White Christmas

by とらねこ

 

 「クリスマスイブには帰ってくるさ。プレゼントはお前が適当に選んでくれ」
 南部博士に呼び出された時、ケンとジョーはジュンの店でのクリスマスパーティーに
持って行くプレゼントの相談をしていた。
 そう言って出て行ったケンだったが、連絡のないままあれから一週間たつ。もう今日は
イブの夜だ。
 外は雪が降っている。ユートランドにしては冗談のようなホワイト・クリスマスになり
そうだった。
 一体何をしてやがる?ケンが1人南部博士に呼び出される時はロクな事がない。
 ジョーはケンの帰りを待ちわびていた。
 かたり、ドアの方でかすかな音がした。音はしんしんと降る雪に消されている。
 「ケンか?」そう声をかけるが、入ってくる気配はない。
 不審に思ったジョーがドアを開けると扉にもたれていたケンが倒れ掛かってきた。
 悪い予想程当りやがる。ケンを抱きとめながらジョーはやりきれない思いでいっぱい
だった。


 「例のワクチンだが、困った所に隠されてしまった」
 その夜、ケンを1人呼び出した南部は、ギャラクターの生物兵器の開発状況を話し始め
た。
 「持ち出しに成功したのはワクチンだけですか。困った所というのはどういうことで
  す」
 「うむ。こちらの工作員はあの島からの持ち出しに麻薬の密輸ルートを使った。首尾よ
  くホントワールまで持ち込んだのはいいが、ピックアップに失敗した」
 南部はそう言うとホントワールの某所にある会員制のクラブの写真をテーブルに載せ
た。

 「なるほど。ここに潜入してワクチンを回収してこいという事ですね。ある程度自由に
  動くためには従業員として入り込むしかないと思いますが、手配はすんでいます
  か?」
 「隠されているのは秘密クラブのさらに秘密の部分だ。ボーイとして入り込むぐらいで
  は役に立たない」
 南部の差し出した資料にはオーナーという人物の性癖が細かく記されていた。
 「なるほど、この男を落とせということですね?」
 ケンは薄く笑いながらそう言い放つ。
 「そうだ。そのための紹介者も用意した。引き合わせよう」
 南部はインターコムに向かって言う。
 「客人をお通ししてくれたまえ」

 執務室のドアを開け秘書が通したのは、南部と同年輩の男だった。
 「やあ、久しぶりだな、南部君。君の頼みでは断ることが出来なかったよ」
 男はそう言うと、南部の正面のソファに腰を降ろした。
 「連絡を受けたときには正直驚いたよ。20年ぶりくらいか?」
 「依頼を受けてくれて感謝しているよ。クラブへの紹介を頼むのはそこにいる彼だ」 

 南部は互いの名前を省略してそう紹介する。 
 「ほう、君の部下にこういう男がいたのかね。特殊部隊員の潜入の手引きというから、
  どんな場違いな男かと心配していたが」
 男は無遠慮にケンを値踏みした。
 「だが、美しいだけではあのクラブに紹介は出来ない。事に及んで逃げ出されでもした
  ら、こちらの信用にかかわる」
 男はそう言うとケンを横に座らせ、薄笑いを浮かべながら抱き寄せる。
 男のされるままになっているケンの顎に手をかけて、その顔をあお向かせ、やわらかい
唇をむさぼる。男のもう一方の手がシャツのボタンをゆっくりと外し、敏感な部分を丁寧
に刺激していく。唇が首筋を伝い、それまでもてあそんでいた指にかわって舌でケンの乳
首を攻め始めた。
 「あっ」
 男の執拗な愛撫にたまらずにケンはかすかな声を上げた。半裸にされた白い体がうす赤
く色づいている。
 「感じやすい体だ」
 再びケンにくちづけながら、男の手はベルトを緩め前に滑り込む。 


 「彼が適任だということは納得してもらえただろう。後はうまくやってくれたまえ」 

 目の前の濡れ場を無表情に見ていた南部が席を立ち部屋を出て行った。
 「君のボスはこれ以上見たくないらしいな」
 なおも手を伸ばしてくる男にケンは冷たい声で「もう充分楽しんだろう」といいざま、
男の手首をつかんでねじり上げた。
 「いたたっ。おいおい、いいのかい?俺は大事なツテじゃないのか」
 ケンの手に力が加わる。
 「紹介はしてもらうさ。あんたも自分の身はかわいいだろう?」
 ケンの底知れぬ青い目が男をじっと見据える。先程までの男の愛撫に耐えかねていると
いう風情はかけらも残っていない。
 こいつは一瞬のうちに自分を殺すことが出来る。この男の美しさすら凶器だ。
 男はケンに魅せられながらも、自分の住む世界と目の前の若い男の住む世界とのあまり
の違いを感じ取り、ゾッと背筋が寒くなった。
 「わかったよ。逆らわないほうがよさそうだな。手を離してくれないか」
 男は赤くなった手首をさすりながら悔しそうに言う。
 「最初から脅したほうが早かったんじゃないか?」
 「あんたは南部博士の紹介だからな。一応敬意は払ったつもりだ」
 一体南部とこの若い男はどういう関係なのだろう?男の興味は激しく掻きたてられてい
た。
 「君は南部君の命令なら何でもするのかね?クラブのオーナーは真正のサディストだ
  ぞ。君ほどの上玉なら喜んで紹介させてもらうが、生きて帰れる保障はないぞ」
 「余計なことに気を回すな。俺の任務がバレたらあんたの命もないんだ。オーナーにう
  まく紹介することだけを考えておけ」
 この分野では門外漢のはずの南部に恩を売るつもりで引き受けた依頼だったが、これで
はどっちが素人か分からない。男はようやく自分が抜き差しならない立場に置かれたこと
を悟った。


 倒れこんだケンをとりあえずベッドに寝かせてもう4時間近くになる。
 体の状態を確かめようと服を脱がせてみると、ケンの体の衣服に隠れるところはほとん
ど包帯で覆われていた。どんな怪我を負っているにしろすでに医師の手当てはなされてい
る。そのことがさらにジョーの怒りをかきたてる。
 ケンがやっと目を覚ました。
 「今何時だ?」
 「やっと起きたか?もうイブじゃないぜ」
 「今年は飲みそこなったな」
 「みんな残念がってたぞ。お前は風邪で寝込んでることになってる。話をあわせておけ
  よ」
 「ああ」
 そう言うケンの声は疲労にかすれている。
 「もう一度眠れよ。ジュンの店には明日顔を出せばいいさ。ケーキの残りぐらいにはあ
  りつけるかもしれないぜ」
 「ああ、そうだな」
 ケンはそう言うとまた眠ってしまった。 
 
 「ギャラクターに勝つためには俺はどんなことでもする」
 ジョーはとんでもない十字架を背負ってしまったケンをみつめている。
 何をしてきたかは知らないが、今年も生きて今日を迎えられることを喜ぶべきなのかも
しれない。

 ユートランドには珍しい雪がクリスマスの夜の底を白く染めている。



Fin.


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