Spring has come .....

by さゆり

名前も知らない花が盛んに咲いて、季節が移った事を俺に気づかせた。
「ああ、もう春か。」
 俺はそんな当たり前の事を呟いてみるが、ユートランドは一年中あまり寒暖の差が無い
処なので、大した実感は湧かない。とりあえず、夜、出掛ける時に上着が要らなくなるか
なぁ、といった、どうでもいいような事しか頭には浮かんで来なかった。
 花が咲いて、俺達の任務にも一区切りが着いた。
 あれから半年・・・。
 
 あの霧の中、俺は命令した。
 科学忍者隊のリーダーとして。
「健!」
「兄貴!」
「健、ジョーはおら達と生死を共にしてきた仲間じゃ!友達として精一杯の事をしてやれ
ないのかよ?」
 ジュンの、甚平の、そして竜の思いと願いを無視して、俺は命じた。
「コンドルのジョーはここへ残し、全員、ギャラクター本部に突入する!」
 そして、俺はあいつに俺のブーメランを渡した。
 俺の心を渡した。
 あれから、俺はあいつに会っていない。

 何十年かの歳月をかけて築き上げられ、巧妙に張られたギャラクターという組織の根は、
一朝一夕に絶やせるものではない。奴らが最後に打った大博打であるBH作戦によって
大打撃を受けた世界各地は、ようやく本格的な復興に向け動き始めたばかりだ。
 治安維持に、また救援にと俺達の任務はまだまだ続くだろう。
 だが、とりあえずの平和は訪れ、俺達も休暇を得た。
「ご苦労だったな、諸君。ゆっくり休んでくれたまえ。」
 微笑んで、踵を返したその人の背を俺達は半ば安堵し、半ば茫然と見送った。

「ふぅ・・・。」
 俺は溜息を吐いて、眺めていても仕方の無いモニタを切った。報告書の続きはこの休み
のうちに書き上げればいい。A.S.A.P!と無情なリクエスト付きのものが、めっきり減っ
てくれたのは助かるが、反面、戸惑うことも多い。俺は休暇には慣れていないのだ。
「ゆっくり、か。」
 さて、どうやって一日を過ごそうか?・・・と、やはり戸惑ってしまう。
 以前はやりたい事が沢山あったような気がする。でもそれは、例えば頭痛がするくらい
眠りたいとか、読みかけの本を読みたいとか、何だかくだらない事ばかりで、実際に時間
が出来てしまうと張り切って消化するような事でも無いものばかりだった。
 そして、以前なら・・・必ず顔を合わせていた仲間達がいたが、今は任務以外、顔を合
わせる事も無い・・・いや、それはただ単に俺が逃げているだけか?
 俺は怖いのだ。
 仲間の顔を順に見るのが。
 竜、甚平、ジュン、そして・・・。
 俺はあいつの不在をまた発見し、悔やんでも悔やみ切れない後悔と、断ち切る事の出来
ない哀しみに直面する。これは俺の驕りかも知れないが、リーダーとして、親友として、
最も身近にいたあいつさえ掌握し切れなかった迂闊さを、俺は自分で自分が許せないのだ。
あいつの身体が変調を来たしていたらしい、という事に気づきながら、俺はあいつをひと
り、行かせてしまった。
 そして、ひとり、置いて来てしまった。
 俺の心とともに・・・。
 
 ジョー、何処にいるんだ、おまえ?
 ジョー、俺は此処にいるぞ。
 ジョー、おまえには見えるのか?
 ジョー、花が咲いたぞ。
 ジョー、俺の声が聞こえるか?
 ジョー、もう一度、おまえに会いたいぞ。
 
 空回りする思いが俺の中に充満する。頭では理解っているのだが、俺にはおまえの不在
がどうしても納得が行かないらしい。死ぬ時は共に・・・そう誓い合った俺達だったのに、
何故、おまえはひとりで行った?
「許してくれ・・・今、おまえを見捨てて行かねばならない。」
 何故、俺はおまえを置いて来たのだろう?
 そうせざるを得なかった、という言い逃れも自分にだけは通用しやしない。冷酷な言葉
を吐いて、俺はおまえを見捨てて来たのだ。だから、もう俺には泣く資格さえ無いのかも
知れないな、と俺は名前も知らない花が盛んに咲いている外を見遣りながら、片頬を歪め
た。いや、固より俺の心はおまえにやっちまったんだから、泣ける訳も無かったか・・・
そう思う傍から涙が溢れて止まらない・・・。
「ちぇ、女々しいぜ、健!」
 舌打ちして、俺はあいつの口真似をしてみる。
 
 あれから半年・・・。
 ジョー、何処に行ったんだ、おまえ?
 あれから、俺はおまえに会っていない。
 ジョー、もう一度、おまえに会いたいぞ。
 あれから、平和になって、花が咲いたぞ、ジョー。
 

- The End -



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