We wish you a merry Christmas / '03 !

by さゆり

 健の様子がおかしい・・・そう、最初に気付いたのは甚平だった。

「やっぱりアレかの?そのつまりなんちゅうか・・・。」
「そうそう、きっとアレだぜ。」
 そんな会話の最中に来合わせたジョーに、甚平と竜が話を振った。
「え、健がおかしい?って、いったいどういう風におかしいってんだよ?」
「ちぇ、ニブイなぁ、ジョー。ほら、見てみなよ。」
 カウンターの中で偉そうに顎をしゃくる小生意気なガキに言われるままに、ジョーはそ
っと後ろのボックス席にいる健を盗み見た。そもそも健があそこの席に居る事自体がおか
しいと言えばおかしい。健は必ずと言っていいほど、カウンターに(それはジョーも同様
だが)座る。だが今、健は端っこのボックス席で独り眉を顰めていた。
「ふーん・・・確かに何やら難しい顔をしてやがるな。」
「な、おかしいだろ?」
 甚平も伸び上がって健のそんな様子を見ながら、もう一週間になるんだぜ、と付け加え
て更に喋ろうと手を止めたのをジュンが見咎めた。
「甚平!さっさと洗い物を済ませちゃいなさいよ。男の癖にお喋りねぇ。」
「分かってるよ、うるさいな!そんなんだから、兄貴は−」
 甚平、シッ!と、竜がそれを遮る。
「なによ?何か言いたい事があるんなら、はっきり言いなさいよ。」
「いや、別に何でも無いんだわ、ジュン。甚平のお喋りは今に始まった事じゃ無しちゅう
か、その・・・。」
 竜のお喋りもね!と、ジュンは竜をやり込めて、ボックス席の健を一瞥すると、声を潜
めてジョーに訊ねた。
「ねぇ、ジョー、健ったらどうしたの?」
 こっちが訊きてぇや、とジョーが言い出そうとした矢先、
「ツケの客にボックス席を占領されてたら、商売上がったりだわ。邪魔だからカウンター
へ移るように言っておいてよ。頼むわね、ジョー。」
 と、ニベもない言葉を残し、ああ、忙しい、と出かけてしまった。
「お姉ちゃんたらヒデエや。そんなんだと本当に他の女に兄貴を取られちまうぞっ!泣い
たって知らないからなー!」
「・・・泣くかいの?あのジュンが・・・。」
 ぼそり、とそう言った竜の言葉に、甚平は大きな目をもっと大きくしてゴクリと大袈裟
に唾を飲み込むと、そうだ、きっとお姉ちゃんは泣かずに俺達に当り散らすぜ。そうじゃ、
そうに決まっとるわ・・・と、2人は不安気に眉を寄せた。しかし、
「おい、いったい何の話なんだ?」
 ジョーには今ひとつ、状況が把握出来ない。
「ンもう、どこまでニブイんだよ!えへへ、兄貴はどうやら・・・。」
 手際良く皿を拭きながら、重大な秘密を打ち明けるように甚平は少し声を落とすと、ジ
ョーにソレを説明した。
「なんだってぇ?あの健が、か?」
 デカイのとチビが同時に頷くのを見ながらも、ジョーにはその話が俄には信じられない。
あの堅物の朴念仁が?いや、そもそもそんな機会がどこにあったって言うんだ?きっと別
の理由がある筈だ、とジョーはあれこれと考え、
「分かった!」
 と、ポンと膝を叩いたが、すかさず甚平がすました顔で先手を打った。
「断っておくけど、うちのツケが原因じゃないよ。」
「何だ、違うのか?ちぇっ!俺はまたおまえがどうしても払えと迫ったのかと思ったぜ。」
「そりゃ毎度の事で、すっかり慣れっこだもん。兄貴はそんな事であんな顔をするような
タマじゃないさ。」
「そうだわ・・・あの健がツケの催促くらいであんな顔はしねえわさ。」
「そうだよ!まったく図々しいんだからね、兄貴は。」
 ククッと竜が笑い、甚平と何やらまた目配せをしている。
「だ〜からさぁ、やっぱり兄貴はアレだよな。なぁ、竜?」
「んだ、なんたっておら達はお年頃じゃからのぅ。な−、甚平?」
 うーむ、とジョーは唸った。確かにそういう事があってもおかしくはない。おかしくは
ないが、それが健の話となると、どうもしっくり来ない気がする。肩越しに見れば、当の
健はすっかり冷めてしまったコーヒーの飲み残しを、まるでこの上なく難解な書物か何か
のようにジッと覗き込んだまま、微動だにしない。伏せ加減の睫毛が頬に影を落とし、き
つく結んだ唇が内心の懊悩を微かに漂わせてはいるが・・・。
「あいつが恋患い?」
 ジョーはもう一度、?マーク付きのまま呟いた。

