FAIL SAFE
- Dr. STRANGE-NAMBU -
or : How He learned to stop worrying and loves him

by さゆり


「ケン、起きなさい」
 間もなく陽も落ちようという時刻だったが、私は出掛けた時と変わらぬ姿勢のまま、乱
れたシーツに埋ずまるように眠っているケンの肩を揺さぶった。うっすらと開いた空色の
瞳を瞬がせて、ケンはどこかに焦点を合わせようとしながら、
「はい」
 と掠れた声で小さく返事をした。
「食事に行く。起きて支度をしなさい」
 再び「はい」と素直に答えて上半身を起こしたが、傍に私がいるからか、少し困ったよ
うな顏をしてシーツから出ようとしない。相変わらず裸身を見られるのが恥ずかしいのだ
ろう。だが素知らぬ顔で、
「どうしたのかね?さあ、急ぎなさい」
 微笑んでそう促してやると、ケンは微かに眉を寄せたが、だからと言って逆らう事も退
いてくれと言う事も無くベッドから床に足を下ろし、しかしその途端・・・
「−あ」
 と、小さく声を上げて立ち竦んだ。
「ん、どうした?」
 俯いた頬を暗褐色の髪の蔭で染めて、動けずにいるケンのすぐ傍に屈むと、
「足首でも痛めたのかね?さ、見せてごらん」
 などと言いながら、引き締まった足首から脹ら脛へ、さらにその上へと指を滑らして行
く。と、内腿に彼の体内から流れ出た先程の情事の残滓が触れた。
「おやおや、私が忙しくしている間、君はシャワーも浴びずにずっと寝ていたのかね?」
 いけない子だな、と窘めるように言って、指でそれをゆっくりと上へ辿りながら立ち上
がると、もう片方の手で顎を引き上げて羞恥に戦慄いている口唇に接吻けた。
「!」
 私の指が仕掛けて行く仕打ちに耐え切れず、合わせたままの口唇を数度、叫び声の形に
開いたが、ケンはいつものように声を上げはしない。そう、私はこうした時の彼の声をま
だ聞いた事が無かった。だが、我を忘れるほどに追い込み続けるとケンは未だにあの男の
名を呼ぶのだ・・・切ない声で、
「ジョー・・・」
 と。その度に私は激しい怒りと、そして同時に一種独特な加虐的快感を得る。このまま
それを聞きたいと思ったが、今宵は別の趣向がある。私はケンを放してバスルームへと追
い立てると、彼のスーツを選ぶためにワードローブのドアを開けた。



 2カ月程前の事だ。知らせを受け、現地の病院へ駆けつけた私に、
「初めまして」
 と、ケンはやや緊張した面持ちで、それでも非常に礼儀正しくそう挨拶した。
 その特徴的な大きな空色の瞳は相変わらず美しかったが、似合っているとは言い難い
カーキ色のシャツや、どこか畏縮したような彼の態度にはやはり違和感を覚えた・・・
 そう、そもそもケンが「初めまして」などと言う事自体、おかしいのだ。ある任務中、
彼は頭部に負傷し、それが原因で記憶障害を起こしている、との知らせでやって来て見れ
ば、確かに彼は私が「誰か」を認識出来ず、戸惑ったような、どこか怯えたような、大凡
ケンらしからぬ様子を見せた。
 ケン、おまえは・・・と、喉元まで出掛かった言葉を飲み込むと、私は、
「待たせてすまなかったね。さ、掛けたまえ」
 カルテを繰りながら穏やかな口調でソファを勧めた。記憶に混乱がある時は決して無理
強いをしてはならぬもので、とにかく静かに経過を観察しなくてはならない。ケンは包帯
の下からこぼれている暗褐色の髪を揺らして素直に頷くと、腰を下ろした。
「うむ、なるほど。幸い外傷自体は大した事は無かったようだね」
「はい、お陰様で。爆風にやられた打撲傷だけだそうです」
「君はその時の事を憶えているかね?」
「いいえ」
 と、ケンは首を横に振り、それから小声で「すみません」と続けた。謝る事は無いよ、
と微笑んで見せると気弱げではあったが笑みを見せたので、幾つか質問する事にした。
「ケン、自分の名前を憶えていたかね?」
「いいえ。でも皆が「ケン」と呼ぶので、これが自分の名前なんだな、と・・・」
「では、住所や職業などについてはどうかね?」
「ここの市民では無く、仕事でここへ来ていたと聞きましたが、詳しい事は何も憶えてい
ませんし、仕事が何だったのかも思い出さなくて−」
「ふむ、それではやはり私の事も憶えていないんだね?」
 ケンは些か慌てたように視線を落とすと、
「はい、申し訳ありません・・・あの、南部博士のように高名な方が、何故わざわざ俺を
訪ねて下さったのでしょうか?俺は博士の知り合いか何かなのですか?」
 と、困惑を隠そうともせずに訊ねた。私という人物に関しての記憶はあるようだが、私
個人との関係については些かも分からぬらしい。つまりケンはインテリジェンスや常識、
知識といった部分には欠損は無いが、自己とそれに連なるものの記憶を完全に欠いてし
まっているようだった。
「ああ、それは当然の事なのだよ。実はね、ケン、君は私の・・・」
 と、そう話して聞かせながら、私はあの夜の事を思い出していた。



