"Catch Me if You Can"

by さゆり

クリスマス


 あまり季節感の無いユートランドの街もさすがにこの時期だけは嫌が上にも " 季節 "
の色−赤と緑と白と金色−に染まる。ダウンタウンに並ぶ店々のショーウインドウが派手
にディスプレイされ、スクエアやモールの前に巨大な樅の木が立てられて行くのを横目で
睨みながら、ケンは「ちぇっ」と小さく舌打ちをした。いや、ケンとて心浮かれるこの季
節が特に " 嫌い " と言う訳では無いのだが・・・

 いつもの店のガラスのドアをギッと押し開ける。
「ふぅ、今日は風が冷たいな」
 カウンターのいつもの席に腰を下ろして、ケンは指先を軽く擦り合わせたが、
「あ、そ」
 返って来た返事は外の風よりも冷たかった。
「ジンペイ、うんと熱いのを頼むぜ」
「熱いって、何を?」
「何って、コーヒーに決まってるじゃないか。熱々のを煎れてくれよ」
 こましゃくれた弟分に愛想笑いとは些か情けない気もしたが、それで熱いコーヒーにあ
りつけるのなら、とばかりにニッコリ微笑んだケンの鼻先に小さなノートを突き付けてジ
ンペイが言った。
「そりゃ煎れてもいいけどさ、だけど、うちは商売でやってるんだからね。今までのツケ
を払ってくれたら煎れてやるよ」
 やれやれ、だ。だからこの季節はイヤなんだよな。クリスマスが過ぎれば年が改まる。
そんなのは単なる太陽暦上の都合であって俺の懐具合とは関係が無いのだが、経営者は何
故か皆、 " 今年の内に今年分の清算を " と言う気持ちになるらしい。
「ちぇっ、払うよ、払えばいいんだろ?」
 言いながらケンはこれ見よがしに突き付けられたノートを引ったくった。
「え、払うって、兄貴、金持ってるのかい?けっこう溜ってるぜ?」
 証拠隠滅を謀られてたまるものか、と言わんばかりにジンペイはケンの手からノートを
奪い返す。
「おい、ジンペイ。馬鹿にするなよな、俺だって金がある時もあるんだぜ」
 馬鹿にされても仕方が無いような事を思わず言い返して、唇を尖らせるケンに、
「いやあ、別に馬鹿になんかしてないよ。さすがは兄貴だね、と−」
 ジンペイは、えへへ、と現金な笑顔を見せると、鮮やかな手つきでドリッパーをセット
して、俺は兄貴を信じてるけど、何せお姉ちゃんがウルサくてさぁ、などと言い訳めいた
口調で言いながらコーヒーを煎れ始め、そしてほどなく芳しい香りが・・・
「はい、お待ちどお。兄貴の好きなマンデリンだぜ」
「え?何だ、ブレンドで良かったのに」
「やだなあ、ちょっとしたサービスってやつさ。お代はブレンド分でいいからね」
 ちぇ、サービスならタダにしろよ、と思いながらカップを口元へ運んだ時、
「ジンペイ、どうせサービスなら " お代は要らない " くらい言ってやれよ」
 と、背後のボックス席からジョーの声がした。振り返ると「よぉ」とシートの影から見
慣れた顔が現れた。
「ジョー!なんだ、そこにいたのか」
「ああ、いたぜ。おまえが来るずっと前からな」
 うン、と伸びを一つするとジョーもカウンターへやって来た。どうやらそこで昼寝でも
していたらしい。ジンペイが派手にウインクして言った。
「なあ、ジョーも聴いただろ?兄貴がツケを払ってくれるんだってさ」
「ははは、バッチリ聴いたともさ」
「じゃ、ジョーが証人だ。さ、兄貴、これが今までの分で、そのコーヒー代が、と−」
 ジンペイが開いたページにちびた鉛筆でしっかりと今、味わっているマンデリンの代価
をプラスするのを見ながら、ああ、とケンは鷹揚に頷いた。
「えっ、兄貴、本当に払えるのかい?」
 真顔で訊ねるジンペイにジョーはプッと噴き出し、ケンはムッと眉を顰めた。
「あのなあ、ジンペイ、馬鹿にするなって言っただろう?」