Art by Phantom.G
Art by Phantom.G


 翌日、ジョーは南部からの呼び出しを受け、指令室に出向いた。
「分かりました。今夜のパーティーに同行すればいいんですね?」
 うむ、と頷いて、南部は国際科学技術庁で催される数日早いクリスマス・パーティーの
インビテーションをジョーに渡すと、
「運転手とつまらん警備を頼んですまないが、何分にもあんな事があったばかりだし、念
には念を入れておきたいのだよ。」
 あんな事とは、つい十日ほど前、国際科学技術庁の極秘データがボロンボ博士によって
カッツェの手に渡り−という事件の事だ。当の博士の機転によって危ういところで事無き
を得たが、科学忍者隊としてはカッツェにまんまと極秘データを持ち逃げされた訳だから、
とんだ失敗だったと言う他無い。不幸中の幸いだったのは、健が人質として拉致されてい
たボロンボ博士の一人娘を無事救出した事だったが・・・。

 そうだ!あの時、
(何やってるんだ?おまえはー)
 思わず詰った言葉を無視して、一方的に通信を切ってしまった健にムカッ腹を立てたジ
ョーは、ボロンボ父娘を護衛して同じ列車で戻ったところを捉まえると、いつもとは逆に
(まったくもって珍しい事だが)長々と説教してやったのだ。甘いんだよ、おまえは・・
もし博士がデータに細工をしていなかったら、だいたい抜け駆けなんて狡いじゃないか、
せめて俺くらいは連れて行け・・・etc 、etc 。健は神妙な面持ちで反論の言葉も無いよ
うだったが、
(健、とにかくリーダーの癖に勝手な行動が多過ぎるぞ、おまえは!)
 長広舌の締めくくりに叩きつけた言葉にも、
(えっ・・・何だって?)
 と、妙な返事をしたっけ。馬鹿野郎!聞いてなかったのかと怒鳴るジョーに、それでも
いつもなら、何をっ!と言い返し、更にジョーの行動について(これがまた触れられたく
ない事ばかりなのだ)あれこれと逆に説教してくるはずの健は、
(ああ、すまん。ちょっと別の事を考えていたもんだから・・・。)
 と、頭を掻いたっけ。それから、ポツリと言ったのだ。
 きれいに澄んだ空色の瞳で、何処か遠くを見つめながら・・・。
(もう会えないんだよな。いや、会っちゃいけないんだ。)
(・・・ん?)
 と、ジョーは思わずまじまじと健の顔を見てしまったが、健は溜め息を一つ吐くと、
ふっ、と小さく笑って言ったっけ。
(いいんだ・・・これでいいんだよな、ジョー。)
(あ?・・・ああ??)
 何が「これでいい」のか、さっぱり分からなかったが、勝手に自己完結しているのなら
突っ込むまい(だって、面倒くさいじゃないか!)と、ジョーは分からぬままに頷いたの
だが・・・健は確かにあの時からおかしかった。
 そうだ、甚平は正しい!そして、その原因はきっとあの時の・・・。

「・・・アレかっ!」
 思わず声を上げたジョーに、南部が、
「うん?どうしたんだね、ジョー。何かあったのか?」
 と、訊ねた。
「い、いえ、何でもありません。ところで博士、今夜の会場警備ですが、健も加えて貰え
ませんか?」
「ジョー、この任務は君一人でも充分過ぎると思うのだが、何か健を呼ばねばならない理
由でもあるのかね?」
 怪訝そうに再び訊ねる南部にジョーは詰まった。この南部を論理的に納得させる事が果
たして自分に出来るのだろうか?例えどんな小さな任務でも、南部は自らが納得し必要と
考えない限り、彼らに対してその指揮権を行使する事はしない。
 ましてこんな理由で・・・?
「理由は・・・健もこのパーティーに行きたいんじゃないかと思ったもんで。それで、
健を・・・。」
 口籠りながら、そう言ってはみたものの、実際、ジョーとてそれが真実かどうかは判然
としない。だが、ひょっとしたら・・・という勘がそう告げている。論理性と説得力に乏
しかったからか、南部は、ほぉ?と顎に片手を当てて、何か考える風に少し眉を寄せ、
「何故、健がこのパーティーに行きたいと思うのかね?ジョー、君がそう思うのならその
理由を説明したまえ。」
 と、更に説明を求めて来た。ジョーにだってはっきりとは分かりはしない。だが、ええ
い、ままよ!と、ジョーは先日来の健の様子を南部に話した。

「ふむ、君の話を要約すると、つまり健は今夜のパーティーに来ると予測されるボロンボ
博士のお嬢さんに会いたいのではないか、と言う事なのだね?」
 ジョーの推測を聞き終えた南部は表情ひとつ変えずに、そう言った。
「ええ、たぶんそうに違いないと思います。」
「何故かね?」
「何故って、それは、アレだからですよ。」
「アレとは何かね?ジョー、応答は明確にしてもらわんと困るな。」
「ですから、アレってのはつまりソレって事だと・・・。」
 ますます明確さを欠いて行く発言を制して、南部が問う。
「ジョー、君は代名詞の用法に些か問題があるようだが、それはこの際関係無いな。で、
健はそのお嬢さんに会ってどうするつもりなのかね?」
 うっ、とジョーは再び詰まった。男が好いた女に会いたいと思うんだぜ。どうするって、
そりゃ・・・決まってるじゃねえか。野暮は言いっこ無しにしようぜ、博士・・・・と、
そう言えたらな、と思いつつ、だがジョーは黙ったまま肩を竦めただけだった。察して下
さい、と言ったところか?
 と、
「ははははは。」
 南部が唐突に笑い出した。
「は、博士?」
「いや、失敬。ジョー、安心したまえ。私だって男だ、健の気持ちは充分に理解出来る。
そうか、よく分かったよ。では、健にも今夜の警備に付いて貰おう。ジョー、健には君か
ら連絡しておいてくれたまえ。では、6時に−。」
 そんな訳でジョーは健の処へ向かったのだが、もしかしたら取り返しのつかない事をし
たのではないか?・・・そんな気がしないでもない。
 南部は本当に「察して」くれたのだろうか?