 宿敵であった組織を壊滅させた後、暫くして私は必要の無くなった彼らの任を解いた。
仮初めの平和の中で彼らがどう生きて行こうと、もう何の興味も関心も無かったからだ。
そしてそれは半ば強制的に青春を奪われて来た若者達とて同じだったろう。自由とその後
の人生を楽に過ごすに足る報酬を得た若者達は、意気揚々とそれぞれに散って行き、私は
それを見送りもしなかった。
 しかしケンだけは私の元を去ろうとは、任務から離れようとはしなかった。そう、ケン
は他の生き方を知らぬ特別な子だ。配合理論に基づいた選択交配によって得た素晴らしい
資質−美貌、知性、体力と言った資質と能力を論理的なメソッドとカリキュラムに則って、
私が育て上げた特別な子なのだ。果たして予測通り、さらに私と共に生きると言う道を、
ケンが望んだ事に少なからず満足していたのだが・・・
 やがて、私は気付いたのだ。
 ケンの本当の望みに・・・


 あの夜、私は今回の任務を伝えた後、
「ケン、これを最後にこうしたオペレーションからは身を引きたまえ。確かに君は優秀だ
が、これ以上、求めて危険な任務に就く必要はあるまい。今後は私の開発プロジェクトを
手伝ってくれたまえ」
 と、言い渡した。
「いいえ!」
 案の定、きっぱりとした否定が私の言葉を遮った。
「ご心配には感謝しますが、俺は平和の為に戦い続けたいと−」
「そうかな?ケン、君は本当に平和という目的だけで任務に就いているのかね?」
「それは・・・それはどういう意味ですか?」
 底知れぬ闇をたたえた瞳をギラリと青く光らせて、低く問い返したその声は追い詰めら
れた手負いの獣の唸り声を思わせた。
「ほぉ、どうやら図星だったようだね。ケン、君はジョーの死を乗り越える事が出来ずに
いるのではないのかね?いや、はっきり言おう。ケン、君はジョーのように死ぬ事を望ん
でいるのではないのかね?」
「そ、そんな事はありませんっ!俺は−」
 眉根を寄せて必死に否定しようとする表情の奥に、拭い切れぬ苦悩と忘れ得ぬ哀しみが
垣い間見えた時、私は「やはり」と苦々しく思うと同時に、密かに私を裏切ったジョーと
その裏切り者に殉じる事を願うケンに憎しみを覚えた。
 では、言おう。これは最後通牒だよ、ケン・・・
「確かに君は自ら死を選ぶような卑怯者でも弱虫でもないな。だが、ジョーの死を忘れら
れず、任務に死地を求めているとしか思えん君を、危険なオペレーションに参加させる事
は出来ん」
 キッと睨んだその瞳の真意が驚きだったのか怒りだったのか、或いはその両方だったの
か・・・ややあって、ケンはふいに端正な口元を歪めてフッと笑った。
「では、俺はもうあなたの処にいる必要は無いんだ」
「ケン、勝手な真似は許さんぞ!」
「ふん、俺はあなたの思い通りになんかならないっ!」
 ・・・素直だったケン、可愛かったケン、君がそんな言葉を私に吐こうとは、な。だが、
裏切りのその瞬間、烈火の如く怒りを燃え上がらせながらも、氷のように冴え冴えとした
冷たい光を放つ彼の美しさは格別だった。いつだって君は、凄絶なまでに強く美しく誇り
高い・・・そう、それが私のケンだ。そう望み、そう育て上げた愛しい私のケンだ。
 だが、君は私の元を去ると言うのだね・・・
 残念だよ。だが、これで決心がついた。
「ケン、君が何と言おうとこれが最後の任務だ。成功を祈る」
 淡々と告げて、黙ったまま背を向けたケンの姿が消えるのを見送った私はデスクの上の
受話器を取った。
「南部だ。うむ、彼は明日の夜にはそちらへ着く。予定通りに進めてくれたまえ。命さえ
取らなければ多少の事は構わん。麻薬でも催淫剤でも好きに使いたまえ。ああ、そうだ、
よろしく頼むぞ」
 そして、それから、
「ふふふ、思い通りになんかならない、か・・・いいや、ケン、私は君を思い通りにして
みせるよ」
 私はそう独り言ちて笑ったのだった。


