Shadow Eyes

by Phantom.G

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 その刹那、天空を舞う白い大きな鳥の背を
鋭い光の槍が、貫いた様に見えた。

 一騎当千に敵の兵士を翻弄していた
G-1・大鷲のケンは、白い翼を広げて
軽々と高みに飛び上がったその瞬間に、
新たに開発された敵新兵器の放った
特殊周波数の光線波に撃たれたのだった。
 目を焼く強烈な光が、巻き付く大蛇の様に
彼の全身を絡め取った。脳天に響く高音波と、
心臓を鷲掴みにする超低周波の中で、ケンは
苦痛の声を上げ、伸びやかな肢体を捩ったが、
光と音の波は帯になって彼の全身を包み込み、
体勢を立て直すのを赦さなかった。
 廃ビルの林の間隙へと、頭を下に彼は墜ちた。
崩れた塀の瓦礫の茂みにその姿は消えたが、
敵兵士達の目にそれは、猟銃で撃ち落とされた
水鳥の様に写った。歓声が上がる。
空高く舞うあの白い翼の戦士を、遂に撃ち墜とした。
歓声に混じって野卑な笑いが不気味に広がっていく。
不様に地に落ちた「正義の味方」を銃で取り囲み、
翼をもがれ素顔を曝したヤツを捕らえるのだ。
今までヤツに奪われてきた、命や名誉や野望の
積み重なる恨みを込めて、なぶりモノにするのだ。
 舌なめずりをする獣の群れが動き出していた。
 
 果たして、撃ち墜とされた大鷲は、
全身に絡み付いた特殊波動に、容赦なく
その翼を剥ぎ取られていった。
通常の変身解除とは違う、無理矢理な
特殊スーツの形状変化、それは激しい衝撃を
伴ったらしく、彼を包み込んだ光が消えた時、
素の身体を地に臥した彼は、力尽きたように
気を失っていた。投げ出された四肢に力はなく、
身体を抱き起こしても反射はない。
眉根を僅かに寄せ、長い睫を伏せた目は、
硬く閉じられていたが、しかし、
呼吸は正常で、鼓動にも充分、力がある。
 無防備に倒れたケンに、いち早く近付いたのは、
緑色の装束と揃いの仮面の、敵兵士達ではなかった。
同じ紅い戦闘服に身を包んだ二人の男、
一人が、ケンの状態を素早く調べ、
銃を構えた傍らの相棒に目配せをする。
ひとまわり逞しい体躯の男は、頷くと、
意識のない少年の身体を、力強く担ぎ上げた。
二人は周りを警戒しつつ、素早くその場から
形跡を消し、影の様に立ち去っていった。

 臑の辺りを触診した時、僅かに反応があった。
ボトムを捲ると、患部には内出血と腫れが
認められ、熱を帯びている。男は眉をひそめた。
「彼らのバックアップで、万一負傷の手当をする
 様な事態があった時は注意してくれ・・・」
男は、自分に託された「言葉」を思い出していた。
かつて、自分を鍛え上げてくれた、憧れの存在、
同じ目的で同じ敵に挑む戦友であり、自分と相棒の
指揮官でもあった、リーダーの言葉を、反復する。
「彼らの戦闘服は特殊なスーツなのだ・・・」
 各々の身体に寸分の誤差無くあつらえられた
そのスーツは、彼らの身体能力を最大限に引き出し
支える機能を有している。筋肉を正しくサポート
する為にそれは、直に肌に密着していなければ
ならない。バードスーツに変身すれば、
彼らは文字通り、超鳥人と化すのである。
 この、ごく普通の若者の服装に見える、身軽な
シャツとボトムが、光の中で「変身」を遂げる時、
その上にまとっているものは跡形もなく消し飛ぶ、
という。それほどのエネルギーが逆流したのだ。
 まだ意識の戻らない少年を、注意深く診た男は、
負傷の箇所に消炎鎮痛剤をたっぷり塗布した後、
その脚に、衣服の上から的確なテーピングを施した。
彼が再びバードスーツに姿を変えるまでの支えだ。
おそらく目を覚まして立ち上がった時に、
痛みの衝撃を感じるであろうが、少しはこれで
和らげてやれるはずだ。骨は折れていない。
 彼なら充分に、闘えるだろう。
自分たちが男として心底惚れ抜き、
絶対の信頼をおいた、あの人の忘れ形見。
ケンが、このまま立ち上がれぬわけはない。