***

「え、クリスマス・パーティー?しまった、今日はクリスマスだったのか?」
 何を慌てたのか、よせばいいのに健は愛機のエンジンをいじった手で、自分の髪をくし
ゃくしゃとかき回し、更に顔を擦った。あ〜あ・・・と、思う間も無く黒いオイルがチョ
コレート色のくせ毛と健を幼く見せている丸みを帯びた頬にたっぷりと付着したが・・・
まあ、いい。まだシャワーを浴びる時間はたっぷりと残っているさ、とジョーは鷹揚に頷
いて、
「いや、今日はクリスマスじゃねぇさ。本当のクリスマスはそれぞれ家で過ごすんだろ。
だから、こういうパーティーは早めにやっちまうんだってさ。」
「ふぅん、なるほど・・・そうか!御馳走を食べる機会は増えた方がいいもんな。だが、
プレゼントは?なあ、ジョー、こういう場合はプレゼントも2度、3度と贈らなくちゃな
らないんだろうか?」
 ンな事はどうでもいいんだよ!と、怒鳴りたくなるのを抑えて、ジョーは表情を引き締
めると、この男に最も有効と思われる殺し文句を低い声で素早く付け加えた。
「それは俺にも分からんが・・・健、これは任務だぜ。」
「ああ、分かっている。」
 きりっと眉を上げて、極めて冷静な声で答える健はもういつものG1号だった。例え肩
に垂れた髪が盛大に乱れていようとも、頬を横断するように薄黒くオイルが付いていよう
とも、片手に置き忘れたスパナをまだ握っていようとも・・・。


 その夜、二人はフォーマルスーツをダンディに着こなした南部に付き従って件のパーテ
ィー会場にいた。ユートランドシティ屈指の高級ホテルの華やかなパーティー・ルームは
着飾った人々で賑やかにさざめいている。こうした場所ではもちろん健もジョーも平素の
格好ではなく、TPOに合わせてきちんとスーツとタイ、といった服装でさり気なく控え
ている。木は森に隠せの格言通り、その方が目立たないから、というのが一番の理由だっ
たが、二人はなかなか二枚目だからおいそれと隠せるものでもない。だから南部は逆手を
取ってこういった任務の際には、健にもジョーにも通常のSPのようなダークスーツでは
なく、むしろゲスト然とした格好をさせる事にしていた。
(どこぞの博士の御曹子かな?)
 ぐらいに思われていれば却って目立たないものなのだ。何せそういう御曹子は沢山いる
のだから・・・。
 スマートな物腰と服装で(もちろん健も頬にはオイルの跡など無く、ボサボサ髪もきれ
いに整えて来た)グラスを片手に談笑の輪にそれとなく溶け込んでいる健やジョーを見る
と、南部は、
(大きくなったものだな。)
 と、つい思ってしまう。
(この間までは、あんなに小さかったのに・・・。)
 特に健は生まれた時から知っているので、尚更その感慨が強いのだが、その健がもうそ
んな年齢になったのか・・・と、南部はともすれば綻びそうになる口元を引き締めて、大
勢の中から目的の人物を探す事に集中しようとした。

