Chupa Chups :-p

by さゆり。
Art by Asaling

「なあ、ジョー。おまえ、チュッパチャプスって最後まで全部、舐め切った事あるか?」
 熱心に動かしていた舌を止めて、健が唐突に訊いた。
「何だ、いきなり?第一、そのチュッパって何だよ?」
「キャンディーじゃないか。知らないのか?ほら、丸くて棒の先に付いてて、色んな味があるあれだよ。」
「ロリポップか?」
「その一種かも知れないが、ロリポップみたいに平たくなくてさ、真ん丸で、けっこうデカくて・・・」
「だから、それが何だって言うんだよ、健?」
 ジョーには訳が分からなかった。が、確かにおおよそ場違いな話には違いない。ベッドの中で、愛し合ってる最中ーそれもかなりイイところだーにするような話しなのか?今、健が口に含んでいるのはチュッパ何とかと言うキャンディーではなく、ジョーのコックだったはずだ。
「萎えるような事を言うなよ、こんな時に。」
 あはっ、と健が笑った。
「萎える?こいつが、か?」
 笑ったままの口元が再びそいつをパクリとくわえ、ピクンと反り返るように動く逞しさに、またくすっと笑う。そして、からかうように執拗に先端だけを口の中に収めて、軽く吸いながら舐め回す。うう、とジョーが呻いた。まったく、こいつは・・・と、また中断。
「ここんとこの感触がさ、なんかチュッパチャプスみたいなんだ。何だか懐かしいな。」
「そうかい。」
 ジョーは段々、余裕が無くなって来たのを自覚して短く相槌だけ打ったが、健はよほどそのキャンディーに御執心のようで、
「なぁ、俺、あれを最後まで舐めた事が無かったような気がする。だいたいあれを最後まで舐め切る奴っているのかな?」
「頼むからいきなり止めないでくれよ!」
 うん?と怪訝そうに瞬かせている空色の瞳が心底腹立たしい。
「いきなり止める訳じゃないんだが、全部舐めたって記憶がない。ジョー、おまえは・・・」
「怒るぞ、健!」
 そう言って、片手で撫でていたチョコレート色の髪を鷲掴みにしてやると、ああ、すまん、と真面目な口調で詫びて、健はコックに添えていた五本の指に軽く力を込めた。そして、
「イっていいぜ。全部、飲んでやるから。」
 と、ひどく色っぽい目つきで言うと、それからもうキャンディーの話はせずに、巧妙な指と柔らかい唇と熱い舌とそれらの動きで、暫時、ジョーを攻め立てた。自分の下腹部にちょうど直角といった感じで覆い被さっている健に手を伸ばす。そっと首筋に指を這わすと、ぴくっと身体を硬くして、唇をきゅっと窄めて動きを早めた。煽られて、ジョーはもう我慢が出来ない。
「くっ!」
 喉の奥からの声とともに彼の熱いものが迸る。それを受け止めた健は喘ぐように上を向き、白い喉がごくり、と口の中のものを飲み下した。そして、ふっと息をついたその濡れた唇の端から溢れ出した粘性の高い白い液体が、ゆっくりと顎から喉へと伝い落ちて行く。やや上を向いたまま、緩く目を閉じて、微かに笑っているような表情を見せる健にジョーはぞくり、とした。まったく、こいつは・・・。
 遮二無二引き寄せて、唇を重ねると仄かな潮の味がし、それにやや遅れて、真夏の草いきれにも似た香が鼻孔の奥をくすぐる。
(俺の、だ。)
 そう思うと、ジョーは訳もなく頭と身体がカッと熱くなって、腕に力を込めて健をかき抱いた。健が愛しい、健が欲しい・・・その思いを込めて舌を絡め続け、健の腕を引いて組み敷く。と、健は、
「悦かったろう?」
 と、優しい声で言った。
「ああ、すごく悦かったぜ。さ、今度はおまえの番だ。イかせてやるよ。」
「いや、いい。」
 返答よりも早く、健はするりとジョーの下から逃れると、背中を向けてしまった。その背にスプーンのように重なって、ジョーは薄い耳朶を軽く噛み、片手で胸を弄り、そしてもう片手を下腹部に伸ばした。
「よせよ!」
 途端に健がその手を払い退ける。
「イったし、悦かったんだから、もういいだろ?」
「もっと楽しもうぜ。それにおまえはまだイってないじゃないか?」
「いいんだよ、いいんだってばっ!」
 激しい語調でそう言うと、健はバサリとシーツをはね除けて上体を起すと、ジョーに向き直った。
「ファックしなきゃ気が済まないのか?へん、ファックされたら俺がイくとでも思ってんのかよ?」
「何だと?」
「俺は女でもカマでもないぞ!誰が男なんかにファックされたいもんかっ!」
「この野郎っ!」