 その夜、ケンは新しく建設中のベイフロントにいた。ベイフロントと洒落た名前が付い
てはいるが、要は何も無い埋め立て地にイベントホールだのホテルだのモールだのを建築
しているエリアで、そんな場所だから夜は人影は皆無と言えるほど無い。如何にもと言っ
た目新しいデザインの巨大な建築物が闇にひっそりと踞っているだけの殺風景で無機質な
場所だ。
「OK!じゃ、段取りはこれで。おーい、エキストラさん達、こっちへ来て!」
「お、呼んでるぜ」
「あ〜あ、サッサと撮って欲しいよな。だせえぜ、この服」
 十数人の若者が緑と茶色の揃いの服を着て、ぞろぞろと監督の周りに集まった。
「ようこそ、ギャラクターの諸君。私がベルク・カッツェだ」
 監督のジョークにドッと笑い声が起こる。いや、もちろん " 本物 " と言う訳では無い
が、渡されたモデルガンを手にケンは些か複雑な心境だった。ダチの一人から「割のいい
バイトがあるぜ」と誘われて、そいつの代役として碌に話も聞かずに−簡単なエキストラ
さ、とだけは聞いたが−やって来てみれば・・・
「で、そこへガッチャマンが登場するので、君達はマシンガンを撃ちまくってくれればい
い。ただそれだけさ、OK?よし、じゃまずガッチャマンのテストから行こう。位置につ
いて!カメラさん、いいね?3、2、1、キュー!」
 バサッ、と鳥の翼に似たマントを翻して白い影が颯爽と飛び下り、
 ドタッ、と転んだ。
「あ、ガッチャマンがこけた!」
「カァーーーット!おーい、大丈夫か?」
 だがそのガッチャマンは片足を押さえて呻くばかりだった。

「あの、俺・・・」
「動かないで!時間が無いのよ」
 トレーラーの中でケンはそのコスチュームをてきぱきと着けられていた。ケンが選ばれ
た事に特に理由は無い。ただ体格がちょうど良かったらしい。
「俺、ギャラクターの隊員の方が好きなんですが−」
「ああ、良かった、何とか合うわ。さ、このヘルメットも被って」
「ねえ、聞いて下さいよ!俺は−」
「うるさいわね!ガッチャマン役の方がギャラがいいんだから、文句を言わないの!被っ
た?うーん、ちょっと大きいかしら?ね、前は見える?動ける?」
「ええ、前も見えるし動けますが・・・でもこれ、本物とだいぶ素材が違いますよ」
「あ〜ら、まるで " 本物 " を知ってるみたいな口ぶりね」
(え?・・・いや、それは、まあ・・・)
 ケンはどきまぎしたが、衣装係は一向に気にする様子も無く、
「お待ちどう、出来たわよ−!」
 と、大声で " ガッチャマン " の完成を告げた。
 やれやれ、だ、と鏡を見れば、そこには紛う事無き−特に中身は−ガッチャマンが写っ
ていた。へぇ、良く出来てるな、とケンはちょっと感心してしまった。

「OK!いいよ、いいよ。んじゃ、本番行こうか」
 当然の事だが難なく数回のテストをこなしたケンに監督は上機嫌だった。彼はいわゆる
フリーのトップ屋で、ヘリや最新鋭の機材やあらゆる情報網を駆使して衝撃的なニュース
映像を撮ってはそれをTV局や新聞社に高く売り付ける事を生業としていた。だが、彼ら
のようなトップ屋をしても決してモノに出来ない映像があった。そう、科学忍者隊だ。
ガッチャマンだ。だからこそ世間の要求は絶大なもので、上手く彼らを撮る事が出来たら
一財産なのは明々白々・・・そこで彼は禁じ手である " ヤラセ " を思いついたのだっ
た。
(なあに、ほんの数秒でいいのさ。科学忍者隊が秘中の秘ならば、真偽は問われないかも
知れないしな)
 と。そしてまたケンも、
(なあに、バレやしないさ。博士と自分達には偽者だと分かっても、俺達は秘中の秘だ。
追求する事はまず無いだろうしな)
 と、タカとハラを括った。別に悪い事をするワケじゃないし、それにツケが・・・と。

「では頼んだぞ、ガッチャマン。成功を祈る」
 何となく聞き慣れたスタッフの言葉に「はい」と頷いて、ケンは仕切り直した現場を見
下ろした。ほんの2、3m下にこれまた見慣れた緑と茶色がひしめいている。そこへ−
 バサッ、と鳥の翼に似たマントを翻して白い影が颯爽と飛び下り、
「ガッチャマンだ−!」「撃て、撃てぇ!」
 と叫びながら、モデルマシンガンを連射する隊員達をヒラリと躱す・・・だけで良かっ
た筈だった。だが、事態は思わぬ方向へと転がっていた。
 ダダダダダッ−−突如、響き渡るマシンガンの銃声。
 パァ−−ッ、と目も眩む光に射られたと思う間も無く、
「動くな!我々はギャラクターだ」
 そんな信じ難い声が闇の向こうから響いた。