 賑やかなパーティーは和やかに進行していた。と、
「あっ!」
 健が小さく声を上げて、素早く身体を反転させた。と、思う間も無く、
「南部博士!こちらにいらしたのですか?いやぁ、先日は−。」
 と、ボロンボが片手を上げ、にこやかに近づいて来た。
「おお、ボロンボ博士!私も探していたところです。お会い出来て良かった。その後、お
嬢さんはいかがですか?」
「ええ、お陰様でこの通り元気にしております。まったく何と御礼を申し上げたら良いの
やら・・・さ、ルミ、南部博士にご挨拶なさい。おまえが無事に帰れたのも、みんな南部
博士のお陰なんだよ。」
 促されて、ルミと呼ばれた娘が白い絹の手袋に包まれた右手を差し出し、
「初めまして、南部博士。先日はありがとうございました。」
 と、優雅に細腰を折った。南部もその手の甲に軽くキスを返して、
「いや、ご無事で何よりでしたな。」
 などと笑顔で挨拶している。
(ふぅん、この娘か・・・なるほど、なかなか可愛い娘だな。)
 と、ジョーは好奇心を隠せずについ不躾な(だいたい、平素から傲岸不遜が服を着てい
るような男だが)態度でルミを観察していたらしい。ルミ自身は物怖じもせずに大きな瞳
でジョーを見つめ返しただけだったが、大事な一人娘に何をする?と言わんばかりにボロ
ンボが、キッと凄まじい目で睨んだ。ヤバイ、と慌てて会釈したが、すっかり彼の不興を
買ってしまったようで、フン!とそっぽ向かれてしまった。
(やれやれ、この親父さんじゃ健も苦労するだろうぜ。)
 あの時、娘を取り戻そうと俺達に銃を向けたんだもんな、とジョーはジュンに思わず
「お嬢さんが羨ましいわ」と言わせた、ボロンボの痛いまでの親心を知っている。
(ま、無理も無い、か・・・。)
 苦笑しながら後ろを向いたままの健を見遣る。その背が痛いほど緊張しているのが可笑
しくて、ジョーはさり気なく会話から離れると板のように真直ぐな健の背に囁いた。
「おい、健、そんなに硬くなるなよ。却って目立つぞ。」
「ジョー、まずいぜ。ボロンボ博士は俺の顔を知っている。」
 あ、そうだったな、とジョーは噴き出した。こいつはボロンボ博士にとッ捕まったギャ
ラクターのチンピラだったんだっけ・・・こりゃ、ますます前途多難だ、と溜め息を吐い
て美しく飾り付けられた特大のクリスマスツリーの陰に健を引っ張って行った。
「とりあえずここにいろよ、健。向うからは直接は見えないから大丈夫だ。」
 ようやく後ろ向きから解放されたものの、ボロンボに顔を見られる訳にはいかない健に
は為す術が無い。ジョーは、タイミングを見計らって、こっそり娘だけをここへ連れて来
ればいい・・・と考えて、何やら話し込んでいる南部とボロンボの側へ戻ったジョーに、
「ねぇ!」
 と、ルミが話しかけて来た。
「あなたは南部博士のところの人?」
「うん?ああ、そうだけど。」
「科学忍者隊の人がどこにいるのか、あなた、知ってたら教えてくれない?」
「え、科学忍者隊?さ、さあね・・・でも、どうしてそんな事を?」
「私ね、もう一度だけでいいから、私を助けてくれた白い翼の人に会いたいのよ。」
 思いつめたようなルミのその表情に、ジョーは少し驚いた。

「ふぅん、じゃその白い翼の人は君の命の恩人って訳なのか。」
 そうよ、とルミは頷くと瞳を輝かせて、
「あの人は、まるでサタンの軍団を薙ぎ倒す大天使ミカエルみたいだったわ。すっごく強
くて、かっこよくて、それにとっても優しかったのよ。」
 と、夢みるように健を誉め千切った。まあ、バードスタイルで敵に向かう健は、確かに
誰の目にもこう映る事だろう。俺から見てもあの強さとかっこよさは惚れ惚れするくらい
だものな。分かるぜ、君の気持ちは、とジョーも素直にそれに同意した・・・もちろん、
胸の内で、だが。
「で、その人はどんな顔をしてたんだい?」
 それが・・・と、ルミは眉を寄せて哀しげに言った。
「顔を見せて、って頼んだんだけど、どうしても見せてくれなかったのよ。」
「ま、科学忍者隊だから素顔を見せる訳にはいかないんだろうな。」
「でも、命の恩人の顔も知らないなんて・・・ね、あの人って、どんな顔をしてるのかし
らね?髪は長いのかしら?目は、目は何色なのかしらね?口元はね、案外と可愛い感じだ
ったけど−。」
 そうそう、意外と可愛いんだ、あいつの唇は。で、髪は長くて無秩序にハネてる。それ
で目はでっかくて青くて・・・睨むとすっげえおっかないんだぜ・・・と、ジョーは心の
中で密かに答えて、独り笑った。いいぞ、こいつは脈がありそうだぜ、健!・・・それを
伝えるべくツリーを見ると、ぶら下がったオーナメントの陰からジッとこちらを凝視して
いる件の青い目とぶつかった。
『OK!』
 と、親指を立てて合図を送り、それから、
『そっちへ行く』
 と、手真似で伝えると、健は素早くツリーの陰へ隠れてしまった。
(ちぇ、何だよ?シャイな奴だな。)
 だーかーら、おまえは朴念仁だのニブイだの言われるんだよ・・・俺まで甚平にニブイ
と言われちまったんだぜ!冗談じゃねえや・・・この阿呆!俺が女の扱い方を教えてやる
ぜ・・・と、ジョーは心持ち肩を怒らせてツリーへと、気弱なG1号へと近づいて行った。

