Cinderella dream

by トールハンマー


 雨上がりのフライディナイト、
 見上げた夜空に、上弦の月。その傍らで健気に輝く星たちに「うん!」と伸びをして腕
を伸ばす。
 仕事続きで週末気分も久々ならば、危険手当が重なってちょっと温かい懐具合も久々だ。
 こんな夜には浮かれ気分も手伝って、濡れた歩道をスキップで、軽く水溜りを飛び越え
ながら「さて、何処に行こうか?」
 破目を外すなら? 馴染みの店より行きずりの方がいい。
 調子外れの鼻歌の、最後のフレーズが終わった時に目に付いた、そこの扉を開けるとし
よう。
 誰も知らない俺がいて、何も知らない他人[ひと]の目に、怯えることは一つもない。
 もしも、何処かで見知った顔がいたならば、グラスを掲げて「乾杯!」と、素知らぬ顔
で躱してみるさ。

 飲んで、騒いで、
 大声上げて、手当たり次第に楽しもう、
 飲んで、忘れて、
 疲れ果てればそのままに、月夜のベンチで眠ればいい、
 胸をはだけた可愛いウサギの振舞い酒が、きっと夢の中でも酔わせてくれる、
 明日のことは考えない、
 目覚めて身包み剥がれていても、明日は明日の風が吹く、

 だから、
 今宵一夜の、シンデレラドリーム、
 カボチャの馬車の迎えのままに、どんちゃん騒ぎの舞踏会に出かけよう、
 何があっても午前0時の鐘が鳴るまで?
 それはとても守れそうにないけれど、ガラスの靴を残すようなそんなヘマはしたくない。
「お手をどうぞ」と差し伸べられた誘いにも、笑って応える余裕はあるさ。
 魔法が解ければその時は、「あんた誰だっけ?」
 そんな無礼はお手の物。

 飲んで、飲んで、夜を徹し、
 肩を寄せ合い歌ってくれよ、
 飲んで、飲んで、グラスを鳴らし、
 道化て、酔わせて、泣かせてくれよ、

 ビートの利いたアップテンポとディスコサウンドのその後は、宴は更に最高潮、とても
壁の華ではいられない。
 紳士を気取った「Shall we dance?」の台詞さえ、言ってのける酔っ払いの
口元は不躾で、男同士のワルツさえ、真面目な顔で物ともしない。
 ぴったりと頬を寄せたラヴィング・ユーの悪乗りも、今夜は目を伏せ許してしまえる自
分が可笑しい。

 だから、
 だから、こんなジョークも口をつく。
 ・・・・いかないで、はなさないで、抱きしめて、
 今直ぐ消してしまいたい面影が、それでも大きな顔をして、胸[ここ]に居座っている
ものだから、
 とっくに忘れた恋しいその名を、知らずと唇が懐かしむものだから・・・・・、

「ジョー・・・」
 呼んで触れたその頬が、怪訝な形で戸惑って、
「誰の名だ?」と、見知らぬ男が顰めた眉を、キスで躱して北叟笑む。
 ・・・・あんたは、ジョーだよ、
 想いを埋めたその肩に、吐息を落として抱き寄せる。
 そうさ、決して忘れるはずのない、プルシャンブルーのその瞳、
 俺を見つめる、あんたのそれが、何より確かな証拠じゃないか。

 そうさ、だから、
 酔って、揺られて、今宵一夜の、シンデレラドリーム・・・・、
 一人芝居の続きより、
 巡るミラーボールの幻想に、一時儚い夢をみたとして、
 そして、目覚めて空しくなったとて、
 それは、それでいいじゃない?

 飲んで、飲んで、優しく微笑って、
 見つめて、口説いて、誘ってくれよ、
 飲んで、飲んで、吐息をついて、
 触れて、絡めて、啼かせてくれよ、

 今宵一夜の、シンデレラドリーム、
 約束なんか必要ない、
 白いシーツに尖った指を、優しく解いて囁いて、
 たった一言、
 愛してるって、そんな嘘でいいからさ。


The End


Top  Library List