「へぇ、あれも仕込みですか?」
 ずいぶん手が込んでるんだなあ、とまた感心しながら訊ねたケンにスタッフが、NO!
と青褪めた顔を横に振った。
「いや、こンな話は聞いてない」
「えっ、じゃ・・・」
 " 本物 " か!とケンは息を飲んだ。ジョーならこんな時「瓢箪から駒だぜ」とか言うん
だろうな、とそんな事を思い浮かべつつも、ケンは素早く行動に移った。とにかく偽隊員
−エキストラの−達と撮影クルーを逃がさなくては−−
「俺が奴らの注意を引き付けるから、ロケバスをこの下に!」
「よし!」
 物陰を伝ってスタッフがロケバスへと走り出し、ケンはすぅっと呼吸を整えた。

「ほらほら、そっちへ並べ!この偽者どもめ」
 緑と茶色の隊員達のマシンガンに追い立てられて、緑と茶色の偽隊員達がホールドアッ
プしている様は何だかとても奇妙なものだった。
「我々ギャラクターの真似をするとは不埒な奴らだ。そんな恰好でウロウロされては、偵
察メカで潜伏しているこの場所を科学忍者隊に知られてしまうではないか。口封じだ、全
員撃ち殺してしまえ!」
 ガチャッ、と銃口がまるで鏡像のような一団に向けられたまさにその時、
「なぁるほど、そう言う訳だったのか」
 凛とした声が響いた。
「だ、誰だっ?」
「ははは、ここだ、ここだ!ギャラクター」
 バサッ、と鳥の翼に似たマントを翻して白い影が颯爽と飛び下り、
 すっく、と立ったその白い影にそこにいた全員が目を見張った。
「ガ、ガ、ガ、ガッチャマン!もう嗅ぎ付けて来たとは・・・」
「ふン、科学忍者隊を甘く見るなよ、ギャラクター」
 ガッチャマンだ−!撃て、撃てぇ!ガッチャマンだ−!撮れ、撮れぇ!の怒号と悲鳴と
銃声のまっただ中へロケバスが突っ込んで来た。
「さあ、みんな、早くこれに乗るんだ!」
 言われるまでも、とエキストラ達とスタッフ全員が雪崩れ込んだのを見届け、
「行け!」
 の声にスピードを上げたバスに飛び乗ろうとして、ケンは偽バードマントに文字通り足を
引っ張られた。う、しまった、と思った途端、
「動くな!」
 銃口を突き付けられ、そして次の瞬間、ケンの視界は真っ暗になった。
「わーははは、飛んで火に入る夏の虫とはこの事だ!ガッチャマンを捕まえたぞ!」
「やーですねぇ、隊長、夏ってもうすぐクリスマスですよぉ」
「馬鹿モン、諺も知らんのか、おまえは。うしし、だがこれで出世出来るぞ。さぁ、カッ
ツェ様にご報告だ!ガッチャマンを連行しろ!」

 偵察メカの内部でケンは意識を取り戻した。ブルッと頭を振ると強か殴りつけられた後
頭部がズキッと痛んだ。どうやら手足を縛られて吊り下げられているらしい。薄ら目を開
けると凹んだヘルメットが足元に転がっているのが見えた。
(ちぇっ、よく出来ていてもやっぱり偽メットは駄目だな)
 しかしタンコブくらいで済んだのは不幸中の幸いだったかも知れない。もしもマシンガ
ンの弾を食らっていたら−−この偽バードスーツだ。命が無かっただろう。俺が死んじ
まったら、みんな哀しんでくれるかな?少なくともジンペイは、
(やっぱり嘘だったじゃないか−)
 と、悔し涙くらいは流すだろう・・・ケンはふいにムカッとした。
(ちくしょう!ギャラクターめ、邪魔しやがって!)
 何だって選りに選ってこんなところに隠れていやがったんだ!いや、隠れていてもいい
−いや、良くはないか?−だが、なぜ撮影が終るまで待っていられなかったんだ!くそ、
おまえらのせいでせっかくのバイトが・・・と、ケンはギリッと歯噛みして、そっと左手
の拘束を外しにかかった。左手さえ自由になれば・・・