 健が消えた大きな豪華なツリーの陰へ、
「おい、健!」
 と、些か鼻息も荒く廻り込んだジョーは思わずそこで立ち竦んでしまった。
「うぉ・・・」
 目の前いっぱいに真っ赤な物体が立ち塞がり・・・そいつはジョーを認めると白い顎髭
を揺らして御機嫌な奇声を上げた。
「ホーホーホー!メリークリスマス、ジョー」
「ちょ、長官・・・」
 そう、それは真っ赤なサンタクロースの服を着込んだISO長官ロバート・アンダーソ
ンその人だった。フライドチキン店の店頭に立っているマスコットの大佐に酷似したその
サンタは、大きな袋からオモチャの車を取り出しながら微笑んだ。
「おお、さすがはコンドルのジョーだな。一目でわしだと見破るとは!」
 ・・・見破れない奴っているんですか?長官・・・と、思ったがジョーも曖昧に微笑み
返しただけで、賢明にもそれを口に出しはしなかった。それよりも健だ!−と、見れば健
は、やはりアンダーソン・サンタから貰ったと思しき馬鹿でかいピンクのウサギのぬいぐ
るみを抱えて、これもサンタの服を、いや、サンタの衣装をキュートなミニにアレンジし
た数人の女性達−アンダーソンは自慢げに、
「わしのアシスタント嬢達じゃよ。何せサンタクロースは忙しいのでな」
 などとウインクして見せた−に囲まれて、盛んに汗をかいていた。
 無理もない。無敵のガッチャマンである健とて若い男だし、それにサンタ嬢達はアンダ
ーソンの趣味を反映してか飛びっ切りの美女ばかりで、ミニからすらりと伸びた脚線美が
無闇にひたすら悩ましいのだ。
「うふ、あなた、とっても可愛いわね」
「ねえ、何か食べない?ターキー、ケーキ?シャンパンがいい?」
「いや、あの、俺は・・・」
 なぁにが「いや、あの、俺は・・・」だ!とジョーは健の狼狽ぶりを嘲笑った。ジジイ
(−失礼!)のお守りに飽きていたのだろう。美女達はうっすらと頬を染めて照れまくっ
ているハンサムな健をここぞとばかりにかまいまくっているのだが、防戦一方というのも
情けない。
(しっかりしろ!)
 とばかりに、ジョーは健の背中をどやしつけた。
「あ、ジョー」
「ジョーじゃねえぞ、健。何やってるんだ、おまえは。いいか、今、彼女をここへ連れて
・・・」
 ・・・来たらマズイかな?と、小首を傾げたジョーに美女達が騒ぎ出した。
「あら、あなたも素敵ねえ!」
「いや〜ん、セクシー!タイプだわ」
「いや、あの、俺は・・・」
 女のあしらいには自信があるジョーだったがこういうのは苦手だ。1対1(複数も可)、
健、ジジイ、その他のギャラリーも無しの状況なら任せてくれだが、これではどうにもな
らない。柄にも無く防戦を強いられるジョーに今度は健がクスクス笑った。ピンクのウサ
ギの耳も揺れ、何だかウサギにまで嘲笑されているみたいだった。
「おい、しっかりしろよ、ジョー」
「うるせぇっ!そりゃ俺の台詞だ!」
 ばっちり決めたダークブロンドを引っ掻き回して、ジョーは唸った。

 さて、こちらは南部。
 ボロンボと談笑しているうちに、
「メリークリスマス、南部博士」
「おお、これはマキシム博士、いや良いクリスマスですな」
「お久しぶりです、南部博士。マントル計画はいかがですかな?」
「やあ、東風田博士、ご無沙汰でした。お陰様で順調に進んでおります」
「南部博士、先日の量子物理学会報の156ページにあったあのレポートですが−」
「うむ、あれが何か?ブツリスキー博士」
 ・・・斯くの如き、各種 " 博士 " のインフレ状態に突入し、ここでも南部は多忙を極
めていた。しかしこれも無理からぬ事で、南部は何と言ってもISOが誇る世界的なネク
シャリストであると同時に、庁内に(むろん外部にも、だが)絶大な発言力と権限を持つ
" スター " なのだ。こうしたパーティーに於いて、スターは常に人気の的というのはごく
当たり前の事だったし、南部はどんな会話にも対応し得るだけの知識を持ち合わせている。
 だが、
(あ〜あ、難しい話ばっかりでつまらないわ)
 ボロンボも話に夢中になっているし、ルミはすっかり飽きてしまい、
(そう言えば、さっきの人、どこへ行ったのかしら?)
 と、なかなか戻らぬジョーを探して、何やら賑わっているツリーへと歩き出した。
(おや、ボロンボ博士のお嬢さんが−)
 その後ろ姿に、南部は果たさねばならぬ使命を思い出した。
「ところでボロンボ博士、先程の続きですが・・・」
 は?と、ボロンボも自分の会話から顔を向けたが、
「博士!南部博士、私を御記憶でしょうか?」
 しかしすぐにそれも遮られた。
「おおお、これはアリー博士、もちろんですとも。お懐かしい」
 見ればボロンボもまた他の博士達との議論に戻ってしまっている。
 うむ、容易ならん・・・南部は胸の内で呟いていた。

 ツリーの傍もアンダーソン・サンタとサンタ嬢達に気付いた人々で混雑して来ると、2
人はようやく若干の自由を取り戻す事が出来た。と、
「ジョー、さっきはボロンボ博士のお嬢さんと何を楽しそうに話してたんだ?」
 健がいきなりそう訊ねて、軽く睨んだ。あ、こいつ、妬いてやがる・・・
「ヘン、そんな事はおまえには関係無いこったぜ、健」
 うぬっ、と悔しそうに唇を噛む健が可笑しくてたまらず、こうなるとジョーはうずうず
と疼く悪戯心を抑制出来ない。ま、いいか・・・あの娘もまんざらじゃなかったし、少し
くらい揶揄かっても罰は当たるまい・・・と、ジョーはにんまり笑った。