「僕があなたの・・・?それは本当ですか?」
 私の言葉にケンは一瞬、戸惑い、それでもどこかホッとしたような安堵の色を浮かべて
そう聞き返した。ややあって綺麗に澄んだ空色の瞳から涙が溢れた。それを指で拭ってや
りながら、私は、力強く頷いて、
「ああ、本当だとも。わざわざそんな嘘を言う為に私が来る筈が無かろう?」
 だからもう何も心配する事は無いんだよ、と言いながら、言葉を詰まらせて、ただ肩を
震わせているケンをそっと抱きしめてやった。
「さあ、明日にでも一緒にユートランドへ、家へ帰ろう。家へ帰ればきっと少しづつ記憶
も戻るだろうし、それにケン、君の事は私が一番よく知っているのだから安心しなさい」
「はい・・・」
 臨床上、記憶障害の患者は常に大きな不安に苛まれるものだ。無理もあるまい。
「自分」の「存在」すら覚束なくなってしまえば、それは「死」にも等しい。いや、実際
に死んでしまえば、存在の何のとそれを思い煩う事さえ無くなる訳だから、その恐怖と不
安は、死にも勝る、と言うべきものかも知れんな・・・と、私は、ようやっと親を探し当
てた幼子のように歔欷を抑えられずにいるケンの背を軽く叩いてやりながら、そう、もう
何も悩む事は無いのだよ、ケン・・・と優しく囁いた・・・



 バスルームから出て来たケンはほんのりとブロンリー社のクラシックの香りがした。
 以前、まったくと言うほど体臭も無く、トワレを使う習慣も無いケンの肌に残された、
ピリリとした苦味を備えた甘いラベンダーとシトラスオイルの香を嗅いだ時、
(黒い海賊か、なるほど奔放なおまえらしい趣味だな)
 と、その香りの主に嘲笑を浴びせられた気がし、
(私のケンを・・・)
 と、その情景を思うと胸が悪くなった事を思い出した。
 裏切りは絶対に許さん。それが私の主義だよ、ケン・・・そして、ジョー。
「髪をちゃんと整えたら、これを着なさい。さ、急いで」
 禁欲的なまでに引き締まった彼のヒップラインを際立たせる丈の短い上着を渡しながら、
私は濡れて殆ど漆黒に見える前髪に軽くキスした。


(どんな集まりなのですか?)
 道々、そう訊いたケンには、
(友人の医学者や科学者達だが、君の記憶障害を気の毒がってね。食事をしながら様子を
診てくれるそうだ)
 それだけ説明してある。そして、
(普段の君の様子を診せるのだから、リラックスしていたまえ)
 と、付け足しながら、それでもやはり緊張を隠せずにいるケンを見、本当の事を知った
らおまえはどんな顔をするのだろうね?・・・そう思って軽く笑った。


 市街地から少し離れた約束の店には既に待ち合わせの友人達が集まっていた。
「やあ、待たせてしまったかな?」
 と声を掛けると、友人達も「やあ」「御招待、ありがとう」などと微笑んで挨拶を返し
はしたが、彼らの視線は私を通り越し、数歩遅れてダイニングルームに入って来たケンに
注がれているのが分かった。私の指示通りに珍しくきちんとブローした暗褐色の艶やかな
髪を、私が選んだオフホワイトのメスジャケットの肩に流したケンは確かに友人達ばかり
ではなく、いつも慇懃なプロに徹している筈の店員達の注目をも集めていた。今宵は私達
の貸しきりだから他の客はいないが、もしそうでなかったら上品に着飾った見知らぬ紳士
淑女達の目も彼に向けられた事だろう。そして、私に向けられるのは羨望、嫉妬と言った
至極、直截な感情だったろう。いや、友人達からも無論それは充分に向けられてはいたが
・・・

「ケン、さ、ここへ掛けなさい」
 形の良い顎を引いて、ケンは素直に私が指した席に着く。まだ少年だった頃から、一流
と称される店で正式なマナーを身に付けさせたので、こうした席での彼の物腰は優雅なも
のだ。この洗練された風の美しい青年がねぇ、とでも言わんばかりに、友人達は改めて些
かあからさまな好奇の眼差しでケンを凝視めた。
「さて、まずは御多忙中、お集り頂いた事に礼を申し上げておく」
 見事なブルゴーニュのエスカルゴが供されたのを頃合に、私は友人達に軽くグラスを上
げてそう切り出した。
「いや、礼には及びませんよ、南部博士」
「そうとも。むしろ愉しい趣向に誘って頂いた礼を言うのは我々の方さ」
「ははは、ありがとう。持つべきものは友達だな」

