I wish your Merry Christmas !

by さゆり。




たまにあいつと寄ったこの店に何かを探して、独りで寄った。
落ち着いた佇まいの小さなこの店は、いつも俺達に少しだけ
大人の気分を味合わせてくれたっけ。

背伸びしたい時、
独りになりたい時、
口をききたくない時、
少しばかり辛い時・・・
俺とあいつはこの店に寄ったのかも知れない。

だから、ここで何かを話したとか、何を飲んだとか、
そういった記憶は一切無かった。
どんな天気だったとか、何をしていたとか、いや、お互いが
その同じ店に居たことすら記憶に無かったのかも知れない。

俺は無口で無愛想な、だが何もかもを知っていてくれそうな
髭のマスターに苦い酒をまた注文する。

黙ったまま、時が往く・・・
黙ったまま、俺はそれを飲み下す・・・

と、ふいに髭のマスターが俺に言った。
「Merry Christmas、君の連れは今夜は遅いようだね。」
俺は少し微笑んで、それに答える。
「あいつは、もう来ないよ。」
おや、と片眉をわずかに上げて、それから髭のマスターは、
俺のグラスの隣にあいつが好きだった酒を静かに置いた。
「では、何処かで君を想っている君の連れにもこれを・・・
 Merry Chrstmas、何処に居ても、みんな佳い夜をー」
「Thanks・・・」

背伸びしたい時、
独りになりたい時、
口をききたくない時、
少しばかり辛い時・・・
俺とあいつはこの店に寄ったのかも知れない。

でも、たまにあいつと寄ったこの店で、今夜、俺は何かを
見つけた気がした。

清し、この夜・・・・・。

 Art by Youto
Art by Youto


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