KEN , 18 years old .....

by さゆり


「どうしたんだね、健?」
 白いシーツの中から、健はじっと南部の顔を見つめている。
薬で眠っているとばかり思っていたのに・・・。 
「何でもありません。」
 少し怒ったように、照れたようにそう答えた健だったが、
視線を外そうとはしない。真直ぐに自分を見ている空色の瞳
には、言葉とは裏腹に何か物言いたげな色が浮かんでいる。
「痛くはないかね?」
 南部はベッドの傍らの椅子へ掛けながら、そう訊ねた。
 はい、と顎を引いた健は起き上がろとしたが、ツッ、と顔を
顰めて、南部に肩を押さえられた。
「無理をしてはいけないな、健。どれ、診せてごらん。」
 慣れた医師の手が白いシーツを剥いで、ライトブルーのパジャ
マのボタンを1つ1つ、丁寧に外す。と、健の胸にはまだ新しい
鞭の傷跡が赤く刻み込まれている。それに医師の指が触れると、
健はぎゅっと眉を寄せて目を閉じた。
 悪魔の爪痕のようなその赤い傷を診るのは辛い。
 無垢な、真っ白い胸に刻まれたその傷はおそらく胸の奥に達し、
健の心までも抉ってしまっているのだろう。
「惨いことを・・・」
 思わず呟いて、だがその傷跡を負わせたのは他ならぬ自分なのだ、
と、その悔恨に一瞬、瞑目する。自分はこの傷跡をこの子に負わせ、
かけがえのないこの子の父を奪い、当然のように仇を追おうとする
この子をさらに打つのだ。
 いったい、何の権利があって・・・?
 ふと気づくと、健が再び物言いたげな目で自分を見ていた。
「健、何か言いたい事があるのだろう?言ってごらん。」
 南部はそれを聞きたかった。
 恨み言であればいい。
 あなたは鬼だ、ひどい人だ・・・そう言ってくれたならー。
「何でもありません。」
 だが、健はやはり何も言いはしない。
「遠慮する事はないんだよ。」
 そう促すと、健は微かに恥じらいの色を浮かべて、ごく小さな声で
何かを言いかけた。
「うん?」
 口元に耳を近付けようと屈んだ南部の首に、健の腕が巻き付く。
「博士・・・」
 うんと幼かった頃にしたように、両腕で南部に抱きつきながら、健が
囁くようにそう呼んだ。懐かしい温もりと絆をしかと確かめるように、
重なった鼓動に千の言葉を託して・・・。
「うむ。」
 だからただ頷いて、南部はその背を抱きしめる。
 愛おしく抱きしめる。

art by さゆり


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