 それからは和やかな談笑のうちに、このオーベルジュ自慢のカルトとワインに取り掛
かったが、エスカルゴが苦手なケンは皿に手を付けない。
「おや、食べないのかい?このエスカルゴは、グロ・ブランと言ってね、大きいだろう?
でも柔らかくてとても美味なのだよ」
 などと友人達が代わる代わる話し掛けるが、
「こう言ったものはあまり・・・」
 と、ケンはワインばかり飲んで一向にそれを口にしない。
「このマイマイ科の陸棲貝の生殖は変わっているよ。知っているかね?」
 やっと次の舌平目のバターソースが来たと思ったら、そんな話に捕まっている。
「ええ、知っています。雌雄同体なんですよね?」
「そう。で、その交尾を観察した事があるかい?」
「い、いいえ」
 ケンは妙に初心なところがあって、たかがカタツムリの話にさえ薄く頬を染める。不思
議なほど馴れぬ身体同様、そうした羞恥心には堪らなくそそられるが揶揄いたくなるのも
事実で、この相手もニヤリと下卑た笑いを浮かべた。
「これが実に羨ましいと言うか面白い仕組みでね、つまり攻めると同時に受けると言うか、
互いに刺しつ刺されつと言うか−」
「おいおい、下品な物言いは止めたまえよ。彼が困っているぞ」
 ドッと湧いた笑い声にホッとして、ようやく舌平目に取りかかったが既にグラスは赤の
ものに替わっていた。そして、メインディッシュがリ・ド・ヴォーと知って、ケンは軽く
溜息を吐いた。
「ケン、皆さんに失礼だよ」
 そう嗜めはしたが、子牛の胸腺だの温野菜には卵とトリュフがたっぷりと添えられて、
だのと言った今宵のカルトは君の為では無く、そのお相手達の為に選んだものだ。だから、
「すみません」と項垂れたケンにはそれ以上何も言わず、好物の林檎のタルトをサーブさ
せた。これとて優しさからでは無かったが、
「さあ、少しはちゃんと食べておきなさい」
 と、笑顔を見せて言ってやると、これからの事を知らぬケンは嬉しげに微笑んだ。


 フロマージュと食後酒は別室で供されるのがこのオーベルジュの特色で、帰宅時間を気
にする必要が無い客達は思い思いにゆったりと過ごす事が出来る。趣味の良いサロン風の
部屋には、年代もののチェス盤やカードテーブルが置かれ、その後のコーヒーや煙草の愉
しみ時にも飽きる事は無い。いつものように我々もそれぞれの場所に陣取って、それぞれ
に談笑を続けた。
「やあ」
 今まであまり喋らずにジッとケンを観察していた一人の科学者がそう声を掛けて来た。
そして、チェスに誘われて向うのテーブルにいるケンを見遣りながら、
「なるほど、彼が我々の " マドンナ " のお相手と言う訳だね?」
 と低く笑った。
「年齢の割には幼いようにも見受けられるが、君が見込んだ青年だし、まあ彼なら申し分
の無いお相手だと思うが、一つ聞いても良いかな?」
「何かね?」
「つまり如何なる理由で " 彼 " を選んだのか、と言う点さ」
 ああ、と私は微笑んだ。
「彼の精子で無くては困るのだよ。何せ彼自身が " マドンナ " から生まれた個体なのだ
からね」
 ほぉ、と彼は目を輝かせた。
「なるほど、イン・ブリードか!」
「ヒトにも育種学を適応すべきだと言う君の論文は、興味深く読ませて貰ったよ。極近親
繁殖は遺伝形質を固定する最も有効な育種法だ。試してみたいと思わないかね?」
「それに " マドンナ " 自身から彼を生み出させたのも、この南部博士の采配なのだよ」
 横合いから旧友がそう言って、片目を瞑って見せた。
「ははは、配偶本能に頼ったあまり科学的な方法では無かったがね。だが、ケンはほぼ私
が望む形で双方の遺伝的特徴を受け継いでくれた」
「で、今度はそれを固定したいとお考えなのだな」
 生命倫理委員会だとか宗教グループが聞いたら卒倒しかねない、いや当人にとってなら
尚更たまったものでは無い、我々のそうした会話をよそにケンはどうやら盤面に釘付けの
ようだ。ケンもかなり腕を上げてはいるが、この対戦相手では気を散らす訳には行くまい。
 だが、その集中力も今宵は君の敵となるのだ。
「ポーン!」
 好手同士の対戦は始めは非常に早く動くもので、相手の手が止まって以降の一手が大事
だ。止まっていた盤面が動き出したその時、私はちょうどケンの対戦相手の真後ろに立っ
て観戦していた男に頷いて見せた。応じて、彼が、
「ケン!」
 と唐突にその名を呼び、虚を突かれたケンが、
「え?」
 と、顔を上げた瞬間を捉えて目の前でパチッと指を鳴らしながら、
「さあ、おやすみ」
 と、命じた。一瞬、大きく見開いた空色の瞳がゆっくりと長い睫毛に隠れると同時に、
コトリ、とケンの指が掴みかけていたナイトが倒れる微かな音が妙に響いた。


