L' ARBRE DE NOEL '05 - Holy Night -

by さゆり




 樅の木には星の飾りと赤いリボンを、
 ジンジャーブレッドハウスには砂糖の雪とキャンディーで飾りを、
 ご馳走には焼いた七面鳥と丸太に似せたブッシュ・ド・ノエルを、
 窓の外には白い雪とスノーマンを‥‥

「ううん、おいら白い雪もスノーマンも要らないや。それよりもクリスマスと言えば
さ―」
「おお、クリスマスと言えばクリスマスケーキじゃ!」
「なーに言ってんだよ、リュウは。ブッシュ・ド・ノエルってのはクリスマスケーキな
の。まったく図体ばかりでかくて物を知らないんだからイヤんなっちゃうね」
「あっらー?そうかぁ、ブッシュ何たらはケーキかよ。ほんならオラ、それでエエわ。ジ
ンジャーブレッドとかキャンディーとかも食ってエエんじゃろ?」
「ああ、ジンジャーブレッドハウスもキャンディーも全部おまえ1人で食っていいぜ、
リュウ」
 あんな飾り物、誰が食うかよ、とジョーは肩をすくめてジンペイに訊いた。
「で、ジンペイ、クリスマスと言えば‥‥何だってんだよ?」
「えへ、そりゃクリスマスと言えば何と言ってもプレゼントさ!」
 とジンペイは嬉しそうな、でも半ば照れたような笑顔を浮かべて芝居掛かった仕種で胸
の前に指を組んだ。
「サンタのおじさん、おいらはとっても働き者のとっても良い子です。ですからどうか忘
れずにこのおいらにもクリスマスのプレゼントを届けてください」
「おいおい、ジンペイ、んな事を俺達に言っても仕方がねえだろ?」
「そうよ、ジンペイ。それにとっても働き者ならサッサと洗い物を済ませちゃったらどう
なの?」
「な、何だよ。ジョーとおねえちゃんの意地悪ッ!ちぇ、ヤダヤダ、まったく夢が無いん
だから‥‥」
 ブツクサ言いながらカップや皿がたんまりたまったシンクに戻ったジンペイをリュウが
からかう。
「サンタのおじさーん、見てますかあ?ジンペイはと〜っても良い子ですよお」
 ジョーもジュンも、いや当のジンペイさえもが思わず笑い出し、クリスマスソングが流
れるスナックJのクリスマス気分はさらに盛り上がって行った。

 ♪[Click]
  Deck the hall with boughs of holly,
  Fa la la la la la, la la la la.
  Tis the season to by jolly,
  Fa la la la la la, la la la la.

「でも、クリスマスだもんな。せっかくだからさ、やっぱパーッとやりたいよね」
「そうじゃのぅ。やっぱパーッとご馳走を食べたいのぅ」
 ターキーとケーキと、この季節じゃ牡蠣やロブスターや蟹も美味いぞい‥‥などとジン
ペイとリュウがカウンターを挟み、再び楽しそうに喋り出したのを見遣ってジュンがたし
なめた。
「ジンペイ、パーッとはいいけどイブの晩が " 暇 " だとは限らないのよ」
 それは確かにジュンの言う通りで、だからこの店も一応クリスマスらしく飾り付けては
いるが、特に決まったイベントがある訳ではなかった。
「分かってますよ!でもさ、もし何も無かったらさ、おねえちゃんだって素敵なイブを過
ごしたいだろ?」
「そりゃ、まあね」
 うふ、素敵なイブか‥‥それがどういうものなのかはジュンのみぞ知る、といったとこ
ろだが、うっとりと呟くその様子から察するにそれはとてもロマンチックなもののように
推察された。そしてもちろんそのお相手は‥‥
「うーむ、あのバカか‥‥」
「ちと難しいかも知れんなあ」
「うん。第一、金が無いよ」
 同じ顔を思い浮かべた3人が思わず異口同音に独り言ちた時、ギッとガラスのドアを押
し開けて件の顔が出現した。
「何だ、いきなりだな。金が無いって、そりゃ俺の事か?ジンペイ」
「あ‥‥あら、ケン!お、遅かったのね。コーヒーでいい?」
「ああ。熱いのを頼むぜ、ジュン」
 ジュンの頬が薄くバラ色に染まったのを見て、" やっぱり " と3人は軽く溜め息を吐い
た。思い浮かべた顔は正解、そして思い浮かべた事もまた正解だったようだが、イブの夜
くらい、素敵なナイトに変身してジュンを喜ばせてやったらどうなんだ?この鈍チンが!
 と、ジュンが差し出したコーヒーを啜っている暢気な横顔を6つの目に睨まれても、
「ん?俺の顔に何か付いているのか?」
 などとズレた事を言うようなケンに、
「うーむ、このバカめ‥‥」
「やっぱ難しいようじゃのぅ」
「そうそう。第一、金が無いよ」
 3人は顔を見合わせてまた溜め息を吐いてしまった。ところが‥‥だ。
「なあジュン、クリスマスプレゼントに花束ってヘンかな?」
 ケンはかなり真面目な顔でそんな事を訊ね出したのだった。