「何ぃ、ガッチャマンを捕まえただと?それは本当にあのガッチャマンか?」
−「ハッ、カッツェ様、よーくご覧くださいませ」
 モニターに縛られ吊り下げられて、くたんとしたガッチャマンが写し出された。
「おおっ!・・・おい、顔を見せてみろ!」
 ハッ、と敬礼した隊員がバイザーを掴んで顔を上げさせた。
「う〜む、よく見えんし、どうも怪しいな」
−「いえ、確かに本物であります、カッツェ様。偽隊員達を逃がした手並みと言い、あの
クソ度胸と言い、こいつこそが正しくガッチャマンに違いありません」
「俄には信じられんが、よし、偵察隊長、とりあえずそいつを基地へ連行しろ。私が直々
に検分してやる」
−「はい、カッツェ様。ですが、ここの偵察は−」
「もはや一般人にまで所在がバレては、偵察もクソも無いわ。とっとと引き上げて来い!
そいつが本物のガッチャマンだったら、おまえは大隊長に昇格してやるぞ」
−「ハハ−ッ、有難き幸せにございますデス、カッツェ様!」
 プツン、と通信を切るとベルク・カッツェは傍らでオープンにしておいた攻撃メカへの
通信マイクに命じた。
「聞いての通りだ。攻撃メカはユートランド沖へ急行して、偵察メカ諸共そのガッチャマ
ンを木っ端みじんにして来い!」
−「えっ、偵察メカごと、ですか?」
「そうだ。あのガッチャマンがたかが偵察隊如きに捕まる筈が無い。よしんば本物だとし
ても、きっと裏があるに違い無いからな、基地へなど連れて来られては迷惑千万だ。構わ
ぬから吹き飛ばしてしまえ。良いな?」
−「ハハッ!」
 さすがにカッツェは一枚上手の冷酷非道だったが、そんな事とは預かり知らぬ偵察メカ
は " 裏 " も表も無い " 本物 " のあのガッチャマンを乗せたまま、意気揚々と暗い夜空
へ舞い上がった。その振動にケンは目を閉じたままニヤッと笑った。見てろよ、カッツェ
め。このまま基地へ乗り込み、おまえをこの手でとっ捕まえてやるぜ・・・と。


 同じ頃、緊急通報を受けて、ゴッドフェニックスも夜空へと舞い上がっていた。
「おい、ケン!応答しろ!おい!」
「駄目よ、ジョー。ケンたらブレスレットの交信スイッチを切っちゃってるわ」
「ケンの奴、いったいどこへ行ったんかいのう?」
「チェッ、何をやってやがるんだ、あいつは!」
 派手に舌打ちしながら、ジョーは先刻からだんまりのジンペイとチラッと目を見交わし
た。ケンがどこに行ったのかは知らないが、二人はケンが " 何をしている " のかは知っ
ている。いや、ジンペイは途中までだが。そう、ケンはあの後・・・

『ええーっ、明日って?それはどういう事だよ、兄貴』
『どういうって、つまり金が入るのが今夜なんだから、支払いは明日って事さ』
『んもー、嘘をついてるんじゃ無いだろうね?引き延ばしたってツケは消えないんだから
ね!』
『嘘なんかつくものか!ジョーが証人だ、明日にはきっと払う』
 そそくさとマンデリンを飲み干して、じゃあな、と席を立ったケンをジョーは店の外ま
で追い掛けた。
『ちょっと待てよ、ケン。証人はいいけどな、おまえ本当にアテがあるのかよ?』
『何だよ、おまえまで俺を疑るのか?そんなら教えてやる。実は、俺・・・』
 ちょっと得意げにケンは秘策を−多少、脚色して−ジョーに耳打ちした。
『えっ、スカウトされて、その撮影だって?』
『シッ、大きな声を出すなよ、ジョー』
『おい、ケン、いったい何の撮影なんだよ?』
 さあ?と小首を傾げて、まあ行ってみれば分かるさ、と如何にも世間知らずな笑顔を残
して立ち去った後ろ姿を見送って、ジョーはううむ、と唸った。
『おまえ・・・そりゃ、ゲイポルノ、とかじゃねえのか?』

 そしてスクランブルと言うのに、あの任務の虫が姿を現わさない。だからジョーの内心
はいつも以上に穏やかでは無かった。
「ちっきしょう・・・」
 我知らず低く罵りの言葉を呟くジョーの脳裏には、非常に怪しからん、大変に良からぬ
妄想が渦巻いていた。ケンの白い裸身、乱れるシーツに散るチョコレート色の髪、熱い吐
息と卑猥な喘ぎ、飛び散る汗と白い・・・
「うおぉ、くそっ!」
「前方に敵偵察メカ発見!って、おい、どうしたんじゃ、ジョー?」
「う、いや、何でもねえ。よぉし、リュウ、全速で追尾しろ!」
「あいよ!」
 グゥン、と加速したゴッドフェニックスはたちまち偵察メカをその射程距離に捕捉し
た。
「いやがったな、よーし、バードミサイルをお見舞いしてやるぜ!」
 こちとら機嫌が悪いんだ、とばかりにジョーは発射ボタンをガンガン叩いた。
 が、出ない。
「無駄よ、ジョー。ケンのG−1号機が合体していないんですもの」