「さて、彼の頭部CTやMRIの画像は送信しておいたので既にお分かりの事と思うが、
これと言った損傷箇所は見当たらない。つまり彼の記憶障害は脳実質に加えられた外傷性
のものでは無く、何らかの原因によって引き起こされた心因性のものである可能性が高い
と思われる」
 私が手も無く眠りに落ちたケンの暗褐色の髪を掻き上げて、今はもう痕跡しか無い外傷
部位を彼らに示しながらそう所見を述べると、
「ふむ、だがこんなに若くて健康な青年が達しないと言うのは腑に落ちない話だね」
 と、チェス同様、そちらのテクニックにも自信のある一人が、早くもタイを引き抜きな
がら笑った。私は鷹揚に微笑んで、運ばれたまま緩やかにシーツに四肢を投げ出している
ケンの身体から離れた。
「ケンが戻ってから今まで、随分と可愛がってもみたし、その道のプロとか言う男達にも
抱かせてみたが無駄だったのだがね。しかし、お手並み拝見と行こうか」
「ふふふ、では眠り姫の身体だけは起こしておいてあげよう」
 と、催眠暗示を与えた精神科医が再び軽く指を鳴らすと、ケンはふっと息を吐いて微か
に身じろいだ。
「完全に覚醒した訳では無いが、話し掛ければ受け答えはするよ。感じているかどうかは、
彼自身に訊いてみればいい」


 よし、と直ぐにまず三人がショコラと淡雪のように上質なクリームのデザートを食べる
事に取り掛かったので、私を含めた三人は傍のソファからコニャックを嗜みながらそれを
眺める事にした。
「ふふ、悪くない趣向だ」
「まるで赤ん坊のような肌だね。さぁ、こっちを向いてごらん」
「ん・・・」
 最初、代わる代わる与えられる接吻けと愛撫から、ケンはいやいやをするように首を
振って逃れようとしていたが、先程の私の物言いに些か意地になっているらしい彼らの執
拗なテクニックに吐息を熱く乱し始めた。
「どうだい?ね、気持ちがいいだろう?ほら・・・」
「う、ん・・・あ・・・」
「そう、いい子だ。もう少し足を開いてごらん」
「ははは、案外と簡単に堕ちそうだよ、南部博士」
 背後から抱えたまま、そう言った男に私は軽くグラスを上げて見せた。
「ふふふ、申し分の無い感度だろう?それに馴れてはいないが素直に受け入れもするさ。
だがね、SEXでは決して達かなくなってしまったようなのだ」
「まさか!こんなに感じてるのにかね?」
「ああ。無論、薬物や物理的、電気的刺激でなら達かせる事は出来るのだがね」
 フム、と " 見物 " 側のソファにいた育種学者が顎を撫でながら言った。
「そうした方法で得た精子はあまり好ましく無いな。欲情し、達する、と言うプロセスは
生殖にとって重要な意味を持っているんだよ」
 それから彼は一齣、ホルスタイン種の繁殖はほぼ100%が人工受精によるが、その種牡と
なる個体には厳しい交配欲、乗駕欲までを含めた選抜が課せられるだの、サラブレッド種
に最も求められるのは競争心、闘争心と言ったものだから、未だ人工受精は行われないの
だのと言った専門的な話を続け、ベッドの上ではケンと三人の直接的には全く生殖に関与
しない行為が続けられていた。


「しかし、こりゃ、堪らんな」
 ごくり、と喉を鳴らして育種学者がソファから立ち上がった。
「さあ、君も来たまえよ。この子はまるで処女のようだ、最高だぞ」
「ははは、オスには乗駕欲が大事なのだろう?」
「しかしあまり大勢では・・・」
 と、彼は私に対する遠慮−ケンに対する思いやりではあるまい−を口にしたが、
「なに、大丈夫さ。彼の身体には多少の準備はさせてある。遠慮は要らんよ」
 私がそう答えてやると、よし、と性急な手つきで衣服を弛めながらベッドへと上がって
行った。
(ふん、多少の準備か)
 胸の内で呟いて、私はこの2ケ月の間、ケンに課して来た事・・・いや、ケンが某国で
遭遇し、記憶を失くしたと言う " 爆発事故 " と、それに至る経緯を確認する為にそうし
て来たのだが・・・を、反芻していた。


