You ← Me

by もも




 −…だって夢くらい見るさ。

**

 湧き上がる泡沫の行方を追う。
 鮮やかな色彩の魚の群れを透かす。
 ただの、あわ。ただのさかな。

 背後を、誰かが横切る気配がした。
 黒っぽい髪の女は、健が物陰に佇んでいることには気づかネかったらしい。
 その姿を一瞬ガラスに映し、甘い香りの余韻だけ残して、消えた。

 眉根を寄せ、唇を引き結んだ白い顔が、こっちを睨んでいる。

 そんなことを言いたかったんじゃない。
(ソンナコトヲイワセタカッタンジャナイ)

 口の中がやけに苦い。
 笑い飛ばして、その場で言ってしまえば良かった。
 −なんで俺の夢じゃないんだ。
 と。

 傷つくのはもう懲り懲りで、傷つけるのはそれよりも一層懲り懲りで。
 昔は、想いを届けるためには殴りかかることもできたのに。
 今は…。
 分別とか、遠慮とか、心遣いとか、世間ではキレイな言葉で称されるけれど。
 それは、ただ、臆病だというだけだ。

 あの夜だって、その前の夜だって、俺はお前と一緒にいた。
 お前の隣には、俺がいたはずなのに。
 夢見ていたのは、あの女なのだとお前は言う。

 陽を受ける前に弾けて無くなる泡。

 畜生。俺だって、ムカつくことくらいあるさ。
 あのラテン男め。
 ああそうさ、今に始まったことじゃない。
 気にするほどのことじゃない。
 きにするほどのことじゃ…

 不機嫌そうな面に軽く一発呉れ、踵を返した。
 分かり切った冷たさに、拳が、少し、痛かった。

**

 いつもいつも、肝心なことだけが、伝わらない。


END - You ← Me



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