カメレオンが微笑めば

by 小夜子

「はい、はい、・・・そうです。」
 なんだ、電話中か。健の声が聞こえるなんて喜んで損したぜ。
「ええ、ですが博士がいないもんですから・・・ちょっと」
 壁付けの白電話はアンダーソン長官直通だ。健も目だけで俺を確認すると、また壁に向
かって直立不動で話出した。なんだ、まじめなかっこうで話せんだな。いつもならまじめ
なのは声だけで態度はふんぞり返ってるのによ。俺は博士の机に腰かけ背中ごしに健をな
がめた。でかい窓から入る夕日がまぶしい。
「ええ、その件は俺もきいてます。」
 先週の事か?まぁ、あれは・・・
(R・R・R・・・・)
 ふいに机上の電話が鳴り出した。3番は三日月基地からだな。3回、4回・・・健が空
いている右手で電話と俺を交互に指さして来る。
 しょうがねぇなぁ。
「あ、博士?技術の竹井です。G2号機のエンジンの件で」
「博士ならいねぇよ」
「いな・・あ?ジョーか?ちょうどよかった。エンジンがおかしくて・・」
「ちょっと待てよ。今日は・・」
「たぶん電気系統だとは思うんだが」
「俺はOFFで・・・きけよ!!」

 やっと切ってくれた。長官も人は悪くないんだがな。どうも話が長くなる癖があってけ
ない。
「G2号機の電気配線なんて俺はいじらねえよ」
 3番か、長くなりそうだな。俺も机に腰かけるとジョーの背に背中をあずけてみる。も
う、だいぶ陽がかたむいた。あぁ、ちょうどいい背もたれだ、あったかいし。
「いや、そういわれてもよ・・」
 G2号機の事だ、しょうがないのかもしれないが。俺はおまえに話があるんだぜ。右手
を大きく反らしジョーに見えるように人差し指をクルクルと回してやる。
”とっとと巻けよ”
「そんなことしるかよ。だから・・・」
(R・R・R・・・)
 もう1台の電話が鳴り出した。7番ってことはこの別荘地内からか。
 と・・・わかったよ、出るから脇腹なんかこづくなよ。
「はい。・・・博士はまだ戻ってませんが。・・・なんだ、カコさんか」

「わかったよ、必ず行くからよ。じゃな」
 ほとんど強引に切っちまった。これだから技術屋にはまいるぜ。夢中になるとこっちの
ことなんて考えずにしゃべりだしやがる。ほれみろ、健はまた別の電話で忙しくなっちま
ったじゃねぇか。
「あぁ、うん、覚えてますよ」
 なにニヤけた声出してやがんだ。おまえは女相手だと声まで変わるな。さっさと切れよ。
俺はおまえに話があるんだ。ジュン達が来る前にすませちまいてぇんだよ。
(R・R・R・・・)
 健の脇腹をつねったと同時にまたも電話だ。
(R・R・R・・・)
 出るよ、出りゃいんだろ。背中で押すなよ、痛ぇよ。
「はい・・はぁ?甚平か?何やってんだおまえ?」

 そんな約束したかな?受話器を置きながら思わず首をかしげた。ジョーはまたも電話だ。
さっき、頓狂な声で甚平っていってたな。
「あぁ、博士はまだだぜ。・・んなこと、俺がしるかよ」
 3人共そろそろ来るかな。まいったな、まだ話どころか口もきいてないぜ。今日こそは
と思って早めに来ていたのに、これじゃあ・・
(R・R・R・・・)
 おいおい、かんべんしてくれよ。思わずため息が出る。博士って人はなんでこんなに忙
しいんだろう?
「はい・・あぁ、リンダ?・・・・いや、そんなことはないよ」

 おめぇにゃあきれるよ。なにが「そんなことはないよ」だよ。思い切り不機嫌そうに取
ったじゃねえかよ。それにしても相変わらず女の知り合いだらけだな博士の秘書に基地の
スタッフに?次はISO職員で果てはアメリス国軍か?そんなんだから俺は・・!!
 後でジュンに言ってやるかな。

「何ニヤついてんだ?気味の悪い奴だな。やっと電話終わったんだぜ」
 顔を上げると目の前に腕組みをした健が立っていた。俺も机からおりる。
「なんでもねえよ。それより・・」
「あにき、ジョー、なにやってんだよ!」
 勢いよく扉が開かれ甚平が飛び込んできた。
「早くいこうよ。おねぇちゃんも竜も下で待ってるぜ。おいらもう、お腹ペコペコだよ」
 健と目が合うと思わず笑いがでた。奴も笑っている。甚平は不思議そうに俺達2人を見
上げていた。
「なに笑ってんのさ?」
「いや、なんでもないさ。行こうか」
 健が甚平の背中を軽く押して扉のほうへやった。仕方なく俺も後について歩きだす。や
れやれ、30分以上もいっしょにいてやっとひとこと交わすだけとはな。甚平に続いて廊
下に出る一瞬前、健が首だけひねって見上げてきた。
 で、思わずKissしちまった。奴の目がいたずらっぽく笑った、と思った次にはもう甚
平を追いかけて2・3歩走りだしていた。
「だいぶ待ったのか?」
「そうでもないよ。あにき」
 少し遅れた感じの俺は両手をポケットにつっこんでみる。
 一瞬のすきをつくってのがうまいんだ、あいつは。相手が敵でも味方でも。
「おい、ジョー、早くこいよ」
 振り向いた健はもういつもの顔だ。ちぇっ、もう、今日はしょうがねえか。
「あぁ、今いくよ」
 俺はわざとぶっきらぼうに答えて後を追うべく歩きだした。


THE  END



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