「狡いぞ、ジョー!」
「狡いって、健、おまえ、何だってあの娘の事をそう気にするんだ?」
 心底 " どうして? " と言う顔でそう問うてやると、健はハッとしたように瞬いて、
「な、な、何でもない・・・気になんかしてないよッ!」
 と、しどろもどろに答えた。
(くくく、健の奴・・・そんなに慌てる事は無いじゃないか)
 ああ、何でもないのか?じゃあどんな話だったなんて聞くなよな・・・澄ました顔でそ
う言いながら、ジョーは心の中で笑った。ああ、なんて愉快なんだ!・・・だってこの間、
あんな目にあったばかりだから、ちょっと気になっただけだ・・・と、健はよほど恥ずか
しいのかそっぽを向いたまま、それでも負けん気からかそんな言い訳をした。
「そうさ、それだけの事さ」
「ふ〜ん、そうかい?」
 ジョーの頬にまた笑みが浮かぶ。健はそっぽを向いている上に目まで伏せしまったので
まだ気付かないが、件の娘−ルミが傍までやって来ているのだ。
(やぁ、こっちだ)
 と、ジョーは無言のままルミを呼んだ。
「あら、ここにいたのね」
 ルミの声に " えっ? " と振り向いた健の顔を見た瞬間、ジョーはついに我慢し切れず
に噴き出してしまった。

「なあ、ジョー・・・頼むから行かないでくれよ」
 その青い瞳に今まで見せた事の無い不安げな色を浮かべて、健が懇願した。何とまあ晩
生な奴なんだ・・・呆れつつもジョーはそんな初心な健が無性にいじらしかった。
 考えてみれば、健は不憫な奴なのだ。
 もっと " 子供 " だった頃から、健は " 大人 " にならなければ、と無理をしていたっ
け。そうしなければならなかったのかも知れないが、やはり無理には限界がある・・・・
だから健は妙に早生な部分−例えば科学忍者隊のリーダーとしての健の決断力や能力は、
誰が見ても抜きん出ている−と、同時に晩生な部分−これは言うまでも無く、実際よりも
幼い異性に対する " 朴念仁 " ぶりや、" 当たり前 " の常識が欠如している点、等だ−を
混在させたままなのだろう。誰だって、人はそう言うものなのだが、健の場合は特にそれ
が顕著なのだ。
(なんか可哀想だよな)
 そう思うと、もう意地悪も揶揄う気も失せて、ジョーは健の淡い恋心にエールを送る事
にした。科学忍者隊である以上、健の恋は実るまい・・・だが、今宵だけは、せめて一時
・・・と、ジョーは思った。
「そんな事言ったって、いつまでも南部博士をほったらかしにする訳にはいかねえだろ?
いいか、健。俺達は博士の警護の為にここへ来てんだぞ」
「じゃ、俺もあっちへ戻る」
 ばーか!と、ジョーは健の額を指で小突いて、あっちにはボロンボ博士もいるんだぞ。
おまえを見つけたら「ギャラクターだ!」って大騒ぎになっちまうじゃねえか。いいから
ここでアンダーソン長官とお嬢さんの身辺を見張ってろ・・・そう言い残して、ジョーは
ますます博士人口が増加している様子の南部の元へと足早に戻って行ってしまった・・・
 いいな、健、男なら自分で何とかしろよ!・・・とも言い残して。

「あなたも南部博士のところの人だったの?ね、この前、列車の中で会ったわよね?」
 ルミにそう訊ねられて、健はウソをつく訳にも行かず、「うん」と頷いた。
(どうしてこんなに動悸がするんだろう?)
 じゃ、あなた・・・もしかして、とルミにその美しい瞳でひたと凝視められると、健の
鼓動はもっと早くなった。
「あなたが白い翼のあの人なの?」
 ああ、そうだよ、と言えたらどんなに嬉しい事だろうか。でも、それは出来ない。いや、
それは決して言っちゃいけないんだ。だって俺は、俺達は・・・
 健の胸が切なく痛んだその時、唐突に照明が落ちた。
「!」
 刹那、エマージェンシーに備えて自覚せぬままに身体が反応し・・・健はルミを腕の中
に抱いていた。あの時、自らの身体を盾に爆風からルミを庇ったのと同じように・・・

「お集りのみなさま、メリー・クリスマス!ホーホーホー!」
 闇の中、スポットライトに浮かぶサンタクロースが(もちろん、アンダーソン長官だが)
お祝いの言葉を述べると、クリスマスソングが厳かに流れ出す・・・

