝に嵌ってしまった。画面を見ると“0002”
と身に覚えの無い文字入力があって、カーソルがぶるぶる震えている。
カーソルぶるぶるには苦い思い出のあるジョーだった。あんときはどうしたっけか。考え
たところで思い出せるわけがない。対処したのはオダで、ジョーは宇治金時窶れの健を眺
めていただけだったのだから。

畜生、いくら寒くて頭回らねえからって、ネタの二番煎じしやがって。楽屋落ちで済みま
せんm(_ _)m(fromもも)
でも、だからPC前での飲食は止めなさいって言ったのに…。あ、睨まないで…。

「あ〜、カーソルぶるぶるだ〜。また何かこぼしたの?」
オダが覗き込んでいる。あああ、ガキは目敏い。しかも声がでかい。
「この寒いのにアイス?ああああ、ケーキこぼしてる」
「…ケーキ…?」
パーティションごしに、健の不機嫌そうな呟きが聞こえた。
「おはよう、健。ちょっと早いけどクリスマスケーキの差し入れ、少佐から。G2ったら
またキーボードにこぼしちゃったの」
いいからいちいち健にチクるなっつーの。汗が噴き出る。口が渇く。何かフォローしなけ
れば、でもどうやって。
「少佐からのケーキだって?」
健の声が一度遠ざかる(席を回り込んでいる)。
「キーボードにこぼしたって?」
健の声が真後ろで切れる(背後に立った)。
「け、け、健…」
何か言わなければ。何か。そうだ!
「お前、本当に寝顔カワイイよな。騒がしくして済まない…」
ふっ…。とクールに決まった!と思ったのは、ジョー本人だけだった。
「こ…コレを俺だと思って…」
キレた健は、本当に綺麗だ。そして、至近距離からのバードランは、いくらジョーでも痛
い。

「だめだよ。いくらジョーがタフだからって血が出てるよ」
こんなときは、やはり部外者のオダが一番優しい。ハンカチを傷に当てた。
「平気、平気。気にしない、気にしない。じき起きるわよ」
「おいらキーボード洗って来るよ」
甚平はやはり超現実主義者だった。
「0002か、ジョーのナンバーじゃのう…」
竜。

「俺のケーキは?」
「あ、ちゃんととってあるわよ〜。さっきまで副隊長さんが来てたのに」
「ええ?なんで起こしてくれないんだ」
「健の寝起きは恐えからの」
「そうか?そんなことないだろ?」

そんなこと、アル。

ジョー、本当に大丈夫?のオダの声に、小さく頷くのがやっとのジョーだった。

合掌。もとい、アーメン。


END



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