 ううう、ちっきしょう−−!と、ジョーが吼えている頃、偵察メカの内部もぴたりと背
後に尾いたゴッドフェニックスに騒然となっていた。
「ぎゃー、隊長、どーしましょう?」
「慌てるな、こっちにはガッチャマンがいるんだ。ゴッドフェニックスは撃って来れん」
「あ、隊長!味方の攻撃メカが前方に−」
「おおお、さすがはカッツェ様、援軍を差し向けて下さるとは!」
 えっ、とケンは顔を上げて前方のモニターを凝視めた。
(あのカッツェが援軍だって?)
 おかしい、と思った瞬間、攻撃メカが撃って来た。グラリと機体が傾く。
「わー、こっちじゃない!後ろ、ゴッドフェニックスは後ろだってば!」
 やはり!くそっ、カッツェめ!もうこうしてはいられない・・・と、ケンはカモフラー
ジュに巻き付けていただけの縄を振り払うと操縦席へ突進した。
「どけ!奴らはこのメカ諸共、俺を吹き飛ばす気だぞ」
「わぁー、ガッチャマンだ−!」「えええ、そんな」「ひどい〜」
 パニック状態の隊員達を無視してケンはブレスレットの交信スイッチをONにした。

− 「こちらガッチャマン、ゴッドフェニックス応答せよ」
「ケン!いったいどこにいるんだ、おまえは?」
−「偵察メカを奪取したが、奴らはメカごと俺を吹き飛ばすつもりらしい。ジョー、攻撃
メカの上に出ろ。真上から垂直降下して主翼に体当たりするんだ!」
「ラジャー!よし、リュウ、あいつの上を取るんだ、急速上昇しろ!」
「おっしゃあ、任せとけ!」
 そして、作戦は上手く行き、攻撃メカは逃亡し、ガッチャマンは偵察メカと投降した隊
員達を手土産に無事−何食わぬ顔で−帰投し、南部博士からもそう厳しく叱られる事は無
かった。だが、ケンの心は晴れなかった。


 翌日・・・
「なあんだ、やっぱり嘘だったんじゃないか!」
「すまん、ジンペイ。ちょっとしたハプニングがあってギャラを貰えなかったんだ。今度
こそ、きっと−」
「ヘン、今度と化け物は出た試しが無いよっ!そうだ、嘘つきの兄貴の代わりにジョーが
払ってくれよ」
「えっ、何で俺が?」
「だって、ジョーは兄貴の保証人だろ?」
「そうだ、そうだ。ジョー、頼む、一回でいいんだ。俺のツケを−」
「保証人じゃねえよ!証人だ、しょーにん!」
「どっちだってイイの!ツケさえ回収出来れば!」
 ジンペイはカンカンだったが、ケンは「捕まえられるもんなら、捕まえてみろ」と言わ
んばかりに素早く飛び出して行ってしまった。あ、この野郎!とジョーが追い掛ける。

「おい、待てよ、ケン」
「ん?あ、ジョーか。あ〜あ、参ったな、まったく」
「まったくだぜ。だがよ、ケン、ギャラを貰えなかったってのは何故なんだ?」
 ぐっ、と返答に詰まり急に項垂れたケンの様子にジョーは勝手にドキンとした。
 やっぱり・・・アレ、だったんだな・・・と。
「ケン、で、脱がされて、ヤられたのか?」
「いや、着せられて、ヤラされたんだ」
 ん?と、ブルーグレイの瞳が訝し気にケンを見た。
「えーと、何て言うのかな?コスプレ?動き難いのを着せられちまってさあ」
 動き難いコスプレェ?と、ブルーグレイの瞳が見開かれた。
「うう、で、ケン、それから?」
「ええと、打たれて、縛られて、吊された、だな」
 ケンがボンテージで鞭で縛りで吊るし・・・うう、たまらねえ。
「はぁはぁはぁ」
「どうしたんだ?ジョー、何だか呼吸が荒いぞ、おまえ」
「で、ケン!その、つまり、ケツはどうした?」
 んん?と、スカイブルーの瞳が丸くなった。
「ケツじゃなくて、ツケ!俺のツケだよ、ジョー、問題は−−」
「ツケは分かってるって!ケン、問題はおまえのケツだろうが−−」
 そんな噛み合わない会話を交わしながら、二人は早くもクリスマスソングが流れ始めた
ユートランドの街を歩いて行った。


 - THE END -



Top  Library List