♪Silent night
, Holy night -
 すべてのイルミネーションが消されたツリーの天辺に飾られた星が再び煌めくと、会場
いっぱいの善男善女から「ほぅ」とため息に似た静かな歓声が上がった。
♪All is calm , all is bright -
・・・聖しこの夜、星は光り、救いの御子は−
 そんなムードたっぷりな演出も手伝ってか、健の腕の中でルミはにっこりと微笑んだ。
(私の肩を抱く頼もしいこの腕は、紛れも無くあの時の、あの・・・)
♪'Round yon virgin Mother and Child −
 美しい歌声につれて会場にキャンドルが灯され、徐々に優しい明かるさが戻って来ると、
健はホッと緊張を解いた。なあんだ、パーティーの演出だったのか・・・
 と、
(あっ!)
 健はまだしっかりと抱いたままのルミに気付いて大いに慌て・・・
♪Holy infant so tender and mild −
 だが、健はルミを放す事が出来なかった。
 放したら、もう二度とこの人に触れる事は出来ない。
 それは分かっている。
 でも、今だけは・・・
 このまま、この温もりを抱いていたい。
 何もかも忘れて・・・
♪Sleep in heavenly peace −−
(綺麗な君、どうか怒らないで・・・)
 祈りながら、健は自分の肩にもたれているルミの髪にそっと唇を寄せた。
♪Sleep in heavenly peace .........
 美しいその髪からは花の香が甘く香った。
 

「ね、俺が言った通りでしょ?あれを見て下さいよ、博士」
 ちきしょう、健の奴!・・・やる時はやるじゃねえか、とジョーは二人の姿を人混み越
しに透かし見ながら、にやにや笑った。
「うむ、はらはらしたが、どうやら上手く行きそうだね」
 今夜はそうするチャンスを逸したが、折を見てボロンボ博士には私からきちんと話せば、
健に対する誤解は解けるだろう・・・と、南部の口元にも自然と微笑みが浮かぶ。そうそ
う、既成事実が大事ですからね、とジョーはジョーで些か無責任な事を言って、またにや
にや笑った。
「ではジョー、私達は先に帰るとしようじゃないか」
「でも博士、健の奴、本当に大丈夫ですかね?」
「ああ、健だって立派な男だ。それにあのRIの息子なら、こういった事には長けている
筈だよ」
「へぇ、そうなんですか?ま、邪魔者はいない方がいいですからね」
 二人は頷きあってソッと踵を返すと、人々が笑いさざめき、クリスマスソングが流れる
賑やかな会場を後にした。

♪Joy to the world!
 The Lord is come−
 エレベーターホールへと「Joy to the world!」が追い掛けて来る。
「ふふふ、Let earth receive her King〜♪」
 ジョーが御機嫌の体で続きを歌うと、
「ははは、Let ev'ry heart prepare Him room!」
 笑って、南部もそれに低く和した。
「And heaven and nature sing〜♪」
「And heaven and nature sing〜〜♪」
 そして声を揃えて、And heaven 、and heaven、 and nature sing!と歌い終えると、
二人はユニゾンのまま笑い声を立てて、御機嫌を絵に描いたような−そう、健の今宵を思
うと、二人はとにかくうきうきしてしまうのだ−面持ちでパーキングへと降りて行った。

 だが、その健は南部の車の横に立っていた。
「健っ!」「けん?」
 思わずまたハモってしまった二人だったが、健は至極真面目な顔で、
「すみません。博士を見失うなんて、科学忍者隊のリーダー失格です」
 と詫びた。うむ、まあ、それはいいんだが・・・と、南部はちょっと口籠ったがジョー
は黙ってはいられず、気遣ってやらねば、と思いつつも吼えてしまった。
「うう、何やってるんだ?おまえは!」
「何って、だからこうして謝っているんだ」
 そうじゃねえ、そうじゃねえんだ、健!ああ、もう、おまえって奴は−
「健、やっぱりおまえはキング of 朴念仁だ!あんなチャンスを物に出来ないなんて−」
 よさないか、ジョー。さぁ、車を・・・と、南部はジョーをドライバーズシートに追い
やって、いつになく俯いたままの健に訊いた。
「健・・・」
「はい、博士」
「大丈夫かね?」
 育ての父である南部の優しい声を聞いた途端、健の空色の瞳から涙があふれた。
「健?」
「すみません、博士・・・何だかひどく胸が痛くて、俺・・・」

Art by Phantom.G
Art by Phantom.G


 うむ、と頷いて、南部は健の肩に手を置くと、慈愛に満ちた声で言った。
「肋間神経痛かも知れないな。後で診てあげよう」
 ガツンッ!と、ジョーの額がハンドルに激突した音がシンとしたパーキングに響いた。


 一方、まだまだ賑やかな会場ではボロンボがようやく最愛の娘を発見していた。
「ルミ、ここにいたのかい。探したよ」
「あ、パパ」
「黙ってパパの傍を離れないでおくれ。またおまえが誘拐されたんじゃないかと、慌てち
ゃったよ」
「うふふ、心配性ね、大丈夫よ。それに・・・」
「それに・・・何だい?」
 そうしたら、白い翼のあの人がまた助けに来てくれるもの−と、ルミは心の中で呟いて
にっこり微笑んだ。「違うよ」と笑ったけれど、あなたはきっとあの人だわ。やっぱりハ
ンサムで優しい人だったのね、あなた・・・ありがとう、助けてくれて。私、あなたがと
ても好きよ。ねえ、私達、また会えるわよね?・・・
 一抹の不安と寂しさに似た思いがルミの胸中を過ったが、ううん、きっとまた会えるわ
・・・と、健の過酷な任務を知らないルミはそれを否定した。
「可愛いウサちゃんだね、ルミ。サンタさんに貰ったのかい?」
 違うわ、とルミは首を横に振って、
「サンタクロースじゃなくて、大天使ミカエルがくれたのよ」
 と、花のように笑うとピンクのウサギを優しく抱きしめた。