 あの時・・・
 そう、最後の、と言って赴かせた任務は実は任務などでは無く、ケンを陥れる為だけに
私が仕組んだ罠だったのだ。某国で、チームメイトと信じて彼らと接触したケンは易々と
拘束されて、理由も分からぬままに、
(命さえ取らなければ多少の事は構わん。麻薬でも催淫剤でも好きに使いたまえ)
 私の言葉通りに陵辱された。そして、端末に送信されたその様子を私は見ていたのだよ、
ケン・・・モニタに写し出されていた行為はなかなか暴力的で、贄であるおまえが盛んに
抵抗していた事・・・やがてクスリが効いたのだろう。それも無くなった・・・を除けば、
今、目の前で行われている事と基本的には大差ない。つまり、おまえは男達の淫らな快楽
と愉しみの為だけに美しい肉体を貪られ、その端正な顔を歪ませて、獣じみた彼らの息づ
かいと卑猥な言葉の合間に、
「う・・・」
 と、微かな喘ぎを漏らす事しか出来ないのだ。
(ふふ、辛いかね?)
 いや、辱められて辛くない訳が無いだろうが、特にケンの場合、肉体的な苦痛よりも精
神的な苦痛の方が遥かに大きいだろう。厳格に育てたせいか、ケンは不思議なほど性的な
ものに対して強い羞恥心を持っており、たかがマイマイの話に頬を染めるほど初心だし、
晩生だ。そんなおまえだからこそ、こうした責めは何よりも辛かろう、と私は笑った。

 しかし、こうした時にもケンは堪らなく美しい。そして、こうして弄ばれるケンを眺め
ていると、私は被虐的且つ加虐的な、と言おうか、名状し難い複雑な快感を覚える。選択
交配の、配合理論の、とどんな理由で糊塗しようとも、結局は美貌の婚約者を身体能力と
闘争力と言う、 " 男 " として極めて屈辱的な理由で、親友に与える事に甘んじなければ
ならなかった事実と、そうして得る事が叶った愛しいケンに、ただ歯を食いしばって耐え
るしかない苦痛と屈辱を強いているのは、他ならぬ自分なのだと言うこの快感に私は一種
の陶酔さえ覚える・・・そう、それは私にとって、ケンとの実際の行為よりも遥かに刺激
的で甘美な感覚なのだ。

「くっ」
 ケンは頑に顔を背け、与えられる快感に抗い続けている。このくらいで堕ちはすまい。
あの時でさえ・・・クスリを使い、眠る事も許さずに責めさせ続けて漸う、我を忘れさせ
るのに三日を要したのだから・・・あの時、モニターの中のケンはもう殆ど正気さえ保っ
ておらず、確実に堕ちようとしているかに見えた。私は愉悦とともに些かの憐憫を覚えて、
聞こえぬと知りながら、
(何故・・・?何故だ?)
 と、震える声で繰り返す問いに答えてやった。
(ケン、私はおまえに自分の無力さと、私から離れては生きて行けぬ事を何としても分か
らせたかったのだ。裏切りも勝手な真似も許さん。おまえは私のものなのだよ、ケン)
 だが、それが果たされる前にあの " 爆発事故 " が起こり、ケンは記憶を失うと言う予
定外の事態が出来したのだ。



 あれから2ケ月が経過した。
 間もなく夜も明けようという時刻だったが、私は最後の相手が彼を放した時と変わらぬ
姿勢のまま、乱れたシーツに埋ずまるように目を閉じているケンの髪を掻き上げ、そっと
接吻けた。うっすらと開いた冷たい唇を唇で捉えたまま、微かに震える滑らかな肌に指を
滑らせると、ケンは掠れた声で拒否の言葉を呟きながら眉を寄せた。
「い・・・やです、やめ・・・て下さい」
 ケンは未だ私でさえ拒む。だが、それを無視してこのまま貫いたとしても彼が抵抗する
事は無い。しかし、声を上げる事も、やはり達く事も決して無い。彼を悦ばせ達かせる事
が出来るのは、やはりあの男・・・ジョーだけなのだ、と改めて怒りがこみ上げる。

 何が違うのか?・・・それは問い直すまでも、考えるまでも無く明らかだ。
 今もケンはジョーを愛しているのだ。誰よりも、何よりもジョーを愛し、ジョーを欲し
ているのだ。しかし、あの日、ケンはそれら全てを無視して任務を取らねばならなかった。
そして、ケンは全てを・・・ジョーを、愛を失い、その怒りや憎しみを向ける対象である
敵さえも失った・・・いや、敵を、戦いを失くすと言う事は、同時にケン自身のレーゾン
デートルの消失をも意味する。

 そう、あの日、ケンは自己を含めた全てを失ってしまったのだろう。
 ならば・・・
「ケン、君が望むならば、ジョーを返してあげよう」
 ジョー・・・震えるケンの唇が音の無いまま、ゆっくりとその名をなぞった。
「だから、もう芝居はやめにしたまえ」
 刹那、大きく見開いたケンの瞳は信じられぬほど青く澄んでいた。


 キッと、ケンは一瞬鋭く私を見据えたが、すぐに目を逸らすと、
「分かって・・・いらしたのですね?」
 と掠れたままの小声で呟いた。うむ、と頷いて、私は暗褐色の髪をまた掻き上げてやり
ながら言った。
「だが、君も分かっていたのだろう?ケン」
 恐らく、ケンは罠に嵌ったと気付いた時から何もかも分かっていたのだろう。あの時、
ケンは幾度も「何故だ?」とは問うたが、一度も「誰だ?」とは問わなかった。つまり、
「誰の仕業か」は既に看破していたに違いあるまい。
「俺が博士の生命を狙うとは、お思いにならなかったのですか?」
 無論、子飼いとは言えケンは誇り高い猛禽であり、生え抜きのシークレットソルジャー
だ。その気になれば、素手でも瞬きをする間に人の生命を奪う事が出来る。いや、そうし
た能力や技術を叩き込ませたのは他ならぬ私自身なのだ。

