Emotion

by トールハンマー


「んっ・・・、やめろよ、眠いんだ・・・」
「なんだと! 散々自分勝手に楽しんでおきながら、それはないぜ、健!」
 自分の横で幸せそうな顔をして、眠りに落ちようとしている健にジョーは言った。
 乱暴な言葉遣いとは裏腹に、その声音は掠れた感じが妙に艶っぽい。
「おい・・・健・・・」
 シーツに肘を立てて、さっきまで自分を支配していた専制君主を見下ろす。
 指を伸ばし汗で貼り付いている額の髪を払ってやると、健は擽ったそうに睫を震わせた。
それを見て、いつもながらの奇妙な違和感にジョーは苦笑する。
こうして見るとこいつはなんて幼い顔をしているんだろう、投げ出された肢体も未だ未
完成とも思える少年のような柔軟さだ。とてもあの荒々しい行為とは結びつかない・・・
と・・・・、
「健・・・・」
 もう一度呼ぶ。応えはない。
 ならば・・・・、
 少し開いた無防備な唇を啄み、指を彷徨わせる。
柔らかい髪に触れ、そして耳元に『・・・・』と媚薬を注ぎ込むことも忘れない。
 しかし、眉をよせて切なげにピクリと反応を示したものの、睡魔が情欲に取って代わっ
たジョーを他所に、健は至福の眠りから目覚めようとはしない。
 ちぇ!! いい気なもんだぜ!・・・・。
毒づいてジョーはベッドに長身を投げ出した。疼くような赤い刻印がまだ其処此処に艶
かしい。
「こいつは昔からこうなんだ、強引で、有無を言わさぬ攻撃が得意で、その上防御は完璧
だ」
・・・で、一瞬の隙をつかれてその有無を言わさぬ攻めを受け、強引に押さえ込まれてし
まった訳だが・・・、
「仕方ねぇ、さっさとシャワーを浴びるか」
 ジョーは恨めしげに健の寝顔を一瞥すると、それでもまだ名残惜しそうにベッドを降り
た。

「フフフ・・・、俺を焦らしたお返しだ。ジョー」
 シャワーを浴びるまでもなく、ジョーの身体から香水の香を消し去ったことに満足して、
健が薄目を開けた。そして、口元に浮かんだ微笑(victory)を抑えきれずに唇を綻ばせ
た。 
 ま、ギャラクターも最近は大人しいからフラストレーションを溜め込んでの出動なんて
ことにはならないだろう・・・、バードミサイルの無断乱射で自分が始末書を書くことも
ないと、健はジョーの切実さに取り合わない。
「あーあ、腹、減ったな・・・・」
 欠伸を一つ、大きく伸びをする。
今日のランチはヨットハーバーのレストランか、精々豪勢なメニューを強請ってやるか・・
いい気分だった。健はこの上無く満足し深く吐息をつくと目を閉じた。
望むものがこの手に或る、少なくとも今この瞬間にだけは・・・・、
「ジョー・・・・」
 呟くと、開け放たれた寝室のドアの向こうから水音が聞こえた。
ふと、勢いよく噴き出すノズルの下で、ダークブロンドの金糸を絡ませ、宝玉のような
水滴を弾いているジョーの逞しい肩を思い浮かべる。そして彫刻のような無駄の無い筋
肉に覆われた胸を辿る長い指と、強くしなやかな腕・・・・、
俺を導く指と、俺を抱きしめる腕だ。
ツン・・・と、身体の芯に甘く燻るものを感じて健は身を捩った。
望むものがこの手に或る・・・・今この瞬間にだけは・・・、その言葉が急に言い訳の
ように聞こえて肩を竦める。
勝利の感慨に浸ったのも束の間、健は我知らず、媚薬の言葉を囁いていた。
「もう一度・・・、ジョー・・・・」

 シャワーの音は、まだ止まない・・・・・。


END!




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