「えっ?」「うっ?」「おっ?」「いっ?」
 ジュンとその他が揃って " 嘘だろう? " という顔とリアクションを見せたのでケンは
「やっぱり‥‥ヘンかい?」
 と頭を掻いた。
「でもさあ、俺、女の人にプレゼントなんかした事無いし、だけどこういう機会でもない
と不自然と言うか、何か照れちゃうじゃないか?在り来たりだけどさ、" 女は誰だって花
束を喜ぶもんだ " ってジョーがいつも言ってるし、それでなかなか成功してるみたいだ
し―」
「―だァ!おい、ケン、ちょっと来い!」
 ったくおまえはつまらん事をべラベラと、とジョーは飲み残しのコーヒーに未練を残す
ケンの腕を掴んで無理矢理Jから引っ張り出した。
「いったい何だよ、ジョー?」
「いいか?ケン、おまえがプレゼントを贈ろうって気になったのは褒めてやるがな、それ
をジュンに訊くのは上手くねえぞ」
「え、どうして?」
「ジンペイじゃないが、何故わざわざサンタクロースがプレゼントを持って来て、こっそ
りとツリーの下に置くのかを考えてみろ」
 うーむ、とケンはちょっと眉根など寄せて真面目に考えているようだったのだが―
「な、分かるだろ?今宵、サンタのおじさんは来るかな〜?僕が欲しいミニカーをプレゼ
ントしてくれるかな〜?と胸をワクワクさせて‥‥」
「そう言えばあの限定販売のKITTのミニカー、品薄で定価$98が$170以上に
なってるんだぜ、ジョー。ああ、こうなると分かってたらあと4、5台買っておくんだっ
たなあ!」
 そうしたらツケも払えたのに――と居もしないタヌキの皮を数えて悔しがるケンに
ジョーはやれやれとまた溜め息を吐いた。うーむ、このバカめ‥‥やっぱどこかズレてる
ぜ。そもそもおまえ、$98×5という金なんか持ってやしなかったろうが!その1台
だって「マイケルの声って、おまえの声にそっくりだもんな」なンて訳の分からん理由で
俺に金を払わせやがったクセに、このっ‥‥って、俺までズレてどうする。今はとにかく
‥‥と心を落ち着かせてジョーはケンを諭しに掛かった。
「だけどそンな事は今は関係ないだろ?ケン、ミニカーは物の例えだ、KITTの事は忘
れろ。あのな、俺が言いたいのは要するにプレゼントってものには多分にサプライズ的要
素が必要だという事だ。いいか?プレゼントってのはな、 " あら! " という嬉しいサプ
ライズ、プラス " まあ、素敵!" という良い意味での意外性に‥‥」
 フッ、とジョーは苦味走ってはいるけれど舌に乗せればとろけるように甘い極上のチョ
コレートのような笑みを口元に浮かべて、自慢の低音で囁いた。
「 " 愛 " というリボンを掛けて贈るもンだぜ、ケン」
「‥‥なんかプレゼントって、けっこう難しいものなんだな、ジョー」
 困惑気味に瞬くブルーの瞳にウインクして、ジョーは胸を叩いた。
「任せとけよ、ケン!まだ1日あるじゃねえか、俺様がバッチリ指導してやるぜ」
 おまえの為じゃないぜ。そう、これはジュンの為だ、と頷きながら‥‥

 ♪[Click]
  Jingle bells
  Jingle bells
  Jingle all the way !
  O what fun it is to ride
  In a one-horse open sleigh ! 