 売り言葉に買い言葉だった。ジョーにだって健の言い分は理解出来るし、もっともだとも思うが、じゃあいったいどうしろって言うんだ?押さえつけて思いを遂げたところで、どうにもならない事は百も承知していたが、ジョーは他に方法を知らない。それにこうなってしまうと、意地でも健が欲しくなる。
「まったく、おまえは!せっかくのSEXをもっと楽しもうって気は無いのかよ、健?」
「楽しむ?もう楽しんだだろ!放せよ、このっ・・・」
 健は罵りながら暴れたが、厚手のシーツにすっぽりと包まれてしまったので、まるで網にかかったように自由が利かない。それに瞬発力では勝っても、腕力ではジョーに適わない。それでも身を捩って抵抗を続けると、健の身体はスプリングの悲鳴とともに、激しく弾んだ。絡み付くシーツを半分振り解いたところをジョーに押さえ込まれ、唇を塞がれた。胸にのしかかられている上に、執拗なキスに口を封じられて息が詰まった。暴れていたのも手伝って、健は酸素を求めて喘いだが、ジョーは許そうとしない。苦しくて、苦しくて、それでもジョーを睨みつけていたその目から涙が零れたのを見て、ジョーはようやく健を解放した。はぁはぁと荒い息を吐きながら、
「おまえ、俺を、レイプ、す、る気、か?」
 と、健が途切れ途切れに言う。ジョーはニヤリ、と笑って、まるでカードを伏せるように健をひっくり返した。
「案外、おまえはそういうのが好きだったりしてな。」
「何を馬鹿な事を・・・うっ!」
 チョコレート色の髪が溢れたホットココアのように緩やかに散って、いつもはその中に隠れている白いうなじが目の前にある。そこにくちづけて、ゆっくりと舌を動かすと健はくっ、とピローに顔を埋めた。胸の下に押さえ込んだ身体がぴくりぴくりと敏感に震え、そして、求めるように指がシーツを握りしめる...。
 
 ジョーの唇と舌が脊椎の横の窪みをたどって、徐々に下がって行く。くるりと巻き付いたシーツは片側しか剥げないが、全部剥いでしまったら、きっと健は身を翻して・・・恐らく膝頭を鳩尾に叩き込むだろう。まったく、こいつは・・・。
 引き締まった脇腹にキスすると、
「あッ。」
 と、声を上げて、背を仰け反らせた。が、またすぐに頑固に突っ伏してしまった。なんて強情で可愛げの無い奴なんだ、と思いながら、ジョーは少し乱暴に腰椎に引っ掛かっているシーツを退けて、半ばエレクトした健のコックを食んだ。喉の奥までくわ込むと、健の身体から力が抜けて行くのが分かった。それからゆっくりと健の唇がした事をなぞってみると、なるほど懐かしい感触、と言うのが少し理解出来た。
(チュッパチャプスか。)
 そう言えば、こういう丸くて滑らかなキャンディーを無心に舐めた頃があったかも知れない。自分はいざ知らず、健が嬉しそうに頬を丸く膨らませている姿が目に浮かぶようだった。可愛いな、とジョーは健がそのキャンディーにするように舌を使う。もしかしたら、健も同じ事を考えていたのかも知れない。
「・・・ん。」 
 と、健が緩く閉じた円い目蓋を神経質に震わせた。くっ、と上を向き、唇を噛んで耐えているのだろうが、健のチュッパチャプスは口を離しても、もうすっかり溶けてしまいそうに濡れている。
「挿れてやったら、あっと言う間にイっちまいそうだな、健?」
 ジョーが揶揄うようにそう言った途端、バサッとピローがジョーの頭を叩いた。不意を突かれたが、所詮ピローだ。痛いはずも無い。だが、ジョーは健の子供っぽいその抵抗が可笑しかった。
「健・・・。」
 優しい声で名を呼んで、ゆっくりと抱き締めると、健は頭を巡らせてジョーを見た。なんだかまだ潤んでいるようなその空色の大きな瞳が無性に愛しい。
「いい加減に諦めて、おとなしく抱かれたらどうだ?」
「おまえがあちこち舐め回すから・・・」
「悦くなっただろ?」
 ああ、と健は頷いて、それから猫が笑うように鼻に皺を寄せて悪戯っぽく言った。
「ファックしたくなっちまったぜ、ジョー。」
「・・・い?」
「犯してやる!」
 今度のカードはジョー。くるりとひっくり返した、その痩せた身体に健は馬乗りになった。ちょっと待てよ、とジョーは慌てたが、何をいまさら、と健は乱暴にジョーの首に、肩に、胸にくちづけ、愛撫する。空色の瞳までがなんだか猫の目のようにギラリとし、まだ下半身を半分覆っているシーツを通してもはっきりと分かる、熱くて硬いものがジョーの内腿に触れた。
「ジョー、愛しているぜ。だから、ちょっと痛くても我慢しろよ。なぁに、挿れたらすぐにイっちゃうからさ。俺、もう、我慢が・・・」
「うっ・・・よせーっ!」
 思わずジョーは健を撥ね除けて叫んでいた。
 
 偶然、手に当たったピローを、素晴らしい反射速度で盾のように構えたジョーを見て、健はくすん、と鼻を鳴らした。
「ひどい奴だな、ジョー。イかしてくれないのか?」
 ジョーの丸くなっていた目がちょっと険しく健を睨み、だがすぐに笑い出した。この野郎!と、ピローでボスン、とチョコレート色の頭を一つ叩く。
「負けたぜ、健。分かったよ、もうよそう。」
「いや、せっかくのSEXだ。もっと楽しもうぜ、ジョー。」
 緩やかに腕を首に回して、健はたまらなく柔らかいその唇でジョーを誘った・・・。
 
- THE END -
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