 だが、どんなに責め続けてもおまえはそうしなかったね、
 ケン・・・いい子だ・・・
 私は無言のまま微笑んで、それから小さかった頃によくそうしてやったように、奔放に
跳ね上がろうとする髪をゆっくりと撫でてやった。滑らかな髪はあの頃と少しも変わらず
掌に心地良かった。暫し、そうし続けると、ケンは諦めたように小さく息を吐いて、静か
に目を閉じた。
 そう、いい子だね・・・ケン・・・

「あの爆発と言うのも事故では無く、君の仕業だね?」
 はい、とケンは素直に頷いた。
「俺の仕業と、どうして分かったのです?」
「同じフロアにいた全員が死亡する規模の爆発で、君だけがあの軽傷と言うのは解せない
からね」
 そうか、とケンは口の端を歪めて微かに笑いながら、
「生き残る事なんか、これっぽちも考えやしなかったのに・・・」
 と呟いた。言葉の通り、ケンは死ぬつもりだったのかも知れない。しかしこれまで叩き
込まれた経験が、反射が、君にそれさえも許しはしないのだ、と私は満足を覚えた。
「さすがだよ、ケン。あの状況でよく彼らの隙を突いたものだね」
「もう耐えられそうもなかったので、呼吸を止めたのですよ。そうしたらいやに驚いて、
俺の拘束を解いたから・・・」
 なるほど、「命さえ取らなければ」と厳命したのが仇になったか、と私は苦笑し、彼ら
も相当な精鋭ではあったが、やはり私のケンには適わなかった、と言う事実にまた満足と
喜びを覚えた。
「しかし、記憶喪失とは考えたものだね。危うく騙されかけたよ」
「いいえ、収容された時、記憶が混乱していたのは事実なんです。俺は自分が誰かも分か
らなくて、博士がいらした時も本当に何故なのか分からなくて・・・」
「ほぉ?」
 ケンは私が何よりも愛しているその空色の瞳で、直と私を凝視めて言葉を続けた。
「でも、あの時、博士が仰った言葉が・・・」
 あの時、すべてを見失った迷子のようにケンは訊いた。
(あなたにとって、俺は " 何 " なのか?)
 と−。

 やはり、ケンがずっと " 求めていた " のはその答えだったのだ、と私は確信し、
「ああ、そうだとも。ケン、おまえは私の・・・」
 再びあの時と同じ言葉をそう繰り返し、震える身体を優しく抱きしめてやると、ケンは
もはや堪え切れなくなったのか、
「ジョーもそう言って・・・」
 と、私のYシャツの胸に顔を埋め、低く嗚咽を漏らした。
「ケン、ジョーに会いたいのだろう?私はおまえの望みを叶えてやりたいのだよ。大事な
おまえが哀しむ姿を見ていたくは無いのだよ」
「ジョーは、ジョーは生きているのですか?」
 ああ、とそれを肯定しつつ、だが私は決して " 本当 " の事を言ってやりはしなかった。
いや、真実を告げたところで、ケンがジョーを再び捨て去るとは到底思われなかったし、
そうされては困る事情もあるのだ。だから私は殊更優しい声で、
「さあ、ケン、どうしたいか言ってごらん」
 とだけ促して、その髪をそっと撫で続けた。
「・・・」
 答えられず、ケンは声を押し殺して泣いていた。彼は人一倍勘が鋭いから、恐らく漠然
と、いや、もしかしたらかなり明確に私の意志を感じ取っていたのだと思う。だがやがて
・・・ケンは顔を上げ、きっぱりと言った。
「生きているのならば、ジョーに、ジョーにもう一度、会わせてください。博士」
 頷きながら、私はその青い瞳がやがて狂気に似た悦びと、限り無い哀しみを映すであろ
う予感に微笑みを禁じ得なかった。


 そう、ケンは堕ちたのだ。自らそう求めて、ジョーを道連れに。
 だが、ケン・・・これでおまえは私のものだ・・・永遠に・・・



 それからさらに数カ月が過ぎたある日のこと・・・
「ほら、ジョー、自分の名前が分かるかい?」
「わ・・・わ、きゃ・・・る。じょ、じょー」
「よし、いいぞ。じゃ、俺は?俺の名前は?」
 新兵のように極端に短く髪を刈った精悍な面差しの青年は、海が見えるテラスの白い
デッキチェアに並んで掛けている長髪の青年の名を、
「けぇ、ん・・・けん!」
 と、辿々しくはあったが明瞭な発音で正しく呼んだ。
「うん、順調だね。ケン、このままならジョーはすっかり元通りになるかも知れないよ」
 2人の横に立って様子を診ていた担当の精神科医が微笑んでそう言うと、
「そうですか?ふふ、ジョー、良かったな」
 ケンは優しく微笑んで、自らのすべてと引き換えに取り戻す事が叶ったその肩を愛おし
げに抱き寄せた。日課である日光浴をさせながら、また根気良く語りかけるつもりなのだ
ろう。愛するジョーの " 心 " を取り戻すために。


