なんでもない夜に

by 小夜子

 カチャカチャいう音で目がさめた。伸ばした手に奴の体が触れない。シーツだけだ。暗
がりに目が慣れるとジョーの背中が見えた。ベッドに座りズボンをはいている最中だ。
なんだ、さっきの音はベルトか・・・え?
「ジョー?」
「あぁ悪い。起こしちまったか」
 ジョーの背中が小さな声でこたえた。
「帰るのか?」
「ああ、ちょっとやぼ用でね」
 いいながらあたりを見回している。俺は横になったまま、脇に脱ぎ捨てられたジョーの
シャツをつかんだ。振り返った奴がそれをみつける。
「やぼ用なら明日でもいいだろ?」
「そうもいかねぇんだよ。・・返せよ、健」
 俺はシャツをジョーの反対側に回した。自分の背中の下にいれると体をずらしひじ枕を
つく。
「今夜は泊まっていくって約束だったはずだぜ」
「それができなくなったんだよ。・・返せよ」
 右手をさしだすジョーの口調に少し刺が感じられる。だが俺は返さない。
「いやだね」
「健・・」
「・・・」
「返せって」
 ジョーが一つため息をつくと、ベッドに膝を立て俺の向こう側へ手を伸ばそうとする。
俺がすんなり返すはずがないとわかっているだろうに。奴の腕をつかみ体制を入れ替える。
スプリングが大きくきしむ音がした。ベッドの弾みがおさまるころ、俺はジョーの両手首
を押さえ、膝をわり足をすべりこませ、組み敷く格好になった。
「だめだ、帰さない。今夜は俺が先約のはずだ」
 見上げるジョーが口の端でうすく笑った。
「お前だって俺との約束をあっさり反古にしてくれただろ」
「俺がお前との約束をやぶるわけがない」
 目を大きくあけたジョーは、今度はのどの奥でクックッと笑った。
「よくいうぜ。覚えてもいないのか?」
「何を?」
「あの日は俺の・・・」
 うるさい口はふさぐに限る。まだなにか言いたそうに動く奴の舌をとらえからめ取った。
長いくちずけから解放してやればジョーはまたしゃべりだした。
「とにかく行かせてくれよ。用があるんだよ」
 まだ帰る気でいるのか。その懇願するような言い方が俺のカンにさわる。
 一瞬、脳裏に映像が浮かんだ。獲物をとらえた肉食獣が相手の息の根を止めるまで弄ん
でいる。少々残酷なイメージだった。
「何の用だ?相手は誰だよ?」
 静かな口調に自分でも凄みを感じる。ジョーが真顔に戻った。その顔が更に俺を残酷に
させた。
「いえよ。用件は?」
 あとが残るほどにきつく両手首をベッドに押し付ける。
「ほら、誰だよ?」
 膝頭を股間に当てて押し上げる。
「ぅ・・・」
 体を固くし目元を歪めているジョーの様子に俺は更に膝に力をいれた。
「女だろ?答えろよ」
「ち・・がう・・」
 顔をそむけしぼりだすようにささやくが俺はまだ満足しなかった。こいつは俺の問いを
否定しただけだ。まだ行かないとは言っていない。膝頭に奴の緊張が伝わってきたが、か
まわずに今度は左右に動かしてやる。ジョーの体が小刻みに震え出した。首を仰け反らせ
目は固くつむっているが、唇はなにやらわなないている。
「・・・な・・い・・・」
「きこえないぜ。なんだよ」
「・・いか・・・な・・い・・」
 あえぎながらつぶやいたその答えに、ようやく力をぬいてやる。吐息とともにジョーの
四肢からも力が抜けていった。上体をかかめ奴の耳元に口を近づけると、俺はやさしい気
持ちでささやいた。
「じゃぁ、泊まっていくな」
 ベルトをはずしジッパーを下げる。すべりこませ動き出した手のほうは気持ちとはうら
はらに、まだ残酷なイメージが抜けずにいたらしい。
「ハゥッ」
 ビクンと一つ震え、息をはくとジョーの体が大きく仰け反った。
 その苦痛とも快楽ともつかぬ表情をゆっくりとながめながら、俺はあくまでやさしい気
持ちでささやいた。
「もっと楽しんでいけよ。夜は長いんだから・・・」


THE  END



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