 そしてイブの宵、ジングルベルが賑やかに鳴り響くスナックJは坂道を滑り出したソリ
がどんどん加速して行くかの如くすっかり盛り上がっていた。
「やったぁ!すっげえご馳走だぜ」
「いひひ、ロブスターもあるぞい!ジンペイ、オラ、幸せだわ」
「それに見ろよ、リュウ。ほらあのツリーの下‥‥」
「おお、何やらリボンが掛かった包みが沢山あるのぅ」
「まーたまたとぼけちゃって。ああ、言ってみるものだなあ、博士までプレゼントをくれ
るなんてさ‥‥サンタのおじさ〜ん、ありがと〜!」
 と、その包みの山にまた新たな箱が置かれた。
「ははは、ジンペイ、サンタのおにいさんと言えよ、こら」
「ジョー!わ〜い、ありがとう!イカしたサンタのおにいさん」
 胸の開いたシャツに黒のレザーパンツ、ジャケットを肩に掛けた「歩くクリスマス・イ
ブ」仕様のジョーは確かにとてもイカしていた。これで手に赤いバラの花束でも持ってい
たらまさに完璧だが、今宵のナイトはジョーではない。
「メリークリスマス、ジョー。あら、ケンは?」
「やあ、メリークリスマス、ジュン。どうせケンの奴は例によってギリギリまでバイトだ
ろ?構わないから先にやってようぜ」
「そうね。じゃあジンペイ、グラスを取って―」
「ジュン」
「え?」
「今夜は特別キレイだぜ」
 やあねえ、ジョーったら、とジュンは伊達男を軽く睨んで笑ったが、ファー付きのピン
クのミニドレスを纏ったジュンも確かにとてもイカしていて、とても美しかった。
「ねえねえジョー、兄貴は?」
「ああ、追っ付け来るだろ」
「んで、花束は?」
 ふふン、とジョーが笑う。
「大丈夫!ちゃ〜んと俺が見立てて拵えさせたし、相応しい服も貸してやったし、一応の
マナーも教えておいた。それに、な‥‥」
 え、なになに?お、なんじゃい?と興味津々な2人の耳元にジョーは囁いた。
「ケンにはちゃ〜んとホテルに部屋をリザーブさせたぜ」
「ホ、ホテルぅ?く〜、憎いわ憎いわ、ケンの奴」
「ふ〜ん。でもさ、よく金持ってたね、兄貴」


 そして‥‥
 イブの宵が少し更けた頃、ケンはとある場所にひとりの女性を訪ねていた。
「どなた?」
 ドアを開けるとそこにはまだ年若い、見知らぬハンサムな青年が立っていて、
「メリークリスマス、ケリ−さん」
 と優しく微笑みながら、上品な色合いのバラの花束を差し出した。
「まあ、奇麗!でもお人違いじゃないかしら?私はあなたを存じませんが―」
「309号室のケリーさんでしょ?」
「ええ、そうですけど‥‥あなたは?」
「僕はアーサーさんの知り合いです」
 まあ!と彼女の口元に驚きと、それから少し遅れて笑みが浮かんだ。
「そうだったの。さあ入ってちょうだい‥‥で、アーサーは、あの子は元気なの?」
 ええ、とその身なりの良い青年は微笑んだまま頷いて、
「アーサーさんはお仕事で遠い国に行かれましてね‥‥伝言を頼まれていたのですが、な
かなか来られなくて‥‥」
 と静かな口調で話しながら、彼女が勧めた質素なクリスマスクッキーと熱い紅茶のもて
なしを嬉しそうに受けて、やがて席を立った。
「泊まっていって頂ければいいんだけど―」
「ホテルに部屋を取ってありますから、ご心配なく」
「本当にどうもありがとう。どうぞ楽しいクリスマスをね」
「ありがとう。やっとアーサーさんとの約束を果たせてホッとしました。ケリ−さん、ど
うかお元気で―」
 見知らぬ青年が去ってから、彼女は馥郁たるバラの香りに包まれた部屋の窓を開けてイ
ブの空に輝く星を見上げた。
「ふふふ、クリスマスだもの。きっと天使さまが来てくれたのね」
 久しく忘れていた笑みがその老いた頬に浮かんでいた。

 ♪[Click]
  Silent night, holy night.....
  All is calm, all is bright.....

  聖し、この夜‥‥


  Merry Christmas to all !


 


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