「やあ」
 戸口に立ったままそれを見ていた私に、室内へ戻って来た精神科医が片手を上げた。
「どうだい、彼はすっかり落ち着いたろう?」
「彼って、あのサイバーかい?」
「ははは、まさか」
 と、私は笑った。クロスカラコルムで、ジョーはRI隊同様あの内部に居た私の手の者
によって直ちに収容されたが、彼の脳の損傷はやはり既に如何んともし難いものだった。
私は予てからの計画通り(優秀な特殊戦闘員を一から育てるよりは、遥かに確実であり、
またコストパフォーマンスにも優れるとの理由で進められていた)、ジョーはRI隊員等
と共にサイバネティクス・ソルジャーとして " 復活した " と言う訳だ。

「君に診ていて欲しいのはケンの方だよ。知っての通り、ジョー、つまり " 彼ら " の個
人的な記憶や情報はすべて削除されている。彼らに " 心 " は無用だからね。特にジョー
の場合は脳の大部分をメカニズムに置き換えねばならなかったから、もはや " 心 " など
在りはせんよ」
「勿論、ちゃんと診ているさ。ケンはあの一途さが少々怖いな。あの一途さと愛でジョー
の " 心 " を取り戻すかも知れないぞ。今でさえ何だか時々、ジョーが本物の情緒を持っ
ているように思えるくらいだ」
「いや、ジョーがそう見えるのも単なるプログラムさ。だが、ケンがそれをサイバーに取
り戻させたならば、それはそれで興味深いではないか?」

 そうだね、と精神科医は頷き、それからクスッと笑いながら私を見た。
「南部博士、あなたは私を医者じゃなくて役者だと思っているんじゃないのかい?掛けら
れもしない催眠術を掛けるフリをさせられたり、無い筈のサイバーの " 心 " を診させら
れたり・・・」
「いや、あの時はすまなかったね。だが、君の熱演のお陰でケンが芝居をしているのだと
確信出来たよ。改めて礼を言おう」
 いや、礼よりも、またああした趣向をぜひ・・・と、目を細めた彼の要求に私も無言で
頷きながら、今度はテラスの芝草の上に並んで座っている2人を見遣った。
「ジョーの回復も順調のようだし、 " マドンナ " の凍結卵細胞の準備も整ったそうだし、
そろそろ2人に思いを遂げさせてやるとするかね?」
「ふふふ、じっと耐えている彼も悦かったが、声を上げて達する彼もぜひ見てみたいな。
きっと堪らなく美しくて、扇情的な光景だろうね」
 でもそれで、と彼はすこし口籠り、
「また皆して堪らなくなったら、どうするんだい?もう似非催眠術は効かないよ」
「ははは、なに簡単さ。その時にはあの屈強なサイバーに手伝わせれば良い」
 ますます結構な趣向だね、とご機嫌の態の精神科医を見送ってから、私は再び2人に目
を遣った。


 芝草の上で、ケンは殆ど表情の無いジョーに何か話している。
 ああしている2人を見ると、私は彼らがまだ小さかった頃を思い出す。
 兄弟の無いおまえにと、私はジョーを引き合わせた。
 そう、" ジョー " と言う条件は私がおまえに与えたものだ。
 様々に、複雑に作用し、影響し合う諸々の条件から " ジョー " を引いたら、
 そこにはどんな結果があったのだろうか?
 どんな " ケン " が在ったのだろうか?

 まもなく、私はもう1人の " ケン " を得る事が叶う。
 それはケンの息子であり、同時にケンの弟でもある子だ。
 きっとその子はケンによく似ている事だろう。
 青く澄んだ瞳と、優れた能力を持っている事だろう。
 今度は " ジョー " と言う条件を加えずにおいてみようと思う。
 完璧な条件からは、どんな結果が生じるのだろうか?
 どんな " ケン " に育つのだろうか?

 芝草の上で、ケンは殆ど表情が変わらないジョーにまだ話している。
 ケンは信じていたいのだ。いつか、あのジョーを取り戻せると。
 だが、ケンの思いや努力は結局、無駄に終るだろう。
 所詮 、それはおまえが愛した " ジョー " では無いのだから。
 しかし、哀しむ事は無いのだよ、ケン。
 そのジョーは、もう決しておまえを裏切る事は無いのだから・・・



  - THE END -
 



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