***

 数日が過ぎ、本当のクリスマスが、イヴがやって来た。
 ロック調にアレンジされたジングル・ベルが賑やかに流れるスナックJで、忙しげに
立ち働きながらも、甚平と竜はおしゃべりに夢中だった。
「やっぱりアレだったかの?で、そのつまりなんちゅうか、健は・・・。」
「そうそう、きっとアレだぜ。あ〜あ、兄貴ったら馬ッ鹿だなぁ」
「オラだったら忍者隊なんか辞めちまうぞい」
「おいらもそうするよ。何たって女の子のが大事だもん。なあ、竜」
 んだんだ、と笑った竜だったが、
「それにしてもエライ散らかりようじゃのう。甚平、何だってこんなに散らかしたんじゃ?
オラ、もういい加減イヤんなって来たぞい」
 と、溜め息を吐いた。なるほど竜が嘆く通り、Jのキッチンからカウンター周辺の惨状
は目を覆いたくなるほどの渾沌ぶりだった。ホイップクリームは飛び散り、様々なサイズ
のボウルやら皿はことごとく汚れ、床までが小麦粉と思しき白い粉やらチョコレートやら
で汚染されている。
「おいらがやったんじゃないよ!これは全部、お姉ちゃんの仕業だよ!も〜、お姉ちゃん
たら兄貴がナニだってのに、一人ご機嫌なんだぜ」
 そう、パーティでの一部始終を−あの翌日、興奮覚めやらぬまま、ジョーが顛末を喋っ
てしまったのだ−気のない様子でそれを聞いていたジュンはやがてだんだんとご機嫌になり
うふふ、と笑って・・・
「えっ、ジュンがかよ?」
「クリスマスケーキを焼くんだって、朝からこの騒ぎさ。つき合わされたおいらの身にも
なってくれよ」
「あのジュンが何でまたケーキなんぞ焼く気になったんかいの?」
 フフンッ、と小生意気なチビが笑った。
「そんな事も知らないのか?竜・・・女の子は恋をするとケーキを焼きたくなるもんなン
だぜ」
 ハァ〜ン、とデカイのがそれでも首を傾げながら言った。
「だっけど、ジュンの場合は、むしろマイナスにならないかの?」
 ハッとしたように大きな目を剥いて、甚平は「そりゃそうだ!」と叫んだが、すぐに思
い直したように澄ました顔で言った。
「いいさ、相手は肋間神経痛持ちの朴念仁だもの」


「え、クリスマス・パーティー?じゃ、今日がクリスマスだったのか?」
 飽きもせずにまた愛機のエンジンをいじっていた健にジョーは、
「そう、今日こそは本物のイヴだぜ。だから急げよ、健」
 と、言いながら、素早く健の両腕を押さえた。またオイルまみれになられたら・・・、
今日こそは間に合わなくなる。今日はスナックJのパーティーだし、健がジュンに対して
は肋間神経痛の発作を起さない事はよく知っている。さぁ、今宵こそはと張り切るんだぞ、
健。あの赤鼻のルドルフだって、いつまでも笑いもののままじゃなかったんだ・・・と、
もはや何のエールなのか判然としなくなったお節介にすっかり囚われているジョーだった。
 だが・・・ん?待てよ・・・と、ジョーはハタと気付いた。
(・・・と、言う事は健はジュンを " 異性 " だと思っていないのか?)
 健があの娘を諦めてしまったのは、間違い無く、健の科学忍者隊に対する責任感故だ。
しかし、同じ立場のジュンならば、この問題は解消されるのだ。それに何より有利なのは、
ジュンが健に惚れてるって事なのだが・・・
 これはジレンマだ、出口の無いラビリンスだ−と、ジョーは怪訝そうに瞬く空色の瞳を
ジッと凝視めてしまった。
 と、健がフッ、と笑った。
「ジョー、そんな目で見ないでくれよ」
 えっ?と、ジョーはたじろいだ。ど、どんな目で見てたってんだ、俺?
「手、放してくれ・・・」
   痛いよ、と小声で訴えてやや俯いた健に、ジョーは我知らず頬を染めた。
(・・・まさか・・・まさか、俺、おまえの事を・・・!?!?)
 ああ、もしかしたら、こンなに健の恋の行方が気になるのは−と、ジョーは何だか胸が
ドキドキしたが、健はあっさりとごく " 当たり前 " の事を言って、微笑んだ。
「あの人の事は、もう忘れたからさ。だから、心配しないでくれよ、ジョー」
 あ・・・
 そう・・・そうだよな、と、ジョーはホッとしたのかガッカリしたのか、自分でも判然
としない溜め息を吐いて、もう暮れ始めたイヴの空を見上げた。

 大きな星がひとつ、瞬いていた。


 - The End and ,
   We wish you a merry Christmas
   We wish you a merry Christmas
   We wish you a merry Christmas
   And a happy New Year !! -


(MIDI from >[Click] & [Click] )



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