 隊長の最後の通信、ラストコマンドは、
たった一言だった。「後を、頼む」
自分たちは、そして全てを影から見守った。
涙を呑み、握った拳を震わせて見届けた、
隊長の最期に誓ったのは、その遺志を継ぐ事。
「彼ら」の任務を完遂させる為、影の力、
陰の支えであり続ける。命に代えても。

 眠っているケンの、あどけなさの残る
面差しに視線をあてて、その男、鬼石は
ふと頬に柔らかい笑みを浮かべた。
 彼は母親似ですね、隊長。あなたにはあまり
似ていない。でも、意地っ張りで負けん気の強い
この少年の性格は、あなたの血なのでしょう。
敵の新兵器に変身を解かれた、この最大の危機も、
きっと強靱な意志の力で乗り越えるに違いない。
 顔を上げると、相棒が来てケンを見ていた。
視線を交わすと互いに頷く。鬼石は立ち上がり、
相棒と交代に、窓の側の見張りに立った。
それきり彼はその役目に徹し、やがて元気を
取り戻したケンが明るい声で、自分に手当の礼を
言った時にも、振り向き応える事はしなかった。
 相棒が自分の事を、ケンに短く語っている。
己が敵と戦う理由、その過去の因縁を・・・。
見つめるケンの視線が、自分が信じた隊長と、
同じ意志の波動を持って、暖かい信頼を
伝えて来るのを、鬼石は感じていた。

 陽動作戦を立てるケンと、相棒・正木の話を
見張りに徹しつつ聞き乍ら、鬼石はげんなりした。
「そういう事ならいい考えがある。」
と、相棒が余計な事を思いついたからだ。
「ベルクカッツェのヤツ、腰を抜かすぞ。
 何しろヤツが、ガッチャマンと同じ位に
 恐れていたのが、我らが隊長だからな!」
 ケンは正木の考えを察し、照れた様に笑って
少し躊躇しているが、正木が愉快そうに、
「きっと似合うぞ。そっくりになるだろう」
と、しきりに焚き付けている。
「君たちの様な特殊なスーツではない、当然、
 消耗品だから、基地にはスペアがある。」
 そして案の定、相棒は自分に向かって言った。
「俺のを貸してもいいんだが、しかし、
 サイズが合わんな。・・・なぁ、鬼石」
 
 鬼石は初めて振り向いて、ケンを見た。
少年は眉をちょっと申し訳なさそうに寄せ、
しかし、悪戯っぽい眼で見つめ返している。
ケンがにこりと笑うと、鬼石は、眩しい光を
見た様に目をそらし、不機嫌な表情になって、
正木にぐいとあごをそらした。その合図に、
相棒は笑いながら、見張り交代に立ち上がった。

「お、そうだ、これを。」
 正木がケンに手渡したものが何なのか、
背を向けて上着を脱ぎかけていた鬼石には、
察しが付いた。相棒が、あの日以降ずっと
懐に入れていたものだ。
「遺されたスペア、隊長のだ。」
 ケンは、頬に睫の影を落として、
手に持ったそれを、しばし見つめた。
紅い帽子の布から、グラスのフレームを
指先がたどる。そしてぐっと握りしめると、
ケンは、顔を凛と上げ、強い光を宿した視線を、
正木に、そして鬼石に投げた。
「行こう!仲間が危ない」

 科学忍者隊の若き戦士達を、
ある時は先導し、ある時は後方支援する、
紅い戦闘服の、影の工作隊、
「レッドインパルス」
それが、彼らのコードネームである。


 〜Shadow Eyes〜 The End.


 


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