甚平君はため息をつく

by 小夜子


『尚、この雪は今後はげしくなる模様で、夜半には吹雪にかわるでしょう。ドライ
バーのみなさんは。。。。』

「うっへ〜、まじ?」
思わずTVにこたえちまったよ、窓から見たかぎりじゃ、まだ小降りだけどなぁ。道
路だってうっすら白くなってきたかなって感じだし、ああ、でも
でも歩道はだいぶ歩きづらそうだな。
しっかしこれじゃぁ、ただでさえ暇な店に、今日は一人も客なんか来ないんじゃな
いか?ひさしぶりに開けた店でオイラも朝からはりきってたのに。もう昼過ぎだって
のに、BOX席はガラガラだし、カウンターにはさっきからずっと寝てるデブが一人と
ツケ専門客が一人だもんなぁ、
やってらんないよ。
「ため息なんかついてどうしたんだ甚平?」
「んん?」
「コーヒー。おかわりくれよ」
「。。。アニキさ、遠慮って言葉知ってる?」
「はぁ?」
「言ってみただけさ」
ほおずえついてるようなアニキに言ってもムダだね、コーヒーいれよっと。
おねえちゃんもこんな鈍いアニキのためによく、雪の中買い物になんか
行くよなぁ、で、結局は『気に入ったのがなかったから』なんて強がり言ってなにも
買わずに帰ってくるんだよな。おねえちゃんもはっきり伝えればいいのに。
しょうがない、ここはまた、甚平様が一肌ぬいでやっか。
「そういえばさ、アニキ、今日って何の日か知ってる?」
「2月14日?聖バレンタインデーか?」
「ええっっ!!アニキ、知ってんの??、、ぅわっちちち」
「。。。ん、にゃむ、なんだぁ?」
痛ってーー、手にお湯かけちまったよ。
ああ、びっくりした、まさかアニキがバレンタインデーを知ってるとは思わなかった
よ、あ、でも、それなら話は早いか。
「じゃぁさ、バレンタインデーがどういう日か知ってる?
「ああ、たしか、異教徒の迫害にあって殉死した聖バレンタインの祭日、だろ?」
「へ??」
そ、そう、なのか?胃腸との肺ガンにあたってチューした。。。ってなんだ??たし
かオイラが知ってるのは。。。
「オラ、しっとるぞい」
「へっ、えっらそ−に、じゃぁ、言ってみろよ」
「その前に」
かーー、図々しい!カップ差し出してコーヒーの催促しやんの。
ま、仕方ない、ついでに入れてやっか。
「バレンタインデーっつうのはじゃな」
「、、、なんだよ」
「はぁ、うまい」
「、、、さっさと言えよ」
「バレンタインデーっつうのは、女の子が」
(お?)
「男の子にチョコレートを」
(おお?)
「タダでくれるっつう、ありがた−い日じゃ」
。。。んなこったろうと思ったよ。
見直しそうになって損したぜ、まったく。
「け、竜の頭の中には食べ物のことしかないのかね、ちがうだろー」
「そうなのか?竜」
「アニキまで何いってんだよ、タダでくれるんじゃなくて」
「んだ、いつも行くスーパーのおばちゃんがくれるぞい」
「それは義理ってやつだろ、そうじゃなくて」
「それでバイト先の子がくれるのか、なるほど」
「いや、アニキの方は義理じゃないんじゃ、、、、そうじゃなくて」
「メアリもくれるぞい、いつも遊んでくれるお礼よ、なんて、かわいいんだわ」
「5歳児にもらって喜んでんなよ。そうじゃなくて」
「ああ、ISOの女子社員もくれるな」
「あとは誰じゃったかのー?」

だめだ、こりゃ。
竜はともかくアニキもなんでチョコをもらえるのかなんて、考えたことないんだね。
。。おねえちゃん、これは今年もあきらめたほうがいいみたいだよ
。。オイラ、一応努力はしたからね
。。にぶすぎるアニキがいけないんだからね
「どうしたんだよ甚平?さっきからため息ばかりついてるぞ」
「なんでもないよ、コーヒー、飲む?」
今度はオイラがほおずえ、ついちゃうよ。
                          おわり



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