54 &1/2 ( 1 )
   

by 小夜子


 枕元の時計に目をやる。A.M.1.20.少し眠ったらしい。ベッドの上で上体を起こすとそ
のまま手足を縮める。
(あぁ、寝汗をかいたか。)
 窓からはいる夜風が裸の背中に心地いい。指令のないのを幸いにずっと動けないでいる
。目に入るのはいつもの俺の部屋と・・・壊れた写真立て・・・破かれたポスタ・・・床
に散乱する本、書類・・・
 全部俺がやった。怒りにまかせて。
本当は居たくない。ここに居るとどうしても目に入る。どうしても思い出す。
だが出ていけない。体が動かない。どこにも行けないんだ。

・・・健、・・・眠っているの?
暗闇の中、ベッドサイドのブレスレットが鳴り出した。
・・・健、・・・ちゃんと食べてる?
手に取るでもなく、ぼんやりと見つめてみる。
・・・健、・・・また明日ね・・・おやすみなさい。
切れた。

  俺が三日も店に顔を出さないなんてのは、おそらくこれが初めてだろう。 一日に4、
5回はジュンからの連絡が入る。内容はいつも同じ。
「健、ちゃんと食べてる?眠れている?」
やさしい声で控えめにしゃべるのがあいつらしい。そしてそれ以上は踏み込んでこない、
ここまで様子を見にきたりしないのが、いい女だな、ジュン。だが悪いな、今の俺に必要
なのはおまえじゃないんだ。

「鍵もかけねぇで、あいかわらず不用心だな。」
 思わず顔を上げると、開けられたドアの逆光に見慣れたシルエットが浮かびあがった。
「ジュンが心配してるぜ。三日もなにやってんだ。」
「勝手に入ってくるなよ。おまえこそどこいってたんだ?」
 ベッドの端に腰をおろした奴は俺の問いかけには答えない。暗がりの中、部屋の様子を
見ている。出てけよと言う前に奴がのぞきこんできた。
「いくら悩んだってはじまらねぇぜ。こいう時男に必要なのは、酒、または女ってな、昔
からきまってんだろ?」
 ちっ、能天気にいいやがって。
「あいにくジュンでも抱く気になれなくてね。」
 目線をそらしたとたん、顎をつかまれあおのかされた。次いで口元に暖かい感触。一瞬
の目眩ののち、全神経が口と舌に集中する。俺の手は自然と奴の背中にまわった。ややあ
って目を開けると奴が耳元でささやいた。
「もう一つ、ドラッグってのもあったな。こんなんでよきゃ試してみるか?」
 そのままベッドに倒れ込み奴の重みを感じると、今度は俺がささやてやる。
「確かにとんだよ。このドラッグはききそうだな。」
 目を閉じてそのまま首筋に舌をはわせていく。
「あぁ・・保証す・・るぜ・・」
 奴の吐息が乱れはじめるのを確認すると、俺は奴の手首からブレスレットをはずした。


AND・・・・・
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  フリーってのも楽じゃない。ったく、エントリー手続きに三日もかかるか普通。冗談じ
ゃないぜ。この時間車の少ないのをいいことに、俺は少々乱暴にアクセルを踏み込んだ。
あいつの怒り、おちこみ、いらだち、そんなもんがブレスレットを通して伝わってきちま
ったみたいだ。ジュンが日に3回は連絡をよこすからか?

・・・今日も来てないわ・・・バイト先も休んでるって・・・食事、どうしてると思う?
・・・甚平も竜も心配っていうよりは恐くて近づけないって・・・私は・・・
ちゃんと眠ってるかしら・・・

  今更ながらジュンの中であいつの占める割合の大きさを思い知らされる。こんな時、あ
りきたりの慰めの言葉をはく位しかしてやれない自分に腹が立つ。
ジュン、そんな切なげな声で俺を苛立たせるなよ、あんなやつのためによ。

  あいつの住処は灯りが消され、暗闇の中にひっそりと溶け込んでいた。
少し離れた場所で車を降りると、街灯をたよりに歩いていく。窓が開いてカーテンが揺れ
ているのが見える。いるのか。
「鍵もかけねぇで、あいかわらず不用心だな。」
戸口に立つ俺を奴が見上げた。ベッドの上で手足を縮めてまるで胎児の様だ。
薄明かりの中に浮かぶあいつの顔が、やけに青白くはかなげに見える。
「ジュンが心配してるぜ。三日も何やってんだ。」
「勝手に入ってくるなよ。おまえこそどこいってたんだ?」
 青い瞳が鋭くみすえてくる。俺はかまわずベッドに腰掛け奴の目線から部屋の中を見渡
してみる。なるほどな。
「いくら悩んだってはじまらねぇぜ。こういう時男に必要なのは酒、または女ってな、昔
からきまってんだろ?」
 わざと軽くいってみる。俺の言葉に奴は視線をはずした。
「あいにくジュンでも抱く気になれなくてね。」
 途端に頭の中で何かが弾け、考えるより先に体が動いた。口と舌があいつの暖かくやわ
らかいものを求めて動く。
 キーワードはジュン。これは俺の嫉妬か?どっちに?
 一瞬体の硬直が伝わってきたがそれもつかの間、今度は奴の舌が求め動いてくる。しば
らくして口を離すと俺はあいつの頭を抱き、耳元でささやいた。
「もう一つ、ドラッグってのもあったな。こんなんでよきゃ試してみるか?」
 ふいに背中を押されベッドの上で折り重なる形になった。
「確かにとんだよ。このドラッグはききそうだな。」
 少し笑いを含んだ感じのささやきが俺の耳をくすぐる。
あとは何も考えられなかった。やさしいものがゆっくりと降りてくる感覚。
「・・・・・・」
 俺は何をつぶやいた?


OVER・・・・・



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